グリム・リーパーは恋をする ～最初で最後の死神の恋～

遭逢 ―ソウホウ―

2

　あの日、父の仕事の関係で町にきていた。

　眼鏡は外し、髪をクシャクシャにして質素な服を着る。いつものように町の子供を装った僕は早々に用事を片付け、残ってる仕事を頭で整理しながら、町外れに止めた馬車へ向かって歩いていた時だった。

　空気を切り裂くような甲高い鳴き声が聞こえ、僕は立ち止まる。何事かと周囲を警戒し見渡すと、川岸に3人の少年が何かを囲んで集まっていた。

「こいつ、ちっこい」
「シャーシャー生意気だな！」

　バタバタと抵抗している真っ黒い子猫を押さえつけ、笑いながら、ぽいっとボールのように仲間に投げる。

　悪ガキが……

　とりあえず警戒は解いたが、子猫を玩具おもちゃにしているなんて気分が悪い。

　うにゃぁぁという猫の必死に鳴く声と重なって聞こえた「川に投げちまおうぜ」という非情な言葉。僕はチッと舌打ちをして悪ガキどもに近づき、にっこり話しかけた。

「ねぇ君達。その猫、譲ってくれない？」

　いきなり掛けた僕の声にビクッと肩を震わせたが、自分達より体格の小さい子供だとわかるとせせら笑い、突き飛ばされる。

「なんだお前！　あっち行けよっ」

　地面にお尻がついてしまった僕は立ち上がり、パンパンと汚れを払った。

「猫こいつで遊んでるんだから邪魔すんな。それかお前が代わりに川に飛び込んでもいいぞ？」

　リーダー格っぽい体の大きい奴が小馬鹿にしたようにニヤニヤと言い、周りにいた仲間はギャハハハと指を差して笑う。

　あー、もうめんどくさい奴らだなぁ。

　僕はニコニコとポケットに入っていた小銭を彼らの手に握らせた。

「これでさ、お菓子でも買ってきたら？」

　目立つわけにもいかないし、無用な争いも避けなくてはいけない。小銭で解決できるなら、それに越したことはない。案の定、彼らはお金を見ると顔を輝かせ、嬉々として猫を僕に渡す。

「お、おお、いいぞ。やる、その猫」
「行こうぜ」

　ホクホクしながら走って行く彼らをチラッと見て、周囲に気を配りながら右手に大鎌を顕現させた。大鎌を片手に持ち、子猫を抱いた左手でパチンと指を鳴らす。

　バタッと大きな音を立て、彼らは次々と転んだ。立ち上がっても、数歩歩くとまた転ぶ。もちろん、つまづくようなものは何もない。

「へ……なんだよ？」
「い……てぇぇ」

　彼らは転んでは立ち上がりを3､4回繰り返し、不可解そうに地面を見て首を傾げていた。

　子猫を怖がらせたんだ。ま、これくらいはしてもいいだろ。
　
　僕は魔法を使い終わるとすぐに大鎌を消した。