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雑念 ―ザツネン―

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「弱気になんて……なってないですよ」

 僕は不愉快な気持ちで顔を歪めるとエドワードは豪快に笑い、僕の頭に大きな手を乗せる。

「その方がお前らしいな。まぁ頑張れや。そのを守りたいんだろ?」

 そうだ。この恋だけはアルベルトに負けるわけにはいかない。いつどんな時も僕が彼女を守りたい、絶対に。

 僕はお腹にグッと力を入れた。

「エドワード先生、僕は本当に大丈夫です。鍛錬を続けてください」
「お、雑念が消えたか。じゃあ続きをやるか。俺の特別鍛錬を受けてるんだ。そのを守り抜けよ」
「はい。よろしくお願いします」

 僕が頭を下げると、ククッと可笑しそうにエドワードが笑う。

「それにしても、あのお前がなぁ……子供の頃から悟ったような顔をして、仕事ばかりしてたお前がなぁ。こんな恋するなんて思わなかったぞ」

 ニヤニヤした顔で楽しそうに紫紺色ブルーイシュパープルの目を光らせたのを見て、僕はカッと顔を熱くした。

「先生、からかわないでください」
「昔ならそんな顔を赤くする事なんてなかっただろ? 仕方のない事とはいえ、子供のお前が闇の仕事をこなし、感情が欠如していくのを俺もザラも心配してたんだぞ?」

 僕は驚き、エドワードの顔を穴があくほどじっと見てしまう。

 そう……なのか……だからザラも、あんなにすんなり鍛錬を受け入れてくれたのか……そっか……そうだったんだ。

 ものすごく厳しいけれど、心配をしてくれていたという2人の師の存在がありがたく、僕は少し嬉しくなった。まぁ、2人とも死神ぼくに死を覚悟させる悪魔である事には変わりはないが……でも、いつか僕の恋人だと2人にクラリスを紹介すると心に誓う。

「いいに出会えて、良かったな」

 エドワードは頭に乗せた手を撫でまわし、僕の黒髪をぐちゃぐちゃにする。

「ちょっ……先生、止めてください」

 ムスッと文句を言っても、はっはっはっと笑うエドワード。僕もこっそりクスリと笑ってしまう。

 ――いいに出会えて、良かったな。

 本当に。出会えた事が幸せだ。君の笑顔の為ならば、僕は何でもできる。今はアルベルトの婚約者だとしても、最後には君の隣りに立つのは僕だ。

 君と出会ったあの日、僕は君の傍にいる事を決めたのだから。
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