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見舞 ―ミマイ―
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「それ、ジェスターからもらったの?」
ミカエルはクラリスが大事そうに手にしている花束にチラリと目をやる。
「そうなの! 素敵でしょ?」
「クラリスはオレンジ色がよく似合う」
すかさず僕はクラリスに話しかけた。花束を顔に寄せ、香りを堪能しながらクラリスは幸せそうに微笑む。
「私、オレンジ色、好きなんです」
「うん、知ってる」
「だから、オレンジの花束を?」
「まぁ、もちろんそうだけど……オレンジは元気が出るカラーだからね。大切な人の為に選んだ花なんだ」
「うわぁぁ、ありがとうございます」
普通のご令嬢だったら、間違いなく顔を赤らめるであろう言葉を伝えるが、ここでクラリスの鈍感パワーが発揮されるわけだ。
さすがジェスター様ね! 社交辞令もバッチリだわっ。
……とでも思っているに違いない。
たしかに貴族社会では、女性に甘い言葉を囁くのは暗黙の了解の社交辞令だけどね。この風習、何とかしてくれないかな。この風習のせいで本命に気持ちがまったく届かない。
花束を抱きしめ、嬉しそうに笑う君の鈍感さえも、かわいいと思ってしまう僕も僕だけど。
「あーー、次世代社交界の貴公子と呼ばれているだけあるよね。贈り物もお世辞も完璧だね、ジェスター」
僕のアピールが気に食わないのか、ミカエルは「お世辞」という単語を強めて言い、クラリスはうんうんと頷き同意した。
「本当に! そんな事、言われると女の子は嬉しくなっちゃいますよ? ジェスター様はご令嬢にモテモテでしょうねぇ。さすがですわ」
その言葉に僕は心の中で苦笑いをしつつ、穏やかに彼女に微笑みかける。
ほらね。全く伝わってない。
「ああ、シトリン家は愛する女性を大切にする。贈り物をする時は特別な店に行くからね」
「まぁ、素敵。愛する女性を大切に……なんて、物語に出てくる王子様みたい」
ブルーの瞳をキラキラさせ、夢見る女の子らしく、キャッキャッとはしゃぐクラリス。
巷で人気の恋物語のような、好きな人を一途に想う男性にときめくのだろうか。僕も、そのつもりでクラリスを想っているのだけど。
「クラリスへの贈り物はその店で僕が選んでるんだよ」
「あら? もったいない事ですわ」
クラリスは他人事のように屈託なく笑った。
ほらほらほら……全然伝わらない。
今、目の前にクラリスだけを大切に一途に想う男がいるでしょ。
ミカエルはクラリスが大事そうに手にしている花束にチラリと目をやる。
「そうなの! 素敵でしょ?」
「クラリスはオレンジ色がよく似合う」
すかさず僕はクラリスに話しかけた。花束を顔に寄せ、香りを堪能しながらクラリスは幸せそうに微笑む。
「私、オレンジ色、好きなんです」
「うん、知ってる」
「だから、オレンジの花束を?」
「まぁ、もちろんそうだけど……オレンジは元気が出るカラーだからね。大切な人の為に選んだ花なんだ」
「うわぁぁ、ありがとうございます」
普通のご令嬢だったら、間違いなく顔を赤らめるであろう言葉を伝えるが、ここでクラリスの鈍感パワーが発揮されるわけだ。
さすがジェスター様ね! 社交辞令もバッチリだわっ。
……とでも思っているに違いない。
たしかに貴族社会では、女性に甘い言葉を囁くのは暗黙の了解の社交辞令だけどね。この風習、何とかしてくれないかな。この風習のせいで本命に気持ちがまったく届かない。
花束を抱きしめ、嬉しそうに笑う君の鈍感さえも、かわいいと思ってしまう僕も僕だけど。
「あーー、次世代社交界の貴公子と呼ばれているだけあるよね。贈り物もお世辞も完璧だね、ジェスター」
僕のアピールが気に食わないのか、ミカエルは「お世辞」という単語を強めて言い、クラリスはうんうんと頷き同意した。
「本当に! そんな事、言われると女の子は嬉しくなっちゃいますよ? ジェスター様はご令嬢にモテモテでしょうねぇ。さすがですわ」
その言葉に僕は心の中で苦笑いをしつつ、穏やかに彼女に微笑みかける。
ほらね。全く伝わってない。
「ああ、シトリン家は愛する女性を大切にする。贈り物をする時は特別な店に行くからね」
「まぁ、素敵。愛する女性を大切に……なんて、物語に出てくる王子様みたい」
ブルーの瞳をキラキラさせ、夢見る女の子らしく、キャッキャッとはしゃぐクラリス。
巷で人気の恋物語のような、好きな人を一途に想う男性にときめくのだろうか。僕も、そのつもりでクラリスを想っているのだけど。
「クラリスへの贈り物はその店で僕が選んでるんだよ」
「あら? もったいない事ですわ」
クラリスは他人事のように屈託なく笑った。
ほらほらほら……全然伝わらない。
今、目の前にクラリスだけを大切に一途に想う男がいるでしょ。
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