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見舞 ―ミマイ―

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「坊ちゃま、いらっしゃいませ」

 馬車に揺られ、店に着くと小さい頃から顔なじみの店主が丁寧にお辞儀をした。

 シトリン家御用達の花屋である。
 大切な女性に贈る花は代々この店と決まっていた。

「今日はどのようなものをお求めで?」
「女性に花束を送りたいのだが……」
「求婚ですか?」

 嬉しそうに笑った店主に少し胸が痛くなる。

 いろいろ複雑な事情があるとはいえ、求婚したのは僕じゃなくアルベルトだ。

 僕は小さく微笑み、返事をした。

「いや、お見舞いに……どんな花束がいいかな?」
「でしたら、ベッドのサイドテーブルに飾れるよう小さめにまとめましょう。どの花でお作りいたしましょうか?」
「そうだな」

 所狭しと咲き誇っている色とりどりの花を吟味しながら、くるりと1周する。薔薇を中心に何種類かの花を手に取った。

 薔薇の花は5本……君に出会えて嬉しい。

 こんな花言葉に気持ちを込めても伝わらないけれど、それでも僕は想いを込めたいんだ。

「これで花束を作ってくれないか?」
「かしこまりました」

 店主は僕から花を受け取ると少し緑を足し、可愛らしいラウンド型の花束を手際よく作り始めた。

「オレンジ色が好きな方なんですね」

 店主のにこやかな声に僕は彼女を頭に浮かべ、クスリと笑う。

「ああ、オレンジ色がよく似合う」
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