グリム・リーパーは恋をする ~最初で最後の死神の恋~

桜乃

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密約 ―ミツヤク―

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 揺るがない口調で僕ははっきり宣言した。

「私の想い人は、後にも先にもクラリスただ一人。王家が死神の想い人に横槍を入れるは密約違反。即刻、婚約の解消を」

 国王は僕の言葉を聞き終わると、紅茶をクイッと飲み干した。

「この紅茶は特別に取り寄せたもの。美味うまいぞ」

 僕に紅茶を勧め、ニコニコと笑いかける。

 この飄々ひょうひょうとした態度が気に入らないが、国王に勧められた以上、致し方なく手元の紅茶に口をつけ、カップをテーブルに置いた。その一連の動作を笑顔で見ていた国王は、穏やかな口調で話し出す。
 
「若き死神よ。落ち着け」

 この人のさそうな国王の上辺に騙されてはいけない。腹の中は何を考えているかわからない人だ。

 僕は神経を尖らせ、次の言葉を待った。

「のぉ、死神。今回の婚約、アルベルトには条件をつけておる。クラリス嬢と本当の意味で恋仲になることじゃ。王家はクラリス嬢に決して無理強いはせぬ。そこでじゃ」

 一呼吸置いた国王は意地の悪そうな視線を僕に向ける。

「アルベルトの婚約者という立場のクラリス嬢をお前が奪えばよかろう」

 僕は心の中で舌打ちをした。

 本当に食えないたぬきおやじだな。
 
「国王様、話をすり替えないでください」
「まぁ、聞け。シトリン家といえど、想い人の気持ちを無視する事はできぬ。アルベルトにしても……ああ、そういえば、クラリス嬢の義弟ミカエルからもこの婚約内定の抗議文が届いておったな。そう、ミカエルにしてもじゃ。結局はクラリス嬢の心を得た者が勝者という事。なら、この婚約内定はさほど意味はなかろう?」

 ふん……そうきたか。

 なんだかんだと都合の良い方に話を持っていく。それが国王の話術だ。理不尽な事を言っているにもかかわらず、いつの間にか国王のペースに乗せられる。国の王たるものそれくらいの強引な話術は必要だとは思うが……僕は乗せられないからな。

「だとしても、密約違反である事は変わりなく……」
「ふぅむ……密約違反と言われれば、かなりグレーな部分もあろうが、はお前の想い人を知らなかったわけじゃしのぉ。まぁ、最終的にクラリス嬢が選んだ者に王家は口は出さぬ」

 僕は不敵に笑う国王を見据えた。

 なんで違反してる方がふてぶてしく笑ってるのか……腹立たしい。
 
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