婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

番外編 出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話 4

　それから毎日、父上と母上にさり気なくアピールをする僕。

「大人しくて可愛い女の子が好きなんだ、僕」
「一緒に本を読んだり、勉強したりできる女の子がいいなぁぁ」

　2人とも笑顔で「なるほど、なるほど」と言うだけで全く取り合ってくれず、僕の気持ちは一切届かないまま、とうとうミュリアと会う日になってしまった。

　中庭で僕の将来のお嫁さんが待っている……いやだぁぁ、会いたくないよぉ。ゴリラがいたらどうしたらいいのぉぉ。

　グズグズしてたら約束の時間になってしまい、侍従のリガードになだめられながら渋々と中庭へ向かう。

　花が咲き誇る美しい中庭に立っていたのは、青い髪と空色の瞳の可憐な女の子。僕に気がついた女の子はにっこり笑い、その笑顔に僕の胸はドキッとした。

　あ……れ？　思っていた感じと違う……

　彼女はタタタッと僕に近づき、丁寧なお辞儀カーテシーをする。

「わたくし、メリッジ家の娘、ミュリアと申します」

　えっと……えっと……もしかして……か、かわいい…………かも……

　ミュリアのニコッと笑った顔に魅了された僕は、照れながら口を開いた。

「僕はセルビ……」


　ぱぁぁぁぁん！！


「ぐふぉぉぉ……………」

　名前を言い終わる前に、ミュリアの右手が僕のほっぺたをひっぱたき、火が吹いたかのように顔が熱くなった。吹っ飛ばされた僕の目はチカチカし、何が起こったのか全くわからず、徐々に痛み出してきた頬を無意識に手で押さえるも、ショックのあまりそのまま気絶してしまう。