上 下
14 / 14
side テレーゼ

3

しおりを挟む

 長かった……

 鏡の前に座り、ふぅぅと息を吐く。

 私から婚約破棄ができない以上、殿下に言わせるしかない。

 消極的な方法ではあったけれど、あの殿下は見事、私の策にはまってくれた。

 かわいそうに……甘やかされすぎて、何も知らなかったのね。

 知っていたら、ハイウォールを解き放さなかったはず。

「よろしいですか?」

 ノックが聞こえ、私は扉に目をむける。

「どうぞ」
「失礼します」

 部屋に入ってきたのは、眼鏡を掛けた黒髪の男性。

 彼は私に微笑みかける。

「テレーゼ様、この度は婚約破棄成立、おめでとうございます」
「ありがとうございます、バストリー・アルマン様。貴方が殿下を誘導してくれたおかげよ。玉座奪還の際には、引き続きアルマン家の宰相の席と筆頭侯爵を約束するわ」
「ありがたき幸せ」
「噂をばらまいたり、殿下に私の事を進言してくださった、側近やご学友の方々にも労いの言葉をかけておいてくださいませ」
「かしこまりました」

 バストリーは丁寧に頭を下げ、兄様と話があるのでと部屋を出て行った。

 私は鏡に映った自分の顔に手をかざす。

 鏡の中のそばかすが消え、眉毛もスッと伸び、ぷっくりとした唇は艶っぽい赤色に。

 鏡に映った青い瞳の美しい令嬢に私は微笑む。

 あの忌々いまいましい誓約を交わされた婚約がなくなれば、ハイウォール家は王家に牙をむけられる。

 私はふふっと笑った。

 殿下はいつ気づくのかしら。

 ひとじちを手放してしまい、王家存続の危機を招いたのが、自分だという事を。

 そうね、願わくばわたくしが、絶望した殿下に笑顔で教えて差し上げたいわ。


 不細工なりに価値はあったのよ……って。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

🌷︎
2023.03.26 🌷︎

初めまして。
読み始めたら面白くて一気に読ませていただきました!

この後の王族の未来は無いものの、そちらの話もあったら、倍に面白いんだろーなーと。

ただ、1話1 話が少ししか文字数がないので、それを詰めていただけたら、もっと読みやすかったと思います。

桜乃
2023.03.27 桜乃

初めまして。この度はお読みいただき、更に嬉しい感想もくださり、ありがとうございました。

こちらの作品は他サイトの短編コンテスト参加用に執筆いたしました作品でしたので、🌷︎様のお言葉で、改めて続きをいつか執筆したいとモチベーションが上がりました。
文字数の件もご指摘いただき、ありがとうございます。

お言葉を心に留め、今後も執筆活動を頑張っていきます。
この度は、本当にありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai
ファンタジー
不慮の事故によって亡くなった酒樹 錬。享年二十二歳。 酒を呑めるようになった二十歳の頃からバーでアルバイトを始め、そのまま就職が決定していた。 しかし不慮の事故によって亡くなった錬は……不思議なことに、目が覚めると異世界と呼ばれる世界に転生していた。 誰が錬にもう一度人生を与えたのかは分からない。 だが、その誰かは錬の人生を知っていたのか、錬……改め、アストに特別な力を二つ与えた。 「いらっしゃいませ。こちらが当店のメニューになります」 その後成長したアストは朝から夕方までは冒険者として活動し、夜は屋台バーテンダーとして……巡り合うお客様たちに最高の一杯を届けるため、今日もカクテルを作る。 ---------------------- この作品を読んで、カクテルに興味を持っていただけると、作者としては幸いです。

スキル「糸」を手に入れた転生者。糸をバカにする奴は全員ぶっ飛ばす

Gai
ファンタジー
人を助けた代わりにバイクに轢かれた男、工藤 英二 その魂は異世界へと送られ、第二の人生を送ることになった。 侯爵家の三男として生まれ、順風満帆な人生を過ごせる……とは限らない。 裕福な家庭に生まれたとしても、生きていいく中で面倒な壁とぶつかることはある。 そこで先天性スキル、糸を手に入れた。 だが、その糸はただの糸ではなく、英二が生きていく上で大いに役立つスキルとなる。 「おいおい、あんまり糸を嘗めるんじゃねぇぞ」 少々強気な性格を崩さず、英二は己が生きたい道を行く。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

今さら戻ってこいと言われても、私なら幸せに暮らしてますのでお構いなく

日々埋没。
恋愛
 伯爵家の令嬢であるエリシュは周囲の人間から愛されて育ってきた。  そんな幸せなエリシュの人生が一変したのは、森で倒れていたとある少女を伯爵家の養子として迎え入れたことが発端だった。  そこからエリシュの地獄の日々が始まる。  人形のように愛くるしい義妹によって家族や使用人たちがエリシュの手から離れていった。  更には見にくい嫉妬心から義妹に嫌がらせしているという根も葉もない噂を流され、孤立無援となったエリシュに残された最後の希望は婚約者との結婚だけだった。  だがその希望すら嘲笑うかのように義妹の手によってあっさりとエリシュは婚約者まで奪われて婚約破棄をされ、激怒した父親からも勘当されてしまう。  平民落ちとなったエリシュは新たな人生を歩み始める。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。