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17.醜聞紙
しおりを挟むラファイエットが国境に向かって一週間が経った。昼食を食べ、城の備蓄や帳簿なんかをチェックしていると、侍女が手紙を持ってきた。
(やっぱり……)
ラファイエットからだった。手紙には、洞窟があるらしいことを確認したとあった。地元住民にも話を聞くと、漁師の何人かは知っていたそうだ。だが暗くて不気味なことから、誰も近寄らなかったそうだ。
「えぇ~」
それとウィダード王国から渡る商人達にも話を聞いたとあった。神子なんて聞いたことない、と。
マルベー、お前何かと思い違いしてるんじゃないのか? 神子なんて奴、とにかくいないみたいだぞ。
「……いるよ……」
じゃあ、行方不明になっている人達はどうなるのだ。誰が事件を解決するのか、悶々としながらもお礼の手紙を書いた。
(どうなってんだよ……)
それと洞窟には近寄らないことを念押して、手紙に封をする。もやもやしながら、部屋の中をぶらついた。
野花が生けられた花瓶に近づく。ついでに、窓の方を何気なく見た。雲がほどよく散らばった、散歩にうってつけの天気だった。窓の外を見ると、畑が見えた(マルベーはとても目が良い)。また料理長がしゃがんで、熱心に薬草を引っこ抜いていた。
「……」
マルベーは腕を伸ばして、肩の凝りを解す。机に戻ると、キャビネからゴシップ誌を出した。
相変わらずマルベーのことを年増とか、ティメオ殿下にはふさわしくないとか書かれていたが、目を通す。オルデム国でもそうだったが、上流階級の醜聞は格好のネタだ。
最近は航海に出て、一攫千金を手にした新興貴族の台頭と、昔ながらの貴族の没落が目立つ。お茶会や舞踏会でも対立が~とか書かれていた。
(俺は基本、舞踏会もお茶会も呼ばれないからね。トラブルと無縁よ)
マルベーは数少ない美点を誇らしく思った。だが誘いが無いと、貴族間の関係が分からない。だからこうやって、目を皿にしてゴシップを読むのが日課だ。
ついでに実家のヴァロワ家の話をすると、歴史のある家であり、商売が軌道に乗った、数少ない成功した家だ。
ヴァロワ家についても散々悪評を書かれた(九割マルベーのこと)のが懐かしい。だいたい針小棒大に書かれてはいるが、事実ではあることが多い。必ず誰かがたれ込んで、小遣い稼ぎをやっているのだ。
(俺も金になるならやるしね~)
ゲスなことを考えながら読んでいくと、王家存続の危機とある。なんだ、なんだと読み進めると、世継ぎがいない事を囃し立てられていた。
ユーグ殿下と后の間には長年、子ができず、ティメオ殿下の相手は十も年上の成金貴族! 由々しき事態に、政治家達は日夜会議を行っているとか……
「ほぉーん」
ユーグは今19歳で、結婚したのが14の時。相手は公爵家のオメガだったはず。更に読み進めていくと、ユーグには愛人が3人はいるらしい。
だけど愛人にも子どもができる様子が無い……
(それって、ユーグに責任あるくね??)
不思議なことに、この世界では相手がオメガだと、不妊はオメガのせいにされる。それも相手がアルファだったら余計にだ。
アルファは孕ませる性、オメガは孕まされる=妊娠しやすい性質だから、余計に子どもができないと責められてしまうのだ。理不尽極まりない。
顔も知らない后に、マルベーは同情した。
(今までだったら、何も思わなかったけど……)
最近、ティメオとの子どもが欲しくなっている。猛烈に欲しいマルベーは、発情期まで指を折って数えていた。ユーグ殿下の后は、何を思っているのだろう。
ぼんやりと記事を見ていたら、ドアを叩かれた。
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