優しいおしごと。

鈴木トモヒロ

文字の大きさ
上 下
1 / 16

第1話

しおりを挟む
(この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。)


幼き小さな私の手を。
ゆっくりと引いてくれた優しい存在。

私は祖母が大好きだった。

祖父も母も仕事に追われ、食事を作ってくれたり、お散歩に連れて行ってくれたりと。

私の身の回りの世話をやいてくれたのは祖母だった。

小さかった私は「ありがとう」ということを伝えるのが精一杯だった。

何かお返しがしたかった。
でも、何をしたらよいのか分からなかった。

ある日、スーパーに買い物へ連れて行ってもらった。

見るもの全てが初めてのものばかり。

赤い丸い果物や、オレンジ色で少しゴワゴワしている果物。

後から知ったことで、りんごとみかんだった。

どちらも祖母が皮をむいてから食べさせてくれていたから、果実を見たことがなかったのだ。

ここにも知らず知らずの祖母の愛情が込められていたのだ。

さて、祖母が買い物を進めるためにカートにカゴを乗せて店内を歩く。

私も遅れをとらないように、祖母のあとに続く。

そして...。
お菓子コーナーの近くに...。

(チョコレートが欲しい)
私はチョコレートが大好きだった。

どうやったらチョコレートを買って貰えるか、幼い私は考えた。

すると
私と同じくらいの男の子とそのお母さんがお菓子コーナーにやってきた。

「お母さん、クッキーとチョコレートを買ってよ!」と、男の子は言った。

お母さんは「今日は買わない約束でしょ?お菓子は今度ね」と答える。

男の子は「嫌だぃ、嫌だぃ。お菓子買ってよ!」とその場で泣き出してしまった。

私は男の子と同じことをしようと思っていた。
でも実際に見ると、これはマズいなととっさに思った。

私は祖母に
「お菓子はいらない。」と伝えた。

祖母は
「おやっ?いいの?じゃあ、行こうか」とレジに向かった。

何事もなく商品の生産をして、買ったものをビニール袋に詰めていく。

小さなビニール袋には、バナナ一房を入れて私が持つことになった。

小さな私には、スーパーから自宅まで歩くのは大冒険だった。

チリンチリンと後ろから近づいてくる自転車。

目の前にやってきた大型犬。

青信号で走り出す沢山の車。

怖いものばかりだった。

恐怖を感じるたび、祖母の手をギュッと握った。

きっと祖母は私が怖がっていることを毎回感じていたのだろう。

「大丈夫だよ」と毎回言ってくれた。

家が見えてきた。
私の大冒険も終わりが来たのだ。

安心して走り出す私。

「ただいま!」と元気よく玄関のドアを開けた。

奥の方から「おかえり」と仕事中の祖父が返事をくれた。

その声を聞けて、本当に嬉しかった。

そんな様子を見ていた祖母は
「今日はありがとう。バナナを持ってくれて助かったわ。またお手伝いしてくれたら嬉しいわ」と言ってくれた。

(祖母が喜んでくれた!)
と、この日1番に喜んだ。

(そっかぁ。お手伝いというものをすれば、おばあちゃんは喜んでくれるのか)

私は初めて祖母にお返しが出来る手段を見つけることが出来たんだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

ことりの台所

如月つばさ
ライト文芸
※第7回ライト文芸大賞・奨励賞 オフィスビル街に佇む昔ながらの弁当屋に勤める森野ことりは、母の住む津久茂島に引っ越すことになる。 そして、ある出来事から古民家を改修し、店を始めるのだが――。 店の名は「ことりの台所」 目印は、大きなケヤキの木と、青い鳥が羽ばたく看板。 悩みや様々な思いを抱きながらも、ことりはこの島でやっていけるのだろうか。 ※実在の島をモデルにしたフィクションです。 人物・建物・名称・詳細等は事実と異なります

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...