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26小悪党エミリアはアリーが魔王と確信する
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「(どうせ逃げても逃げきれないんだ)」
小悪党なギルド長エミリアは圧倒的な力の差を見せつけられて、観念していた。
「(それにしても、なぜ魔王様は私を生かしておくのだろう?)」
エミリアは疑問だった。ポーションをもらった時、てっきり毒だと思った。
しかし、何故か死なない。それどころか、もらった毒は美味しいし、何故か体が軽い。
なんだか自分の中で何かが燃えているような感じを受けるし。
「(きっと、すごく遅効性が遅い毒で、いつ死ぬかわからないという恐怖を散々味あわせるつもりなんだ)」
小悪党のエミリアには他人を聖人だなどと思う発想ができなかった。優れた魔力とスキルを授かっておきながら、スキルを十分に使いこなせないエミリアは中央で働くことができず、辺境の地で冒険者ギルド長などをしている。
将来を嘱望されて、エリートの道を歩んで来た彼女が落ちぶれて心が荒んだのも仕方がない点もあった。
「(それにしても、なんか体の調子がいいんだよね。久しぶりに魔法の練習でもするか)」
エミリアは街の外の魔法練習場に向かった。この世界には闘技場という魔法の威力を吸収して、屋内でも魔法の練習ができる優れた施設があるのだが、この街にはない。
お金がない……のでもない。エミリアが闘技場を作るという名目で冒険者からお金を巻き上げたのだが……プールを作ってしまった。だからない。
「ファイアーボール!」
エミリアが魔法の訓練場の的に向かってポピュラーな火の広範囲魔法、ファイヤーボールを放つと。
「え?」
紅蓮は逆巻き、的の近くの丘全体を炎が焼き尽くす。エミリアの魔法とは思えない威力だ。
「嘘ぉ! 私のスキルが開眼した?」
エミリアは自身のスキルが開眼したとしか思えない魔法の威力に酔いしれ、ひたすら魔力の許す限り、火魔法を打ちまくった。
「か・い・か・ん」
エミリアは恍惚とした表情で自分の魔力に酔いしれたが、流石に魔法を使い過ぎて疲れたので、冒険者ギルドに寄った。
「(しかし、なぜ急に? はッ!!)」
エミリアは思い至った。
「(そうか、これは魔王様が希望を与えた上で落とすという酷い罰。私はもうじき死ぬんだ!)」
エミリアはアリーが自分の魔法の問題を解決し、上げた上で落とすという酷い仕打ちだと思った。何故そう思ったかと言うと、自分ならそうするからである。
「戻ったぞ。何か変わったことはあったか?」
「た、大変でございますエミリア様!」
ギルドに戻ると副ギルド長が慌てて報告を始める。
「実はスラムで疫病が発生し始めて、医師会の方が解毒薬を求められて提供したのです」
「解毒薬では根本的な対策にならないだろう。せいぜい気休め程度だろ?」
「そ、それがぁ! 今朝、アリーという少女が持ち込んだ解毒薬を投与した病人は全員全快したのです!」
「なにぃ!」
解毒薬は疫病などの病にも多少の効果があるが、普通は症状を一時的に緩和する程度がせいぜいだ。それが全快? 完治したというのか?
「おかげで、スラムの疫病の感染拡大は止まって、街は安全です」
「うむ、それは良かったな」
え? 今、アリーって言った? 魔王様の名前出た?
「あのアリーという少女、聖女様ではないかと街中で騒ぎになっています」
「い、いや、あの方は」
魔王と言おうとしたが、騒がしくギルドに乱入する者がいた。
「た、大変です! あのアリーという少女が白い羽根を広げ、大空に飛び立ったそうです! 大勢の目撃者がいます」
「どゆこと?」
エミリアは誰だかわからん乱入者の言っている意味がわからなかった。エミリアは王都からこの街に流れて来たので、この街の古い文化とか全然知らなかった。
「彼女は間違いなく、伝説の沈黙の聖女様です!」
伝説の沈黙の聖女。500年前、彼女はこの地に立ち寄り、疫病を完治させて街を救ったと言い伝えられている。
「せ、聖女様が再び」
「なんと尊いことか」
「またしても聖女様に何もお返しすることができず」
「聞いたか、あの貴重なポーションをたったの銀貨100枚で譲ってくれたそうだぞ」
「信じられない。金貨100枚、いや金で価値がつくような物じゃないぞ。それをたったの銀貨100枚! まさしく聖女様。きっとこうなることを見越して、我らに慈悲の手を」
アリーが聖女と断定され、勝手に好感度が爆あがりする。
しかし、小悪党エミリアはこう考えた。
「(きっと、上げて下げる作戦だ。魔王様が善行なんてする訳がない)」
エミリアの価値観では、善人の存在など信じることができなかった。半分当たっている。アリーは毒だと思って安く売りさばいたのである。アリーの意思に反して善行になってしまったが。
「(やばい、責任を取らされるのやだ。死ぬまで少しでも生きたい。きっとこれも私への罰に違いない。明日にでもみんな死ぬに違いない)」
『愚かなる人間どもよ—滅ぶがよい』
アリーの言葉が頭をよぎる。さすが魔王である。街を丸ごと疫病で滅ぼす作戦に違いない。なんと恐ろしいことか、やはりアリーは魔王で間違いない。
「(やっぱり早く夜逃げしよ)」
こうして、エミリアはアリーが魔王と確信すると、ケルンの街を夜逃げしたのである。
「(次に会ったら、絶対殺られる)」
財産を持ち出す時間がないので、適当に寄付する文章を書いて、すたこらと逃げだす。ちなみに適当に指定した寄付先は貧しい孤児院だった。
彼女は知らない。アリーに関わったため、やることなす事が善行とみなされて、後に大聖女アリーの最も信頼する煉獄の聖女として、この国の聖女に名を連ねる事になることを。
小悪党なギルド長エミリアは圧倒的な力の差を見せつけられて、観念していた。
「(それにしても、なぜ魔王様は私を生かしておくのだろう?)」
エミリアは疑問だった。ポーションをもらった時、てっきり毒だと思った。
しかし、何故か死なない。それどころか、もらった毒は美味しいし、何故か体が軽い。
なんだか自分の中で何かが燃えているような感じを受けるし。
「(きっと、すごく遅効性が遅い毒で、いつ死ぬかわからないという恐怖を散々味あわせるつもりなんだ)」
小悪党のエミリアには他人を聖人だなどと思う発想ができなかった。優れた魔力とスキルを授かっておきながら、スキルを十分に使いこなせないエミリアは中央で働くことができず、辺境の地で冒険者ギルド長などをしている。
将来を嘱望されて、エリートの道を歩んで来た彼女が落ちぶれて心が荒んだのも仕方がない点もあった。
「(それにしても、なんか体の調子がいいんだよね。久しぶりに魔法の練習でもするか)」
エミリアは街の外の魔法練習場に向かった。この世界には闘技場という魔法の威力を吸収して、屋内でも魔法の練習ができる優れた施設があるのだが、この街にはない。
お金がない……のでもない。エミリアが闘技場を作るという名目で冒険者からお金を巻き上げたのだが……プールを作ってしまった。だからない。
「ファイアーボール!」
エミリアが魔法の訓練場の的に向かってポピュラーな火の広範囲魔法、ファイヤーボールを放つと。
「え?」
紅蓮は逆巻き、的の近くの丘全体を炎が焼き尽くす。エミリアの魔法とは思えない威力だ。
「嘘ぉ! 私のスキルが開眼した?」
エミリアは自身のスキルが開眼したとしか思えない魔法の威力に酔いしれ、ひたすら魔力の許す限り、火魔法を打ちまくった。
「か・い・か・ん」
エミリアは恍惚とした表情で自分の魔力に酔いしれたが、流石に魔法を使い過ぎて疲れたので、冒険者ギルドに寄った。
「(しかし、なぜ急に? はッ!!)」
エミリアは思い至った。
「(そうか、これは魔王様が希望を与えた上で落とすという酷い罰。私はもうじき死ぬんだ!)」
エミリアはアリーが自分の魔法の問題を解決し、上げた上で落とすという酷い仕打ちだと思った。何故そう思ったかと言うと、自分ならそうするからである。
「戻ったぞ。何か変わったことはあったか?」
「た、大変でございますエミリア様!」
ギルドに戻ると副ギルド長が慌てて報告を始める。
「実はスラムで疫病が発生し始めて、医師会の方が解毒薬を求められて提供したのです」
「解毒薬では根本的な対策にならないだろう。せいぜい気休め程度だろ?」
「そ、それがぁ! 今朝、アリーという少女が持ち込んだ解毒薬を投与した病人は全員全快したのです!」
「なにぃ!」
解毒薬は疫病などの病にも多少の効果があるが、普通は症状を一時的に緩和する程度がせいぜいだ。それが全快? 完治したというのか?
「おかげで、スラムの疫病の感染拡大は止まって、街は安全です」
「うむ、それは良かったな」
え? 今、アリーって言った? 魔王様の名前出た?
「あのアリーという少女、聖女様ではないかと街中で騒ぎになっています」
「い、いや、あの方は」
魔王と言おうとしたが、騒がしくギルドに乱入する者がいた。
「た、大変です! あのアリーという少女が白い羽根を広げ、大空に飛び立ったそうです! 大勢の目撃者がいます」
「どゆこと?」
エミリアは誰だかわからん乱入者の言っている意味がわからなかった。エミリアは王都からこの街に流れて来たので、この街の古い文化とか全然知らなかった。
「彼女は間違いなく、伝説の沈黙の聖女様です!」
伝説の沈黙の聖女。500年前、彼女はこの地に立ち寄り、疫病を完治させて街を救ったと言い伝えられている。
「せ、聖女様が再び」
「なんと尊いことか」
「またしても聖女様に何もお返しすることができず」
「聞いたか、あの貴重なポーションをたったの銀貨100枚で譲ってくれたそうだぞ」
「信じられない。金貨100枚、いや金で価値がつくような物じゃないぞ。それをたったの銀貨100枚! まさしく聖女様。きっとこうなることを見越して、我らに慈悲の手を」
アリーが聖女と断定され、勝手に好感度が爆あがりする。
しかし、小悪党エミリアはこう考えた。
「(きっと、上げて下げる作戦だ。魔王様が善行なんてする訳がない)」
エミリアの価値観では、善人の存在など信じることができなかった。半分当たっている。アリーは毒だと思って安く売りさばいたのである。アリーの意思に反して善行になってしまったが。
「(やばい、責任を取らされるのやだ。死ぬまで少しでも生きたい。きっとこれも私への罰に違いない。明日にでもみんな死ぬに違いない)」
『愚かなる人間どもよ—滅ぶがよい』
アリーの言葉が頭をよぎる。さすが魔王である。街を丸ごと疫病で滅ぼす作戦に違いない。なんと恐ろしいことか、やはりアリーは魔王で間違いない。
「(やっぱり早く夜逃げしよ)」
こうして、エミリアはアリーが魔王と確信すると、ケルンの街を夜逃げしたのである。
「(次に会ったら、絶対殺られる)」
財産を持ち出す時間がないので、適当に寄付する文章を書いて、すたこらと逃げだす。ちなみに適当に指定した寄付先は貧しい孤児院だった。
彼女は知らない。アリーに関わったため、やることなす事が善行とみなされて、後に大聖女アリーの最も信頼する煉獄の聖女として、この国の聖女に名を連ねる事になることを。
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