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46賢者ガブリエル賢者を首になる?
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アルとの決闘に負け、謎の化け物出現の折、全く役にたたなかった賢者ガブリエル。
彼はカール王子から、賢者の称号を剥奪されていた。
もっとも、カールは戦うどころか、あまりの恐怖におののき、気絶していた。
実はおそそうもしていたのだが、カール王子は知っている者を遠方の領地に栄転させた。
とは言うものの、カールのガブリエル、アルの父への処分は当然とも言えた。
決闘では卑怯な手を堂々と使い、あっさり負けた上、突然出現した魔物にはワンパンで負け……
この男の息子、アルがいなければ、王都の広場で大勢の被害者がでただろう。
だが、この男は英雄たるアルを家から追放したという、行き過ぎた措置。ハズレスキルだからと言って、王都の平民には理解できない処遇だった。
ましてや、アルはハズレスキルなどではなかった。
むしろ、英雄。最近巷では勇者の再来はアルの方では?
と、囁かれるようになった。
今日も王都の冒険者ギルドから自身の家へ向かうガブリエル、その足取りは重かった。
自宅は以前の豪奢な屋敷ではない。みすぼらしいあばらやの門のベルを叩く。
彼は領地経営に失敗して、ことごとく金がない。屋敷もめぼしい資産も既に売却済だ。
「い、今、か、帰りました」
「で、今日の稼ぎは?」
「今日は金貨1枚も稼げたんだ!」
「良くもおめおめと帰って来れたわね」
屋敷のドアを開いた途端、妻が不愛想な声で、蔑んだような目で見る。
「……今日は大した魔物討伐依頼がなかったんだ」
ガブリエルは今だに領地経営失敗の隠蔽と虚偽の財務報告を王都へしていた。
アルの予想通りだ。借金は増える一方、しかし、愚かな彼は、いつかなんとかなる……という根拠のない希望に縋り、ただ無駄に時間と借金を増やしていた。
彼にできるのは冒険者として働き、僅かな賃金を稼ぐこと。
普通の冒険者なら、かなりの稼だが、子爵家の収入としては雀の涙。ましてや領地経営失敗の借金返済には程遠い。おそらく近々、領地債はデフォルトするだろう。
「……そう。無駄に時間を費やしてきたのね」
妻は驚くわけでもなく、淡々と毒を吐いた。
「す、すまない。だが、冒険者ごときの稼ぎじゃ、どうにもならないんだ。だが、きっと一発逆転の機会があるはずだ!」
いや、何を根拠に一発逆転などと……そんなものあれば誰も苦労はしない。
彼が作ってしまった負債は王都の予算の十分の一位。個人でどうこうできる金じゃない。
さっさと領地経営の失敗を報告して、せめて子爵からの降格処分だけに止めるべきだろう。しかし、この男は恥というものだけはよくわかっていた。だが、自身の恥より、領民、ひいては国民への罪の意識というものがなかった。
妻はそんなガブリエルに驚くという事はなかった。日頃から家庭の中でも暴力を振るい、俺様で、妻の事も低く扱い、使用人からも尊敬などされず。絶えず人を陥れる事で自身を有利にする事ばかりに執心する彼に尊敬や愛情など持てる筈もなかった。
「ところで、先程離婚届けを出したから、直ぐに私は出て行くわ」
ガブリエルは驚いた。苦しいのはわかるが、出て行くとは一体? それに妻から突然突き付けられた離婚……
「ど、どういう事だ? 俺は賢者の称号を不当に剥奪されたのだぞ。そんな俺を見捨てるのか? もう少し頑張ればなんとかなるんだ。だから、我慢してくれ!」
相変わらず、どうやればなんとかなるのか全くこれっぽっちも考えていないにも関わらず、再興を信じて疑わないガブリエル。だが、妻は動じる事も無く、妻は事情を説明した。
「実家のフェルディナンド家が動いてくれて、私は実家に戻ることにしたの」
「そ、そうか!! でかした! フェルデナント家の力で、ベルナドッテ家を助けてくれるんだな? これで私もあんな冒険者の仕事なんてしなくていいんだな!!」
ガブリエルは根拠もなく、人は自分を助けてくれると思っていた。自身は領地で強い魔物が出るたびに冒険者が犠牲になり、アルから出征を督促されていたにも関わらず、王都の屋敷で豪奢な生活を自堕落にしていた。彼が亡くなった冒険者のことを顧みることがあっただろうか? あるいは、顧みることがあったならば、彼を救う者が現れたのかもしれない。
彼は自分のしてきた事を考えれば、妻が自分を救う筈がない事に気がつかない。
「何を言っているの? なぜ私の実家があなたを救わなければならないの。賢者じゃないあなたに一体何の価値があるの? 私はあなたの名誉とお金のために結婚したの。今のあなたには価値が全くないの……呆れてものが言えないわ」
妻の方も呆れてものが言えないレベルだが。
「そ、そんな……ま、待ってくれ! 俺を助けてくれ! 俺がこんな生活だなんておかしい」
ガブリエルは妻に縋りつく、今の底辺生活から逃げ出すにはそれしかないと思っているのだろう。
しかし、そういう問題ではないのだ。妻の実家もしぶしぶ妻の実家へ帰ることを承知したが、いい歳の女を養うのは結構な負担だ。ましてや、妻は今や英雄となったアルを害したことで有名となってしまい、実家にとっては、金のかかる厄介の種を自ら招くようなものなのだ。
「お、俺だけ今のままの生活だと? そんな馬鹿な!!」
馬鹿なのは自分だろう。意味がわからないその思考。
「じゃ、あなた、いえ、元亭主、行くから、今度街中で見かけても声なんてかけないでちょうだいね」
妻はそういうと、家を出て行った。
「ハ、ハンナ!! 俺を見捨てないでくれ! 一緒に!!」
「あなたなんて一緒に連れていける訳が無いでしょ! この甲斐性なし!!」
まさか、妻に見捨てられるとは思いもよらず、狼狽えるガブリエル。いや、だから賢者の称号がないこの男には、何の価値もない。元々なかった亭主への敬意が更に冷めて、軽蔑しかないに決まっている。しかし、ガブリエルにはそんな事もわからない。
「ハ、ハンナ!」
妻に縋りつくガブリエル、しかし。
「触るな! 冒険者風情が汚らわしい!! ホント、二度と顔もみたくない!」
妻から罵倒され、はっきりと拒絶される。
「そ、そんな……馬鹿な……」
ガブリエルは妻に捨てられ、一人だけ冒険者となる…。いや、一人ではない。
彼には愛する息子がいた。アルの兄、エリアスだ。
「エ、エリアス、母さんが出ていってしまったんだ……」
「うるせー。そんなことはどうでもいい!! 黙っていつものように食事だけ部屋の外に置いてけ!!」
エリアスは王子カールの側近を解雇されて……引きこもりになっていた。
もう、無職転生を待つしかない……
彼はカール王子から、賢者の称号を剥奪されていた。
もっとも、カールは戦うどころか、あまりの恐怖におののき、気絶していた。
実はおそそうもしていたのだが、カール王子は知っている者を遠方の領地に栄転させた。
とは言うものの、カールのガブリエル、アルの父への処分は当然とも言えた。
決闘では卑怯な手を堂々と使い、あっさり負けた上、突然出現した魔物にはワンパンで負け……
この男の息子、アルがいなければ、王都の広場で大勢の被害者がでただろう。
だが、この男は英雄たるアルを家から追放したという、行き過ぎた措置。ハズレスキルだからと言って、王都の平民には理解できない処遇だった。
ましてや、アルはハズレスキルなどではなかった。
むしろ、英雄。最近巷では勇者の再来はアルの方では?
と、囁かれるようになった。
今日も王都の冒険者ギルドから自身の家へ向かうガブリエル、その足取りは重かった。
自宅は以前の豪奢な屋敷ではない。みすぼらしいあばらやの門のベルを叩く。
彼は領地経営に失敗して、ことごとく金がない。屋敷もめぼしい資産も既に売却済だ。
「い、今、か、帰りました」
「で、今日の稼ぎは?」
「今日は金貨1枚も稼げたんだ!」
「良くもおめおめと帰って来れたわね」
屋敷のドアを開いた途端、妻が不愛想な声で、蔑んだような目で見る。
「……今日は大した魔物討伐依頼がなかったんだ」
ガブリエルは今だに領地経営失敗の隠蔽と虚偽の財務報告を王都へしていた。
アルの予想通りだ。借金は増える一方、しかし、愚かな彼は、いつかなんとかなる……という根拠のない希望に縋り、ただ無駄に時間と借金を増やしていた。
彼にできるのは冒険者として働き、僅かな賃金を稼ぐこと。
普通の冒険者なら、かなりの稼だが、子爵家の収入としては雀の涙。ましてや領地経営失敗の借金返済には程遠い。おそらく近々、領地債はデフォルトするだろう。
「……そう。無駄に時間を費やしてきたのね」
妻は驚くわけでもなく、淡々と毒を吐いた。
「す、すまない。だが、冒険者ごときの稼ぎじゃ、どうにもならないんだ。だが、きっと一発逆転の機会があるはずだ!」
いや、何を根拠に一発逆転などと……そんなものあれば誰も苦労はしない。
彼が作ってしまった負債は王都の予算の十分の一位。個人でどうこうできる金じゃない。
さっさと領地経営の失敗を報告して、せめて子爵からの降格処分だけに止めるべきだろう。しかし、この男は恥というものだけはよくわかっていた。だが、自身の恥より、領民、ひいては国民への罪の意識というものがなかった。
妻はそんなガブリエルに驚くという事はなかった。日頃から家庭の中でも暴力を振るい、俺様で、妻の事も低く扱い、使用人からも尊敬などされず。絶えず人を陥れる事で自身を有利にする事ばかりに執心する彼に尊敬や愛情など持てる筈もなかった。
「ところで、先程離婚届けを出したから、直ぐに私は出て行くわ」
ガブリエルは驚いた。苦しいのはわかるが、出て行くとは一体? それに妻から突然突き付けられた離婚……
「ど、どういう事だ? 俺は賢者の称号を不当に剥奪されたのだぞ。そんな俺を見捨てるのか? もう少し頑張ればなんとかなるんだ。だから、我慢してくれ!」
相変わらず、どうやればなんとかなるのか全くこれっぽっちも考えていないにも関わらず、再興を信じて疑わないガブリエル。だが、妻は動じる事も無く、妻は事情を説明した。
「実家のフェルディナンド家が動いてくれて、私は実家に戻ることにしたの」
「そ、そうか!! でかした! フェルデナント家の力で、ベルナドッテ家を助けてくれるんだな? これで私もあんな冒険者の仕事なんてしなくていいんだな!!」
ガブリエルは根拠もなく、人は自分を助けてくれると思っていた。自身は領地で強い魔物が出るたびに冒険者が犠牲になり、アルから出征を督促されていたにも関わらず、王都の屋敷で豪奢な生活を自堕落にしていた。彼が亡くなった冒険者のことを顧みることがあっただろうか? あるいは、顧みることがあったならば、彼を救う者が現れたのかもしれない。
彼は自分のしてきた事を考えれば、妻が自分を救う筈がない事に気がつかない。
「何を言っているの? なぜ私の実家があなたを救わなければならないの。賢者じゃないあなたに一体何の価値があるの? 私はあなたの名誉とお金のために結婚したの。今のあなたには価値が全くないの……呆れてものが言えないわ」
妻の方も呆れてものが言えないレベルだが。
「そ、そんな……ま、待ってくれ! 俺を助けてくれ! 俺がこんな生活だなんておかしい」
ガブリエルは妻に縋りつく、今の底辺生活から逃げ出すにはそれしかないと思っているのだろう。
しかし、そういう問題ではないのだ。妻の実家もしぶしぶ妻の実家へ帰ることを承知したが、いい歳の女を養うのは結構な負担だ。ましてや、妻は今や英雄となったアルを害したことで有名となってしまい、実家にとっては、金のかかる厄介の種を自ら招くようなものなのだ。
「お、俺だけ今のままの生活だと? そんな馬鹿な!!」
馬鹿なのは自分だろう。意味がわからないその思考。
「じゃ、あなた、いえ、元亭主、行くから、今度街中で見かけても声なんてかけないでちょうだいね」
妻はそういうと、家を出て行った。
「ハ、ハンナ!! 俺を見捨てないでくれ! 一緒に!!」
「あなたなんて一緒に連れていける訳が無いでしょ! この甲斐性なし!!」
まさか、妻に見捨てられるとは思いもよらず、狼狽えるガブリエル。いや、だから賢者の称号がないこの男には、何の価値もない。元々なかった亭主への敬意が更に冷めて、軽蔑しかないに決まっている。しかし、ガブリエルにはそんな事もわからない。
「ハ、ハンナ!」
妻に縋りつくガブリエル、しかし。
「触るな! 冒険者風情が汚らわしい!! ホント、二度と顔もみたくない!」
妻から罵倒され、はっきりと拒絶される。
「そ、そんな……馬鹿な……」
ガブリエルは妻に捨てられ、一人だけ冒険者となる…。いや、一人ではない。
彼には愛する息子がいた。アルの兄、エリアスだ。
「エ、エリアス、母さんが出ていってしまったんだ……」
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