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44スライムが剣になったのだが?

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戦いは熾烈を極めていた。 

「光あれ、地は混沌であって、闇が深淵の面にあり……水によって生まれる『爆裂【ハイドロエクスプロージョン】』!!」 

「光あれ、地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、神の霊が水の面を動さん『暁光の慈悲【ヒューペリオン・ブレッシング】』!!」  

リーゼの爆裂魔法にクリスの光の攻撃魔法が炸裂した。 

「す、すげえ。神級以上の魔法か?」 

「クリス様はともかく、エルフの女の子が神級以上の魔法使うとかアルベルト様は仲間まで桁が外れてる」 

そんな二人も剣で終末の化け物を圧しているとか、桁が外れている自覚がない。 
混乱の中、取り残されていた人物がいた。自身の父親と弟の決闘を見守っていたアルの兄、エリアスだ。彼は焦っていた。 

突然現れた化け物。実際に対峙はしていないが、とてつも無い化け物だと言うことは肌で感じた。これ程の魔力を発散するなど、経験したことの無い強さだ。 

さっさと逃げ出したいが、主君の第一王子、カールは微動だにせずに戦いを見ている。主人が逃げてくれないと、自分も逃げられない。 

だから貴賓席の末席で逃げ出せずにいたのだが――なんと、アル達が戦いを始め、観客が逃げる時間を稼いでいるではないか。いや、このままだと倒せるんじゃないか? 

驚くべきことに、全員の攻撃が化け物に大きなダメージを与えている。 

誰かの攻撃がヒットするたびに、化け物は怒りの咆哮をあげていた。 

と、言うことは、あの化け物は攻撃と見かけに極振りの防御力皆無の魔物に違い無い。 

はっ!? 

だから殿下はこうして、悠然と構えておられるのか? 

ならば、神級火魔法の使い手の私であれば、あの化け物を瞬殺できるのでは? と――エリアスは思いはじめていた。 

信じられないことに父が負けてしまった。さぞかし汚い手で父を出し抜いたのだろう。このままでは、ベルナドッテ家の名声も父の賢者の名声も完全に落ちてしまう。ここで、すこしでも名誉挽回しなければ。 

既に病気に近い被害妄想と現実捏造。王都の平民は既に賢者が卑怯者で息子のアルに遠く及ばない。真の賢者と言えるのはアルであり、今も市民のために戦っている。 

賢者は逃げた上、そこで化け物にのされて伸びている始末だ。 

てんで見当違いに思いを胸に、こっそりと後ろから魔法を放つ。 

「うおおおおおお『紅蓮の祝福【プロメテウス・ブレイズ 】』 !」 

エリアスの神級魔法が終末の化け物を襲う、が。 

襲ったんだが。 

「ガァ……?」 

「へ?」 

まったく効いてない。 

いや、むしろ回復したような? 

そんなバカな? 

動揺するエリアスに、終末の化け物が目を向ける。 

新たな敵と認識した化け物は軽く尻尾をふる。牽制程度だろう。 

だが。 

身体強化や鍛錬などしていないエリアスには情け容赦ない一撃となった。 

「ぴゃゃゃやややややああああああ!!」 

吹き飛んだエリアスは奇声を上げながら呆気なく飛んで行く。 

「誰だ? こんな時に遊んでいるのは?」 

俺は真相を知っていた……が、恥ずかしくて言えなかった。 

なかったこととして他人のフリ。 

死んではいないだろう。親父が目を覚ましたら、治癒するだろう、だから問題ない。 

エリアスの炎の魔法のおかげで、せっかく削った化け物の体力がむしろ回復してしまった。 

この化け物は闇属性だが、火とも相性がいい。火魔法はどうも回復になるようだ。 
あの時、一瞬助けるべきか? と、思うことはなく、普通にスルーした。 

俺あくどくないよな?  

「ピヒャーーーー……」 

奇声を発しながら、エリアスが落ちてきたのは、父である賢者ガブリエルの真上。ちょうど目を覚まして起きあがろうとした彼の上に。 

どすん。 

「「うぽぉーーーーー!」 」 

運の悪い親子は二人仲良くまた気絶した。 

彼らに期待するのは間違いだとは思うが、ほんとに使えない奴らだ。 

しかし、この化け物を俺たちだけで倒すとか、かなり無理ゲー。 

決定打がない。クリスの光神級攻撃魔法にさえ耐える闇属性の化け物とか、頭おかしい。 

そう、焦っていると。 

「ご主人様! ライムを使ってください! ライムを武器として使ってください。ご主人様の唯一無二の剣となりなります。その無銘の剣では無理です!」 

「ライム? お前を武器として使うのか?」 

「……はい」 

コクリと頷くライム。その意気わかった。 

「よし、わかった、ライム! あの化け物をぶん殴るぞ!」 

「ちょ、ちょ、止めて! ご、ご主人様ぁー」 

俺はライムの足首を掴んで上段に構えると。 

「このあほう! 何考えとんねん!!」 

ぼくぅっ! 

という打撲音と共にクリスからいい角度でアッパーカットを喰らって、仰反る俺。 

更に。 

「アル様、お仕置きです!」 

「ええ?」 

何故か俺の至近距離で爆裂(極小)を食らわせるリーゼ、なんで? 

「な、何するんだ? クリス、リーゼ?」 

「何じゃ無いでしょ! 何、女の子の足首掴んで振り回してるの?」 

「そうです。ライムちゃん、可哀想です。パンツ見えちゃってます」 

何? パンツ? 

ライムの方に目を向けると必死にスカートを直してパンツを隠そうとしているライム。 

ちなみに、青の水玉だった。一つ一つがスライム柄。 

なかなか良い眺めだ。 

「いい加減にその手を放してあげて!」 

「そうです。ライムちゃん、顔真っ赤よ」 

「でも、ライムが自分を武器として使えって、ライムはスライムだから多分、頑丈で」 

「や、止めてください、ご主人様! このままこん棒代わりに殴られたら、顔が損壊しちゃいます!」 

え? マジ? 

「アル様の力だと、手とか、足とかもげて、多分上半身どっかに行っちゃう」 

どこかで聞いたダークファンタジーみたいな話だ。 

「ア、アル、すぐにライムちゃん降ろす!」 

「……は、はい」 

俺は素直にライムを下ろす。 

「ク、クリス、これは違うんだ!」 

「まずはごめんなさいでしょ!」 

「は、はい」 

「違う、ごめんなさい!」 

「……ご、ごめんなさい」 

俺は素直に謝ったのだが。 

「ほんと、女の子をこん棒代わりに化け物殴ろうとか、どんなけサイコパスな発想よ!」 

「だ、だから、ち、違う」 

「クリスさん、ここは任せておいて下さい!」 

リーゼが奮戦するレオンとクラウスの元へ行って、支援を始めて。 

俺はそれから、30分間クリスにしこたま怒られたのだが。 
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