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41決闘にそれはないと思うのだが?

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「う……かくなる上は……」 

突然、親父が大声でどなった。 

「うおおおおおおおおおっ!! 作戦A!」 

手を大空へ広げて、天を仰ぎ見る。そして賢者の杖を天にかざす。 

すると、親父の周りを金色の粒子が舞い落ちる。 

これはアレだな。初めて見るけど、すぐわかる。 

「「「「「「「「「それ、インチキだろう!!!!」」」」」」」」」」 

盛大に観客総員からツッコミを受ける親父。 

だって、黒いローブを着た、怪しい男たちが観客席の一番前に立ち、親父に身体強化魔法をこれでもかと、何重にもかけているのだ。 

「まあ、術者が隠れるところないけど」 

仮にも実の親父なので、恥ずかしい。せめて、もうチョットわからんようにやれ。 

「ふふふ、獅子はウサギを狩るにも全力を尽くす。覚えておくことだな」 

「いや、男の矜持をかけた戦いに卑怯はないって、あんた言っていたよな?」 

「そんなことは言っておらん。勝ちさえすれば良いのだ」 

賢者の称号を持つ者がそれでいいのか? 

「……やるか」 

俺は親父の次の一手を見極めるため、警戒を強める。 

――親父の奴、インチキまでして勝ちに拘るか。 

さっきまでとは魔力の圧が段違いだ。さすがは賢者、インチキとはいえ、元の魔力の凄さから、凄まじい魔法を繰り出して来ることは間違いない。 

「……まあ、そうでないと面白くないな」 

俺の呟きに、親父は。 

「な、なんだと!?」 

と、眉をヒクヒクさせる。あれ、漫画じゃなくても出来るものなんだな。 

「俺もまだまだ本気じゃないからな。こんなにあっさり終わられたらかなわん」 

「は、ハッタリを……どうせ口……だけだ!」 

親父はわかりやすく絶望したように呟いたが、己を奮い立たせたのだろう、数秒後、目が笑っていないで顔で笑みを浮かべる。 

「ふふふ……。冗談も大概にしろ。これだけ強化魔法がかかった私に勝てるとでも思うのか?」 

「まあ――すぐにわかるだろ」 

「ぐっ。いちいち腹の立つヤツだ……」 

親父は表情を歪めると、再び賢者の杖を掲げる。 

「強化魔法は賢者の杖の効果も数十倍にする。絶望するがいい、どんなに強い攻撃魔法を持っていようとも、私には勝てん」 

「……面白い。 やはりそうでなくてはな」 

そういう勝ち筋を考えたか。確かにハイドロ・エクスプロージョンでは威力がありすぎて使えん。 

だが。 

「ライム!!」 

「はい! ご主人様」 

俺は召喚魔を呼んだ。彼女はいつでも俺の傍に現れることができる。 

召喚魔法使いであると同時に身体強化と上級魔法使いのスキルを持つ俺にしかできない技。 

それを思いついた。史上最強と言われる賢者の杖の防御結界、数十倍に強化されていれば、さすがに俺の身体強化(中)のスキルだけでは破れない。 

「神が心を尽くして神を愛する時 過去の罪は赦され……水によって生まれる」   

親父が神級の魔法を唱え始める。絶対防御があるからこそ親父の賢者としての名は偉大になったのだ。 

親父は賢者の杖をとあるダンジョンで発見した。ダンジョンで発見したアイテムは発見者の所有物になる。賢者の杖を手に入れるまではそれなりに努力をし、人の心が分かる人間だったのかもしれない。人より秀でた力……それは時には人を惑わす。 

俺は決してそうならない。他でもない自身の親父を反面教師として学んだ。 

領地の冒険者達はスキルに恵まれない。だから汎用魔法を工夫して使う。 

それが貴族達にはない。その貴族の象徴であるのが、目の前の親父だ。 

だからこそ、この戦いに意味があるのかもしれない。ハズレスキルの俺に賢者の親父が敗れるということに。 

俺の頭には一つの勝ち筋が浮かんでいた。 

「「「「おおおおっ……!」」」」 

観客たちが歓声をあげる。闘いがクライマックスに入っているため。 

「ライム、全力で親父の防御結界にダメージを入れろ!」 

「はい! ご主人様! ぴぎゃー」 

スライム状に形を変えて、ライムが親父の防御結界に攻撃する。 

「無駄だ。黙って私の魔法の前に屈せよ」 

親父が煽る。 

気にする必要はない。ライムをもってしても、防御結界に穴をあけるのは難しいだろう。 

俺の狙いはそこじゃない。 

鑑定のスキルで親父を見ると。やはり。 

親父の防御結界にはライムの一撃を受けた場所が弱くなっていた。 

そして、防御結界の正体。 

風、水、火、土の4属性、および物理攻撃の防御100倍。 

つまり、光と闇には効果がない。 

なら。 

「親父、お前の防御結界には光と闇の耐性がない。そうだな?」 

「それがどうした? お前にはあるのか? 闇の神級攻撃魔法が? 私の防御結界を破ることができるのは王子殿下の神級闇魔法位だ」 

ニヤリと笑う親父。そこには勝利の確信しかないようだ。 

確かに俺には闇の攻撃魔法のスキルはない。汎用魔法の闇は研究中だ。 

だが、俺にはある。 

光の上級魔法が。 

「神の霊が水の影を動さん『極光の慈悲【ライト・ブレッシング】』!!」 

「な、なんだ、それは?」 

親父は俺の魔法の結果現れた、光り輝く俺の拳に気が付いたようだ。 

「なあ、親父、決着をつけるぞ」 

「ああ、さっさと死ね! 『氷晶の刑戮【ネーレーイデス・ブリリアント】』」 

キィーーン! と。 

俺は親父の攻撃魔法を事も無げに振り払う。 

驚いている親父の防御結界の弱いところを殴る。殴る。殴る。 

パリーン 

防御結界が破れる音がした。  

「げっ!! はっ? はっ? 防御結界が? 嘘だ!?」 

親父は困惑がおさまらない様子だ。 

「親父、俺には闇の攻撃魔法はない。だがな、光の上級魔法はある。そして、身体強化(中)のスキルもな。全部賢者のあんたにはとるに足らないスキルだろう? だけどな、それを組み合わせて工夫すればあんたの賢者の杖の防御結界をも破れるんだ。冒険者達はみなやってる」 

観客がざわめき始めた。俺が強化された親父の防御結界を破ったことに。 

「ん……? おい、まさか今の――」 

「はっ? 今の? 嘘だろ!?」 

「いや、事実だ。あのハズレスキル、賢者様の防御結界を殴って壊した……」   

親父も観客もどよめきが収まらない中、俺は親父を殴りに行った。光の付与魔法は消して。  

「ぬあああああああああっっ!!」 

親父が唾と血を巻き散らしながら吹っ飛ぶ。 

「お、俺……夢でも見てるのか……? 賢者様が――負けたんじゃ……」 

「いや、そもそもあそこまでの威力の魔法使える奴なんて、王都にいるのか……?」 

「第一王子殿下様もさすがに身体強化までは使えないよな……」 

観客のどよめきを聞き流しつつ、俺は。 

「おおおおおおおっ!!」 

親父をもう一度殴り、親父を空にクルクル舞わせた。 

――終わりだ!! 

俺は落ちて来た親父の眼前に剣の先を突き付けた。 

シン、と。 

周囲は沈黙に包まれた。 

あれほど騒がしかった観客も。いまこの瞬間だけは、誰も喋らなかった。 

「…………」 

親父は、突きつけられた剣先を見て、口をパクパクさせている。 

よほど信じられないんだろう。 

自分の敗北がな。 

賢者の称号を持つ神級魔法使いがハズレスキルに負けたことが。 

「嘘……だ……」 

「親父、お前の防御結界を破ったのは、光魔法の応用だ。お前も持っているよな? 

お前の魔法はな、こうやって使うんだよ」 

「ひ、ひぃ」 

情けなく小便をちびってしまった賢者へ興味をなくした、だが俺は。 

「こ、これは?」 

これは俺の探知のスキルがヤクートパンサーが大量発生した時に感じた違和感なのだが。 
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