上 下
36 / 66

36領地経営を始めたんだが?

しおりを挟む
養父である辺境伯イェスタとエーリヒと三人で、今後の領地経営を話しあうことになった。 

しかし。 

「た、大変です!!」 

「どうしたんだ? だが、如何なる時も貴族らしい振る舞いには気をつけようね」 

養父は相変わらずだが、余程深刻なことが起きたようだ。 

彼は辺境領の行政府の官吏だ。だが、彼が驚くこととは一体? 

「ベルナドッテ領から我が辺境領への移民申請が1000人以上来ています。それに金融ギルド、商業ギルド、冒険者ギルド、鍛冶ギルドの移転申請も100件以上、更に増えそうです」 

「……」 

養父が唖然とする。 

が。 

「やはり、坊ちゃんを慕う領民が移民して来ましたか。それにギルドの連中も」 

「エーリヒ、お前、俺がこの領の養子になったことリークしたな」 

「さて、何のことやら」 

すっとぼけるエーリヒだが、事態が呑み込めない養父にわかるよう説明してくれた。 

「残念なことですが、ベルナドッテ領は一年ともたないだろう……というのが各種ギルドの見解でしてな。最悪、爵位返上となるでしょう。王から授かった領地の経営に失敗するのですから」 

「領から優秀な人材が流出したからな。すでに領地の経営が傾いてるな。ベルナドッテ領の経済が破綻した場合、王都の年間予算の十分の一程度の債務が発生するだろうな」 

安く見積もって王都の十分の一。父は多分悪あがきして借金を増やすだろう。 

多分、父は恐らく逃げる。つまり虚偽の報告を行って問題の先送りをして、かえって事態を悪化させる。 

解決策がないのに、王都へ嘘の報告をして、無駄な時間稼ぎをして、その間に勝手に借金が膨らむ最悪の結末しか見えない。 

虚偽の報告の何がまずいって、信用の極端な低下だ。ベルナドッテ領は債券を発行している。その担保はあくまで信用なのだ。それがもし、財政状態の虚偽報告などしたら、信用は低下する。そもそも、財政状態の報告が嘘だと、どの程度悪いのかがわからない。猜疑心はドンドン膨らみ、最悪債券は投げ売りされる。 

領地経営に無頓着な父がやりそうなことだ。 

債券なんてそう簡単に債務不履行になんてならない。理論上は不履行になんてならないのだ。だが、盲点はある。それが人為的な問題だ。不正、政策判断ミス。これらは人間のやること。だから、理論上起きない債務不履行が実際には起きる。 

早い段階で諦めてくれればいいが。賭け事にハマった末期患者のごとく、もう少し待てば、運が好転すれば……と考えて、ますますドツボにハマる。 

「まあ、そうすると移民の増える分、歳出を増やすしかないか」 

「そうですな。止むをえないでしょう。2,3年すれば自然に彼らの仕事もあるでしょうが、その前に彼らが飢えてしまいます」 

「えっと、それ債券増発するっていう理解でいいのかな、素人にもわかるようにしようね」 

俺とエーリヒは互いに顔を見合わせてニッと笑った。幸い、養父イェスタさんはかなり賢い。 

話し合いの結果、温泉街の開発の他、港と港へ続く道路を整備することになった。辺境債は更に1000万ディナール増発した。 

温泉街も港も整備するので、辺境中の建築ギルドが潤い、冒険者ギルドも魔物からの防衛のため、潤った。もちろん資金を提供する金融ギルドもはじめ、ほとんどのギルド、そして建築に携わる者、道路を作る労働者、彼らが繁華街で飲む酒。全てのギルドが何らかな恩恵を受ける。いわゆる相乗効果だ。 

更にベルナドッテ領から移転してきたギルドも加わるので、辺境のインフレ率は最低2.5%と上昇してしまいそうだ。 

「坊ちゃま、これでとりあえず、移民して来た領民は食わせていけますが。こんな調子で辺境債を発行していると、いつか悪性インフレになりかねませんな」 

「それなんだけど、来年は追加予算なしで、金融政策で乗り切ろうと思うんだ」 

「なんだい? 金融政策って?」 

イェスタさんが興味深々で聞いてくる。 

「ああ、ベルナドッテ領の図書館には古代の経済政策の蔵書が多数あって。そのうちの一冊に書いてあったんだ。景気は金融政策を中心にしたほうがいいって」 

「ほう、さすが坊ちゃま、あれを読んでらっしゃいましたか?」 

「ああ、中央銀行がないとできないけど、良く考えたら、金融ギルドの親方に頭を下げればいいだけなことに気が付いたんだ」 

金融政策は中央銀行が主に金利をコントロールして景気をコントロールする。 

金融ギルドへ資金を貸し出す金利をコントロールして金利を操作する。 

市中の辺境債を買ったり、売ったりすることで。買うと辺境債の価格は上がり、金利は下がる。売ると価格は下がり、金利は上がる。辺境債の金利は市中の金利と同じになる。 

この国の領地で債権を発行している領は少ない。ベルナドッテ領やこの辺境領位だ。それに中央銀行に位置するものがなかった。 

だが。 

「ベルナルドさんの金融ギルドがこの辺境に引っ越してくるみたいなんだ」 

「ほお、彼なら。さすが坊ちゃま、彼は坊ちゃまに恩義がありますからな」 

俺にはコネがあった、以前助けた金融ギルドのベルナルドさんは俺と懇意で、おそらく俺の考えを聞いたら助けてくれる。 

「ああ、彼に頼んで、この辺境に中央銀行を設立しようと思う」 

「それは気が付きませんでしたな。わたくしめも中央銀行さえあればと思っていたのですが、実際作るしかなく。確かに作ればいいだけですな。幸い、坊ちゃまにはつてがある」 

こうしてこの辺境に中央銀行が設立された。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

追放聖女。自由気ままに生きていく ~聖魔法?そんなの知らないのです!~

夕姫
ファンタジー
「アリーゼ=ホーリーロック。お前をカトリーナ教会の聖女の任務から破門にする。話しは以上だ。荷物をまとめてここから立ち去れこの「異端の魔女」が!」 カトリーナ教会の聖女として在籍していたアリーゼは聖女の証である「聖痕」と言う身体のどこかに刻まれている痣がなくなり、聖魔法が使えなくなってしまう。 それを同じカトリーナ教会の聖女マルセナにオイゲン大司教に密告されることで、「異端の魔女」扱いを受け教会から破門にされてしまった。そう聖魔法が使えない聖女など「いらん」と。 でもアリーゼはめげなかった。逆にそんな小さな教会の聖女ではなく、逆に世界を旅して世界の聖女になればいいのだと。そして自分を追い出したこと後悔させてやる。聖魔法?そんなの知らないのです!と。 そんなアリーゼは誰よりも「本」で培った知識が豊富だった。自分の意識の中に「世界書庫」と呼ばれる今まで読んだ本の内容を記憶する能力があり、その知識を生かし、時には人類の叡知と呼ばれる崇高な知識、熟練冒険者のようなサバイバル知識、子供が知っているような知識、そして間違った知識など……旅先の人々を助けながら冒険をしていく。そうこれは世界中の人々を助ける存在の『聖女』になるための物語。 ※追放物なので多少『ざまぁ』要素はありますが、W主人公なのでタグはありません。 ※基本はアリーゼ様のほのぼの旅がメインです。 ※追放側のマルセナsideもよろしくです。

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

底辺回復術士Lv999 勇者に追放されたのでざまぁした

島風
ファンタジー
勇者パーティーでお荷物扱いされていたアルは、とうとう勇者にクビを宣告されてしまう。 だが、実は彼はユニークスキル『パーティステータス2倍』の持ち主。パーティ全体の能力を2倍にしてパーティーに大きく貢献していた。 にもかかわらず、アルは最愛の幼馴染の恋人を寝取られ、都合が悪いからとダンジョンの奈落の底に突き落とされて殺害されてしまう。 しかし、死んだかと思われたアルは運よく奈落の底で生き残った。そして奈落の底で魔剣と膨大な経験値をもらい前人未踏のレベル999と勇者をも超える力を手に入れた。 アルは復讐の為、魔王を自ら滅ぼし、卑怯な勇者エルヴィンを法の元裁こうと決意する。 だが復讐に燃えていた彼は王女様と出会い、何故かパーティーに入ってほしいと勧誘される。おまけに、王女様をはじめ後輩や妹や彼を慕う女の子からも何故か次々と求婚されてしまう。 一方、アルを追放した勇者は当然落ちぶれて行き、次第にどん底へと追い詰められていく。 落ちぶれた糞勇者エルヴィンはアルに土下座して泣きつくが、もう時すでに遅い。そして遂にエルヴィンは外道が災いして底辺奴隷に落とされるのであった。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

処理中です...