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36領地経営を始めたんだが?
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養父である辺境伯イェスタとエーリヒと三人で、今後の領地経営を話しあうことになった。
しかし。
「た、大変です!!」
「どうしたんだ? だが、如何なる時も貴族らしい振る舞いには気をつけようね」
養父は相変わらずだが、余程深刻なことが起きたようだ。
彼は辺境領の行政府の官吏だ。だが、彼が驚くこととは一体?
「ベルナドッテ領から我が辺境領への移民申請が1000人以上来ています。それに金融ギルド、商業ギルド、冒険者ギルド、鍛冶ギルドの移転申請も100件以上、更に増えそうです」
「……」
養父が唖然とする。
が。
「やはり、坊ちゃんを慕う領民が移民して来ましたか。それにギルドの連中も」
「エーリヒ、お前、俺がこの領の養子になったことリークしたな」
「さて、何のことやら」
すっとぼけるエーリヒだが、事態が呑み込めない養父にわかるよう説明してくれた。
「残念なことですが、ベルナドッテ領は一年ともたないだろう……というのが各種ギルドの見解でしてな。最悪、爵位返上となるでしょう。王から授かった領地の経営に失敗するのですから」
「領から優秀な人材が流出したからな。すでに領地の経営が傾いてるな。ベルナドッテ領の経済が破綻した場合、王都の年間予算の十分の一程度の債務が発生するだろうな」
安く見積もって王都の十分の一。父は多分悪あがきして借金を増やすだろう。
多分、父は恐らく逃げる。つまり虚偽の報告を行って問題の先送りをして、かえって事態を悪化させる。
解決策がないのに、王都へ嘘の報告をして、無駄な時間稼ぎをして、その間に勝手に借金が膨らむ最悪の結末しか見えない。
虚偽の報告の何がまずいって、信用の極端な低下だ。ベルナドッテ領は債券を発行している。その担保はあくまで信用なのだ。それがもし、財政状態の虚偽報告などしたら、信用は低下する。そもそも、財政状態の報告が嘘だと、どの程度悪いのかがわからない。猜疑心はドンドン膨らみ、最悪債券は投げ売りされる。
領地経営に無頓着な父がやりそうなことだ。
債券なんてそう簡単に債務不履行になんてならない。理論上は不履行になんてならないのだ。だが、盲点はある。それが人為的な問題だ。不正、政策判断ミス。これらは人間のやること。だから、理論上起きない債務不履行が実際には起きる。
早い段階で諦めてくれればいいが。賭け事にハマった末期患者のごとく、もう少し待てば、運が好転すれば……と考えて、ますますドツボにハマる。
「まあ、そうすると移民の増える分、歳出を増やすしかないか」
「そうですな。止むをえないでしょう。2,3年すれば自然に彼らの仕事もあるでしょうが、その前に彼らが飢えてしまいます」
「えっと、それ債券増発するっていう理解でいいのかな、素人にもわかるようにしようね」
俺とエーリヒは互いに顔を見合わせてニッと笑った。幸い、養父イェスタさんはかなり賢い。
話し合いの結果、温泉街の開発の他、港と港へ続く道路を整備することになった。辺境債は更に1000万ディナール増発した。
温泉街も港も整備するので、辺境中の建築ギルドが潤い、冒険者ギルドも魔物からの防衛のため、潤った。もちろん資金を提供する金融ギルドもはじめ、ほとんどのギルド、そして建築に携わる者、道路を作る労働者、彼らが繁華街で飲む酒。全てのギルドが何らかな恩恵を受ける。いわゆる相乗効果だ。
更にベルナドッテ領から移転してきたギルドも加わるので、辺境のインフレ率は最低2.5%と上昇してしまいそうだ。
「坊ちゃま、これでとりあえず、移民して来た領民は食わせていけますが。こんな調子で辺境債を発行していると、いつか悪性インフレになりかねませんな」
「それなんだけど、来年は追加予算なしで、金融政策で乗り切ろうと思うんだ」
「なんだい? 金融政策って?」
イェスタさんが興味深々で聞いてくる。
「ああ、ベルナドッテ領の図書館には古代の経済政策の蔵書が多数あって。そのうちの一冊に書いてあったんだ。景気は金融政策を中心にしたほうがいいって」
「ほう、さすが坊ちゃま、あれを読んでらっしゃいましたか?」
「ああ、中央銀行がないとできないけど、良く考えたら、金融ギルドの親方に頭を下げればいいだけなことに気が付いたんだ」
金融政策は中央銀行が主に金利をコントロールして景気をコントロールする。
金融ギルドへ資金を貸し出す金利をコントロールして金利を操作する。
市中の辺境債を買ったり、売ったりすることで。買うと辺境債の価格は上がり、金利は下がる。売ると価格は下がり、金利は上がる。辺境債の金利は市中の金利と同じになる。
この国の領地で債権を発行している領は少ない。ベルナドッテ領やこの辺境領位だ。それに中央銀行に位置するものがなかった。
だが。
「ベルナルドさんの金融ギルドがこの辺境に引っ越してくるみたいなんだ」
「ほお、彼なら。さすが坊ちゃま、彼は坊ちゃまに恩義がありますからな」
俺にはコネがあった、以前助けた金融ギルドのベルナルドさんは俺と懇意で、おそらく俺の考えを聞いたら助けてくれる。
「ああ、彼に頼んで、この辺境に中央銀行を設立しようと思う」
「それは気が付きませんでしたな。わたくしめも中央銀行さえあればと思っていたのですが、実際作るしかなく。確かに作ればいいだけですな。幸い、坊ちゃまにはつてがある」
こうしてこの辺境に中央銀行が設立された。
しかし。
「た、大変です!!」
「どうしたんだ? だが、如何なる時も貴族らしい振る舞いには気をつけようね」
養父は相変わらずだが、余程深刻なことが起きたようだ。
彼は辺境領の行政府の官吏だ。だが、彼が驚くこととは一体?
「ベルナドッテ領から我が辺境領への移民申請が1000人以上来ています。それに金融ギルド、商業ギルド、冒険者ギルド、鍛冶ギルドの移転申請も100件以上、更に増えそうです」
「……」
養父が唖然とする。
が。
「やはり、坊ちゃんを慕う領民が移民して来ましたか。それにギルドの連中も」
「エーリヒ、お前、俺がこの領の養子になったことリークしたな」
「さて、何のことやら」
すっとぼけるエーリヒだが、事態が呑み込めない養父にわかるよう説明してくれた。
「残念なことですが、ベルナドッテ領は一年ともたないだろう……というのが各種ギルドの見解でしてな。最悪、爵位返上となるでしょう。王から授かった領地の経営に失敗するのですから」
「領から優秀な人材が流出したからな。すでに領地の経営が傾いてるな。ベルナドッテ領の経済が破綻した場合、王都の年間予算の十分の一程度の債務が発生するだろうな」
安く見積もって王都の十分の一。父は多分悪あがきして借金を増やすだろう。
多分、父は恐らく逃げる。つまり虚偽の報告を行って問題の先送りをして、かえって事態を悪化させる。
解決策がないのに、王都へ嘘の報告をして、無駄な時間稼ぎをして、その間に勝手に借金が膨らむ最悪の結末しか見えない。
虚偽の報告の何がまずいって、信用の極端な低下だ。ベルナドッテ領は債券を発行している。その担保はあくまで信用なのだ。それがもし、財政状態の虚偽報告などしたら、信用は低下する。そもそも、財政状態の報告が嘘だと、どの程度悪いのかがわからない。猜疑心はドンドン膨らみ、最悪債券は投げ売りされる。
領地経営に無頓着な父がやりそうなことだ。
債券なんてそう簡単に債務不履行になんてならない。理論上は不履行になんてならないのだ。だが、盲点はある。それが人為的な問題だ。不正、政策判断ミス。これらは人間のやること。だから、理論上起きない債務不履行が実際には起きる。
早い段階で諦めてくれればいいが。賭け事にハマった末期患者のごとく、もう少し待てば、運が好転すれば……と考えて、ますますドツボにハマる。
「まあ、そうすると移民の増える分、歳出を増やすしかないか」
「そうですな。止むをえないでしょう。2,3年すれば自然に彼らの仕事もあるでしょうが、その前に彼らが飢えてしまいます」
「えっと、それ債券増発するっていう理解でいいのかな、素人にもわかるようにしようね」
俺とエーリヒは互いに顔を見合わせてニッと笑った。幸い、養父イェスタさんはかなり賢い。
話し合いの結果、温泉街の開発の他、港と港へ続く道路を整備することになった。辺境債は更に1000万ディナール増発した。
温泉街も港も整備するので、辺境中の建築ギルドが潤い、冒険者ギルドも魔物からの防衛のため、潤った。もちろん資金を提供する金融ギルドもはじめ、ほとんどのギルド、そして建築に携わる者、道路を作る労働者、彼らが繁華街で飲む酒。全てのギルドが何らかな恩恵を受ける。いわゆる相乗効果だ。
更にベルナドッテ領から移転してきたギルドも加わるので、辺境のインフレ率は最低2.5%と上昇してしまいそうだ。
「坊ちゃま、これでとりあえず、移民して来た領民は食わせていけますが。こんな調子で辺境債を発行していると、いつか悪性インフレになりかねませんな」
「それなんだけど、来年は追加予算なしで、金融政策で乗り切ろうと思うんだ」
「なんだい? 金融政策って?」
イェスタさんが興味深々で聞いてくる。
「ああ、ベルナドッテ領の図書館には古代の経済政策の蔵書が多数あって。そのうちの一冊に書いてあったんだ。景気は金融政策を中心にしたほうがいいって」
「ほう、さすが坊ちゃま、あれを読んでらっしゃいましたか?」
「ああ、中央銀行がないとできないけど、良く考えたら、金融ギルドの親方に頭を下げればいいだけなことに気が付いたんだ」
金融政策は中央銀行が主に金利をコントロールして景気をコントロールする。
金融ギルドへ資金を貸し出す金利をコントロールして金利を操作する。
市中の辺境債を買ったり、売ったりすることで。買うと辺境債の価格は上がり、金利は下がる。売ると価格は下がり、金利は上がる。辺境債の金利は市中の金利と同じになる。
この国の領地で債権を発行している領は少ない。ベルナドッテ領やこの辺境領位だ。それに中央銀行に位置するものがなかった。
だが。
「ベルナルドさんの金融ギルドがこの辺境に引っ越してくるみたいなんだ」
「ほお、彼なら。さすが坊ちゃま、彼は坊ちゃまに恩義がありますからな」
俺にはコネがあった、以前助けた金融ギルドのベルナルドさんは俺と懇意で、おそらく俺の考えを聞いたら助けてくれる。
「ああ、彼に頼んで、この辺境に中央銀行を設立しようと思う」
「それは気が付きませんでしたな。わたくしめも中央銀行さえあればと思っていたのですが、実際作るしかなく。確かに作ればいいだけですな。幸い、坊ちゃまにはつてがある」
こうしてこの辺境に中央銀行が設立された。
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