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35王女が押しかけてきたんだが?

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突然押しかけてきた王女殿下。一体どういうことなのだ? 

「アルお坊ちゃま。殿下は応接室にお通ししました。さあ、どうぞ」 

「殿下とあればお待たせする訳にもいかないね。クリスも一緒にいらっしゃい」 

「はい、叔父様。殿下なら私の親友ですし、是非お会いしたい。しかし、何故殿下が?」 

 俺にもさっぱり理由がわからん。ましてや嫁に来たと突然押しかけて来たのだ。 

 殿下には侍女がついていた。さすがに王女、気品ある風貌、そして……クリスよりでかい推定Gカップのわがままボディの……着飾った王女がそこにいた。   

「お久しぶりです。アル様」  

殿下はドレスの両端をヒラっと持ち上げて 、カーテシーで挨拶する。  

俺は慌てて、姿勢を直す。王女の前だ、粗相なんてできない。 

しかし。 

「えっと、あの、殿下、初対面だと思うのだが?」 

「そ、そんなぁアンネリーゼの事を覚えていてくれないだなんてぇ! アンネリーゼぁ! とても悲しいです!」 

俺は慌てて、この突然の来訪者に困惑した。以前殿下に会った事があるなら、失礼になる。    

「えっと! えっと! ええ?」  

……汗  

俺は記憶を総動員して殿下のことを思い出そうとしたけど、どうしても思い出せなかった。  

「あっ! いえ、すいません。覚えている筈がないですよね? 10年前に偶然馬車でアル様をお見掛けしまして……アル様は子犬をなでていて、とっても素敵な笑顔で……」   

それ、完璧な初対面だよな? ていうか、この王女、なんで俺の事を知ってるの? 

「あの、殿下、たまたま通りがかった馬車の中から見かけた俺の事なんて、何故知ってるのだ? えっと、直接話したことはないよな?」  

 「いやですわ。あの時以来、家臣に命じて魔道具で監視……いえ、見守らせて頂いておりました。24時間ひと時も見逃したことはございません。ですから安心なさってください」 

ストーカーか? どこに安心できる要素があるのだ。恐怖しか覚えない。 

「アル様、殿下だなんて……私の事はセシーリアと呼び捨てにして下さい。これからの私とアル様との間に……そんな遠慮だなんて、私達幼馴染じゃないですか?」   

「は? いや、そういう訳にはいかないのだが?」   

俺は頭の中がグルグルになった。 なんで、完全に初対面の殿下の名前を呼び捨てにするのだ? 不敬にしかならないよな? それに幼馴染? 初対面の幼馴染ってあり得ないんだが?  

「本当に二人の間に遠慮なんて不要ですわ。だって、アル様はわたくしと結婚するのです」   

艶やかな長い髪、個性的な吊り上がった目、整ってはいるが、少し幼さも残る美貌。   

綺麗な長い髪と個性的な瞳に映える極上のドレスに身を包んだその美少女、セシーリア。彼女は唐突にそう言い出した。   

「アル様はわたくしの夫になる方なのです」   

「……えぇ?」   

唐突に意味の分からない事を宣言する殿下に、俺は体裁も忘れて素っ頓狂な声をあげる。   

「ですから……アル様はわたくしの夫になるのです。わたくしが昨日決めたのです。……ふふ、嬉しくて言葉も出ないのですね?」    

ええっ? この殿下何言っているんだ? それに頭のねじが飛んだ子は間に合っているのだが。クリス一人で十分。それに、この殿下、頭のねじの飛び方がクリスよりひどいのは間違いない。   

「えっと、間に合っています」  

「またまた、アル様ったら、お照れになられて、嬉しいって言ってください♪」   

自信たっぷりに言う殿下……別に嬉しくない。これ以上頭のねじが飛んでいる子は御免こうむる。というか、殿下の婚約者は俺の兄だった筈だが。   

「アル様、二人の再会の記念に。わたくし、アル様のご希望なら何でも言う事聞いてさしあげます。わたくしに何かしたい事はございませんか?」     

「何かするって、どんな事なんだ?」    

「例えば顔にドバドバかけてみたいとか、いきなり突っ込みたいとか♪」    

「性犯罪ではないのか?」    

「わたくしはのアル様のいう事なら、何でも聞いて差し上げますわ♪」    

「嘘よ! アンネ! あなた既成事実を作って無理やり結婚を国王陛下に認めさせる気でしょう?」  

何故かクリスがすごい剣幕で突っ込む。   

「あら、す、鋭い……何故分かったのですか?」    

「知っている手口だし、そんな女の子いません」    

 知っている手口って何だ? クリス。 

「……えっ、アル様世の中に疎いと思ったのにぃ~♪ ていうか、なんで親友のクリスがここにいるのかしら?」    

「ここは私の叔父様の屋敷よ。そして、アルは私の幼馴染で恋人同士だからよ!」 

あれ、いつから俺とクリスは恋人同士になったのだ。    

「ああ、そう言えばそうでしたわね。あまりに些末なことで忘れておりましたわ」 

「あなた、親友の私のこと些末って、酷くない?」 

クリスは激おこだが、どうも二人は親友らしい。  

「確かにクリスは私の大切な親友。ですが、ことはアル様に拘わることなのです。わたくしは魔道具でアル様を24時間体制で見守っておりましたが、ご実家を追放されて、慌てて手の者を見守りに使わせたら、なんとクリスと再会して良い雰囲気になっているではありませんか。しかも、ぽっと出の血の繋がっていない妹まで出て来て」    

「ぽっと出はアンネリーゼの方でしょう? それにアルと私はもうじき婚約することに!」 

あれ、それはちょっと違うような気がする。先日正式に辺境伯イェスタの養子になって、これからの筈だ。 

「ふふふっ、女同士の友情なんて、恋の前には脆くも崩れるのですわ」 

「残念ね。それは同感だわ。たとえ親友のアンネでもアルは譲れないわ」 

二人が睨みあい、バツバチと音が聞こえそうな雰囲気だ。 

「わたくし、思ったのです。愛するアル様をクリスにとられるかと思ったら……」 

「私はあなたの弟のカール殿下に婚約破棄までされたのよ! だから、アルと再会することができて! それなのに姉のあなたが私の邪魔をするっていうの?」 

王女殿下はふっと何かを吹っ切ったような顔をすると。 

「見守りの使いの者から仔細を聞いて。なんて素敵な再会でしょうと思いました。しかし、私もアル様に恋焦がれる身。クリスだけずるいと思いました。だから」 

「だから、何?」 

「思わず婚約者のエリアスに一方的に婚約破棄を告げて、王都を出奔してきましたわ」 

「は?」 

この王女殿下何を考えてるんだ。殿下は俺の兄と婚約している筈。なのに? 

「殿下、はっきり言います。あなた、アルに拘わる恋になるとてんで馬鹿です」 

「わ、わたくし、そんなに馬鹿ですか? イェスタ?」   

「いえ、そんな事は決してございません」   

辺境伯イェスタ……遠い目。  

「クリス? 今、そう思ったわよね! 思ったわよねぇ!」  

クリスと殿下が取っ組み合いの喧嘩を始めた。   

ドタバタ音が聞こえてきた。 

俺と養父イェスタはこっそり部室を出ていって、逃げた。
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