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1追放? お前らの方が困ると思うんだが?

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「この出来損ない! 貴様は追放だ!!」   

冷たく、大きな声が、部屋中に響いた。   

「生まれた時から落ちこぼれだとは思っていたが、よりにもよってハズレスキルとはな! お前らしい!!」   

怒りと嘲りの両方を含んだ声が、俺に冷たく浴びせかけられる。   

「優秀な兄に比べて、何の成長もないばかりか、魔法すらろくに使えないことが確定するとは! このベルナドッテ家に恥をかかせおって!! 名誉あるわが家からハズレスキル持ちが現れるなぞ!! そんなお前を今まで養わなければならなかったワシの気持ちが、お前に分かるか?」   

バシン! 父は俺に近付くと、その頬を平手で叩いた。    

俺の頬が赤くなり、同時にガシャンと花瓶が割れる音が響く。   

父が怒りに任せて花瓶も床に叩きつけたのだ。   

俺は父親の大人気ない反応に冷静に対応する。 

  

魔法王国、ユグドラシル。  

その名の通り、魔法が国家の根幹にある王国である。  

しかし、実態は【才能魔法】に秀でた貴族達の独裁国家だった。  

この国は強い魔法の力をもって他国の侵略や魔族、魔物の脅威から民を守ることができる貴族だけがこの国の支配者となるとしていた。  

そんな歪んだ人種差別の身分制度が、この国の基盤となっている。  

 

16歳の誕生日に全ての人が女神から【才能魔法】が贈られ、1つだけスキルが与えられる。 

俺の【才能魔法】の鑑定の結果は【底辺召喚魔法】だった。   

貴族には普通、攻撃魔法など、戦いに特化した【才能魔法】が贈られる。 

才能には『神級魔法』、『伝説魔法』、『上級魔法』の3つがあり、順に強い才能になる。   

兄が女神から贈られた才能は最上級の神級だった。 

一方、俺の才能は聞いたこともない謎の才能だった。 

 

「それで、どんなスキルを持っているんだ? 鑑定を続けてくれ」 

父が謎の才能の内容を確認するよう鑑定家に促す。 

俺の頭上にスキルの内容が浮かんできた。 

才能:底辺召喚魔法 

スキル:スライム召喚 

「スライム召喚……」 

俺のスキルは召喚魔法らしい。スライムとは最も弱い、平民ですら棍棒一つで勝てる魔物だ。 

……ハズレスキルだ。 

「ギャハハハ!? お前らしい。私と違って落ちこぼれのお前らしい!」 

実の兄のエリアスが侮蔑をたっぷり含んだ声で嘲笑する。 

「アル! 今すぐお前を家から追放する。お前は貴族ではない。だから、街に住むことも許さない。街の外に放りだす!! 二度と顔を見せるなぁ!!」 

「そんなことをすれば、領地経営が苦しくなると思うが?」 

俺は、こいつらバカかと思った。  

魔法王国ユグドラシルの貴族、魔法使いの中の魔法使い、賢者と謳われるガブリエルを家長とする、ベルナドッテ家の次男として生まれた俺は魔法の才能がないと蔑まれ、冷遇されていた。  

それに比べて兄のエリアスは子供の頃から魔法の才能に恵まれていた。   

それに引き換え、俺は魔法の才能がなく、他の武芸や学業が良かったにも関わらず、いつも兄と比較されて育ってきた。   

親になじられるのは辛い。比べられるのが辛い。愛情が兄にばかり向くのが辛い。   

子供の頃は少しでも親の気を引くため、必死で魔法の勉強をした。   

しかし、俺には魔法の才能はなかった。 

どんなに頑張っても、簡単に魔法学校のトップをとってくる兄に対して、俺はどんなに必死で頑張っても、クラスの真ん中になるのがやっとだった。   

それでも俺は両親に褒めてもらいたくて、ほんの少しでもいいから愛情が欲しくて、必死で努力した。   

その努力が実ったのか、一度だけ苦手な風魔法の試験で100点が取れた。   

100点の試験結果を持って、いそいそと家へ帰った。   

両親が褒めてくれる! 俺のことを見てくれる!!   

そう思うと、心がはやった。   

そして、帰宅するなり、   

「父様! 母様!! 俺、風魔法の試験で100点をとったよ!」   

大声で両親に言った。てっきり、俺のことを褒めてくれる言葉が待っていると思っていた。   

だけど、   

「五月蠅い! お前なんかのことはどうでもいい! エリアスが大変なんだ!!」   

帰ってきたのは父親からの罵声だった。   

「本当にエリアスと違って空気も読めない子なのね! 本当に血が繋がっているのかしら?」   

そして、実の母親から投げつけられた言葉。   

兄のエリアスと俺の血が繋がってなければ、俺は誰の子なんだ、母親よ?   

子供心でもそう思った。でも、当時の俺は親離れできていなかった。   

「お、俺ね、一生懸命頑張って、風魔法のテストで初めて100点とったんだよ!」   

俺は必死にアピールした。両親に褒めてもらいたかった。   

両親に関心を持ってもらえる機会は二度とないんじゃないかと思えて。 

「エリアスは風魔法の試験がおもわしくなくて、魔法学園での成績が2位になってしまったんだ!! 運悪く、風魔法のテストでいつになく悪い点をとったおかげでな!!」   

「それなのに、お前は風魔法の試験で100点取ったなんて嘘をついて!!」   

「ち、違う。本当に100点取ったんだよ!」   

俺は必死に自分が100点を取ったと主張した。でも、それは大きな間違いだった。   

簡単な話だ。自分の子が風魔法の試験で悪い点をとったおかげで、2位の成績になってしまったんだ。   

そこへ、よその子が風魔法の試験で100点取ったなんてうそぶいたなら……   

そう、俺はよその子と同じだったんだ。彼らにとって……   

「嘘をついてまで、兄を貶めたいのか? お前には人間の赤い血が流れているのか?」   

「あなたには人の心がないのね……」   

赤い血が流れていない?    

人の心がない? 

お前らだろ?   

今から思えば、はっきりわかる。   

俺は両親の子じゃない。例え血が繋がっていても。   

その時から、俺は彼らを親と認識できなくなった。   

それから、両親の冷遇は更にひどくなった。それで俺は13歳の時から、領地の辺境で暮らすことを願いでた。 

俺の意見はあっさり通った。それだけ俺への関心が低かったのだろう。 

そして、俺は人生の師とも言える人物に出会った。両親は領地をほったらかしにして遊び惚けていたが、その領地経営を一人で切り盛りしていたのが、執事長のエーリヒだった。 

彼は俺に惜しみない愛情を注いでくれた。そして、気がついたら、領地経営の手伝いをするようになっていた。 

そして、俺はこの分野の才能はあったのか、エーリヒと二人で更に領地を繁栄させていた。  

「領地経営で困ると思うのだが?」 

「なんだその態度は。そのスキルでは貴族など名乗れるわけがないだろう?」  

俺はやっぱりなと思った。元より、父に肉親として扱ってもらおうだなんて……両親にそんな感情がある筈もない。 

だが、こいつらはバカだ。今、この家を誰が支えているのかわかっていない。  

だが、俺は、父、ガブリエル・ベルナドッテによって、魔法の名門、ベルナドッテ子爵家を追放され、街からも追放された。  

もっとも、困るのはあっちだと思うのだが…… 
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