すべて実話

⑤時計

今日は、一人暮らしの
ばあちゃんの家に泊まりに来ていた。

長期の休みの日は必ず
ばあちゃんの家に行くようにしている。

なぜなら数ヶ月前に、じいちゃんが
亡くなったせいか、ばあちゃんが
酷く落ち込んでいる様子だったから。

じいちゃんの仏壇に線香を
上げて手を合わせると
ばあちゃんが話しかけてきた。



祖母「いつまでいられるの？」

「5日くらいかな」

祖母「そうなのかい…」



ばあちゃんは、少し淋しそうに言った。

じいちゃんが亡くなってから、少し元気がない
と言うか、ちょっと変と言うか
様子がおかしい。そんな感じがする。

ちゃん付けで呼んでいた私の名前を
急に呼び捨てで呼び出したり
するようになったのも
じいちゃんが亡くなってからだ。


こんな話しを聞いた事がある。

夫婦、どちらかが亡くなると
そのショックで性格が変わってしまう事が
あるらしいと。

おっとりした性格の人が
急に、言葉遣いが荒くなってしまった
と言う例もあるそう。

だから、多分ばあちゃんも
じいちゃんが亡くなったショックで
少し性格が…と言うか、心に影響が
あるのかもしれない。

そういえば、私の母親も、最近ばあちゃんの
話し方がキツイ時があるって言ってたな。



仏壇のある部屋から
茶の間に戻ろうとすると
ある物が目に付いた。

止まった時計だった。



「ばあちゃん、時計止まってるけど
電池入れなくていいの？」

祖母「あぁ、それかい。じいちゃんが亡くなってから急に止まってしまって。
電池、かえたのに動かないんだわぁ」



壊れてるのかな？
それとも、ただ接触悪いとか？

手に取って見てみたけど
得に電池が外れている訳でもなく
接触が悪いとか言うのでもなさそう。

やっぱり、壊れてるんだ。

そう言えば、この時計
じいちゃんが使ってたやつだよね。



祖母「じいちゃんが気に入って使ってたから
壊れてても、なかなか投げられないだわぁ」

※投げるは方言で捨てるという意味です。



「修理しないの？」

祖母「いいんだ。そのままで」



このままの状態がいいのかな？
私は、手に持っていた時計を
元の位置に戻した。





─ そして、じいちゃんが亡くなって
ちょうど三回目の正月が来た。

私は、ばあちゃんの家にいた。
 

ばあちゃん、少し表情が柔らかくなった
気がするな。
しかも、数年前と同じで、私の事を
“ちゃん付け”で呼んでいた。


あぁ、そっか。
大分、気持ちも、心も落ち着いて来たのかな？

いつも通り、仏壇に線香を上げると
あの時計が動いている事に気がついた。



「ばあちゃん、時計修理したの？」

祖母「それがねぇ、急に動いたんだわ！」

「そうなの？やっぱり接触悪かったのかな？」

祖母「違うのさぁ。この前の じいちゃんの
命日に、急に動き出したんだわ。
あれぇーってビックリしたやぁ。」

「どこか、触ったとかじゃなくて？」

祖母「なんも、なんも。そのまんま
置いてただけ。」



三年前から、止まってたのに
急に動き出すなんて事、あるんだ。

正直、信じられないと思った。

だけど実際、私も何度も
止まったままの時計を見てるし、知ってる。

それに、ばあちゃんは嘘を付いたり
するような人ではない。

だから、本当なんだと思う。



祖母「ばあちゃん、ビックリしてねぇ
何で今更、動いたんだべなって思ったのよぉ」



ばあちゃんは、ニコニコしながら言った。

あ！
そっか。そういう事だったんだ。

ばあちゃんが元気になったから
だから、止まってた時間が動いたんだ！

時計が止まっていたのは
ばあちゃんの時間が、じいちゃんが亡くなった
日で止まってしまっていたからだ。

そして、ばあちゃんが元気になって
時間が動き出したから
止まっていた時計も動き出したんだ！

私は、何となくだけど、そう思った。


じいちゃん。ばあちゃんの事
見ててくれたんだね。

「もう大丈夫」と思って、時計を
また、動かしてくれたんだよね？




あれから、数年…

今、その時計は、私の部屋で
私の時を刻んでいます。

その時計を見ていると
何だか落ち着くんですよ。

亡くなった じいちゃんと、ばあちゃんが
見守っていてくれているかのようで。