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密室

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私が忘れ物をしたという事にして
警備員のおじさんから藤堂先生が
マスターキーと懐中電灯を借りた。

渡邊先生は、パソコンルームの見張り役と
もし誰か来た時の為の時間稼ぎをする為に
同行する予定だったみたいだけど
警備員のおじさんに、つかまってしまった。

つかまってしまったと言うのは、渡邊先生が
どうやら、警備員のおじさんに気に入られて
いるらしく、呼び止められたから。

その警備員のおじさんは、話が長いのか
なかなかマシンガントークが止まらない。



藤堂「仕方ねぇな。女だと思われてるからな。
くくく…」



そ、そうなの?まぁ、確かに渡邊先生は
綺麗だし間違われていても仕方ないと思うけど。

悪い顔をして笑う藤堂先生が私の顔を見ると



藤堂「アンタ、見張り役な」



その一言で、私が見張り役になってしまった。

見張り役って、廊下で?
それとも、パソコンルームで?

夜の校舎は真っ暗で、お化けとか
出そうなんですけど…

怖くなった私は



私「嫌です…」

藤堂「却下!」

私「なっ…。
わ、私が廊下で見張り役なんてしてたら
誰か来た時、逆に怪しまれるじゃ
ないですか!それに…」

藤堂「誰も廊下でなんて言ってねぇだろ。
パソコンルームの戸の窓から見てりゃいい。」



あ、そうなんだ。それならいいか。

あれ?そういやぁ、何でさっきから
誰か来る前提なんだろう?
警備員さんに言ってあるし、別にいいんじゃ…



私「あの、誰か来るんですか?」

藤堂「多分な。」

私「多分…なんですかそれ?」

藤堂「いいから入れ。」



藤堂先生が、マスターキーを使い
パソコンルームの扉を開けた。

生徒が忘れ物をしたという事になっているので
廊下の電気だけはついていた。
だけど、パソコンルームの電気は
あえて、つけないらしい。

それは、誰か来るかも知れないからだよね?


懐中電灯の明かりを頼りに
藤堂先生が、何か作業を始めた。

何をしているのかを聞こうとすると
藤堂先生が



藤堂「おい。灯り、こっち!
よそ見すんな。そっから、廊下見てろよ。」



人遣いがあらいなぁ。

でも、藤堂先生と二人きりになれたから
良いって事にしておこうかな?
渡邊先生には、悪いけどね。

そう言えば、このゲーム。
藤堂先生は、いつヒロインの事を
好きになるんだろう?

それとも、既に好きになってたりするのかな?

さっき智暁くんと、キスしたって藤堂先生に
誤解(?)された時、何か不機嫌だった…よね?

ヤキモチ的なやつだよね?

いや、でも私に対する態度が冷たいかもとか
思ったけど、さっきから普通なような…

私の勘違いなのかなぁ?

ゲームの進み具合的には中盤か、もう少し
進んだあたりかと思うんだけど…

昔やってた恋愛シュミレーションゲームって
どのシーンで、彼がヒロインを好きに
なったとか、いつ気になりだしたとか
全くわからなかったよね。

今は彼目線のストーリーとか
あるみたいだけど。
藤堂先生の本編の下に、本編彼目線編とか
書いてあったよね。

藤堂先生の本編をクリアしたら、見てみようかな?

ヤバイ。何か楽しみになって来たかも!


それにしても、藤堂先生は
何をやってるんだろう?

先生が授業で使っているパソコンの
後ろにある棚の方で、何かやっている様子
だけど、角度的に私から見えない位置。

無理やり腕を上げて、藤堂先生の方を
照らしているので、そろそろ腕が
疲れて来たんですけど…。



藤堂「…終わった!よし、帰っ…」



『カツ、コツ、カツ…』



藤堂「こっち来い!」

私「え?」



藤堂先生が私の腕を引っ張る!

懐中電灯のスイッチをオフにすると



藤堂「入れ!」

私「なっ、え?」



『パタン』



パソコンルームに置いてある
ロッカーに押し込まれてしまった。

藤堂先生と一緒に。

み、み、密着!
めちゃくちゃ密着してますけどー!



私「ちょ、藤堂先生、み、み、みっ…」

藤堂「うるせぇ、静かにしろ。
靴の音、聞こえなかったのか?」

私「渡邊先生のじゃ…」

藤堂「違う」

私「何でそんな事わか…」

藤堂「しーっ。つか暴れんな!」

私「だって、狭…んんっ」





…え?





たった今、言葉を発していた
私の唇が、塞がれていた。

藤堂先生の唇によって。

その瞬間



『ガラガラ…パチン』



誰かが、パソコンルームの扉を開ける音がして
真っ暗だった狭い密室は、少し明るくなった。

だけど誰が入って来たのか、とか
見つからないだろうか、とか
そんな事は、考えられなくなっていた。

だって私、今
藤堂先生にキス…されてる…?


どれくらいの時間が経過したのか
わからないけど、しばらくすると
パソコンルームの灯りが消えた。

どうやら、その“誰か”が出て行ったんだと思う。



私「っはぁ!」



塞がれていた私の唇が解放された。

そして、私と藤堂先生が隠れていた
ロッカーの扉が開いた。

えっと…こういう時って
どうしたらいいんだろう?

現実では、付き合う前に
こんな事されたの初めてで…

だから、どうしていいかわからなかった。

ヒロインなんてきっと、ファーストキス
だったんじゃないの?

どっちの感情なのか、わからないまま
無言で立っていると



藤堂「…口、塞いだだけだから。」

私「え…?」



な、何でそんな事…



藤堂「別に、大した事ねぇだろ。
だって、さっき東峰と…」

私「いや、だからそれはっ…」



誤解だと言おうとしたら、急に扉が開いた。



『ガラガラ』







渡邊「遅くなっちゃって、ごめんなさいね」



なんだ、渡邊先生か…ビックリした。

タイミング良いのか、悪いのか。

どっちにしても、どうしていいかわからなくて
何か気まずかったから、良かったのかな?



渡邊「あら?どうしたの?
二人共、黙っちゃって」

藤堂「別に…。それより、アレ」



と、さっき藤堂先生が
作業をしていた方を指さした。

“アレ”が何なのか、どうでもいいくらい
私の、ヒロインの心は『ぎゅっ』と何かに
握り潰されているように痛かった。

誤解された上に、あんな事言われたんだから
しんどいよね。

これはきっと、私のじゃない
ヒロインの傷ついた心の痛みだと思う。

でも、この感情がダイレクトに
伝わってくる事が、リアルすぎて残酷すぎて
私自信が本当に傷ついたみたいになっていた。







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