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第1章 帰国

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【城咲家のレッスン室】

〈二台のグランドピアノ。ピアノを弾く姉、8才の城咲陽(しろさきよう)曲は、ショパンのノクターンOp9-2。弟の星(せい3才)が隣のピアノの椅子を引っ張って姉の横に運ぶ。そして椅子によじ登る〉

「邪魔しないで、良い子に聞いてるから」

〈微笑む陽。しばらく聞いていると、星はコックリコックリ居眠りを始める。そのうち陽の膝で眠ってしまう。陽は演奏をやめて、そっと星の頭を撫でる〉

【星の部屋】

〈ベッドの中で伸びをしてから、もぞもぞと動き出す星〉

「この夢良く見るな…」

小さい頃、ああやっていつも姉上のピアノを聞いていたっけ…

今日帰って来るんだ…


【オルフェウス学院】

〈風に乗ってヒラヒラと舞い上がる紙〉

「待ってー」

〈紙を追いかける女子生徒。飛び上がって紙を掴もうとするが、また風に飛ばされる〉

「もう、どこまで行くのよー」

【校舎裏の木の下】

〈木に寄りかかっている男子生徒〉

「キャッ」

「え?」

〈木の上から女子生徒が落ちて男子生徒の上に…折重なり転がる2人。ヒラヒラと舞い落ちる紙を男子生徒がキャッチした〉

「天使が舞い降りたかと思った」

「あ、貴方、ウチの店に来る人」

「はい、これ…ショパンのエチュードか」

「良かった!ありがとう!これからレッスンなのに、なくしたらどうしようかと思った…あ、汚れちゃってるーやだー…」

「そろそろ退いてくれるかな?女の子に失礼だけど、その、重くて」

「えっ?あ!ごめんなさい!」

(うわっ、こんなに近くに顔が!私ったら、何やってるのよ)

〈慌てて飛び退く女子生徒〉


「ウチの店って?」

「洋食屋やってるの」

(ちょっとカッコいいな、って思ってたのよね。やだ、恥ずかしい)

「あ、城咲先生のレッスン遅れちゃう」

「え?」

「あ、痛っ…」

「大丈夫?」

「足…捻っちゃったみたい、やだ、ペダル踏めるかな?ああ、とにかく早く行かないとー」

〈男子生徒が女子生徒を抱き抱える〉

「えっ、や、大丈夫大丈夫、アハハハ」

「それじゃ、歩けないよ。先に手当てしてから」

「レッスン遅れちゃうから」

〈その時校舎からピアノの音が聞こえて来た。校舎を見上げる男子生徒〉

「バルカロール」

〈曲はショパンのバルカロール〉

「大丈夫…待っててくれるから」

「え?でも、でも」

〈男子生徒は、女子生徒を抱えて歩き出した〉

「あ、や、あの…」


【第1ピアノ教室】

〈窓の外を見る女性の後ろ姿〉

「桜が満開ね~」

「城咲先生」

〈振り返る城咲陽〉

「遅くなって済みません!1年の朝美晴香です」

「並木道の桜が綺麗よ~」

〈微笑む陽 。深々と頭を下げる晴香〉

「本当に済みません。来る前に足を怪我してしまって」

「あらあら大変…大丈夫?」

「彼に連れて来てもらったんです、ってあら?」

〈振り向くと部屋に男子生徒は居ない〉

「ねえ、まだそこに居る?」

〈男子生徒が部屋に入る〉

「あら星君。お友達だったの?」

「今日帰るのは聞いていたけど」

「家に帰ろうと思ったんだけど、間に合わなくて、真っ直ぐ来ちゃったのよ~」

「そうじゃなくて、ここの講師になったの?」

「そうなのよ」

〈目を丸くしている晴香〉

「弟と仲良くして下さいね」

「え?弟、弟さん?は、はい!」

「じゃ、始めましょう。星君も授業に行きなさい」

「うん。荷物…後で取りに来るからね」

「助かるわ~」

「あ、あの、ありがとうございました」

「いや」

〈後ろに手を振って部屋を出る星〉

良く行く洋食屋さんの子か…面白い子だ。

〈苦笑いする星。レッスンが始まった。曲はショパンの黒鍵のエチュード〉


【城咲家のレッスン室】

〈ピアノを弾く陽。曲は、ショパンのピアノソナタ第3番〉

家に帰って食事をした。

今日は僕が作ったんだ。

姉上は、帰国したばかりだからね。

鳥とキノコのトマトソースパスタとサラダにスープ。

食事が終わって一休みすると、姉上は直ぐにピアノに向かった。

演奏旅行から帰って、生徒に教えて、疲れているだろうに「今日の事は今日やっておかないと」って…

毎日自分のレッスンは欠かさない。

それにしても…

「うちの学校の講師になったなんて聞いてないよ」って言ったら「そうだったかしら~」って…

まあ、姉上らしいと言えばらしいけどね。

だいたい、ショパンコンクールが終わったのは去年の秋なのに…

それから演奏旅行が有っても、いくらなんでも帰るのが遅過ぎだよな。

今はもう、春だよ。

まあ、あの超天然の姉上の事だからな…

ああ眠い…

「星君…また居眠りね」

「α波が出るんだよなぁ、姉上のピアノは…」

「フフフ、そういう事にしておくわ」

「お姉様のピアノ、大好きだよ」

〈優しく微笑む陽〉


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