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第1章 選ばれし者達

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【船の上】

《デッキから海を見る少年》

寮が有るから聖フェアリーを受験したんだ。

あのまま家に居たら、嫌でも家元を継がされるからね。

オムツが取れないうちからお扇子持たされて学校以外は着物の生活だった。

僕だってもっと踊り以外の事知りたよ。

寮に入るって言ったら、お婆ちゃま凄く怒ったけど、逃げるように家を出て来てしまった。

【港】

《船が港に入ると人々が一斉に降り立つ》

「危ない!」

《小さな女の子が押されて転びそうになるのを庇う少年》

「うぇーん」

「大丈夫?」

「お兄ちゃん血が出てるよ」

「あ、本当だ。大した事無いよ」

「すみません。ありがとうございます」

「いえいえ」

「バイバイ」

痛ったー

そうだ、水持ってた。

《少年は船を降りると、ペットボトルの水で傷口を洗う》

「見せてご覧なさい」

「え?」

その女性は僕の手の傷に自分の手を当てた。

何だか温かくなって来たぞ。

いつまでこうしていれば良いのかな?

何だろう?

オーラが柔らかくて、優しい。

ちょっと…ドキドキする。

《ふと女性の横顔を見る少年》

綺麗な人だな。

それに…良い匂いがする。

香水とかでは無さそうだ。

《女性をじっと見つめる少年》

「はい、これで良いわ」

《パッと顔を上げる女性。少年の顔と女性の顔がとても近くに有る》

「どうしたの?」

微笑む顔が素敵だね。

「こうしておけば治りが早いの」

あ、不思議だ…もう痛くないぞ

「ありがとうございます」

《女性は微笑むと行ってしまう。風になびく長い髪。女性の後ろ姿見つめる少年》

【聖フェアリー学園の教室】

《数日後》

入学式から一週間、まだわからない事だらけだけど、友達も出来た。

「ねえ、昨日の夜町の人が襲われたんだって」

「え?痴漢?強盗?」

「何かね、その傷痕が「人間の仕業じゃないみたいだ」って、お父さんが言ってた。もう昨日は警察署大騒ぎだって」

「人間じゃなかったら何なのよ?野犬とか?イノシシ?それともサルかな?」

女の子達の話しが聞こえて来る。

ここは山が近いから、イノシシやサルも居るだろうね。

「そんな可愛いもんじゃないのよ。もしかしたら魔族かも」

「魔族?ハハ、まさか。だって、とっくの昔に勇者様が滅ぼしたって話しじゃない」

「生き残りが居たら?」

「そしたらまた勇者様が来てやっつけてくれるわよ」

彼女のお父さんて、刑事?

何か事件みたいだけど…

「勇者様だってよ。そんなもんどっから来んだあ?今時カッコ悪りーよな、もっと他の言い方ねえのかね?だいたい勇者様って何なんだよ?本当に居たかどうかも怪しいもんだぜ」

「昔天界で精霊と魔族の大規模な戦いが有って、敗れた魔族が地上に降りて来たって聞いてる。その魔族を倒したのが勇者だって」

「婆ちゃんもそんな事言ってだけどよう。大昔の事だろ?おとぎ話じゃねえの?まあ、俺たちには関係ねえか」

うん、関係無いけど…

「暗くならないうちに帰ろうよ」

「え?まだお昼だよ。私部活有るし」

入学したばかりでもう部活入ってる子居るんだ。

僕はまだ決めて無い。

「部活か…なあ大河。ちょっとサッカー部見に行こうぜ」

「良いよ」

《教室を出ようとする二人》

「大河、翔、ちょっと待て」

先生に捕まった。

【校舎前】

「さあ、これに乗るんだ」

「え?どこ行くんだよ?先生」

バスに乗せられた。

この学園、一つの村ぐらい広い。

だから学園内をバスで移動するんだ。

「おい、お前達も選ばれたのか?」

「選ばれた?」

「このバスは選ばれた者だけが行ける特別クラスに向かっているのだよ」

「良くわからないけど、先生に言われてバスに乗っただけだよ」

特別クラス?

何だそれ?

「まあ、全員残れるわけじゃないがね。特別クラスに行けるのはこの僕のような者だけさ」

「おもしれーじゃねえか、何だかわかんねえけど残ってやるぜ」

「フン、せいぜい頑張るんだな」

この人誰だ?

あのバッジは…2年生か。

あ、バスが止まった。

「良ーし、全員降りろ」

あれ?寝てる。

「おい司。起きろよ。着いたぞ」

起きないか。

「そんなんじゃ起きねえよ。コラッ!司!とっとと起きやがれ!叩き起すぞ!」

「ふぁ~眠い」

【旧校舎】

木造校舎だな、こんな所が有ったのか。

「大昔に使われてた校舎らしいぜ」

翔は意外とこういう事知ってるんだよな。

「ここから先はお前達だけで行け」

「え?何でだよ?」

「先生はこの先は入れんのだ。校舎に入らず裏庭に向かえ。そこで先生達が待って居られる。良いな」

谷田先生何で一緒に行けないんだろう?

まあ、とにかく行ってみようか。

谷田先生って、入学式の日教室に入って来て「私が担任の谷田だ。担任だ。担任だ。谷田だ。どうした?ここは笑うとこだぞ」って、いきなり滑ってたよな。

「うわっ!何だ?」

翔が滑ってる。

「トラップか?」

「落ちるぞ、捕まれ」

《滑り落ちる翔の手を掴む大河》

「クソっ、何でトラップだよ?」

「試されているのさ」

翔は一番前を進むから、何度もトラップにかかるんだよな。

おかげで僕達が助かってるんだ。

「翔、大丈夫か?」

「またかよ、何で俺ばっかり」

「フン、お前は一番先に死ぬタイプだな。僕ならもっと注意深く進むがね」

《大河は翔を助け起こす》

「バカだね、何で助けるんだい?放っておけばライバルが一人脱落するのに」

「そんなの皆んな一緒に切り抜ければ良いだけだよ」

「悪いが、僕は先に行くよ」

「行っちまった。勝手にしやがれ」

「あの人2年生だよね?」

「ああ、生徒会副会長の井山だ」

「お母さんがPTAの会長だよな」

「ふーん、彼が井山さんか」

「イヤミとも言う」

「フッ」

二人とも良く知ってるね。

僕は他人の事あまり興味無いから、そういうの全然知らないんだよね。

「ふぁ~だりぃ。何で俺がここ来てんだよ?全然やる気出ねえ」

また司のだるいが始まった。

「クソッ!とにかく進むぞ」

「うん、行こう」

「だりぃな」

校舎の横を通って裏庭へと向かう。

ここは使われてないから、草木が茂り放題だ。

「おっと!また何か出て来やがったぜ。とっととやっつけて行くぞ」

「だりぃけどな」

これは戦闘用アンドロイド?

何でこんなのと戦ってるんだ?僕達。

「あれ?あそこ…トラップにかかってるの、井山さんみたいだよ」

「ざまあみろ、さっき俺を笑った罰だ」

近づくと、網にかかって宙吊りになってる。

「おい、お前ら。僕を笑いに来たのか?」

「無視無視、無視して行こうぜ」

「笑いたければ笑うが良い」

「笑うのもだりぃ」

「ただの通り道だよ」

「僕が脱落して喜んでるんだろ?」

「大河、何やってんだ?」

「下ろしてあげないと」

「放っとけ、放っとけ」

「井山さん待ってて」

《木に登ろうとする大河》

木登りなんてした事無いから無理か。

《司がひょいひょいと登って行く》

「司ありがとう」

「あいつ山育ちだからな」

《ドスーーーン!!》

「痛たたたた」

「助けたぞ。これで良いんだろ?大河」

「うん、ありがとう」

「僕は、れ、礼なんか言わないからな」

「はっ、だりぃ」

「素直じゃねえな、イヤミ」

「僕の名前はイヤミじゃない!井山だ!」

「行こう、井山さん」

《大河が手を差し出す》

「…な」

《戸惑う井山の手を引っ張って立たせる大河》

「井山で良い」

「上級生だよ。呼び捨てには出来ないよ」

《大河はしょうがないなというふうに少し笑って見ている翔》

「んじゃ、行くか」

「全員で行こう。ね、井山さん」

「井山…蓮だ。蓮で良い」

「蓮君」

「ハハ、素直じゃねえな」

あ、珍しく司が笑った。

【裏庭】

「やっと来たわね」

「遅ーーーい!」

あそこにいるのは…先生達?

僕達をモニターで見てたのか。

あれ?あの人…あの人先生なのか?

「グズグズしなーい!まだ終わってないわよ」

「まだ何かあんのか?」

「最後の試練よー」

「試練て何だよ?俺達何も聞かされてないぞ」

「あら、井山君は知ってるみたいだけどー?」

「僕はこれで2度目ですから」

「去年居たかしら?ふーん、まあ良いわ。さあ、一人ずつ洞窟の中に入って、奥からカプセルを持って来なさーい」

「いくつか置いて有るから、その一つを持って来るのよ」

「一つ選べば良いんだな?」

「選ばれるのは貴方達です。そばに行くと光を放ちますから、その光り輝くカプセルを手にしなさい」

「選ばれる?じゃあ、選ばれなかったらどうすんだ?」

「選ばれなかったらー、カプセルを取る事が出来ないら、手ぶらで帰って来る事になるわねー。さあ、誰から行くー?」

「ここはまず僕が行こう(去年はここまでたどり着けなかったが)」

「イヤミ君行ってらっしゃーい」

「イヤミではなく井山です!」

「どっちでも良いじゃなーい」

「では行くぞ」

蓮君が洞窟に入って行った。

中はどうなってるのかな?

あ、出て来た。

「取って来たぞ。次は誰が行くんだ?」

「やるじゃない、イヤミ君」

「井山です!」

「んじゃ、俺行くわ」

翔が入って行った。

嬉しそうに出て来たぞ。

今にも踊り出しそうだな、取れたんだね。

わかりやすいな、翔は。

「うはっ、やったぞ!俺だってやる時はやるんだ、へへ」

「へー、今年は優秀ねー」

「次の人、入りなさい」

「だりぃな」

司が入って行った。

もう出て来たぞ。

だるいと言いながら、いつもやる事は早いんだよね。

「あれー?カプセルは?」

え?取れたんだろ?

あ、司。

ポケットからカプセルを出して見せた。

「最後は貴方ね、行ってらっしゃい」

「はい」

僕だって、取って来る。

必ず。

【洞窟の中】

あれは…祭壇?

ああ、カプセルがまだ2つ有るな。

どっちだろう?

《祭壇に近づく大河》

あ、本当に光った!

こっちだ。

《大河は光り輝くカプセルを取る》

こっちは、取れないんだよね?

《もう一つのカプセルに手を伸ばすと消えてしまう》

「あっ」

《手を引っ込めるとまたカプセルが現れる》

【裏庭】

「お前もやってみたのか?」

「ああ、俺も取ろうとした」

《大河が出て来る》

「取れましたか?」

「はい」

「では皆さん。カプセルを開けてください」

「うわっ、何か出たぞ。武器だ!」

「蓮君はウィザード、翔君はウォリアー、司君はアーチャー、そして…大河君はガーディアンですね。ヒーラーは居なかったのね…(残念だわ)」

もう一つのカプセルは、ヒーラーの物だったのかな?

「でも、何で僕がガーディアン?」

「大河って、ガーディアンぽくないよな」

「貴方は、ここへ来る途中何度も仲間を助けていました」

それでガーディアン?

「ガーディアンに必要な資質だと思います」

そうなのか…

「この時代に、こんな古臭い武器かよ」

「文句言わなーい」

「でも、小さくなってカプセルに入るって良いよね?」

「そこは古臭くないぞ」

「でさあ、こんなもん手に入れてどうすんだ?」

「明日から、午前中は普通に他の生徒達と一緒に勉強して、午後はここで訓練て事よー」

「はあ?」

「何か文句有るー?」

そして先生達が教えてくれた。

魔族の生き残りが居る事。

彼らは、仲間を増やしているという事。

この武器は、選ばれた物しか扱えないという事…

「戦いか、だりぃ」

「俺は訓練の方がだりぃわい」

「まあ、良いんじゃない。こんな綺麗な先生達の課外授業なら喜んで受けるよね?」

「お、おう」

「ま、まあな」

「あら、大河君言うわねー。ありがとう」

何だ何だ?二人とも。

何急に緊張してるんだ?

「僕は女には興味無い」

「イヤミって、そっちの趣味か?」

「違う!」

「先生達も戦うの?」

「私はヒーラーだから、攻撃スキルは使えないの」

「優里香はまだヒーリングが出来るから良いわよー。私なんか何にも出来ないしー。もし私が戦えたら生徒に危ない仕事なんかさせないわ」

おっ、今の沙羅先生、ちょっと先生らしかった。

「選ばれたのは貴方達です。私達はそのカプセルに選ばれなかったの」

そうなんだ…でも優里香先生はヒーリングが出来るのにね。

僕の手の怪我も、もう綺麗に治ってる。

この武器は、スキルを習得しないと使えないんだね。

明日からここで、その為の勉強をするらしい。
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