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第10章 とうとうこの日が来た 前
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【金物屋】
「杵さん、コイツの剣に魔法石付けてやってくれよ」
「最近そういうお客さん多いな、うちは武器屋じゃねえんだけどな」
「しょうがねえよ、この町にゃ武器屋なんてねえんだから」
「団ちゃん、魔法石を手に入れたのかい?」
「ああ臼おばちゃん。森では見つかんなかったから、旅の行商人から買ったんだけどよ、偽物じゃねえよな?」
「一応本物みてえだな。よっしゃ!付けてやるか。光、剣貸しな」
「あ、ああ…」
「杵さん、包丁研いでくれる?」
「七都かい、ちょっと待ってな。うん?これは…この剣には付かねえぞ」
「あん?何でだよ?探し回ってやっと買った魔法石なのによ」
「くりきんとんじゃない?何やってんの?」
「うるせえのが来やがったぜ」
「もう何よ、その言い方」
「そんな事より、杵さん。何とかなんねえのかよ?」
「それがな…何かこう…剣が嫌がってるみてえでよ」
「嫌がるって何だよ?」
「こいつぁ、どうやったって付かねえぞ」
「んじゃあ、俺の剣ならどうだ?」
「おう、貸してみな…良し、これなら付きそうだ。こいつに付けちまって良いんだな?」
「おう、やっちまってくれ。光の剣に付かねえんじゃしゃあねえや」
「武術大会に出るのは光なのに、くりきんとんの剣に魔法石付けてどうすんのよ?」
〈杵は団の剣を赤々と燃える火の中に入れる。剣は焼けて真っ赤になる。火から取り出してハンマーで打ち付ける。カンカンカーン!〉
「あいよ、出来たぜ」
「おお!」
〈剣の柄に付いた魔法石を眺めて満足気な栗金団〉
「ほれ」
〈光の神に剣を差し出す〉
「この剣使えよ」
「良いのか?」
「良いって、良いって、貸すだけだからな。武術大会が終わったら返してくれよ」
「すまぬな、では拝借する」
【天上界女神の泉】
〈光の魂がやって来る〉
「ここに来りゃ満の様子がわかるからな。女神はどこだ?」
〈泉の上から金色の光が降りて来る〉
「お、居た居た。おい、女神さんよう。また妹を見せてもらいに来たぜ」
「ちょっと、女神様に向かって何ていう口の利き方?」
「おう、おめえも居たのか」
「おめえもじゃないわよ」
「め、女神様。お願げえします。妹の様子を見せてやっておくんなさい」
「良いでしょう」
〈水面に人間界の様子が映し出される〉
「おっ、居た居た。料理なんか作ってやがる」
「美味しそうね。ああ、また誰かの体を借りて美味しい料理が食べたいわ」
「何だってあんなに沢山作ってんだ?」
「皆んなで食べるんじゃない?」
「ちきしょーう。俺も満の料理食いてー。けどよ、腹減らねえんだよな、ここに居ると」
「肉体を持ってないからよ」
【療養所】
「光、準備は出来てるか?出かけるぞ」
「ああ、参ろう」
「後で私も行くわ。ケガ人が出るだろうし」
「んじゃ、先に行ってるな」
【療養所前】
〈光の神と栗金団が出て来る〉
「あ、お兄ちゃん」
〈満の手に視線を落とす光の神。そっと手を伸ばして荷物を取る〉
「あ、ありがとう。フフフ(本当に優しくなったわね。前のお兄ちゃんじゃこんなに気が利かなかったもの)」
「随分でっかい荷物だな?何が入ってんだ?」
〈覗き込む栗金団〉
「おっ、美味そうな匂いがするぜ」
「後で皆んなで食べましょう」
「遅くなってごめーーーん」
「ったあく、何でお前はそう、いつもいつも賑やかに登場するかな?」
「早く船に乗るニャ。街に行くのニャ」
【天上界女神の泉】
「船に乗り込んだな。あん?猫の物の怪も一緒だ。危ねえだろ!」
「大丈夫よ、猫魔は光の神のペットだから」
「ほう、そうなんだ?」
【船の上】
「風が気持ち良いね」
「まだちょっと寒いけど、お天気が良くて良かったわね」
「早くブリの港に着かないかニャ」
「何でよ?」
「シイラが、俺の為に余った魚を取っておいてくれるのニャ」
「港が見えて来たわ」
「猫まんまーーー!」
「シイラニャ!おーーーい!」
【ブリの港】
〈シーラが手を振っている。猫魔達を乗せた船が入って来る〉
【天上界の女神の泉】
「港がいつに無く賑やかだな。今日は何の日だ?」
「ああ、楽しそう。私も地上に降りたい」
「俺が死んでどれぐらい時間が過ぎたんだ?本当ここに居るとわかんねえよな」
「人間界は、時の流れが早いもんね」
【ブリの港】
〈猫魔達が船から降りて来る〉
「はい、猫まんま。魚だよ」
「わぁお、ありがとニャ」
「今日は、父さんが店番してくれるって言うから、私も一緒に行く」
【天上界女神の泉】
「何だ何だあ?ヴェネツィーの街はお祭り騒ぎだな」
「いったい何が有るのかしらね?」
「おおーっ!闘技場に入って行きやがった。何の大会だ?」
【闘技場】
「とうとうこの日が来たわね」
「小倉杏さん」
「越野餡は?」
「後から来るって言ってましたよ」
「光。今日は負けないわよ」
「え?」
「杏さんも出るんかい?」
「出るわよ」
「ヴェネツィーの剣術大会で光に負けたのに、何で出れるんだ?」
「負けたから修行して、他の地区で勝ち上がったのよ」
「すげー」
「私と戦う前に負けたりしたら承知しないわよ。じゃあね」
「行っちゃった」
「おい光。魔法石の使い方わかってるか?」
「うん?まあ、何とかなるだろう」
「ちゃんと稽古しとけば良かったな」
【天上界女神の泉】
「これはもしかして、ブラマンジェ武術大会かあ?おおっ!あいつも出るのか?!」
「光の神に戦いは無理よね」
「無理って、ここまで来るって事は相当の腕だぞ」
「あの時は私が居たからよ」
「へ?オバサン天使が居たら何だってんだよ?」
「オバ、オバ、オバサン?」
「ああ、ちきしょう!俺だってまだ一度も出た事ねえのによ。おい、そっちの俺!頑張れよ!負けたら承知しねえからな!」
「だから、私の話し聞いてる?光の神には戦いは無理なのよ」
「あーもう、うっせーな。んなモンやってみなきゃわかんねえだろ」
「(まあ、本気になれば強い事は強いんだけど…彼は優し過ぎるのよ)」
〈水面に闘技場の様子が映し出されている。出場者は強者揃い。その中に場違いのように優しい光の神の姿〉
「おいおい、皆んな強そうだな、大丈夫なのか?」
「戦いは向いてないのよ。あの時だって…(あんな悪い奴にまで情けをかけるから…あの時私がそばに居なかったらと思うと…だいたい何よ!改心するなら許そうなんて甘いわよ!結局あの魂は地獄に封印するしか無かったじゃない)女神様、私地獄の様子を見て参ります」
「ええ、くれぐれも気を付けるのですよ」
「はい!」
【闘技場】
〈近衛騎士隊が入って来る〉
「カッコいいよな、近衛騎士」
「あれ?ねえ見て、あの子供…あれ…パン君じゃない?」
「おぅ、あのペイジか?」
「パンくーーーん!」
「おね、じゃない、七都さん」
「え?どうしたの?調子狂っちゃうな。お姉ちゃんで良いよ」
「いえ、いけません。伯爵様に叱られますので」
「お前、ペイジになれたのか?この国じゃ貴族でないと騎士になれないんだろ?」
「はい、ペイジになれました」
「いったいどうやってなったんだ?」
「ある日突然伯爵家の馬車が迎えに来たんです。お屋敷に上がると、伯爵様が「騎士になりたいのだな?良いか?今日からお前は私の息子だ」と仰って」
「そうなんだ、凄いじゃない。修行は大変だけど頑張るんだよ」
「パン、行くぞ」
「はい!伯爵様!」
「パン、何度言ったらわかるのだ」
「あ、そうでした。えっと、こういう時は父上です。公の場ではいけませんが」
「騎士隊長さんが?」
「私を引き取ってくださいました」
「フィナンシェ姫様に泣きつかれてな。息子が欲しかったのでちょうど良かった」
「フィナンシェちゃんが頼んでくれたんだね」
「では失礼する。行くぞ、パン」
「はい、父上!」
〈騎士達の列に戻るパンの後ろ姿を見送る七都達。鳥が一斉に飛び立つ。羽音。見上げる猫魔〉
「猫魔行くよ」
「俺、ちょっと行って来るニャ」
「行くってどこに?」
「すぐ戻るニャ」
〈駆け出す猫魔〉
「もうすぐ始まるよーーー」
「行っちゃったわね」
「しょうがねえな、先行ってようぜ」
【貴賓席】
〈フィナンシェ姫が会場に入り着席する〉
「(今日はあの方も出場なさるのね)」
〈胸に手を当てて瞳を閉じる〉
「(わたくしったらこんなにドキドキして…大きな怪我などなさいませんように…いいえ、全ての出場者に怪我など有ってはいけないのだわ)」
【闘技場の外】
〈猫魔が走って出て来て止まる。何かの気配を感じながら歩く猫魔〉
「隠れてにゃいで出て来るニャ」
〈黒い影が現れる〉
「魔界の奴が、何で人間界に来たニャ」
「フフフフ、今に皆んな来るさ。皆んなで人間なんか滅ぼしてやるのさ」
「人間は大神様が作ったのニャ、そんな事はさせないニャ」
「あれ?だって、それがあいつの望みだよ。あいつだって人間だったのにねフフフフフハハハハハ」
〈黒い影はサッと猫魔の前を横切って走り去る。笑い声だけを残して〉
「フフフフ、ハハハハハ」
「(人間を滅ぼすにゃんて許さない!皆んなの事は、この俺が守ってみせるニャ!)」
【闘技場】
「1回戦が始まるぞ。光!頑張れよ!負けたら承知しねえからな!」
〈観客席を見上げる光の神様〉
「フッ(団だな。大きな声だ)」
〈対戦相手が訝しげに光の神を見る〉
「(何だこいつ?何で笑ってんだ?俺の事バカにしてんのか?)」
「(さて、この魔法石はどうやって使うのだろう?団の言う通り稽古しておくのだったな)」
【地獄の門】
〈中の様子を窺う光の天使〉
「特に変わった事は無いみたいだけど…私達がやたら入れないから厄介よね」
【女神の泉】
「おおっ!始まったぞ!負けんなよ!何やってんだよ、とっととやっつけちまえよ!魔法石付いてんだろ?」
【闘技場】
「(団が用意してくれた魔法石…炎の魔法…イメージすれば良いのだな…過去世を思い出す…遠い昔人間界に居た時を…ハポネ村の北の山に炎で焼かれた文字…大の文字)良し!つぇーーーい!!」
〈光の神が剣を振り下ろすと炎が現れ大の字になる〉
「わ、ぐわあああ!!!」
〈一面炎の海になり、対戦相手が火に包まれる〉
「しまった、加減が出来なかった。大丈夫か?」
〈倒れている対戦相手に歩み寄る光の神〉
「火傷に効く精油だ。これを塗ると良い」
「お、お前…何言って…やがる…試合はまだ…終わっちゃいねえ」
「それ以上は戦えまい。済まなかった」
「何謝って…やがんでぃ?おかしな野郎…だな」
〈審判の騎士が戦士の状態を見る〉
「戦闘不能!それまで!勝者紫月光!」
【天上界女神の泉】
「よっしゃ!まずは1勝だぜ。ああちくしょう!あれが本当に俺だったらな…ま、まあ、俺の体を貸してるんだ、頑張ってもらわねえとな」
【闘技場】
「さあ、私の肩に」
「お前…本当に…変な奴だな」
〈傷ついた戦士を抱えて会場を出る光の神〉
「餡先生!餡先生は居られるか!」
〈早足で餡先生が来る〉
「そこに寝かせて」
〈餡先生と光の神は大火傷を負った戦士の治療を始める〉
「うっ…うぅ」
「少し我慢してね。精油を塗ったらヒーリングするわよ」
「越野餡。その人終わったら私もお願い」
〈チラッと小倉杏を見る餡先生〉
「あ、まあ大丈夫よ。急ぐなら他の医者に診てもらって」
「ひどいわね、それが友達に言うセリフ」
「友達だから言えるのよ。貴女にとってそのぐらい大した怪我じゃないでしょ?」
「まあね。さて、2回戦に間に合わないといけないから、行くわ」
「ごめんね」
「紫月光。決勝で会いましょう」
【観客席】
〈猫魔が戻って来る〉
「遅い!もう1回戦終わっちゃったよ」
「光のか…光はどうだったニャ?」
「勝ったぜ」
「猫まんま、魚食べる?」
「今は良いニャ」
「え?どうしちゃったの?猫魔が魚食べないなんて、熱でも有るんじゃない?」
「後で食べるニャ(魔界の奴が来ているニャ。さっきの奴だけじゃないニャ。これから沢山来るニャ)」
【地獄の門】
「うん?やっぱりおかしいわ」
〈ドンドンと門を叩く光の天使〉
「ここを開けて!開けてください!!」
「杵さん、コイツの剣に魔法石付けてやってくれよ」
「最近そういうお客さん多いな、うちは武器屋じゃねえんだけどな」
「しょうがねえよ、この町にゃ武器屋なんてねえんだから」
「団ちゃん、魔法石を手に入れたのかい?」
「ああ臼おばちゃん。森では見つかんなかったから、旅の行商人から買ったんだけどよ、偽物じゃねえよな?」
「一応本物みてえだな。よっしゃ!付けてやるか。光、剣貸しな」
「あ、ああ…」
「杵さん、包丁研いでくれる?」
「七都かい、ちょっと待ってな。うん?これは…この剣には付かねえぞ」
「あん?何でだよ?探し回ってやっと買った魔法石なのによ」
「くりきんとんじゃない?何やってんの?」
「うるせえのが来やがったぜ」
「もう何よ、その言い方」
「そんな事より、杵さん。何とかなんねえのかよ?」
「それがな…何かこう…剣が嫌がってるみてえでよ」
「嫌がるって何だよ?」
「こいつぁ、どうやったって付かねえぞ」
「んじゃあ、俺の剣ならどうだ?」
「おう、貸してみな…良し、これなら付きそうだ。こいつに付けちまって良いんだな?」
「おう、やっちまってくれ。光の剣に付かねえんじゃしゃあねえや」
「武術大会に出るのは光なのに、くりきんとんの剣に魔法石付けてどうすんのよ?」
〈杵は団の剣を赤々と燃える火の中に入れる。剣は焼けて真っ赤になる。火から取り出してハンマーで打ち付ける。カンカンカーン!〉
「あいよ、出来たぜ」
「おお!」
〈剣の柄に付いた魔法石を眺めて満足気な栗金団〉
「ほれ」
〈光の神に剣を差し出す〉
「この剣使えよ」
「良いのか?」
「良いって、良いって、貸すだけだからな。武術大会が終わったら返してくれよ」
「すまぬな、では拝借する」
【天上界女神の泉】
〈光の魂がやって来る〉
「ここに来りゃ満の様子がわかるからな。女神はどこだ?」
〈泉の上から金色の光が降りて来る〉
「お、居た居た。おい、女神さんよう。また妹を見せてもらいに来たぜ」
「ちょっと、女神様に向かって何ていう口の利き方?」
「おう、おめえも居たのか」
「おめえもじゃないわよ」
「め、女神様。お願げえします。妹の様子を見せてやっておくんなさい」
「良いでしょう」
〈水面に人間界の様子が映し出される〉
「おっ、居た居た。料理なんか作ってやがる」
「美味しそうね。ああ、また誰かの体を借りて美味しい料理が食べたいわ」
「何だってあんなに沢山作ってんだ?」
「皆んなで食べるんじゃない?」
「ちきしょーう。俺も満の料理食いてー。けどよ、腹減らねえんだよな、ここに居ると」
「肉体を持ってないからよ」
【療養所】
「光、準備は出来てるか?出かけるぞ」
「ああ、参ろう」
「後で私も行くわ。ケガ人が出るだろうし」
「んじゃ、先に行ってるな」
【療養所前】
〈光の神と栗金団が出て来る〉
「あ、お兄ちゃん」
〈満の手に視線を落とす光の神。そっと手を伸ばして荷物を取る〉
「あ、ありがとう。フフフ(本当に優しくなったわね。前のお兄ちゃんじゃこんなに気が利かなかったもの)」
「随分でっかい荷物だな?何が入ってんだ?」
〈覗き込む栗金団〉
「おっ、美味そうな匂いがするぜ」
「後で皆んなで食べましょう」
「遅くなってごめーーーん」
「ったあく、何でお前はそう、いつもいつも賑やかに登場するかな?」
「早く船に乗るニャ。街に行くのニャ」
【天上界女神の泉】
「船に乗り込んだな。あん?猫の物の怪も一緒だ。危ねえだろ!」
「大丈夫よ、猫魔は光の神のペットだから」
「ほう、そうなんだ?」
【船の上】
「風が気持ち良いね」
「まだちょっと寒いけど、お天気が良くて良かったわね」
「早くブリの港に着かないかニャ」
「何でよ?」
「シイラが、俺の為に余った魚を取っておいてくれるのニャ」
「港が見えて来たわ」
「猫まんまーーー!」
「シイラニャ!おーーーい!」
【ブリの港】
〈シーラが手を振っている。猫魔達を乗せた船が入って来る〉
【天上界の女神の泉】
「港がいつに無く賑やかだな。今日は何の日だ?」
「ああ、楽しそう。私も地上に降りたい」
「俺が死んでどれぐらい時間が過ぎたんだ?本当ここに居るとわかんねえよな」
「人間界は、時の流れが早いもんね」
【ブリの港】
〈猫魔達が船から降りて来る〉
「はい、猫まんま。魚だよ」
「わぁお、ありがとニャ」
「今日は、父さんが店番してくれるって言うから、私も一緒に行く」
【天上界女神の泉】
「何だ何だあ?ヴェネツィーの街はお祭り騒ぎだな」
「いったい何が有るのかしらね?」
「おおーっ!闘技場に入って行きやがった。何の大会だ?」
【闘技場】
「とうとうこの日が来たわね」
「小倉杏さん」
「越野餡は?」
「後から来るって言ってましたよ」
「光。今日は負けないわよ」
「え?」
「杏さんも出るんかい?」
「出るわよ」
「ヴェネツィーの剣術大会で光に負けたのに、何で出れるんだ?」
「負けたから修行して、他の地区で勝ち上がったのよ」
「すげー」
「私と戦う前に負けたりしたら承知しないわよ。じゃあね」
「行っちゃった」
「おい光。魔法石の使い方わかってるか?」
「うん?まあ、何とかなるだろう」
「ちゃんと稽古しとけば良かったな」
【天上界女神の泉】
「これはもしかして、ブラマンジェ武術大会かあ?おおっ!あいつも出るのか?!」
「光の神に戦いは無理よね」
「無理って、ここまで来るって事は相当の腕だぞ」
「あの時は私が居たからよ」
「へ?オバサン天使が居たら何だってんだよ?」
「オバ、オバ、オバサン?」
「ああ、ちきしょう!俺だってまだ一度も出た事ねえのによ。おい、そっちの俺!頑張れよ!負けたら承知しねえからな!」
「だから、私の話し聞いてる?光の神には戦いは無理なのよ」
「あーもう、うっせーな。んなモンやってみなきゃわかんねえだろ」
「(まあ、本気になれば強い事は強いんだけど…彼は優し過ぎるのよ)」
〈水面に闘技場の様子が映し出されている。出場者は強者揃い。その中に場違いのように優しい光の神の姿〉
「おいおい、皆んな強そうだな、大丈夫なのか?」
「戦いは向いてないのよ。あの時だって…(あんな悪い奴にまで情けをかけるから…あの時私がそばに居なかったらと思うと…だいたい何よ!改心するなら許そうなんて甘いわよ!結局あの魂は地獄に封印するしか無かったじゃない)女神様、私地獄の様子を見て参ります」
「ええ、くれぐれも気を付けるのですよ」
「はい!」
【闘技場】
〈近衛騎士隊が入って来る〉
「カッコいいよな、近衛騎士」
「あれ?ねえ見て、あの子供…あれ…パン君じゃない?」
「おぅ、あのペイジか?」
「パンくーーーん!」
「おね、じゃない、七都さん」
「え?どうしたの?調子狂っちゃうな。お姉ちゃんで良いよ」
「いえ、いけません。伯爵様に叱られますので」
「お前、ペイジになれたのか?この国じゃ貴族でないと騎士になれないんだろ?」
「はい、ペイジになれました」
「いったいどうやってなったんだ?」
「ある日突然伯爵家の馬車が迎えに来たんです。お屋敷に上がると、伯爵様が「騎士になりたいのだな?良いか?今日からお前は私の息子だ」と仰って」
「そうなんだ、凄いじゃない。修行は大変だけど頑張るんだよ」
「パン、行くぞ」
「はい!伯爵様!」
「パン、何度言ったらわかるのだ」
「あ、そうでした。えっと、こういう時は父上です。公の場ではいけませんが」
「騎士隊長さんが?」
「私を引き取ってくださいました」
「フィナンシェ姫様に泣きつかれてな。息子が欲しかったのでちょうど良かった」
「フィナンシェちゃんが頼んでくれたんだね」
「では失礼する。行くぞ、パン」
「はい、父上!」
〈騎士達の列に戻るパンの後ろ姿を見送る七都達。鳥が一斉に飛び立つ。羽音。見上げる猫魔〉
「猫魔行くよ」
「俺、ちょっと行って来るニャ」
「行くってどこに?」
「すぐ戻るニャ」
〈駆け出す猫魔〉
「もうすぐ始まるよーーー」
「行っちゃったわね」
「しょうがねえな、先行ってようぜ」
【貴賓席】
〈フィナンシェ姫が会場に入り着席する〉
「(今日はあの方も出場なさるのね)」
〈胸に手を当てて瞳を閉じる〉
「(わたくしったらこんなにドキドキして…大きな怪我などなさいませんように…いいえ、全ての出場者に怪我など有ってはいけないのだわ)」
【闘技場の外】
〈猫魔が走って出て来て止まる。何かの気配を感じながら歩く猫魔〉
「隠れてにゃいで出て来るニャ」
〈黒い影が現れる〉
「魔界の奴が、何で人間界に来たニャ」
「フフフフ、今に皆んな来るさ。皆んなで人間なんか滅ぼしてやるのさ」
「人間は大神様が作ったのニャ、そんな事はさせないニャ」
「あれ?だって、それがあいつの望みだよ。あいつだって人間だったのにねフフフフフハハハハハ」
〈黒い影はサッと猫魔の前を横切って走り去る。笑い声だけを残して〉
「フフフフ、ハハハハハ」
「(人間を滅ぼすにゃんて許さない!皆んなの事は、この俺が守ってみせるニャ!)」
【闘技場】
「1回戦が始まるぞ。光!頑張れよ!負けたら承知しねえからな!」
〈観客席を見上げる光の神様〉
「フッ(団だな。大きな声だ)」
〈対戦相手が訝しげに光の神を見る〉
「(何だこいつ?何で笑ってんだ?俺の事バカにしてんのか?)」
「(さて、この魔法石はどうやって使うのだろう?団の言う通り稽古しておくのだったな)」
【地獄の門】
〈中の様子を窺う光の天使〉
「特に変わった事は無いみたいだけど…私達がやたら入れないから厄介よね」
【女神の泉】
「おおっ!始まったぞ!負けんなよ!何やってんだよ、とっととやっつけちまえよ!魔法石付いてんだろ?」
【闘技場】
「(団が用意してくれた魔法石…炎の魔法…イメージすれば良いのだな…過去世を思い出す…遠い昔人間界に居た時を…ハポネ村の北の山に炎で焼かれた文字…大の文字)良し!つぇーーーい!!」
〈光の神が剣を振り下ろすと炎が現れ大の字になる〉
「わ、ぐわあああ!!!」
〈一面炎の海になり、対戦相手が火に包まれる〉
「しまった、加減が出来なかった。大丈夫か?」
〈倒れている対戦相手に歩み寄る光の神〉
「火傷に効く精油だ。これを塗ると良い」
「お、お前…何言って…やがる…試合はまだ…終わっちゃいねえ」
「それ以上は戦えまい。済まなかった」
「何謝って…やがんでぃ?おかしな野郎…だな」
〈審判の騎士が戦士の状態を見る〉
「戦闘不能!それまで!勝者紫月光!」
【天上界女神の泉】
「よっしゃ!まずは1勝だぜ。ああちくしょう!あれが本当に俺だったらな…ま、まあ、俺の体を貸してるんだ、頑張ってもらわねえとな」
【闘技場】
「さあ、私の肩に」
「お前…本当に…変な奴だな」
〈傷ついた戦士を抱えて会場を出る光の神〉
「餡先生!餡先生は居られるか!」
〈早足で餡先生が来る〉
「そこに寝かせて」
〈餡先生と光の神は大火傷を負った戦士の治療を始める〉
「うっ…うぅ」
「少し我慢してね。精油を塗ったらヒーリングするわよ」
「越野餡。その人終わったら私もお願い」
〈チラッと小倉杏を見る餡先生〉
「あ、まあ大丈夫よ。急ぐなら他の医者に診てもらって」
「ひどいわね、それが友達に言うセリフ」
「友達だから言えるのよ。貴女にとってそのぐらい大した怪我じゃないでしょ?」
「まあね。さて、2回戦に間に合わないといけないから、行くわ」
「ごめんね」
「紫月光。決勝で会いましょう」
【観客席】
〈猫魔が戻って来る〉
「遅い!もう1回戦終わっちゃったよ」
「光のか…光はどうだったニャ?」
「勝ったぜ」
「猫まんま、魚食べる?」
「今は良いニャ」
「え?どうしちゃったの?猫魔が魚食べないなんて、熱でも有るんじゃない?」
「後で食べるニャ(魔界の奴が来ているニャ。さっきの奴だけじゃないニャ。これから沢山来るニャ)」
【地獄の門】
「うん?やっぱりおかしいわ」
〈ドンドンと門を叩く光の天使〉
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2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
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