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第19章 シロの赤ちゃん

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【中町】

6月、だいぶ蒸し暑くなってきた。

そろそろシロのノミ対策をしないとな。

僕も、ダニに刺されるのも嫌だし、ドラッグストアに行くかな?

【ドラッグストア】

「ねえ、ネズミ」

「ああ、猫のおもちゃか」

「買って帰ろう」

「シロは、紙を丸めたのが一番好きだぞ」

「赤ちゃんによ」

「まだ生まれてないのに」

でも、もうそろそろ産まれそうなお腹になってるよな。

【奥山町駅】

「今日は、どっこも寄らないぞ」

「そうね、しばらくは、早く帰ってあげて」

出来るだけシロのそばに居てやりたいんだ。

【響の宿舎】

「シロ、ご飯買って来たぞ」

「ニャー」

「たくさん食べるのよ」

「ウニャウニャウマ%☆♪ニャ」

赤ちゃん、何匹ぐらい産むんだろう?

貰ってくれるとこを探さないとな。

ドラッグストアから貰って来た箱を置くと、シロが中に入った。

「待て待て、タオルを敷いてからだよ」

押入れの中が良いかな?

狭い場所の方が安心するんだよな。

学校に行ってる間に生まれてたら、どうしよう?

「猫の事は響に聞け」って、昔から言われてたけど、お産なんてどうしたら良いんだ?

そうだ!

お袋が子供の頃、シャム猫が赤ちゃんを産んだ話しを聞いた事が有るぞ。

「モシモシお母さん。シロ、産まれそうなんだ、どうしよう?」

「大丈夫よ。ちゃんと一人で産むから」

「そんな事言ったって、心配で…」

「安心出来る場所で産めるようにしてやりなさい」

「うん」

押入れの中で大丈夫だな。

いつも、僕が居ない間寝ている場所だ。


【中町学園前】

「響先生」

香だ。

「最近、どうしてそんなに急いで帰るんですか?」

「シロが、産まれそうなんだ」

「え?赤ちゃん?」

「うん」

「わ~、楽しみ」

【響の宿舎】

「初めて来たわ」

シロが赤ちゃんを産むのに、先生だけじゃ心配、とかなんとか言って、家までついて来た。

「受験勉強は、良いのか?」

「たまには息抜きも必要です」

「まあ、良い音楽聴いて、気分転換したりも必要だけどな」

「聴きながら勉強する時も有りますよ」

はあ、女子がここへ来たの初めてか?

浅田が来た事有ったか。

あの時は、多喜さんと一緒だったもんな。

なんか、璃子意外の女性と2人っきりだと、どうして良いかわからないぞ。

女性?

女子だろ?

今女性って思ったか?

3年になって、急に大人っぽくなったよな。

「先生、産まれそう」

「本当か?」

「出て来た」

「シロ、頑張れ」

「先生、タオル有りますか?」

「はいはい」

1匹目が産まれた!

シロが一生懸命舐めてる。

白い子だ。

ぴーぴー鳴き始めたぞ。

香がタオルで拭いて、シロのお腹の所に置くと、お乳を飲んでる。

2匹目は、茶色。

3匹産まれた。

白いのが1匹と、茶色いのが2匹だ。

「はあ、香が居てくれて助かったよ」

「フフフ、この子達のパパは、チャコちゃんかしら?」

「そうみたいだな」

どうもそんな感じだぞ。

もう少し大きくなると、変わってくるからな。

そうすればわかるよな。

「1匹はうちで飼えるけど、後の2匹は貰い手を探さないと」

「うちの子になる~?」

「ぴーぴー」

「この子、私にください」

「良いのか?」

「大切に育てますから」

「ありがとう」


一月半ぐらいで、親から離して大丈夫じゃないかな?

確かお袋がそんな事言ってたぞ。

「あ、もう暗くなったから、送って行くよ」

【中町】

1年生の時、一度だけ送ってもらった事が有ったな…

あの時は、ドキドキしたわ。

今は、一緒に居ると安心するの。

【上町】

ああ、もうすぐ家に着いちゃう。

もっと一緒に居たいのに…

いつもそう。

先生と居ると、あっと言う間に時間が過ぎて行く気がするわ。

【芝居小屋前】

〈ガサガサと音がして、何か飛び出して来る〉

「キャッ」

〈響の腕の中に飛び込む香〉

え?

先生…

ドキドキしてるの?

どうして?

「何か…向こうの方に…走り去ったぞ」

「怖かった」

「もう、大丈夫だから…その…離れろ」

「あ…」

「…」

「先生も怖かったの?」

「うん?」

違うんだ…

じゃあ、どうしてドキドキしてたの?

【朝風校長宅】

「あら、響君…香?どうしてこんな時間に響君と一緒に居るの?」

「済みません。猫のお産を手伝ってくれて、遅くなったので送って来ました」

「前に言ったわよね、香が卒業するまではいけない、って」

「先生を責めないで。私が無理を言ってお邪魔したの」

「香は、もう家に入って勉強しなさい」

【香の部屋】

「今外で鐘城先生、晶子伯母ちゃんに怒られてたけど…」

「送ってもらったの、見つかっちゃった」

「あれま…」

【響の宿舎】

「ただいま」

〈そっと押し入れを覗く響〉

シロも赤ちゃん達も、無事だぞ。

ホーッ…

参ったな…

生徒相手に何ドキドキしてるんだ?

18才なんて、子供子供、ハハー、ハ…

あー、もう2人っきりになるのはよそう。

気をつけてたんだけどなあ。


シロの赤ちゃんは、目も開いて動き回るようになってきたけど、まだ耳が小さくて可愛い。

少し離れると、シロがすぐに咥えて箱の中に入れる。

そして7月になると、だいぶ猫らしくなってきた。

やっぱりチャコの子だな。

白いのは、諏訪旅館で飼ってくれる事になった。

立派な看板猫になるんだぞ。

最近はヤンチャ盛りで、走り回ったり、カーテンを登ったり大暴れだ。

僕が立ってると登って来たりする。

短パンなんか履いてたら、足に爪をかけてね。

「コラ、痛い痛い」

座れば、ずっと噛んでるし…

「じゃあ、行って来るぞ」

「ミュー、ミュー、ミュー」

はあ、帰って来たら、家の中が大変な事になってたりするんだよな。

でもまあ、今が一番可愛い時だけどね。

【音楽室】

「3年生は、今日が最後の部活だな」

「とうとうこの日が来ちゃった」

「寂しいね」

「今日は、何を聴こうか?」

「先生の一番好きなCDを、聴かせてください」

「良し、じゃあ、ブラームスのピアノコンチェルト第1番を、伊藤恵さんの演奏で聴きます。1990年と2000年の演奏で聴き比べてみようか?」

「わー、楽しみ」

「どちらもライブだよ」

このCDが1番好きなのは、親父の影響だよな。

〈そして、部活が終わると…〉

「じゃあね、香」

「うん」

〈眞澄が香の背中を押す。音楽室には響と香の2人だけ〉

「響先生」

「どうした?」

「部活今日で終わっちゃった」

「そうだな」

「もう、あんまり会えなくなっちゃう」

「えーっと…ああ、そうそう、子猫、諏訪が白いの貰ってくれるんだよな」

「はい、そう言ってました」

「8月になったら、渡せそうだから、今度は諏訪と一緒に来いよ」

「はい」

「じゃ、じゃあな」

〈汗汗で逃げる響〉

また逃げられちゃった。


【響の宿舎】

8月になった。

子猫達のヤンチャぶりも一層激しくなってきたけど、この目の回るような毎日も、今日で終わりだ。

「響ちゃん、子猫頂きに来ました」

おお、来たな。

今のは諏訪の声か?

まあ、僕の事を「ちゃん」て呼ぶのは諏訪ぐらいなもんだ。

【庭】

ちゃんと、2人で一緒に来たか。

やれやれだ。

「早く子猫に合わせてー」

「はいはい、諏訪は白いのだったよな」

「うわー、可愛い。湯之助」

「ミャー」

「ゆのすけ?」

「うん、オスだから湯之助にする、って決めてたんだ」

はあ、温泉旅館の看板猫、湯之助か。

「香のは、こっちの茶色いの」

「私は、家に帰ってゆっくり考えます。お姉ちゃんも楽しみにしてたの」

「ミャー、ミャー」

「ウフフ、可愛いわね~」

【香の部屋】

「早く見せて」

「可愛いでしょう?」

「あら、タヌキみたい」

「え?」

「オスかな?メスかな?」

「女の子よ」

「ポンちゃん」

「ミャー」

「だから、女の子だってば」

「ポンちゃん、おいで」

「ミャー、ミャー」

「気に入ったみたいよ」

「えー?タヌキじゃないのに」

「ポンちゃん」

「ミャー」

響先生の家に残した茶色の子は、マエストロですって。

先生らしいわね。

「ポンちゃん」

「ミャー%#☆」

「もう、お姉ちゃん…自分の名前だと思っちゃう」

結局うちの子は、ポンちゃんになりました。

意外とカワイイかも?

そう言えば、この子のパパのチャコちゃんも、フサフサの毛で尻尾が膨らんで見えて、タヌキみたいだったわね。


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