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第12章 約束

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【中町学園前】

「おはようございます」

「おはよう」

9月になった。

生徒達と仲良くなれて、夏休みは楽しかったな。

さあ、新学期だ。

【職員室】

「台風が来てる、って」

「収穫前の作物に被害が出るでしょうな」

【階段】

さあ、部活の時間だ。

荻野寛太は3年生だから引退してしまった。

部員が少なくて寂しいけど、楽しく音楽鑑賞しますか。

【音楽室】

「台風やだね」

「また稲が倒れたり、ナシが落ちたりだね」

「玄ちゃんの家は農家だから大変だね」

「そうだね。うちも露天風呂困る」

「あ、先生来なった」

「さあ、今日は何を聴こうか?」

「ベートーヴェン」

「また?」

「ショパンは?」

「うん。ショパンが良い」

「了解。じゃあ席に着け」

「はーい」

響「それでは、今日は、ショパンのピアノコンチェルト第1番と第2番をマルタ・アルヘリッチさんの演奏で聞きます。彼女の情熱的でロマンチックな演奏に酔いしれてください」

【響の宿舎】

だいぶ風が強くなって来たな。

コッコちゃんの小屋を補強しておかないと。

「シロ。もう外に行くなよ」

「ニャー%〆」

〈ギコギコギコ、トントントン、カンカンカン〉

良し!

これで大丈夫だ。

【奥山町】

〈夜になると、次第に雨風が強くなって来る〉

【響の宿舎】

〈風で雨戸が鳴っている。激しい雨音〉

台風で外食は出来ないから、コッコちゃんの卵を焼いて食べよう。

味噌汁はインスタントだけど、ご飯はお竃(くど)さんで炊いた美味しいご飯だからな~

だいぶ上手く炊けるようになったし…

あ、お焦げ出来てる。

〈璃子が来て響の背中にしがみつく〉

「璃子」

〈璃子の方に向き直る響〉

「怖くて1人で居られない」

「濡れてるじゃないか。風邪ひくぞ」

〈響がタオルを取ろうとすると、雷が鳴る〉


子供の頃からいつもこうだったな。

こんな日はこうやってくっついてた。

東京の家なら家族が居るけど、こっちじゃ1人だもんな。

嵐の日に璃子が1人で居られるはずが無い。

もう少し早く気づいてやれば良かった。

「ごめんな、放っといて」

「グスン」

〈響の胸に飛び込む璃子〉

「え?泣くほど怖かったか?」

「もう、バカ」

中学生ぐらいから泣かなくなってたのに、おかしいな?

〈汗汗の響〉

響のバカ。

本当鈍感なんだから。

子供の時みたいに優しいから…

だから…

【奥山町の空】

〈外は嵐。稲光り〉

【響の宿舎】

〈雨戸がガタガタ鳴っている。ビュービューと風の音。雨の打ち付ける音〉

「とりあえず、ご飯。璃子ご飯は?」

「食べて来た」

「そうか、じゃあ僕も…あ、味噌汁冷めてる」

〈味噌汁をチンする響。座って食事を始める。璃子は響に張り付いたまま〉

そんなにくっついて居られると、食べにくいけど、まっ、いつもそうだったからな。

頂きまーす。

あー、コッコちゃんの卵美味しい。

〈そして…夜も更けて来ると、響は居眠りを始めた〉

「ふあ~眠い」

〈ついにゴロンと転がって眠る響。璃子の膝枕で…〉

ああ、寝ちゃった…

「ミャー」

「シロおいで」

「ニャー%#☆」

シロを抱っこしてたら、怖くないもん。

〈そして…璃子も、いつの間にか眠ってしまう〉

【奥山町の空】

〈台風一過の青い空〉

コッコ「コッコッコッコッ」

【響の宿舎】

コッコ「コッコッコッコッ、コケー」

〈爽やかな朝だ。コッコちゃんの声で目を覚ました響と璃子は庭に出てみる
る〉

「コッコちゃん無事だったな」

「コケー」

「おはようございます」

柿崎玄だ。

「おはよう」

「おはよう」

「璃子ちゃんも、おんなった(いらっしゃった)だかいな」

「う、うん」


「梨拾いに来ならんか?」

「うわー、私も行きたーい」

「きんにょ(昨日)の晩の台風でえっと(沢山)落っちゃったけなぁ」

楽しそうだな。

行こう、行こう。

そう言えば、台風の後は竹籠背負って梨拾いに行った、って、お婆ちゃんが言ってたな。

【梨畑】

「よう来てごしなった(くださった)なあ」

うわ~

柿崎のお母さん、本当に竹籠背負ってる!

〈梨が沢山入った籠を重そうに下ろす柿崎唄子〉

「えっと入れて負うたら、重たーて、きゃあ」

うはっ。

出た「きゃあ」だ。

姫路の大伯母が、良く「なんだいな、きゃあ」って言ってたけど…

この「きゃあ」は、標準語訳が難しいんだよな。

色んな意味で使うみたいだけど、お婆ちゃんに聞いても「きゃあは、きゃあだよ」って言うだけだし…

でも、何か可愛い言葉だよな。

璃子のヤツ、最近柿崎に方言を教えてもらって、少しずつ覚えているみたいだ。

覚えたての方言を、唄子さん相手に使ってる。

「肩が痛ーて、きゃあ」

「ほんにーな(本当にね)」

拾った梨を、シャツで拭いて食べてみた。

「美味しーい」

「うん」

鳥取の20世紀梨は、瑞々しくて美味しい。

お袋が子供の頃、関金の大伯母が送ってくれた梨をオヤツに持って遊びに出かけた、って言ってたな。

お転婆で、いつも男子と野球をして泥だらけになって遊んでいたらしい。

【響の宿舎】

梨をたくさん頂いて帰った。

シロが興味津々で見てる。

あ、猫パンチ。

〈シロがじゃれて梨が転がる〉

「こらこら、それはおもちゃじゃないぞ」

「ウニャー#%☆」

梨にじゃれる姿は可愛いけど、食べ物だからな。

しかし、台風が来たのが週末で良かったな。

あれじゃ学校行けないもんな。

さて、明日からまた学校が始まるぞ。


【職員室】

「来月は体育祭だなあ」

「一本木先生張り切ってるわね、さすが体育科の先生だわ」

「この学校の生徒だけでは人数が少ないので、奥山町の町対抗運動会になってるんですよ」

上町、中町、下町の戦いで、中町学園は中町に有るので生徒達は中町。

いつもこの学校の運動場を使うそうだ。

どうりで立派な運動場だと思っていたら、そういう事だったのか。

「高梨先生。俺頑張るけ、見とってくれよ」

「わー、楽しみね」

一本木先生は、璃子に良いとこ見せたいみたいだぞ。

頑張れよ~

「鐘城先生も出るんですよ」

「えっ?」

【運動場】

「これからリレーの練習をする。第1走者は柿崎玄。第2走者は鐘城響先生…あれ?鐘城先生は?あ、早く!」

ハイハイ。

何故か僕もリレーに出る事に…

いつの間に決まったんだろう…?

まっ、良いっか。

「第3走者は荻野寛太で、アンカーが俺だ。良いな!」

「はい!」

おお!

皆んなやる気満々だな。

陸上は、あんまり得意じゃないけど、頑張るぞ。

体育会系音楽教師の底力をお見せしましょう。

「次は、ダッシュ10本!よーい、Go!」

「やってるわねー。皆んな頑張れー」

うわっ、一本木先生早っ。

「ほら皆んなー、一本木先生に負けるなー!」

〈笑顔で応援する璃子〉

【響の宿舎】

はあ、久々に良く走った。

タンパク質を摂取しよう。

えーと、プロテインは…

あ…切らしてる。

買いに行くか?

隣町までか…電車が中々来ないよな。

でもまあ、シロの缶詰めも買いたいし、行ってみるか。

【ドラックストア】

プロテイン有ったぞ。

アミノ酸も買った。

【下町の階段】

一本木先生だ。

階段を駆け上がってトレーニングしてるみたいだぞ。

邪魔をしないでそっとしておこう。

【響の宿舎】

冷蔵庫の中に肉が有ったな。

プロテインは後にして、ご飯にするか。

茹で卵と肉でタンパク質を摂取して、今日鍛えた筋肉を強くするぞ。

「ちゃんと、野菜も食べなさいよ」

璃子のヤツ、いつの間にか来てるし。

〈肉を焼きながら野菜を切る響〉

新鮮な野菜、美味しいよな。

良い匂いがして来たな。

親父が肉が好きだから、僕の家では肉料理が多いんだ。

「何か焦げ臭いわよ」

「おっと、わっち、熱ち」

はあ…見事に焦げてる…

「響、手!」

璃子が僕の手を引っ張って流水で冷やしている。


「火傷して、ピアノが弾けなくなったらどうするのよ」

「大げさだな、このぐらいで」

「このぐらいで済んだから良いけど、ピアノ弾けないと授業困るでしょう」

「まあ、そうだけど」

「こんな事なら、私がお料理すれば良かった。いつも、理科の実験とか言われるから手を出さなかったんだけど」

怒られてしまった。

高梨先生、滅多に怒らないけど、怒らせたら怖いぞ。

【朝の空】

気持ち良く晴れたな。

良い天気で良かった。

生徒達がキラキラしてる。

さあ、僕も頑張るぞ!

【運動場】

いよいよ奥山町秋の大運動会だ。

地方の子は、遠くの山から通って来たりするがら、それだけでも体力がついているよな。

皆んな中々の運動能力だ。

運動会中盤まで、上町、中町、下町共に譲らず。

勝敗は、最後の対抗リレーで決まるようだな。

リレーは、各町から2組ずつ出場する。

中町学園チームの第1走者は、3年生の柿崎玄だ。

スタートした!

柿崎玄がトップを走ってるぞ!

しかしあまり差は無い。

何とかトップのままバトンを受け取ったけど、他の1人と並んで走っている感じだ。

「響先生頑張ってー」

「響頑張れ!」

くっ、敵もしぶといな。

そのまま第3走者の荻野寛太にバトンを渡した。

おっと、抜かれた!

くそう、僕が引き離せなかったから…

荻野寛太は2番手でアンカーの一本木先生にバトンを渡した。

結構離されてるな。

「一本木先生ファイト!」

生徒達と必至に応援する。

「頑張れ!」

「一本木先生、頑張ってー」

あれ?

璃子の応援でギヤチェンジしたみたいだぞ。

「そうよ!もう少し!」

「くっ」

怒涛の追い込みを決めた!

「やったー!」

「素敵だったわよ」

「はあ、いやあ…」

〈璃子に素敵と言われ、赤くなる一本木竜太〉

「中町優勝ですよ!」

「わー!!」

【響の宿舎】

今日は運動会の振り替え休日だ。

天気が良いから布団を干すぞ。

「あら、偉いじゃない。ちゃんとお布団干してる」

「誰もやってくれないからな」

「ねえ覚えてる?」

「何?」

「大きくなったら、お嫁さんにしてくれる約束」

「覚えてますよ。幼稚園の時の約束ね」

お昼寝の時オネショして、一緒に片付けてくれて「良いお母さんになるね」って言ったんだよな。

そしたら「お母さんになる前にお嫁さんでしょう」って…

そして「大きくなったら、響のお嫁さんにしてね」って言われて…

「良いよ」って言ったんだ。

「幼稚園の時ね、幼・稚・園」


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