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しおりを挟む「続いては、この番組では初出演となります!
若者の間で人気急上昇中のミュージシャン『ヴァリュウズ』さんです!」
司会の女性の声と共に、入場ゲートが開いた。
胸を張って、堂々と足を進める。
視界の全てに汗ばんだ観客が広がった。
熱狂的な歓声と、疑問が頭に浮かんだ人々。
この中にどのくらいファンはいるのだろう。
歓声からして1割2割程度なんだろうか。
「-----どうしてだったのですか?」
司会の女性の言葉に、焦りが全身から浮き出てきた。
完全に聞き逃しだ。
「あ…えっと、すみません。
緊張で飛んじゃって…」
「アハハ!初登場ですもんね!
『ヴァリュウズ』さんは、何故ミュージシャンを目指されたのですか?」
こちらの最悪な態度に対しても、女性司会者はうまくフォローしてくれていた。
心の中で感謝すると同時に、謝罪をする。
おそらく、この質問に対する答えは、「昔から憧れていて…」とか「大好きだったミュージシャンがいて」とか。
それが正解なんだろう。
そうと分かっていても、答えなくてはいけなかった。
それが番組として最低な答えだったとしても。
「最初は、『あいつらの脳みそにコードをぶっ刺して響かせたい』って、そう思ったんです。
ただ、それだけじゃダメだって、気づかせてもらったんですけど。」
「…えっと、コード?」
「コードです。アンプにつなぐ部分の。」
一瞬の静寂の後、女性司会者は慌てたように返した。
「あっ、時間が押してまいりましたね!それでは、演奏へと移ってもらいましょう!」
強引に話を切られて、演奏のステージへと押し出された。
会場からひしひしと伝わる、「次への繋ぎ」という期待のなさ。
司会の女性を含めたタレントからは、扱いにくいと悪態をつかれているのだろか。
どでかい照明が、マイクとギターをこれでもかと言うほど主張させた。
最高だった。
会場の期待のない雰囲気も。
汗ばんだ匂いも。
触れる指先の感覚も。
痛くすら感じるさえも視線も。
未だに変わらない。
『こいつらの脳みそにコードをぶっ刺して響かせたい』って、ひたすらに回る頭の中も。
この期待のない雰囲気をブチ壊して、こいつらを熱狂させられるっていうその事実が。
最高だった。
ーーーーーーーーーーーーーー
いつものように、ヘッドホンをつけて、ふてぶてしい顔で窓の外を眺めていた。
高校一年生の5月。
クラスでは大体のグループが決まって、この上なくどうでもいい話に花を咲かせていた。
ヘッドホンの上からうっすらと聞こえる、騒音と騒音と騒音。
どれもこれもが、中身のない会話に中身のない言葉を簡単に並べていって、ギリギリ成り立っているような騒音だった。
だからこそ青空の中にぼんやりと思った。
「あいつらの脳みそにコードをぶっ刺して響かせたい。」
そう思いながら、両耳に聞こえる価値観に身を任せて、そのまま目を閉じた。
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