17 / 25
第17話 俺の兄ちゃんは超怖い
しおりを挟む
クラウス兄ちゃんは不機嫌そのものだった。
二日酔いの上に、吸いたくもないタバコの煙を吸わされてしまった人のように目を尖らせ、俺とヴァンを見ている。
「明日の午前中、遠乗りに出かけるぞ。おまえたちの結婚について話したいことがある」
「分かったよ」
「かしこまりました」
伝えるべきことを伝えると、クラウス兄ちゃんは俺の部屋から去って行った。
大きな背中を見送りながら、俺はハーッと息を吐いた。
うちの兄ちゃんは、どうしてあれほど貫禄があるのだろう。俺たちは一歳しか違わないというのに。
「ヴァン。明日、俺たち水魔法でボコボコにされるのかな」
「クラウス様は、隣国の公女様と婚約中ですからね。俺たちの停学処分が、相手方の耳に入ったら大変です」
「どうしよう。俺、ケンカでクラウス兄ちゃんに勝ったことなんてないよ」
緊張のあまり、今夜はエッチどころではなかった。
俺はヴァンの懐に頭を預けて、体を充分に休めた。
◇◇◇
ひと晩明けて、本日は快晴なり。
遠乗り日和である。
俺とヴァンは朝食を囲んでいた。クラウス兄ちゃんの様子をうかがう。好物のゆで卵を食べているが、目つきは鋭い。
「どうだ、エドゥアール。アゼルク家の朝餉は美味であろう」
「うん。俺、リンゴのコンポート大好きだよ」
「あらいやだ、エドゥアールちゃんったら。それは梨のコンポートよ」
「疲れているようだな、エドゥアール」
グルメの俺としたことが、不覚である。クラウス兄ちゃんの全身から放たれる圧によって食事に集中できなかった。
ヴァンはもともと味にうるさくない。
魔法学園の野外実習の際、固形の超まずいレーションを食べても平気な顔をしていた。クラウス兄ちゃんが睨みをきかせていてもカトラリーを落としたりもしないし、ヴァンって強いよな。
ヴァンに惚れ直してしまう。
そうだ、俺には愛がある。
愛の力があれば、クラウス兄ちゃんの試練だってきっと乗り越えられる。
俺は紅茶を飲んで、お腹を落ち着かせた。
「そろそろ出かけてもいいか」
食後、自室で休んでいるとクラウス兄ちゃんがやって来た。
クラウス兄ちゃんはかっちりとした上着をまとい、背負い袋を装備している。もしかして……屋敷の書庫から封魔の書を持って来たのか?
魔物を閉じ込めて、召喚獣へと変えさせる封魔の書は強力なアイテムである。
クラウス兄ちゃんお得意の水魔法で攻められたうえに、召喚獣の相手までさせられるのか?
「ヴァン。おまえ、クラウス兄ちゃんの子ども時代の恥ずかしい思い出とか覚えてない?」
「記憶にまったくございません。クラウス様はつねに完璧な公爵令息でした」
「うーっ。精神攻撃のネタにしようと思ったのに」
俺が頭を抱えていると、クラウス兄ちゃんが歩き出した。
「行くぞ」
拒否権はない。
俺は屋敷のエントランスホールを出て、庭に足を踏み入れた。
二日酔いの上に、吸いたくもないタバコの煙を吸わされてしまった人のように目を尖らせ、俺とヴァンを見ている。
「明日の午前中、遠乗りに出かけるぞ。おまえたちの結婚について話したいことがある」
「分かったよ」
「かしこまりました」
伝えるべきことを伝えると、クラウス兄ちゃんは俺の部屋から去って行った。
大きな背中を見送りながら、俺はハーッと息を吐いた。
うちの兄ちゃんは、どうしてあれほど貫禄があるのだろう。俺たちは一歳しか違わないというのに。
「ヴァン。明日、俺たち水魔法でボコボコにされるのかな」
「クラウス様は、隣国の公女様と婚約中ですからね。俺たちの停学処分が、相手方の耳に入ったら大変です」
「どうしよう。俺、ケンカでクラウス兄ちゃんに勝ったことなんてないよ」
緊張のあまり、今夜はエッチどころではなかった。
俺はヴァンの懐に頭を預けて、体を充分に休めた。
◇◇◇
ひと晩明けて、本日は快晴なり。
遠乗り日和である。
俺とヴァンは朝食を囲んでいた。クラウス兄ちゃんの様子をうかがう。好物のゆで卵を食べているが、目つきは鋭い。
「どうだ、エドゥアール。アゼルク家の朝餉は美味であろう」
「うん。俺、リンゴのコンポート大好きだよ」
「あらいやだ、エドゥアールちゃんったら。それは梨のコンポートよ」
「疲れているようだな、エドゥアール」
グルメの俺としたことが、不覚である。クラウス兄ちゃんの全身から放たれる圧によって食事に集中できなかった。
ヴァンはもともと味にうるさくない。
魔法学園の野外実習の際、固形の超まずいレーションを食べても平気な顔をしていた。クラウス兄ちゃんが睨みをきかせていてもカトラリーを落としたりもしないし、ヴァンって強いよな。
ヴァンに惚れ直してしまう。
そうだ、俺には愛がある。
愛の力があれば、クラウス兄ちゃんの試練だってきっと乗り越えられる。
俺は紅茶を飲んで、お腹を落ち着かせた。
「そろそろ出かけてもいいか」
食後、自室で休んでいるとクラウス兄ちゃんがやって来た。
クラウス兄ちゃんはかっちりとした上着をまとい、背負い袋を装備している。もしかして……屋敷の書庫から封魔の書を持って来たのか?
魔物を閉じ込めて、召喚獣へと変えさせる封魔の書は強力なアイテムである。
クラウス兄ちゃんお得意の水魔法で攻められたうえに、召喚獣の相手までさせられるのか?
「ヴァン。おまえ、クラウス兄ちゃんの子ども時代の恥ずかしい思い出とか覚えてない?」
「記憶にまったくございません。クラウス様はつねに完璧な公爵令息でした」
「うーっ。精神攻撃のネタにしようと思ったのに」
俺が頭を抱えていると、クラウス兄ちゃんが歩き出した。
「行くぞ」
拒否権はない。
俺は屋敷のエントランスホールを出て、庭に足を踏み入れた。
1
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。
曙なつき
BL
トラックに跳ねられた、高校生男子の沢谷雪也の転生先は、人間ではなくルーシェと呼ばれる竜であった。
そこは竜をパートナーとする竜騎兵達がいる世界で、竜であるルーシェも、アルバート王子をマスターとした。
これは、アルバート王子とルーシェのまったりほのぼの生活の物語です(シリアスシーンもあり)。相愛ハッピーエンド。
アルバート(王子である竜騎兵)×ルーシェ(人化ありの竜。転生者)
R18ですが、結ばれるまで先が長いです。
※2022年10月に本編は完結済み。以降は外伝を掲載しています。外伝は、主人公以外の登場人物が、主人公になっているものもあります。ご留意ください。
※外伝には外伝主人公の抱卵シーンなどがあります。ご注意下さい。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
【完結R18】異世界転生で若いイケメンになった元おじさんは、辺境の若い領主様に溺愛される
八神紫音
BL
36歳にして引きこもりのニートの俺。
恋愛経験なんて一度もないが、恋愛小説にハマっていた。
最近のブームはBL小説。
ひょんな事故で死んだと思ったら、異世界に転生していた。
しかも身体はピチピチの10代。顔はアイドル顔の可愛い系。
転生後くらい真面目に働くか。
そしてその町の領主様の邸宅で住み込みで働くことに。
そんな領主様に溺愛される訳で……。
※エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる