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16. 俺たちのふるさと
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その後、シーニュは晴れて自由都市になった。
先代の国王は玉座を追われ、地下牢に幽閉されている。新しく国家元首に就任したのは、第一王子だったミハエル様だ。
自治権の授与式、ならびに自由都市シーニュの発足式に参列したミハエル様は、冒険者たちの前途を祝福した。
「あなた方の勇気が、歴史を作り出すことを信じております」
レイゲン王国はヴェリテアード教団を追放し、地母神をはじめとする古来の神々の祠の修復に着手しているらしい。世俗主義に戻ったレイゲン王国と、シーニュは交易を結ぶことにした。<廃妃の庭>でとれたモンスターの毛皮や鉱物、植物などが市場に出回ることだろう。
万事がうまくいっている。
しかし、ジェラルドの表情は険しかった。レセプションの会場で、果実酒を片手に誰とも会話をせずに突っ立っている。
俺は人混みを泳いで、ジェラルドに近づいた。
「どうした。怖い顔をして」
「これからが本番だ。俺の力が試される」
「何も焦る必要はない。あんたには俺たちがいるだろう?」
「そうですよ、ジェラルド様」
晴れ着姿のリスティが尻尾をぴょこんと動かした。
「いつだって、ジェラルド様はピンチを乗り越えてきたじゃないですか」
「まあ、初っ端から自信満々というのも危なっかしい。緊張しているぐらいでいいのかもしれないな」
俺が肩を叩くと、ジェラルドがようやく笑顔を見せた。
「アリーズはジェラルドの翼だな」
ミハエル様がやって来て、俺たちに向かって微笑んだ。
「私も信頼できる伴侶が欲しいものだ」
「俺たちはまだ結婚してません」
「おや、そうだったか。長年連れ添ったかのように息がぴったりだな」
「結婚式は来週です」
「めでたいことが続くな。私も参列させてもらうよ」
「あの……ミハエル様。先代の国王のご様子は?」
俺が訊ねると、ミハエル様は瞳を潤ませた。
「今は改心して、己の行いを悔いている」
「左様でございますか……」
「父の孤独を理解できなかった私にも咎がある」
「あまり思い詰めないでください」
「アリーズ、ジェラルド。改めて礼を言わせてくれ。レイゲン王国を邪教から救ってくれてありがとう」
ミハエル様は一礼すると、次の予定があると言って会場から去っていった。
俺はジェラルドの隣に立って、自由都市の発足を祝う仲間たちを見守った。
「みんなに、ふるさとができたっていうことだよな、ジェラルド」
「そうだな。この日の喜びは忘れない」
レセプションが終わった。
ジェラルドは俺を連れて、レインの墓へと向かった。
「レイン先輩。新たな転生の地に旅立たれた頃でしょうか」
墓碑に花を供えると、ジェラルドはこうべを垂れた。俺も彼に倣った。
「あなたの勇敢さをこれからも語り継いでいきます」
「まあ、ジェラルド様! それにアリーズさん。来てくださったの」
レインの母親が花が詰まったバスケットを片手にやって来た。
「この子は幸せ者ね。記憶に留めてくれる人たちがいるんだから」
晴れ空から雪のひとひらが落ちてきた。肌に触れた雪は透明な雫となり、俺たちの頬を濡らした。
先代の国王は玉座を追われ、地下牢に幽閉されている。新しく国家元首に就任したのは、第一王子だったミハエル様だ。
自治権の授与式、ならびに自由都市シーニュの発足式に参列したミハエル様は、冒険者たちの前途を祝福した。
「あなた方の勇気が、歴史を作り出すことを信じております」
レイゲン王国はヴェリテアード教団を追放し、地母神をはじめとする古来の神々の祠の修復に着手しているらしい。世俗主義に戻ったレイゲン王国と、シーニュは交易を結ぶことにした。<廃妃の庭>でとれたモンスターの毛皮や鉱物、植物などが市場に出回ることだろう。
万事がうまくいっている。
しかし、ジェラルドの表情は険しかった。レセプションの会場で、果実酒を片手に誰とも会話をせずに突っ立っている。
俺は人混みを泳いで、ジェラルドに近づいた。
「どうした。怖い顔をして」
「これからが本番だ。俺の力が試される」
「何も焦る必要はない。あんたには俺たちがいるだろう?」
「そうですよ、ジェラルド様」
晴れ着姿のリスティが尻尾をぴょこんと動かした。
「いつだって、ジェラルド様はピンチを乗り越えてきたじゃないですか」
「まあ、初っ端から自信満々というのも危なっかしい。緊張しているぐらいでいいのかもしれないな」
俺が肩を叩くと、ジェラルドがようやく笑顔を見せた。
「アリーズはジェラルドの翼だな」
ミハエル様がやって来て、俺たちに向かって微笑んだ。
「私も信頼できる伴侶が欲しいものだ」
「俺たちはまだ結婚してません」
「おや、そうだったか。長年連れ添ったかのように息がぴったりだな」
「結婚式は来週です」
「めでたいことが続くな。私も参列させてもらうよ」
「あの……ミハエル様。先代の国王のご様子は?」
俺が訊ねると、ミハエル様は瞳を潤ませた。
「今は改心して、己の行いを悔いている」
「左様でございますか……」
「父の孤独を理解できなかった私にも咎がある」
「あまり思い詰めないでください」
「アリーズ、ジェラルド。改めて礼を言わせてくれ。レイゲン王国を邪教から救ってくれてありがとう」
ミハエル様は一礼すると、次の予定があると言って会場から去っていった。
俺はジェラルドの隣に立って、自由都市の発足を祝う仲間たちを見守った。
「みんなに、ふるさとができたっていうことだよな、ジェラルド」
「そうだな。この日の喜びは忘れない」
レセプションが終わった。
ジェラルドは俺を連れて、レインの墓へと向かった。
「レイン先輩。新たな転生の地に旅立たれた頃でしょうか」
墓碑に花を供えると、ジェラルドはこうべを垂れた。俺も彼に倣った。
「あなたの勇敢さをこれからも語り継いでいきます」
「まあ、ジェラルド様! それにアリーズさん。来てくださったの」
レインの母親が花が詰まったバスケットを片手にやって来た。
「この子は幸せ者ね。記憶に留めてくれる人たちがいるんだから」
晴れ空から雪のひとひらが落ちてきた。肌に触れた雪は透明な雫となり、俺たちの頬を濡らした。
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