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11. 賭け

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 体育の授業が始まった。本日の種目はバスケである。

「はーい。みんな、ペアを組んでパス練習をスタートしてください」

 高瀬が俺の近くにやって来て、肩を叩いた。口角がきゅっと上がり、白い歯が輝いている。嬉しそうに細められた目はもはや線のようである。体育館には女子もいるが、彼女たちのことは高瀬の眼中にはなさそうだった。
 俺はバスケットボールを抱きかかえたままうつむいた。
 高瀬の気持ちに応えることはできない。俺の初恋は女の子だったし、自分が抱かれる側に回ることに抵抗がある。

「諒! 始めようよ」

 俺は高瀬に向かってチェストパスを繰り出した。運動音痴の俺のパスはへろへろとした軌道を描いて、なんとか高瀬の元に届いた。高瀬は俺が取りやすいスピードでパスを返してくれた。

「もうちょっと距離を広げてみようか!」

 高瀬が後ずさって、間隔を空けた。俺はバウンズパスを試みた。床にぶつかり、音を立てたバスケットボールがあらぬ方向へと転がっていく。取りづらいパスなのに高瀬は嫌な顔ひとつせずにキャッチした。そして俺にお手本のように見事なパスを返してきた。

「楽しいね!」

 バスケットボールを介して、高瀬の人柄が伝わってくる。高瀬はいつもポジティブで、思いやりがある。すごくいい奴だ。
 やがてゲームが始まっても、高瀬は俺を無視せず、パスをくれた。俺はその日、生まれて初めてシュートを決めた。

「やったー! 諒、すごい!」

 高瀬は俺以上に喜んでくれた。
 女子がどれだけ騒いでも、高瀬の視線が俺から逸れることはなかった。

「俺がスリーポイント五本決めたら、日曜日に会ってくれる?」

 高瀬が耳元で囁いた。
 俺の脳裏に高瀬のオナニー妄想がよみがえる。高瀬はおそらく俺にガチで惚れている。俺は? 高瀬といると楽しいけど、体を好きにさせていいと思う覚悟はできていない。
 
「ねえ、諒。賭けに乗ってよ」
「……相手チームにはバスケ部もいるんだぞ」
「関係ないよ、そんなの」

 ゲームが再開した。
 高瀬は俊敏な動きで走り回り、スリーポイントシュートをバシバシと決めていった。
 バスケ部員が高瀬の行く手を阻む。しかし厳しいマークにも負けず、高瀬は五本目のスリーポイントシュートを成功させた。
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