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第6話 恋は人を狂わせる (ルゼイオ視点) *

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 底冷えがする冬の夕方。
 俺は黄金騎士団の詰め所にある鍛練場で、木剣を振っていた。

「精が出るな、ルゼイオ」
「団長」

 鍛錬場に、リヒター騎士団長が颯爽と現れた。今日も堂々たる男ぶりである。リヒター団長は今年25歳になったらしい。俺は現在、ハタチだ。5年後にこんな風にカッコよくなれるだろうか。

「手合わせを願いたいのですが」
「いいだろう」

 やった! 黄金騎士団にリヒターありと称される名手との対戦だ。
 俺は緊張しつつも、大胆に踏み込んだ。手合わせとなれば、役職の上下など関係ない。強い者が勝って、弱い者が負ける。それが剣術だ。
 鋭い突きを繰り出し、リヒター団長の懐に迫る。
 リヒター団長は華麗な体さばきで俺の攻撃をかわした。この人の剣は基本の型に忠実で、守りと攻め、いずれの局面においても美しい。
 俺の持ち味は泥臭さだ。見た目の美しさなどハナから捨てている。俺は体勢を崩しながらも執拗にリヒター団長の胸元を狙った。

「なかなかやるじゃないか」
「体力だけはありますからね!」
「俺も負けてはいられないな」

 今度はリヒター団長が攻め込んでくる。
 疾風のごとき素早さで振り下ろされた一撃を、俺は木剣で正面から受け止めた。そのまま鍔迫り合いに突入する。
 目の前の相手はリヒター団長ではなく、今日出くわしたゲオルグとかいうチンピラだと思うことにした。
 くそっ、ゲオルグめ。
 俺のセージさんにひどいことをしやがって。俺のセージさんの純潔を奪いやがって。
 いや、ゲオルグの他にも男がいたかもしれないな、セージさんは美人だから。
 俺以外の誰かがセージさんの肌に触れた? そんなこと、許せるわけがない。
 セージさんは昔から俺のことが好きなんだ!
 舞台に立っている時も、俺がいる席に向かって笑いかけてくれた。公演が終わったあと、劇場の出口で手紙やプレゼント、そして花束を受け取ってくれた。街ですれ違った時も手を振ってくれた。
 場末の酒場でセージさんに会えた時、俺は魔法使いに感謝した。大金を積んで行動指定の魔法方程式を構築してもらった甲斐があるというものだ。
 あの日、セージさんは自分の意志で酒場に来たと思っているかもしれないが、実際は違う。俺が彼に呪いをかけたのだ。人肌が恋しくなる呪いを。そうじゃなきゃ、この大都会ゲルトシュタットで偶然、セージさんと行き合うわけがない。

「ルゼイオ……腕を上げたな」
「くっ!」

 鍔迫り合いはリヒター団長の勝ちだった。
 俺は手合わせの最中に気が逸れたことを恥じた。実戦であれば、命を失っていただろう。
 木剣を抱えたままうなだれていると、リヒター団長に肩を叩かれた。

「先ほどの鍔迫り合い。すさまじい気迫を感じたぞ。以前のおまえとは違うな。ルゼイオ、心境の変化でもあったのか?」
「……好きな人ができました。今、その人と交際中です」
「ほう。それはめでたいな」
「どうしたら団長みたいに、惚れた相手と結婚できますか?」

 リヒター団長は「そうだな……」と顎に手を添えた。ふとした仕草が絵になるお方である。

「つねに相手を思って行動すること。これに尽きるんじゃないのか」
「団長らしいお言葉ですね。俺は自分のことしか見えていません……」
「そうか。俺にもそういう時期があったよ。恋は人を狂わせる」
「……本当にその通りですね」

 セージさんが絡むと、俺の理性は飛んでしまう。汚い手を使ってでもいいから、あの人のことを手に入れたいと考え、実行してしまう。
 俺は早くセージさんとカラダを繋げたい。
 あの白い肌に愛咬の痕をつけたい。桜吹雪みたいにたくさん。セージさんが鏡を見て泣いてしまうほどに色濃く。
 セージさんを俺の腕の中に閉じ込めて、俺の名前しか呼べなくしてしまいたい。セージさんの全身を俺の精液まみれにしてしまいたい。
 セージさんは処女ではないらしい。
 男の味を知り尽くしているのだろうか。あんなに清らかな顔をしているのに。
 くそっ。ゲオルグめ。
 俺のセージさんを汚しやがって。

「……ルゼイオ。食堂で水を飲んで来たらどうだ。随分と疲れた顔をしているぞ」
「失礼します!」

 リヒター団長のような人には一生分からないだろう。団長は奥さんと愛情にあふれた家庭を築き上げているらしい。夜になっても団長は奥さんの嫌がることはしないに違いない。
 俺は……セージさんに俺の性癖を植え付けたい。
 ベッドの上で、セージさんにしてもらいたいことはいっぱいある。汗だくになった俺の陰茎をえずきながら舐めてほしいし、嫌がりながらも精液を全部飲み込んでもらいたい。
 ナカを責める時は奥の奥まで貫いてしまいたい。「子宮ができちゃう」とか、「孕んじゃうよぉ」とか、涙目になりながら淫語を口にするセージさんの顔に俺の濃くて熱いモノをぶっかけたい。

「ルゼイオ、お疲れ」

 食堂には先輩たちがいて、稽古帰りの俺をねぎらってくれた。

「手合わせをしていただきました。リヒター団長と」
「おまえって本当に真面目くんだな」
「団長も元気だねぇ。まだ強くなる気か、あの人」
「恋女房にいいところを見せたいんじゃないの。昼も夜も……」

 先輩たちが意味ありげな微笑みを交わす。男だらけの集団では色っぽい話題が好まれる。
 
「それでさ、ルゼイオ。今度、王立研究所の事務の子たちと飲むことになったんだけど、おまえも来ないか?」
「すみません。俺には決まった相手がいるので」
「そうなの? 知らなかった」
「幸せだな、その子。おまえみたいな実直な男に出会えて」
「相手のこと、大事にしろよ。俺たちが命を賭けて戦えるのは愛の力があるからだ」
「そうですね。絶対に幸せにします」

 俺は外向きの笑顔を浮かべながら、セージさんのアソコの締まり具合について想像した。開発済みだからガバガバなのかな。それとも長らくセックスから遠ざかっていて、キツくなっているんだろうか。
 早くセージさんの後孔をのぞき込みたい。
 恥じらうセージさんのナカに思いきり精液を叩きつけたい。みちりと狭い肉筒が飲みきれなかった精液は全部、上のお口でごっくんしてもらおう。
 ああ、セージさん。
 愛してます。
 幸せの形って、人それぞれですよね。だからきっと、あなたも俺の性癖を理解して、受け入れてくれると信じています。
 ……今度のデート、楽しみだな。
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