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その頃、護衛の諜報員の苦労

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ウィリアムとジュリエットが2人で初めてのデートを楽しんでいる間、2人を護衛する役目を与えられた諜報員であるヴィルは2人を陰で見守っていた。


いいなぁ、2人とも幸せそうだし会ったばかりの割にしっかりカップルだよなぁ。
って言うかウィリアム様も普段見ないような笑顔出てるし、ジュリエット様凄いな。


そんな尊敬の念も抱きながら2人の後を追うが早速2人の身に危険が!

それはアクセサリーショップを出てウィリアムにプレゼントされたブレスレットを笑いあって見ている時のことだ。

昼間から酒を呑んでベロベロに酔っ払った若い男性が僻んで難癖付けようとしていたのだ。

「チッ、こんな真っ昼間からイチャイチャしてんじゃねぇよ!」

そう言ってウィリアムに掴みかかろうとした男性の肩をそっと引き寄せてなんとか、ウィリアム達に気付かせないことに成功した。

「何だ貴様は!突然ビックリさせやがって!」

成功したはいいが今度はこちらに矛先が向いてしまったため、慌ててフォローする。

「まあまあ、こんな所で騒ぎを起こして騎士団が来たら大変ですよ。それに万が一にでもやられてしまったらあっちにいい格好させるだけになるんだから放っといた方がいいですよ。」

「あぁ?俺がやられるって言いてぇのか!ふざんなよ!」

「万が一と言っているでしょう?それにこれ以上貴方に付き合っている暇は無いんですよ。これ以上突っかかるようなら本当に騎士団お呼びしましょうか?」

最初はにこやかに喋っていたが急に無表情になったヴィルに恐怖心が煽られたのかなにも言えなくなり「くそっ!」と吐き捨てて去っていった。

男性を見送ると急いでウィリアム達を探す。


俺がいない間に何かあったら大変だ!アーノルド様とかにどやされる!


キョロキョロと周辺を見回すと幸いなことに近くの露店で買い物していた。

どうやら東の国の物を扱っているらしい。


最近この辺も他国の物を扱う所増えたよなぁ。
東の国って確か最近流行ってるよな、和柄?とか言うものが慎ましいとか何とか。
確かにこの国には無いデザインだよなぁ。


そんなことを考えていると視界の片隅にアイスクリームを持った5歳くらいの男の子が余所見をしながら歩いてくるのが見えた。

親はどこにいるのだろうか、子供の近くには見当たらない。

もしその子供が真っ直ぐ歩いてきたらジュリエットにぶつかってしまう。
そしてアイスを持っているのだからそれもジュリエットのドレスにべっとりと着いてしまうだろうということが予測できた。

子供がぶつかるだけなら100歩譲っても許せても流石にドレスを汚すのは避けたい。

2人のデートの為再びヴィルは動き出す。

「僕、前を見てないと危ないよ?」

そう言ってニッコリと笑い男の子の足を止めさせる。

「お母さんとかお父さんは一緒じゃ無いのかな?」

その言葉を聞いて親のことを思い出したのかキョロキョロ見回すと目に涙を浮かべる。

「ママがいない…。」

泣かれては困ると慌ててあやすヴィルは多少この場から離れてもウィリアムなら大丈夫と判断して、親を探すことにした。

本来護衛なら離れてはいけないと思うのだが、ウィリアムは多少護身術も付けているし大通りで問題は起こらないだろうと考えての判断だった。

「俺の名前はヴィルって言うんだ、君の名前を教えてくれるかな?」

「僕ハルって言うの!」

「ハルって言うのか。それじゃあハル、お母さんを俺と一緒に探そうか!どっちから来たんだ?」

「あっちだよ!」そう言って指を差したのはジュリエット達が先程立ち寄ったアクセサリーショップの方だった。

指された方向へハルと手を繋いで進む。

「どうしてお母さんとはぐれちゃったんだ?」

「ママ、お友達とお話ししてて僕横でアイス食べてたんだけど蝶々が飛んでて綺麗だったから追いかけたんだけど、途中で見失っちゃって。」

「そうか、これからはお母さんに黙っていなくなたらダメだぞ!お母さんハルが急に居なくなるとビックリするし心配になっちゃうからな。」

「ごめんなさい。」

そう言って落ち込んだ様子のハル。

どう励ますか考えているとハルが「あっ!」と声をあげる。

「お兄ちゃん、ママいたよ!」

そう言って母親に向かって手を振る。

ハルを探しているのだろうキョロキョロとあちこちを探す母親も気がついたようでホッとした様子でこちらに近付いて来た。

「ハル、探したのよ!どこへ行ってたの!」

「蝶々探しに行ってたの。お兄ちゃんがママの所まで連れてきてくれた!」

ハルの言葉に母親もヴィルの存在に気が付いたようだ。

「すみませんでした、息子がご迷惑をおかけしたみたいで。」

そう言って頭を下げて謝る母親。

「いえいえ、お気になさらず。息子さんが無事に見つかって良かったです。」

「本当にありがとうございます!何か御礼をさせて下さい!」

「御礼だなんて気にしないで下さい。それでは俺も急いでますので失礼します。」

ペコペコと何度も謝ってくる母親に気にしないように伝えて、ハルに手を振ると護衛の任務に戻る為に来た道を戻って行く。

「お兄ちゃんバイバーイ!」

そんなヴィルにハルも手を振って応えた。

足早に来た道を戻ると丁度ウィリアムとジュリエットが店から出てきた所だった。

チョコレート店だろうか、扉が開いた瞬間甘い匂いが漂ってきた。

特に何も起こらなかったようで安堵していると隣に立っていた70歳程の女性が「引ったくりよ!誰か捕まえて!」と叫んだ。

女性は叫ぶと同時に犯人に突き飛ばされたようで咄嗟に支える。

引ったくり犯はそのまま走り去っていくが、その先にはウィリアム達がいた。

ヴィルは護衛の任務を果たす為追いかけようとしたが女性は足を捻ってしまったようで動けない。

そうこうしているうちに引ったくり犯がウィリアムに退け!と刃物を振り上げた。

周りの人はみんな刺される!と目を瞑るがウィリアムは、振り上げた手をサッと掴み走っている勢いを利用して背負い投げをした。
そしてそのまま素早く押さえ込んで動けないようにする。

ウィリアムが制圧したのを見て支えていた女性を他の人に託して、急いでウィリアムとジュリエットの元へ向かう。

「ウィリアム様!ジュリエット様!お怪我はありませんか!?」

それにウィリアムが「問題ない。」と答えるとジュリエットも

「ウィリアム様、カッコ良かったですわ!あっという間に相手を倒して凄いです!それに今買ったものもさりげなく私に渡して潰れないように配慮して下さってありがとうございます!」

そう言ってニッコリと笑った。

「気にするな。」

そう答えたウィリアムもまんざらでもないようだ。


無表情が多かったからジュリエット様に誤解されないかと思っていたけど、案外好きな人の前では表情崩れるんだな。


そんなことを考えていると他の人が呼んだのだろう、騎士団の者が近づいて来た。

「ウィリアム様、説明とかは俺がやっとくのでデートに戻って下さい。」

気を回してそう言ったのはいいが、暫くウィリアムのそばを離れて説明をしていくと言っているのだから護衛のやる事ではない。

だが仲睦まじい2人の初デートの邪魔はしたくなかった。

「だけどあんまりここら辺から離れないで下さいよ、俺後で見つけれなくなっちゃうんで。」

そう言うヴィルにジュリエットが「気を回して下さりありがとうございます!」と礼を言う。

ウィリアムも「わかった、ありがとう。」と少し表情を綻ばせて言った。

「はい!それではくれぐれも俺のいない間に怪我とかはしないで下さいよ!アーノルド様にめちゃくちゃ怒られるんで。」

そう言ってヴィルは騎士団員のもとへ向かう。

護衛は大変だが、主人の幸せそうな姿を見ると頑張れる気がした。


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