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庭師のお祖父様

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庭に出るため玄関ホールへ向かう。

「そういえば、このお屋敷にはウィリアム様と使用人の皆さんが住んでいるのですか?」

「そうだよ、ハーロック公爵家に仕える騎士団の宿舎は別で訓練所や厩舎と同じ敷地にあるからね。といっても非常時に直ぐに駆けつけられるよう公爵家を出て直ぐ隣だがね。」

「ウィリアム様のお父様はお亡くなりになったのだと伺いました。他のご家族の方は一緒に住まれてないのですか?」

使用人達への挨拶ばかりに気を取られており、肝心の家族への挨拶をしていないことに気がついたジュリエットは疑問を口にした。

「ああ、そのことか。母上は父上が死んでから気を病んでしまってね、後を追うようにして病気にかかって死んでしまった。祖父や祖母も私が幼い頃に亡くなっていた。後は叔父夫婦だが、彼らは自分達の領地があるからそっちにいるよ。といっても結婚式の時に会うくらいで関わりはないと思うが。」

「そんな事だとは知らずに無神経に聞いてしまってすみません。」

申し訳なさそうに謝るジュリエットに気にしなくていいと笑うウィリアム。

「叔父夫婦とは上手くやれなくてね、もしかしたら結婚式で何か言われるかもしれないが何かあったら直ぐにいってくれ。」

「わかりましたわ、お気遣いありがとうございます!」

「気にしなくていい、私達は夫婦になるのだからお互いに遠慮なしで行こう。」

そう言いながら玄関ホールの扉をあけ、庭に出る。

「そういえば、もう1人。今は別件でこの屋敷にはいないが弟が結婚式までには帰ってくる。」

「まあ、それでは私の弟になるのですね!お会いするのが楽しみすわ!」

「ああ、弟も君に会えるのを楽しみにしていたよ。急な事で残念がっていたよ。」

そう言いながら庭の奥にある小屋へ誘導するウィリアム。

ジュリエットも庭に咲く花を見ながら後へ続く。

「また時間のある時にゆっくり見て回ろう。」

言いながら小屋の戸を開け中にいる人を呼ぶ。

「紹介しよう、この家の庭師のトーマスだ。私が幼い頃からこの屋敷で庭師をやっていて、今では彼が1番長く仕えてくれている。」

その言葉の直ぐ後にその人物は姿を現した。

60代ほどの彼は白髪の髪を一つに縛り丸い眼鏡をつけている。
腰が曲がっており小さく見え、庭仕事をしている手は土で汚れゴツゴツしている。

「こんにちは、若奥様。お会いできて光栄です。」

ニッコリと笑うトーマスは暖かく、故郷の祖父の姿を思い起こす。

「こちらこそ、お会いできて嬉しいですわ。想像通りお優しそうな方でよかったですわ。」

ニッコリと笑うジュリエット、場を和ませるような雰囲気に好感を持った。

「おやおや、そう言って頂けて良かったです。若旦那様は勝手に孫のように思っていたので、穏やかそうな方で安心しました。」

それを聞いたウィリアムは嬉しそうに顔を綻ばせる。

「ウィリアム様もトーマスさんのことを祖父のようだと言ってましたわ。そう思い合える関係を築けるのは素晴らしいことですわね!」

悪戯げに笑うジュリエットはどこか寂しげに見える。

「若旦那様にそう思って頂けていたとは光栄です。」

そう言いウィリアムに目配せするトーマス。

「私がトーマスの孫ならばその妻になる君も同じく孫になるな。」

ウィリアムもジュリエットに小さく笑いかける。

「嬉しいです!私もお祖父様おじいさまと思ってもよろしいですか?」

「勿論です。こんな老いぼれが若奥様のような方にお祖父様と思っていただけるとは、みんなに嫉妬されてしまいますね。」

そう言い優しく笑うトーマス。

ジュリエットは遠く離れた故郷にいる家族を思い出す。
ハーロック公爵家で会った人はみんな優しくしてくれるし、ウィリアムも会ったばかりとは思えないほどジュリエットを思いやってくれる。
だが父や母、祖父母のようなこちらを無条件で愛してくれる、包み込んでくれる者達と気軽に会うことのできなくなってしまったことに寂しさを感じていた。
トーマスを祖父と慕い、トーマスも孫と言う関係が素直に羨ましく思ったのだ。

そんなジュリエットの気持ちもウィリアムとトーマスにはお見通しだったようだ。

「お二人とも、ありがとうございます!」

そうお礼を言うジュリエットに2人は何のことだ?と首を傾げる。

そんな2人を見て優しい人達だわと心の中で思った。

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