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再会編

満ちる黄金の夢 4

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月日が流れると、彼は多忙になり足は遠ざかったが、心の距離は近付いた気がする。

僕も想いを隠すことに慣れてきて、今以上を望む事はなくなったからだろう。

そんなある日の事だ。





「王族としての自覚がないのか」

庭のベンチで横になり、本を読んでいたら突然陽が翳った。人が太陽光を遮ったからだと認識すると同時に、影を作った王太子から冷たい言葉を投げかけられた。

僕は頭の上に立つ兄へ上目に視線を向ける。
兄の瞳は王妃譲りの菫色だ。可憐にも見える柔らかな紫が、随分と冷たく光っていた。

「僕?」

「お前以外に誰が居る。まともに外に出ず、出たと思えばそうやってダラダラとだらしない。せめて服くらいちゃんと着ろ」

そう言われて僕は自分の身体を見下ろす。南部地方から贈られた民族衣装を模したガウンのような衣裳だ。確かに胸元が大きくはだけているが、特別崩してはいない。

「これはこう言う服だよ」

「ちっ」

起き上がり、座ったまま袖のない腕を広げる。王太子は思いっ切り舌打ちをした。

「どうせ男に媚びを売る為の服だろう」

顔を逸らして吐き捨てられた言葉に僕は目を見開いた。

「すごい事言うんだね」

「こそこそと男と会っているのは事実だろ。城の中で噂になってるぞ」

「そうだとしても言い方ってものがあるじゃないか。貴族らしくもう少し遠回しにさ」

「王族の誇りもないお前が貴族を語るか。片腹痛いな。後継も作れない男を愛人にするとは、王太子になれないからと自棄になってるのか」

「そんなんじゃないよ、一緒に居たいから一緒にいるだけだ」

「…自分の立場を弁えろ。そんな我儘がいつまでも通じると思うなよ。せめてやるべき事をやれ」

苛々している兄に向かって、とびきり無能に見えるようにきょとんとして見せた。

「僕に出来ることは可能な限りやってるよ、でもほら、僕は兄さんほど優秀じゃないから」

「だったらせめて王族の恥になるような事はやめろ」

「愛する人と一緒にいる事が恥か…前言撤回する、やっぱり兄さんは貴族らしい貴族だ」

しみじみと言いながら、片膝を立ててだらしなくベンチに凭れる。兄はますます苛立ったようで、奥歯を噛み締めたのか頬に血管を浮かせた。

兄も綺麗な顔立ちをしてるのに、無表情か不機嫌な表情しかしない。幼い頃はもう少し笑顔を見せてくれていた気もするが、夢だったかもしれないと思うくらいだ。

「兄さん」

ただひとつ、言えることは

「僕は兄さんの邪魔をする気はないよ」

これが本音だと言う事だ。

「だったらもう少し人目を気にしろ、お前の存在が既に邪魔になってると分からないのか」

顔をひしゃげて兄は吐き捨てるように言うと踵を返した。

「あ、そうだ兄さん」

僕はもう一度呼び止める。兄はなんだかんだ、無視したりはしない人だ。案の定足を止め、目線だけ向けて来た。

「なんだ」

「婚約者達にも、もう少し目を掛けてあげなよ。忙しいのは分かるけど」

「お前に言われる筋合いはない」

それだけ言うと兄は今度こそ去って行った。

「……それがね、あるんだよ。筋合い」





そんな話をした数日後の事だ。

僕は自室で倒れた。
部屋に用意されていた紅茶を飲んだ直後に。

油断していたとしか言いようがない。
紅茶のセットを用意してくれたのはいつもの僕専属のメイドだったし、毒物に反応する識別具にも反応はなかった。

ああ、もうすぐジンが来るのにな

暗くなる意識の中で、それだけを残念に思った。



.
.
.


緩やかな意識の浮上、それは寝起きの感覚と同じだったが、いつもより瞼が重かった。

「………う、…」

声を出した自覚もなく漏れた声は、ひどく掠れていて小さい。遠くで何か重たいものが落ちる音がしたが、目を開けて飛び込んできた、ジンの顔に意識を奪われる。

「ユリウス!」

「………ん…、ジン…?…どうしたんだい、顔色が良くない、よ……っ!?」

抱き起こされていたのだが、ジンが強く僕の頭を胸に掻き抱く。突然の抱擁にユリウスは少しぽかんとしてしまった。

「………え…?ジン…?本当に、どうしたんだい?あれ、お前達…全員集まって……カロ?カロもどうした?」

無言で強く抱き締められ、困惑した。添い寝の時以外に抱き締められた事などなかったから。
ジンの肩越しに、カラス達が集まっているのも見えた。

ジンが来るので早めに遠くへ待機させていた。最近ではそれが通例になっていたから。

集まっていると言う事は、不測の事態が起こったと言う事だ。それにしても異様な光景だった。

カロがネロとガラの間で床に四つん這いになり、床に向かって咳き込みながら荒い呼吸を繰り返しているのだ。ひどく苦しげな息遣いに心配になった所で、その視界をジンの顔で遮られた。

近い。

「ユリウス、どこか異常はないか?指は動くか?痛いところは?」

「え、い、いや……特には」

珍しく焦燥感と不安げなジンの顔。呆然と眺めているユリウスの額を撫でるように、ジンの指が優しく髪を掻き上げた。

どうして彼がこんなにも甘い行為をしてくるのか分からずにいたが、そこで漸く、紅茶を飲んだ時のことを思い出した。

「…あ、僕、気を失ってた……?」

「………」

ユリウスの問いにジンは答えなかった。と言うか、何と答えるべきか少し考えあぐねているようにも見えた。だがすぐに、口を開く。

「…心臓が止まっていた、呼吸も」

「………それは、気絶じゃないね」

死んでないか?とは、あまりに現実味がなくて言えなかった。だってそれはつまり、死んでた僕が僕の死を確認することになるのだから。

意味不明過ぎる。

「…ユリウス、あの紅茶から毒の匂いが微かにする。お前の口からも。飲んだだろう?」

ジンの指先が床に落ちたティーカップを差す。僕は指し示す方向を見ようと、ジンの腕から身を起こそうとした。だがグッと肩を強く掴まれていて叶わなかった。離す意思のない手の力に、少しだけ胸がときめいた。

そんな場合ではないと、すぐに顔だけをカップの方に向ける。

「ああ…そう、そうだ。あれを飲んだ瞬間、心臓が痛くなったんだ。息も出来なくて………死を覚悟したんだけど、生きているね?」

やっと全員の奇妙な視線の意味を理解し、冷静になった事で素直に首を傾いだ。
ジンはジッと僕の顔を見つめる。その視線の強さに、押し殺している恋心が反応してしまい、微かに頬が熱くなる。

「良かった、生きてて」

優しい眼差しとその声が、柔らかく鼓膜を震わせる。心臓が甘く高鳴る。痛みのない、でも胸が苦しくなる強い拍動。
だがもっと気になったのは、彼の不安に塗れた赤い瞳だ。いつもより赤いのは彼が興奮している証拠だった筈。

「心配を掛けたようだね、大丈夫だ。どうやらこの毒は僕には効かなかったみたいだ」

宥めるようにジンの頬を撫でてみた。拒絶はされないだろうが、無反応だろうと思っていたのに、ジンは頬を手に擦り寄せた。

まるで愛しい人にするような態度に思えて、僕にふたつの感情が込み上げる。

どうしようもない愛しさと、それを打ち消すような不安感。

期待するな、と頭が心を叱咤する。

どちらの感情も出さないように優しく微笑み返す。

「ジン、本当に大丈夫だから。そろそろ立ち上がりたいな。このままじゃ何も出来ないよ」

「……そうだな、ごめん」

僕の言葉にジンの手が頬から離れたが、腰と手を支えてくれる。その手に甘えつつ立ち上がった。
やはり異常はない。

足元のカップを拾い上げ、匂いを嗅いでみた。

「うーん、僕には分からないな。何の毒とかも分かるかい?」

「いや、生憎と毒とは縁がないもんで。ただ嗅いだことのある匂いなんだ。魔物の毒ではあると思う」

「そう言えば、君は毒耐性があるんだったね。効かないから毒について調べることもないのかな」

「毒を毒と知らないままだった事もある、それくらい効かな…………」

あまり触るな、と言うようにジンにカップを取られた。離れていくカップを何気なく見ていた目線は、言葉尻が消えたジンの口元に移る。

「…付随したか、ドラゴの特性が」

「え?」

「愛属と従属間でも特性が付随するなら、毒耐性を付随された可能性がある。俺を介するから、効力は弱くなるのかもしれないが……」

ジンはカップの中を見る。
ロキは常々、何か特性を付随していないかと色々と試していた。愛属の付随は鑑定には反映しないので、試してみるしかないのだと。
一度弱い毒を摂取し、熱を出したロキを思い出す。顕現しないし予兆もないしで、ロキは熱に浮かされながら恨み言のように愛属特性についてぶつぶつ言っていたのだ。

何かを思い出しているジンの横顔を眺めても、頭の中を覗く事は出来ない。近くにいたセヴに顔を向ける。

「…取り敢えず、毒の検査をしようか。セヴ、頼む」

ジンに対して何故か引き気味のセヴだが、ユリウスの声にはすぐにいつも通りの目付きになった。「は、」と低い返事の後、カップとティーセットを持って消える。

「宮医と神官を呼びましょうか」

「そうだな、念の為に診て貰った方が良い」

ガラの提案にジンも頷いたが、僕は少し考えた後に首を振った。

「いや、大丈夫だ、本当に毒を飲んだのか疑わしいくらいに僕は元気だよ」

「ユリウス」
「殿下」

ジンとカラス達の声が被った。

「まあ、待って。ジン、君がここに来た時、他に誰か居たかな?」

「いや、誰も」

「だよね、毒を仕込んだ人間は毒を飲んだか確認する事は出来なかったと思うんだ。僕に僕だけのカラスが居ることは知ってるだろうから、カラスを使うことは避けた筈。見抜かれちゃうからね。
因みにこれを持って来たのは僕専属のメイドだ。一応後で彼女の身も洗うけど、多分シロ」

僕は小説の名探偵にでもなった気分で気分が昂った。実際、色々と考えるのは楽しい。

「僕は偶々廊下にいた別のメイドに、お茶の準備をお願いしたんだ。ティーカップはふたつって言ってね」

以前からそうやって、愛人の存在を仄めかしていたから。

「愛人の来訪は使用人達の間で予想出来た筈なのに、わざわざこのタイミングって事は…犯人の狙いは僕でも愛人でも、どっちでも良かったんじゃないかな。どちらにしても、2人きりの状況で片方が死ねば、片方を犯人に出来る。だから無関係な人間はここに居ない方が都合良い。
犯人は遠くで待ってるんだよ、助けを求める僕達を、今か今かと」

ふふ、とユリウスは笑って、椅子へと腰を下ろした。

「きっと騒ぎに便乗して犯人が様子を見に来るつもりだよ」

「誘き寄せるか?」

「ううん、放っておこう」

にこやかに言うと、全員が「え?」と驚いた。

「どうせただの実行犯だからね。第一発見者になって疑われたら、首謀者の計画が破綻するだろうから、見には来ないだろうし。
……今日は偶々家族での食事会だ。そう、偶々ね。折角ジンが来てくれるって、前もって分かってた日だから残念に思っていたんだけど、おかげで楽しみになったな」

食事会の間、ジンは部屋で待ってて貰うつもりだった。用がある時は、いつもそうしているから。

ジンもカラスもその時、漸くユリウスの真意に気付いた。

「それは少し、俺も見たいな」

ジンの言葉にカラス達も小さく笑った。

何故かカロだけは、ジンを恨みがましく睨み付けていたが。



.
.
.



晩餐の時、国王、王妃、王太子、そして王太子の婚約者3名が長い食卓を囲んでいた。残り一席、皿の上に三角に畳まれた青いテーブルナプキンが空席を示している。

「…ユリウスはまだか?」

既にメインの肉料理が運ばれて来た。国王は姿を見せない息子が気掛かりだ。普段は殆ど自室から出て来ないが、食事会だけはきちんと参加していたのに。

執事が恭しく頭を下げ、ユリウスの様子を見に行こうと踵を返した。扉を開けようとした瞬間、先に外から開かれた。廊下に立っていた護衛騎士が開けたのだ。

きっちりと着込まれた紺色に金細工のスーツ、いつもより整えられた癖毛は蜂蜜の色を濡らしている。ビスクドールの二つ名は、彼の為にあると言っても過言ではない、美しい姿でユリウスは食堂へと入った。

「おお、来たか。待っていたぞユリウス」

「お待たせしてすみません。少し立て込んでおりまして…」

国王に向かって頭を下げた後、ユリウスは食卓に座る一同をザッと見渡した。全員手が止まっている。その中で、1人だけ微かに食器を震わせている者がいた。

王妃だ。
化粧をしていても隠せない動揺。
報告がない事にさぞ苛立っていただろうし、報告がないのはまだ見つかっていないか、どちらかが逃亡したのかもと希望的観測で心を宥めていたのかもしれない。

ユリウスに驚きはない、ただ固まった彼女に少し溜飲が下がるだけだ。
目を合わせ、ユリウスが微笑むと、王妃は唇を震わせた。まるで幽霊でも見たような顔だ。

感情を隠せないのは、王族として未熟ですよ。

そんな事を考えていると、冷たい声が飛んで来た。

「早く座れ」

王太子だ。ユリウスを見もせず、既に食事を再開していた。その態度は至って平常だ。

「仕事の邪魔をしてやるな」

使用人達への気遣いの言葉だ。ユリウスの為に執事が椅子の後ろで待機しており、ワイン瓶を片手に待っている従僕もいる。他にもユリウスの到着により、それぞれが次の動きの為に静かに待機しているのを肌で感じた。

「ああ、そうだね」

ユリウスは執事が引いてくれた椅子に腰を下ろし、従僕が注ぐワインを眺めるフリをしながら、王太子を見た。

もしかして、王太子、兄は、暗殺には関わってないのだろうか。

そんな予感が過った。
今回の毒殺計画を知らなかっただけかもしれない。それでも、この予感を完全に拭い去ることが出来ない。

兄は王妃の味方で、王妃と同じく自分の存在を疎ましく思い、消し去りたいと思っているーーーそう思っていたのは間違いだったのだろうか。

早計かもしれない。
それこそ希望的観測かもしれない。

分からない、警戒は変わらず怠らないようにしようと思いつつも、今日の料理はいつもより優しい味がして、王妃の事など気にならなくなった。

もしかすると、カラスに扮したジンが屋根裏から見守っているからかもしれないが。


.
.
.


「あれはバジリスクの毒でした」

部屋に戻るとセヴが既に戻って来ていた。ネロから仮面を借りていたジンが、仮面を返しつつセヴを見る。

「ああ、バジリスク。そうだ、噛み付かれた時に牙からあの匂いがしたんだ」

「…………バジリスクは全身毒と異名がある魔物で、中でも最も強い毒性を持つのが牙からの毒液です。他の部位の毒と違い、牙で引っ掻かれただけでも致死率100%と言われています」

セヴはジンの発言を聞かなかった事にして説明を続けたが、他4名はジンを横目に見た。普段感情を出さないくせに、その目にはありありと「バケモン…」と恐怖なのか非難なのか分からない思いが込められている。
どっちもどっちではある。

「即効性があり、体内に入ると血管に吸収され、血液を凝固して心臓を止める作用があるそうです。表面に出る症状が殆どないようで、傍目からではただの心臓発作に見えるようです」

「バジリスクは綺麗好きだからな。他の毒も動きを止めるものばかりで、出血や嘔吐を起こして獲物を汚すような毒はない。まあ、その割に血みどろになる攻撃してくるけど。にしても、バジリスクの牙毒は入手が難しいんだ。生きたバジリスクからしか取れないから。入手ルートは限られると思うが、調べるか?」

カラスの服から緩い私服へと着替えたジンが、ソファに座るユリウスの隣へ腰掛けた。

「うーん…この場合、犯人探しに意味はあるのかなぁ」

首謀者は王妃で間違いないだろう。それでも彼女の名前がどこかに残ってるとは思い難い。

仮にあったとしても、僕は王妃を訴えるつもりはない。今まで通り、何も知らない顔で生きるだけだ。

「それより問題は、使われたのが魔物の毒って所だよね。愛人が冒険者だとバレてるのかな?」

「いえ、色々と噂はありますが、有力なのは密偵組織…我々の中にいるのでは、と言う噂です」

「ああ、成程ね。…気を付けてね、疑われてると言うことは君達を狙う輩が現れるだろうから」

「我々のことはご心配なく。何があろうと口を割る事はありません」

ユリウス専属カラスのリーダー格であるカルが言うと、他4名からも無言のままだが気迫が伝わって来た。

ユリウスは笑う。

「そんな事心配してないよ、君達の心身を傷付けられるのが嫌なんだ。君達は僕のものだから。僕以外の人に呼び付けられても応えなくて良いからね。それ以外にも何かあったらすぐに言うんだよ」

優しい声にカラス達は頭を下げた。

「毒の事はもう良いかなぁ、今日はありがとう。休んで良いよ」

「殿下」

その言葉にも再度頭を下げ、姿を消そうとしたカラス達の動きを止めたのはネロの声だ。

「なんだい?」

「殿下の息がない時の、隣の男の慌てっぷりを咎めておいてください。カロの心身を傷付けました」

「え?」

「それと、今後はジン殿の到着を確認後、入れ替わりで持ち場を離れることにします。よろしいでしょうか?」

「……え、あ、うん。そうだね、その方が良いね」

「では失礼します」

ふっとカラス達は消えた。

ユリウスは新しく用意させたティーセットから、自ら紅茶を注ぎジンに差し出す。ジンはネロが立っていた場所を見詰めていたが、紅茶へと顔を向けた。

「……君にも心配掛けたね」

「いえ、無事で良かった」

紅茶を受け取るジンをユリウスがジッと見詰める。

「…慌てっぷりってのは?」

「少し取り乱した」

「カロの心身を傷付けたってのは?」

「………申し訳ないと思ってる」

「………そっか」

「カロにも詫び入れるよ」

「そうだね、そうしてあげて」

後で詳細をカラス達に聞こうと思いながら、気まずそうに紅茶を飲むジンに小さく笑った。珍しい態度だ。

「………いや、マジで悪かった。本当に取り乱した。お前が死んだと思って」

態度を反省し、ジンは紅茶を下ろすと改めてユリウスへ謝った。
ユリウスは長い睫毛を羽ばたかせるように瞬いて微笑んだ。

「うん、しょうがないよ。依頼人を守るのは君の義務だからね」

「……依頼人」

「…うん、君が前言っただろ。『依頼人』って」

安心させたくて言ったのに、ユリウス自身の胸が傷んだ。馬鹿みたいだなと思って、ジンから目を逸らす。

ユリウスはジンの何か言いたげな視線に居た堪れない気持ちになってしまう。

嫌味や皮肉のように聞こえたならごめん、違うんだ

そんな言い訳を胸の中だけでしつつ、さりげなく別の話題を振った。




『今』を大事にし過ぎて、心が頑なになっていた。
想いが募るほど不安も増えたから。

幼少期から心を誤魔化すのには慣れていた。
大事なのは僕の感情ではなかったから。

だからこのままで良い。

そう思っても、君に帰る場所が増える度に押し寄せる不安が時に心を蝕む。


僕だけが、君の家になれない。


僕の目的が達成されたら、君はいなくなってしまうのかな。おかしいな、目的の為の手段ジンだったのに、手段ジンが目的になりそうだ。



ブレ始めた心を、僕は今日も見て見ぬふりをする。

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