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再会編
雨音に消えた夜14
しおりを挟む霧雨の中、ジンが差し出した掌。
『ほら、行こう』
先生へ会いに。
学生時代、世話になった。卒業後、教師を辞めて魔術師に転向した先生。
会いたいと思って、ジンの手を当たり前に掴もうとして、初めて罪悪感を感じた。
ヒトを殺した。それも家族を。兄嫁は血筋ですらないけど。
後悔はしてない。
だから、殺した事への罪悪感ではない。
じゃあ、過ぎった罪悪感は何か。
そんなの簡単だ。
「…先生に合わせる顔なんてねぇのに、助けて貰って………すみません」
自分自身に後悔がないとは言え、事情も言わずに助けを求め、協力させてしまった。ジンがあまりにも普通だった事と、変わったようで変わらないロキの態度に懐かしさや親しみを感じて、罪悪感を忘れていた。いや、見て見ぬふりをしたのだ。このまま尋ねられなければどうしたのだろうか。何も言わずに終わらせようとしたかもしれない。
「ほお、それは中々聞かない話だな」
テオドールの感傷を余所に、ロキは物珍しげな声で返事をした。まるで噂話でも聞く程度の感情。聞き間違いかと、伏せていた顔を上げ、ロキの顔を凝視する。いつも通りの感情の薄い、冷淡な美しい造形の顔しかない。
「家族殺しと首輪は何か関係があるのか」
「……あ、えっと…長くなる、んですけど」
「そうか、では座って聞こう」
聞き間違いをしたのは先生の方か、と疑った一瞬もあったが、はっきり『家族殺し』と言うから理解した上での態度だと分かる。向けられた背に戸惑っていると、振り返り「どうした、立ち話が良いのか」と不思議そうにされ、思わず首を振る。並んでソファに腰を下ろし、膝の上のキュウビを撫でながら、遡るように一連の流れを話した。先生は基本的には聞き役に徹し、時折、質問を投げて来るだけで、徹頭徹尾、態度が変わる事はなかった。
「成程、それで『身を潜める』などと発言に至った訳か」
「…あ……はい、正式に叔父とエディがハヴィ家を継ぐまでは、絶対に俺の生存がバレる訳にはいかないですし…」
「まあ、長男が正式に継いでなかったのであれば、継承権はお前が上だからな。成程、大筋は理解した。それで、今後はどうするつもりなんだ?」
「……今後…ですか?……え?その前に、なんかねぇの?俺、一応罪人…」
自分の胸を指差す。先生は指先を一度見た。そこに何かあるのかと不思議そうな顔で。その瞬間、何故ジンが先生に懐いてたのか分かった気がした。
「そう言われてもな、殺された側からすれば痛ましい事件だろうが、先に他者の権利を踏み躙っていたのは其奴らなんだろ?自分が同じ目に遭う覚悟くらい持っていなければな。鉄槌を下したのが裁判官ではなく、お前だったと言うだけだ。お前がやらなきゃ、ジンがやったろう」
「………それは……そうかも」
元々ジンは次兄を殺したいと物騒な事を言っていた。そして実際、次兄殺しでは手を貸してくれた。
「俺からしてみれば、顔も知らん他者よりもジンの方が大事だ。だからジンが誰かを殺したとしても、俺の立ち位置は奴の傍から変わる事はない」
「……」
冷淡な顔で事もなげに『ジンの方が』などと言うものだから、テオドールの方が照れ臭く頬が熱くなった。彼はこんな人だったのか。こんなにも熱い想いを胸に秘めた人だったのか。
そうか、想いは堂々と告げた方がかっこいいのか。
その方がこの熱い気持ちを伝えられるのか。
場違いな思考は、ロキの穏やかな目線で引き戻される。
「同士であるお前も同じだ。匿ってくれと言うなら、部屋を用意してやろう」
「えッ…」
「身を潜めるんだろう?魔塔は例え王族でも深部には入れない。此処は魔塔で2番目に高い場所だ。王国に限らず、如何なる国も手出しは出来ん。お誂え向きだと思うが」
その言葉で大きな窓へと顔を向けた。星の輝く月夜のカーテン。言われてみれば山すら見えない。ドラゴの背中から見た景色を思い出す。
「……魔塔って、どこにあるんですか?」
返事をした方が良いと思いつつも、出て来たのは幼い頃から気になっていた疑問だ。
魔塔。それは高い高い塔。山を超え、雲さえも突き抜ける。しかし誰も見つける事は出来ない。誰も辿り着く事は出来ない。その塔に踏み込めるのは呼ばれた者だけ。魔塔に選ばれた者だけ。
と言うような内容の話の絵本があるくらい、魔塔と言う存在を老若男女知っているにも関わらず、実際にその塔を見た者は居ないとされている。魔術師に用がある時は手紙が一般的だ。もしくは伝手、と言う形。どちらにせよ、魔術師が赴いて来るので魔塔を見る機会は依頼者ですらない。
ロキは拭いていた眼鏡を掛けて、レンズ越しに紫の目を細めた。
「空の上」
「えッ!」
先程までの罪悪感はどこへ。テオドールは童心が擽られて声を跳ね上げた。
「と言う噂もあるが、生憎とまだ地面に張り付いている。詳しい場所は言えない。決まり事だ」
そして童心はすぐさま消えてった。
「先生の言う通り、確かに魔塔は身を隠すのに最適そうですが……王族すら入れないのに、俺が居座って良いんですか?」
「嗚呼…まあ、規則違反だな。だが既にジンが居る。もう一人増えたからとバレやしないだろう」
「ジンの事も魔塔には言ってないんですか?」
「いや、ジンは魔塔主に許可を貰っているが…」
一瞬だけロキの声が澱んだ。
「……ありがと、先生」
ロキの気持ちが本当に嬉しかった。教員時代の彼は、文句を言いつつも学園の規定から大きく外れるような事は極力避けていたからだ。『ルールは破ると余計に面倒になる』と思っているようだった。
そんなロキが自分の為にルールを破ろうとしている。
「でも、大丈夫。俺、一応当てがあるんだ」
これ以上の迷惑を掛けたくない。
本当は当てと言える程のものではないけど、先生を安心させたかった。
自然と口から溢れた白い嘘。
先生は「そうか」と頷いた。残念そうにも見えたし、頼る先がある事に安心したようにも見えた。紅茶が入ったカップを勧めてくれる。俺は飲みながら、背後から注がれる視線を感じていた。
ジンが見ている。少し距離はあるが、聞こえてるんだろうな。
だから振り向いて笑顔で言った。
「ジン、連れてって欲しい所があるんだ。ドラゴにお願い出来っかな?」
「おねがい聞いたら何をくれる」
ジンより先にドラゴが返事をした。何か黒い物が乗ったパイを両手に持っており、口の周りはベタベタだ。
「あ、そか、お礼。そうだよな。今なんか持ってたかな…東部のお菓子で良い?」
『空間収納』に何か入れていた筈だ。
「おかし!ジン!オレ様がいい子だからおれいをもらえる。すごい!」
パイを握り締めた両手で万歳をするドラゴは、やっぱりドラゴだ。パイのカケラを溢しつつ、ジンの顔周りを嬉しそうに浮遊している。
「良いのか」
「うん、ドラゴ沢山飛んでくれたし。連れてって欲しい所はドラゴでも遠いだろうし。タダでってのは俺も心苦しいし。つって、大したもんじゃねぇけど」
「大丈夫、酸味が強い物じゃなければ何でも喜ぶ。最近は俺があげる褒美より、誰かに貰うお礼の方が嬉しいみたいなんだよ。…今のは半ば強制だったけど」
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「ああ、いや、あんま気にしなくても良いぜ。今日飛んだ距離くらいなら、ドラゴは疲れもしねぇし。…とりあえず、これどうぞ」
皿を2つ、ジンがテーブルまで持って来た。乗っていたのはブルーベリーパイだ。皿の端にはフォークもある。
ロキが買ったのであろう物を自分の物のように出しているが、「悪いな」と当たり前にロキが引き寄せたのを見て、この家の物をジンが自由に扱うのは普通の事なのだと理解した。
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「元シューゼント商会が経営していたパティスリーの物だ。元締めが変わったらしいが、相変わらず味は良いな。ジンもお気に入りだ。まあ、そもそもお前はシューゼント商会に関する店からしか物を買わんが」
「バレてたか」
鼻で笑われ、ジンも笑い返す。「品が良いからさ」とフィルと共にテーブルを挟んだ向かいに腰を下ろした。対面にはソファがないので、床に座っている。
「……シューゼント」
その名前が学友だったハンスを思い出させた。卒業パーティーの時だ。あんなに溌剌とした奴だったのに、笑顔を一度も見せなかった。俺達を明らかに避けていたし、気付いたら中盤から姿を消し、それから会っていない。退寮の手続きも早過ぎて、同室だった子爵家の息子も驚いていた。
「…なあ、ジン、ハンスと何かあった?」
会ったら聞きたかった事のひとつだ。名前が出たついでに聞いてしまおう。この先、聞くタイミングがあるか分からないから。
ジンは伏せたフィルにジャーキーをあげながら、苦笑いをする。
「ああ……さよならを言われた。卒業式の後に」
「えっ!?」
思わずデカい声が出た。慌ててフォークを握ってる手で口を隠す。ロキは知っていたのか、特に何の反応もない。突然の大声についても。そっとフォークを下ろし、もう一度尋ねる。今度は声を抑えて。
「え、…ハンスから?」
「うん、ハンスから。悪いのは俺なんだけどね」
端的な説明だ。きっと色々なことがあったんだろうが、ジンは言いたくなさそうだった。
だから頭の中に沢山の言葉が生まれても、口には出せなかった。
あんなに仲が良かったのに。2人で居る時、いつだって楽しそうにしていたのに。ジンの何が悪かったと言うのか。ハンスの心境を真逆に変えてしまう程の何かが、あの日あったと言うのか。卒業式のあの騒動の後、迷いもなく、誰よりも早くジンの後を追い掛けて、イルラも俺もパーティーの為に諦めた後も、ハンスだけは諦めずにいたのに。あの後に、何が。
ジンの顔を見る限り、明るい前向きな別れ(そんなものがあるかは分からないが)ではなかったと分かる。
「んっ!」
ジンの頬にブルーベリーパイが押し付けられた。ドラゴだ。「元気だせ!」ともう一度押し付ける。ジンは笑って、一口齧った。
「うん、美味い。元気出たよ、ありがとな」
「オレ様のブルーベリーだからな!」
満足そうに残りを頬張るドラゴにテオドールも心が軽くなる。ハンスについて話すのはやめておこう。
どうせ
俺はもう誰にも会えないんだから。
みんながみんな、先生のような考えではない。真っ当に生きている彼らの人生において、俺の罪は歪みになる。接触しない方が彼らの為だ。
黙っているとヌッと目の前にブルーベリーパイが入り込んだ。ドラゴがパイを突き出している。
「元気だせ!!」
ポカンとする俺に「ん!」と強く押し出してくる。
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あの瞬間から考えていた事だ
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「リパさんの所に」
眉を深く寄せ、ロキはジンに顔を向けた。ジンは真っ直ぐとテオドールを見詰めている。その目に驚きも戸惑いもない。寧ろ胸を打たれたような眼差しだった。
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「もう夜も遅い。今は脳味噌が興奮して自覚がないだろうが、2人とも疲労してる筈だ。今日はもう寝ろ。何処に行くにしろ、此処から『鍵』を使えば、ドラゴに長距離を飛んで貰う必要もないだろ」
「あ、そか」
全く思い付かなかったジンが閃いたように指を立てた。
どうやら『鍵』と言うのが魔塔に出入り出来る唯一の方法らしい。その鍵で開けられる『扉』が、各地に散らばっており、北部にも当然あるそうだ。
「扉からカプソディア家へ向かう時にドラゴに乗るのが、一番早いだろ」
と、言うので出発は明日にして泊まる事にした。
ベッドがひとつしかないと言われて、テオドールは爆散しそうなくらいに顔を赤らめたので2人に「何を考えてる」と散々揶揄われた。その広いベッドで、ジンを真ん中に男3人並んで寝ると言う、謎の状況にテオドールは挙動不審になったが、ドラゴとフィルも当たり前に乗って来たので、すぐに冷静になった。
キュウビはベッドに乗せようとすると手を引っ掻いて来たので、布を丸めて外が見える窓辺に寝床を作って置いてあげた。眠れてるのか分からないが、ずっと静かだ。
テオドールとジンとの間にドラゴが居て、ジンとロキの間にフィルが居る。奇妙で窮屈で、こんな寝方は生まれて初めての事で、テオドールは緊張した。少しひんやりとしてるように感じるドラゴの皮膚は気持ちいい。眠れるだろうか、と言う心配を他所に、テオドールはすんなりと眠りに落ちた。夢も見なかった。
因みに誰も風呂には入っていない。渋ったジンを見兼ねて、ロキが清潔魔術を連続で20回くらい掛けたので、降参したのだ。ドラゴが八つ当たりでジンを齧っていた。
.
.
.
翌日、北部の上空。テオドールはジンの着ているコートに包まれながら少しカタカタと震えつつも、思ったよりは寒くない事に驚いた。膝の上のキュウビが温かいからだろうか。
「キュウビの付随…では、なさそうだな。流石にまだ信頼度が足りてねぇだろうから。もしかしたら、ドラゴの『環境適応』か『体温維持』を付随したのかも」
「愛属って、そこまで付随されんの?」
「ああ、するらしい。もう1人、ドラゴの特性を付随された奴が居るんだよ。…先生がまた羨ましがるな」
「先生?」
出発の時、「いつでも来い」と送り出してくれたロキを思い出す。
「先生は付随ねぇの?」
「ないんだと。まあ、まだ見つかってねぇだけかもしんねぇけどな。ドラゴ達と言うより、恐らくヒトを介した従魔からの付随は鑑定に出なくて、発現して初めて分かる。テオが北部に来てから、寒くないって気付いたようにな」
「先生はまだ条件が揃ってないだけで、実は付随があるかもしれないって事?」
「そう、希望はある」
「イルラは?」
「イルラには付随の事はまだ言ってない。発現するかも分かんねぇし。今度、先生が会いに行くらしいから、その時にでも説明すんじゃねぇかな。て言うか、当たり前にイルラの名前出て来たな」
「南部の褐色美人は、イルラだろうなって」
「筒抜けなのウケるな」
言葉通りにジンは笑った。顔は見えないが背中に触れる胸の動きで分かる。
「分かるよ、俺を大事にしてくれるお前がイルラを大事にしねぇ訳ねぇもん」
俺はさ、卒業式の時、声が出なかった。お前がアルヴィアン公爵家と繋がりがあるとか知らなかったし、祖父母との間にある歪な愛情に違和感を覚えても口を閉ざした。何も知らなかった。俺はお前にフラれたから、お前を知る権利なんてないんだって自分に言い聞かせた。だから諦めて、必死に探すハンスの背中を見送って足を止めたんだ。
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「一般的ではねぇだろうな。お前も、俺も」
「だよ、なっ…!?」
急に頬にキスされて声が上擦った。頬に息が掛かる程に近くて、蕩けそうに優しい赤褐色の瞳が見詰めてくる。嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑う顔に息が止まりそうになる。
「一緒なの、嬉しいよ」
耳に注ぎ込まれるような低音の囁きに、全身が急激に熱くなって勝手にフェロモンが強くなった。ジンはすぐに気付いたらしく、更に顔を寄せて来た。今ここでキスしたら、多分俺は、終わる。色々。
「あっ……!あッ―――!!!アレ!カプソディア邸だよな!!やっぱドラゴはすげぇな!はえーや!」
バッと顔を背けて前方を指差した。マントから出した腕は素肌だったが、やっぱりそこまで寒くない。今は体温が上がってるからかもしれない。ジンの顔が見れず、「リパさん元気かな」とか兎に角手当たり次第に口にした。後ろで北叟笑む気配だけして、ますます恥ずかしくて、俯いてしまった。
「さあ? 俺も久々に会うから」
「え?」
意外な言葉だった。
「ドラゴ、『隠密』のまま、リパさんの部屋横まで頼む。フィル、降りれそうな所で降りて近場で待機しててくれ」
尋ねるより早く、ジンの指示で高度が下がっていく。相変わらず堅牢な要塞のような辺境伯邸は、真夏を過ぎたばかりと言うのに真っ白い雪に囲まれていた。北部に着いた時、「例年より夏でも雪が多い」とジンが説明した通りのようで、眼下の視界に緑は著しく少ない。
フィルはまだ屋敷よりも高い場所から飛び降り、高い木々を伝い降りて雪に紛れるように消えた。緩やかな降下と同時にドラゴの大きさが更に小さくなっていく。そして、屋敷の最上階、バルコニーへと降り立つ。
ジンがノックするよりも早く、カーテンが開かれ、そこに立つリパが驚いたように目を見開いた。鮮やかなピーコックブルーの瞳。ジンが片手を上げると、リパはすぐに窓を開けてくれた。
「随分と堂々とした侵入者だと思ったら…お久しぶりですね、ジン様。そして、テオドール様」
年老いて尚麗しい顔に、笑い皺が老獪に刻まれた。
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