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学園編 3年目

月を噛む 間話 ×

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ーーーヴィクトルを埋めてから3ヶ月


首筋を撫でる黒髪と長い睫毛に日差しを反射させ、緩やかな瞬きをする少年は、差し出された本を眺めながら首を傾いでいた。

「性教育受けてらっしゃらないんですか?一度も?」

その隣に立つリパの声に、ジンは目元を隠す黒髪を指で払い、顔を上げる。

「うん、裸の絵も画集しか見たことないよ」

そう言う彼の手元の本には色気のない男女の裸の絵が載っている。性教育用の教科書だ。恥ずかしがる様子もなくページを捲る指。

リパは内心驚いた。

平民ですら12歳前後を目処に、身体的特徴や生理現象、性行為などの教育を施されると言うのに。

(まあ、あの家庭環境ではそこまで手が回らないのでしょうが…)

ウォーリア夫妻にとってジンはレベッカの代理だ。性教育を施すことで、男としての自覚や、性的な事への感心を持って欲しくないのだろう。永遠にレベッカの子供時代を演じていて欲しいと言う、無意識の逃避行為が彼への性教育を遠ざけているように見える。

それでも子供は成長する。永遠に子供で居られる者などいない。

「でしたら今日からしっかり学んでいきましょうね。坊ちゃんのフェロモンも無事に開花された事ですし」

「俺フェロモン出てる?」

「ええ、大変強いフェロモンが出ております」

だからこそ出会って3ヶ月の間柄で、保護者でもないのに性教育を行うことにしたのだ。復習程度の軽い気持ちだった。しかし一度も学んでいないのなら本格的に腰を据えなければならないだろう。

フェロモンに中てられ、彼に性的なアピールをする者が増えてきているから。

(まさか10も20も年上が、こんな子供にその気になるとは…)

リパの憂いなど露と知らないジンは、自身のフェロモンの強さも、団員にも、目の前の裸の絵にも、興味のなさそうな声で「ふーん」と呟くだけだ。

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「と、言う訳で男女の肉体の違い。また生殖器の使用方法や目的は理解しましたね?」

レッスンを始めて早数日は経った。勉強部屋として使っている使用人部屋には、広めの勉強机と椅子、ベッドとチェストしかない。椅子に座り、広げられた各種性教育の書籍に、様々なオブシーンブックエロ本を見下ろすジンの横に立ち、リパは丸い頭頂部を見下ろした。

ジンは少しだけ何かを考えた後、首を傾ぐように頷く。曖昧な所作。恐らく「理解したから何なのだろう」と言う感情の現れだろう。

「ジン坊ちゃん、関係ないようなお顔をしておりますが、いずれは身に降り掛かる事ですよ」

悪戯心などではなく、身の入らない生徒への叱責の一環としてリパはジンの股座を掴み上げた。何事にも反応の薄い少年が、この時ばかりはビクンと身体を跳ね上げる。本能的な危機感と強い刺激への驚きを感じたのだろう。

「せ、セックスを俺がするって事?しないかもしれないじゃん。あんま、興味ないし…」

赤褐色の目が少し泳いだ後、男女が絡む体位の図式を見た。確かにその目には興味も好奇心も映っていない。

「貴方自身の興味のあるなしは関係御座いません。肉体の生理現象をコントロール出来なければ不感症でもない限り可能性はあるのですよ。坊ちゃんはきちんと、オスとしての本能をお持ちですからしっかりと学んで頂きます」

体術などでも使う、レッスン用の柔らかで伸縮性のある生地で作られたズボン。揉みしだく手付きに、布を押し上げてくるモノがしっかりと存在した。ジンは動揺してるのか、眉をきつく顰めて苦痛に似た顔を見せて来るが、幼さの残る丸い頬はほんのりと赤くなっていた。そしてフェロモンの匂いが重みを持つように甘くなる。悪くない反応だ。

「貴方のフェロモンはとても強いのです。ほら、今また強くなりましたよ。おまけに顔立ちも大変よろしい。ここまでフェロモンと見た目が揃っていれば、大体の方を誘惑出来るでしょうし、貴方にその気がなくとも、貴方に群がる人々はこれから増えていく筈です」

「…っ」

布地ごと扱くとジンは息を詰まらせ、微かに首を振った。手を掴んで止めようとしてくるが、無視してリパは続ける。

「ですがフェロモンの強さは諸刃のつるぎでもあります。性的な興奮と言うものは理性を著しく下げる効果があるんです。ほら、今も気持ちが良くて、碌な抵抗が出来ないでいらっしゃるでしょう?」

「……うう…ッ」

容易く勃起したペニスを隠したがるように、リパの手の上から両手で股を覆いジンは俯いた。荒くなる呼吸にぶるぶると震える膝。リパは微笑み、ジンの耳へと口元を寄せた。嫌味と分かっている。だが、最も彼に響く言葉だろうと思い、囁くように優しく言った。

「行きずりの女を無知で孕ませたくはないでしょう?」

「…そんな事、しない…」

自分の出生理由を突かれていると気付いて、ジンは歯を食いしばるように声を漏らした。

「そうでしょうか?こんなにも簡単に勃たせては説得力が御座いませんよ」

「…あ…うッ…!」

強く根本から扱き上げれば、ジンはビクンと激しく跳ね、手袋越しでも分かるぬるついた熱でズボンを濡らした。項垂れた髪から覗く耳が真っ赤になっている。どうやら呆然としている様子だ。

「おや…まさか、初めてでしたか?流石に精通くらいはしていると想定していたのですが」

「……せいつ…って、射精、ってやつ?…初めて、だけど」

そろりと顔を上げたジンは顔も漏れなく真っ赤になっていた。珍しい顔だ。

「………これはこれは。失礼致しました。まあ、丁度いいでしょう。座学が終わりましたので、次は実践です」

「…実践…?って、誰かと、セックスをする、って事?」

「左様でございます。初めてに価値を見出す文化もありますが、そんな非効率的なものはココには御座いませんのでご了承を。ーーハープ」

リパの手にはいつの間にかベルが握られていた。チリンと冴えた音がひとつ鳴ると、残響が消える前にドアがノックされた。「入りなさい」とリパが言うと、メイド服を着た胸が豊かな女性が入って来た。

「現在貴方のお相手を出来そうな子を見繕いました。18歳で年齢も近いですし、若いですが手練手管に長けた非常に優秀な方です。まずは彼女と実践を行って頂きます。ではハープ、お願いしますよ」

「はい、マエストロ」

恭しく頭を下げるハープの顔は冷たくも見える無表情だ。しかし顔を上げるとスイッチが入ったように、優しい姉のように微笑んでジンを見た。そういう演技だ。まずは至ってノーマルかつ、シンプルな性行為を覚えさせる為、男子が好むであろう相手を演じる。

とは言え、リパもハープもジンの好みを把握はしていない。恐らくジン本人も。
だからこそ一般的に人気が高い条件を揃えた。

リパは2人を残して部屋を出た。とりあえず1時間後に様子を見に来ようと。




しかし、1時間もしない内に、他団員への特訓中だったリパの元へとハープが走って来た。ナイフを持った若い男と涼しい顔で組み合うまま、リパは顔を向ける。

「どうされました?何か問題でも?」

「……ワタシでは、ダメだそうです」

「はい?」

「………マエストロが、説得してください」

自分の失敗になるのかと、ハープは恐ろしいのか、悔しいのか、いつもはあまり変わらない顔を歪めていた。リパは組み合っていた男の腕を掴み、軽々と地面へと投げ飛ばし、いつの間にか奪っていたナイフを軽く投げた。ナイフは寝転がった男の顔の横へと真っ直ぐ落ち、地面に刺さる。脱いでいた燕尾服の上着を手に取り、ハープと共にジンが居る部屋へと戻った。

部屋では下着姿のジンが、ベッドに腰掛けて呑気に本を読んでいた。

「ジン坊ちゃん、ハープはお気に召しませんでしたか?」

顔を上げたジンの目がチラリとリパの後ろに控えるハープの顔を見た後、子供らしからぬ溜息と共に本を閉じた。

「ハープがダメって言うか……触られてもなんか気持ち悪いし、触っても何とも思わないから。セックス出来ないじゃんって言っただけ」

ジンの言葉にハープを見ると、きつく眉根を寄せていた。18歳、若く魅惑的な身体の持ち主である彼女は本当に優秀な子であり、あらゆる男達を手の平で転がして来た実力者だ。幼く経験のない男児程度、小指を折るより簡単だと思っていたのだろう。

(…調子が右上がりでしたから、ここらで一度灸をすえるつもりでもありましたが…思わぬ伏兵が出てしまいましたね)

調子が良い時ほど慎重になった方が良い、それを教えるのも上の立場の仕事だ。だとしても、彼女に対するお灸はまだ先の予定だった。
リパは少し考え込み、ハープへと顔を向ける。

「何をしたのかお話下さい」

「……ワタシはいつも通り、童貞相手への基本をこなしただけです。服を脱がせ、性感帯を教え、愛撫の仕方やタイミングなどを実践で……でも、全然、彼はやる気がなくて」

「やる気がないと言うのは」

「勃起して頂けません」

「………それはそれは」

「ワタシが、悪いのでしょうか」

「ハープは悪くないよ。気持ち悪いって言ったけど、ハープがって事じゃないし。だから、叱らないであげて」

リパとハープの会話に淡々とした調子でジンが入って来た。相変わらず動く気はないらしく、片足を膝に乗せて少々横柄に2人を見ている。時折見せるこういう態度が貴族だからなのか、彼自身の気質なのか、まだよく分からない。

「…そうですね。叱るべきはハープではなく、坊ちゃんの方ですし」

「え、俺?」

矛先が向いた事に驚いている。その顔には「そもそもしなくて良くない?」と言う意欲のなさが表れていた。リパがジンへと求めるのようなものがないからか、徐々にジンの自我らしき感情が表に出始めていた。その全てが少々無気力に見えるのだが。

「先程きちんと精通も終えました。使い物にならない訳では御座いません。と言う事は、坊ちゃんのやる気のなさが影響しているとしか思えません」

「勃ったんですか?」

リパがやれやれと説明をしていると、今度は横からハープが口を挟んで来た。すっと目線だけ向け「ええ」と口にはせずに頷いた。ハープが気付かなかったと言うことは、気付かれぬ内に先程の痕跡を洗い清めたのだろう。

「…でしたら、女性に興味がないのではありませんか?」

「可能性はあるでしょう。ですが、勃たせられなかったのは貴女の力不足です。刺激そのものに性別は関係ありません」

「う……」

「手や口を使えばどうにか出来たでしょう」

余程の嫌悪感でもない限り、人は案外感じるものだ。

「…出来たなら、こんな恥を晒しません」

「おや……」

ハープの悔し気な声にリパは胡散臭い同情を匂わせた。何にせよ言い訳でしかない。

「とりあえず、理解致しました。ハープ下がって結構ですよ。パートトップへ再指導を願い出て下さい」

「……はい、マエストロ」

サッと顔を青くしたハープだが、表情は消してお辞儀した。パートトップとは幹部連中の事だ。そして再指導とは仕置きに近い。暫く彼女は使えなくなるが仕方ない。足音なくドアから出て行ったハープをジンはぼんやりと見送っている。リパは目の前へと歩み寄り、顔を覗き込んだ。

「お相手は男性をお望みですか?」

「…そうかも」

あやふやな言い回しは自覚のなさの表れだろう。

「では若い子をお呼びしましょう」

ジンと同じ年頃でも出来る子は今屋敷内に居ただろうか。

「リパさん」

思考を外へと向けている所へ呼ばれ、無意識に逸らしていた目線を戻す。

「何でしょうか?」

「リパさんが教えてよ」

目の前の少年は照れもなく、平然とした顔をしている。本気なのか挑発なのかも分からない。

「リパさんなら確実にたつよ、さっき、証明されてるし」

「先程のは愛撫ですら御座いませんが…」

「……なあ、絶対しないとダメ?リパさんは俺のフェロモンを抑えさせたいだけなんだよね?それってセックスしながらじゃないといけないの?」

「……いいえ、必ずではありません」

ジンが「ほら」とでも言いそうな顔をした。リパの目が冷ややかな視線を送り、気付いたジンが口を閉ざした次の瞬間、押し倒したジンの上にリパが馬乗りになっていた。本がゴトリと床に落ちた音が遅れて聞こえてくる。

「ですが坊ちゃんは、に覚えて頂く必要があるので御座います」

無知の状態でフェロモンに当てられた団員や、ギルド登録者に犯されでもしたら、リパの様々な計画に傷が付く。

「先程、ワタクシならば勃つと仰いましたね。良いでしょう、ご指名通りにワタクシが相手を致します」

手袋を歯で剥ぎ取り、ウェストコートを大仰に脱ぎながら、抑え込んでいたフェロモンを解放した。ジンのフェロモンには敵わないが、十分に強い匂いだ。釣られるように強まるジンの香り。ネクタイを外す指先や、シャツから晒される素肌に目を釘付けにする様子から、先程の「リパさんなら」と言った言葉は嘘ばかりではなかったのだと分かった。

「…こんなおじいさん相手が良いとは、とんだ性癖の持ち主でしたね」

「…ち、ちがうよ、おじいさんが、良いわけじゃない」

歳の割には引き締まった身ではあるが、若々しさなどはない肌だ。リパも例外なく身体を使った色事の任務に赴く事はあり、見目に合わせ組み敷かれる側が多かった。そのせいで胸元は男にしてはややだらしないくらいだ。育った先端と乳房はジンとはまるで違う。

上を脱ぎ取り、シーツに両手を滑らせてジンの顔を覆うように鼻先を近付けた。

「ワタクシの直伝なのですから、無様な結果は許しませんよ。指から腰まで、ワタクシが満足いく技術を身に付けて頂きます。粘膜循環による魔力コントロール、フェロモンの抑制、そして高度な性行為技術の全てを、です」

目を細め、唇を吸う。ジンは顔を真っ赤にして硬く目を瞑った。その癖、両手が胸元に忍び寄って来る。

(興味がない訳ではないようですね)

見えた下半身の隙間では、ジンの男の象徴が柔らかな布地を強く押し上げていた。

.
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.


(裸を見たり、いざ事に及べば、我に返る可能性は大いにありますね)

リパはギリギリまでそう思っていた。

(仮に萎えたとしても、魔力を流し込んででも勃たせますが)

ハープに魔力循環を無理やりさせなかったのは、一応は初めてのジンを気遣っての事だった。だがリパが指導するのなら話は別だ。如何なる手段でも躊躇いなく使うつもりだった。

しかし予想と裏腹に、ジンはリパの裸を前にしっかりと勃起していた。何なら腹につきそうな程の勃ち具合だ。これにはリパが驚かされてしまった。

その歳の割には立派なペニスを、リパに弄られてジンは喘ぎを噛み殺している。ねっとりと首や鎖骨、果ては胸まで舐められて、ジンは弱い力で抵抗を見せるが、もう既に二度ほど射精した後だ。

「…っ……ぅ…」

「これが愛撫です、覚えましたか?」

「……う…あ、あ」

ちゅこちゅこと濡れそぼった先端を音を立てて扱くと、シーツに後頭部を擦り付け背を逸らし、言葉にならない返事を返した。

「どうしました?興味がないのでしょう?しなくても良いと生意気にも仰っていたでしょう?ほら、同じ事を言って下さいませんと止まりませんよ」

「あ、ち、ちが…しなくて良いとか、言ってな……っそれ、だめ…っ、出る、それ…やば…ッッ!」

グリッと先端を弄られ、ジンは三度目の射精に腰を震わせた。流石にリパの叱責なのだと分かったのか、ハアハアと肩で息をしながら「ごめんなさい」とジンは呟く。押し返そうとしていた両手がリパの肌を撫で下りた。

「おや、そんな簡単に謝ってはいけませんよ。悪気があった事を見抜かれてしまいます。ワタクシに大口を叩いたのですから、もう少し根気を見せて頂きませんと。粘膜循環も全然出来てませんよ?」

「……うっ…あ、大口、叩いたつもりは…ちょ、待って、リパさん…俺、もう…」

「言い訳は聞きませんよ?さあ、ワタクシに魔力を流して下さいませ、坊ちゃん」

再び動き出した手に、シーツに沈めていた頭を跳ね上げるジン。リパから無理やり魔力を流すことはしない。ジンは平常時、魔力コントロールは十分に行える子だから誘導する必要がないのだ。
と、結局リパは容赦なくジンを責め立てる。

「う…っ、だ、って、あの時、ホントに、何も感じなくて…だから、別のやり方の方がって…っ、思った…だ、…け……っ!」

興味がなかったとか、感じないとか、嘘のようにジンのペニスは面白いくらいにすぐに勃ち上がる。ジンは絶えず与えられる快感に苦しんでいるのだが。

「ワタクシを引っ張り出した時、ワタクシを使って回避しようとなさりましたね?」

ジンはギクッとした。リパが自分なんかを相手にする訳ないと思って言ったことがバレていたのだ。

「…うっ……で、でも!リパさんの手なら、イケると思ったのは、ホントだよ!すげぇ、気持ちよかっ…た、から…あっああ…ッ」

扱きが強くなり、更に先端を指先で引っ掻かれてジンは軽くブリッジの態勢になり、言葉は快感に飲み込まれてしまう。

「つまり、どちらに転んでも貴方の思う壺だったと言う事ですか」

その声は自分でも驚くほど優しく紡がれた。
反り立ったペニスから手を離すと浮いていた腰がドスンと落ちた。顔を横に向けて目を固く瞑り、身体を震わせる姿は、幼気な少年そのものなのに。

「…ふふ、ワタクシではない人を相手に選べば良かったのに。もっと貴方の初めてを尊重してくれた事でしょう」

ジンは小さく首を振った。それでも貴方が良いんだと言われているようで、年甲斐もなく胸がくすぐられる。

リパは自ら股の間へと手を差し込み、後ろの準備を進めた。接触がなくなったリパに不思議に思い、ジンが目を開け、顔を向ける。何をしているのかは良く見えないが、股に差し込んだ手からとろとろと何かを垂れ落とし、妖艶に眉をしならせるリパの姿に息を飲む。

思わず頭を起こして、リパの乳首へと吸い付いた。男の乳首にしては太い。先程自分がされていたように、舌で舐め上げ、潰し、甘噛みをする。

「…ぁ…」

ささやかだが甘い声がリパが漏れた瞬間、ジンは腹の奥底から渦巻く歓喜のような感情が湧き上がった。もう片手の乳首も掴み、指先で捏ねた。リパの吐息が漏れる度、興奮が全身を駆け巡る。

ジンの異変に気付いているが、好きにさせていたリパは微笑んでいた。

触られていた時よりも興奮し、積極的に弄って来る掌。拙い動きだ。少し乱暴ですらあるのに、どうしてこうも煽られるのか。

(フェロモンのせい、と言う事にしておきましょう)

事実、ジンのフェロモンはリパのフェロモンを凌駕する勢いだ。自制心の強いリパですら眩むほどの甘い匂い。

後ろが十分に解れ、指を抜く。夢中になって乳首に吸い付くジンの肩を押し、改めて押し倒すと、ジンは顔を真っ赤にして名残惜しそうに唇を舐めた。その目に子供らしからぬ邪な光が走る。

「さあ、坊ちゃん。これが所謂『本番』で御座います。魔力を流して頂けますか?」

「…本番?…うわっ…」

身を起こしたリパが、穴の中へジンのペニスを飲み込んでいく。熱いくらいに感じる肉の壁に包まれ、ジンは今までにない快感に息を止めた。しかし懸命に、魔力を流し込む努力をする。しかし

「あ、うッ!う、動かない、で…ッ」

「随分と気持ち良さそうな顔をしますね」

リパが腰を上下に振った瞬間、ペニスを肉壁に舐め上げられるような初めての感覚に襲われて集中は途切れる。そのまま、根本から先までを吸い付くように扱かれ、ジンは顔を大きく歪めて膝を震わした。

「ま、マジで、待っ…やべぇ…これ…」

「やべぇ、ではなく、流し込んで下さい。快感に気を取られ過ぎて、先程から何も出来てませんよ。まずは魔力コントロールの精度を高めなければ話になりません。それが出来ないのであれば、せめてみっともなくされるがままになるのではなく、ワタクシを悦ばせて下さい」

「う……うう…ッ」

「最初ですから貴方が挿れる側ですが、後々は挿れられる側もしていただ……ッ!」

歯を食い縛ったジンがリパの腰を唐突に掴み、強く下から上へと突き上げる。突然の刺激に今度はリパの息が詰まった。

「リパさんっ…!」

ぱちゅぱちゅと潤滑油とジンの先走りが混ざった液体の音がする。リパはわざと腰を止め、ジンの腰振りに身を委ねた。

「…ぁ、ああ…ッ…♡」

丁度よく擦れる前立腺。長さなのか形なのか、ただ乱暴に中を行き来するだけなのに、思っていたよりも強い快感に指先が痺れた。
艶かしく顎先を上げ、身をしならせるリパのはっきりとした喘ぎ声。ジンの身体の奥が痛いほどに疼き、その痛みに煽られるまま、無我夢中に腰を打ちつけた。

「う…はあッ!…っ!」

「ん…ッ…あっ…♡坊ちゃん、魔力が安定、してませんよ…んっ♡ほら、腰にばかり意識を向けないで…っ♡」

「腰、止まんな…っ、リパさん…ッ…なんか、出そ…出る…ッ」

「ああっ、そこは…っ♡あっ♡あ、初めてで、中に出す気ですか…っ♡いけない子ですね…っ♡」

「だ、だって、むり、我慢出来な…でッ…んーー~~ッ!!」

ジンはリパの中で果てた。今までの中で1番長い射精時間。腰を浮かして奥に奥にと吐き出したのは無意識だ。

ガクンと腰が抜けるように落ち、ペニスも抜けてしまった。

「腰使いは、なかなか良かったですね」

股から白く濁った熱を垂れ流しながら、リパはジンの頭を撫でて、向かい合うようにシーツに座り込む。

「その代わり魔力の流し込みが弱く不安定でしたね。課題は多く残りますが、性行為については素質がありそうなので、安心しました……ジン坊ちゃん?」

深くシーツに沈み込んでいたジンが、リパの脚の間へ起き上がる。無言でのそのそと膝立ちになり、リパの膝を押して広げた。汗ばんで張り付く黒髪。隙間から覗く赤い目はギラギラと雄の色に滾っていた。
しかし上手く秘部へとペニスを当てられずにいる。

「…どうです?これからレッスン、頑張れそうですか?ほら、こちらですよ。スムーズな体位の移行も今後練習致しましょう」

背中を寝かせつつ、ジンが挿入しやすいようにと更に脚を開いた。濡れた秘部を指で押し広げて見せると、元気なペニスを挿入してくる。その際、不安定ながらにも懸命に魔力を流し込んできた。

「ああ…そう、お上手ですよ、ちゃんとジン坊ちゃんの魔力を感じます…♡ん、そこ…ッ♡」

「ん…リパさんの、良いところ、ここ?気持ちいい?」

突くように前立腺を押し上げられ、思わず声が跳ねる。小さな腰を精一杯振りながら、ジンは真剣な目で顔を覗き込む。

「次は、リパさんが射精して…っ…俺、がんばる、から…」

「おや、…ワタクシの為に、頑張るのですか?」

「ん…ッ、うん、これ、気持ちいいし。だから、リパさんも、気持ちよくしたい…」

急に素直になったジンの様子にリパは笑みを深めた。快感を覚えたジンからは、もう興味がないなどと言う言葉は出て来ないだろう。

リパの笑みを見たジンは微笑み返し、胸に抱きつくように顔を埋め、舌を這わせてくる。

「そうですね、どうせ致すのなら、どちらも気持ち良くなる方が良いでしょう…あ…♡ああッ♡」

ヴィクトルに『隷属』される前までは、最期のセックスとなるだろうターゲットとばかりヤッていたからか、少しばかりの優しさとして、リパはお互いに良い思いをする事を心掛けていた。だからジンの言葉に共感し、頬も股も緩んでしまう。

とは言え、初めてで拙いジンの腰使いや、辿々しい愛撫では中々イケないだろうと思っていた。のだが

「あっ…もう、こんなにお上手になられて……あっ、ああッ♡♡」

「あ、くッ…!」

飲み込みが早いジンの責め立てに、ジン六度目の射精と共にリパも達した。挿入したまま、くったりと身体にもたれ掛かってくるジンを受け止め、頭を撫でた。

「……はー…まさか、ホントに、イカせられるとは。ジン坊ちゃんの事を甘く見過ぎていましたね」

何よりもその精力の強さを。興味がないなどと言っていたのは何だったのだろうか。

「……リパさん、ちゃんと、きもちかった?」

のろりと顔を上げて尋ねてくる内容にリパは素直に微笑み頷いた。ジンは熱に潤む赤い目を細める。

「俺も。…これからも、リパさんが相手してくれんだよね?」

「……そうですね、暫くは」

「良かった、じゃあ頑張るね」

胸の上で甘えるように頬を擦り、目を光らせて笑うジンの顔を見た瞬間、過ったのは愛着ではなく、後悔だ。



ーーー危険なモノに手を出してしまった



そんな感覚に襲われて。

初手の様子が嘘だったように、その後は何の躊躇いもなくジンはレッスンに励んだ。リパの指示であれば他の男を相手にする事も厭わなかったのだが、受け手側だけは悉く相手をひっくり返してしまうのでついぞ一度も叶ったことはなく、結局リパが諦めた。

初体験はそうやって終わり、あっという間に技術を身に付けたジンに、一年も満たない内に顔の良い団員(男)達は食い荒らされてしまった。

.
.
.


(これ言ったら流石に怒りますかね?)


窓から入り込む夏の涼風が、ロキの豊かな髪を揺らした。リパは目の前の麗人を眺める。

話を聞いている最中、顔色をあまり変えないが、時折怒りや不機嫌さを静かに鋭い紫の目に乗せたり、その飾り物のように長く揃った睫毛を伏せて黙り込んだりしていた。

真剣に、そして深くロキはジンの過去に思いを馳せている。そんなロキの真剣さを横目に、リパは性教育について話すかを悩んでいた。

麗しい魔術教諭は随分とジンへの想いが強い気がする。ジンもまた、初日の食堂でのやり取りを鑑みるにただの遊び相手と思ってはなさそうだった。

(面白いくらいどちらも無自覚のようですが…いえ、先生の方は敢えて目を逸らしていると言った所でしょうか)

聖職者である事へ矜持があるとは思えないが、何か考えがあるのだろう。それはリパが知る所ではない。

(怒らせても面白そうですが…坊ちゃん、貴方の為に内緒にしておいてあげましょう)

紅茶を飲み、言葉も飲む。
まだ何か考えているロキから目線を血飛沫の飛んだ壁、その少し前へと向けた。

かつて少年が血塗れで立っていた場所。




(貸しひとつと言うことで)




勝手な負債が増えた時、ジンは雪山で盛大にクシャミした。

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あこ
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五回目の浮気を目撃したら別れる。 カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。 「関心が無くなりました。別れます。さよなら」 ✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。 ✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。 ✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。 ✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。 ✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません) 🔺ATTENTION🔺 このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。 そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。 そこだけ本当、ご留意ください。 また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい) ➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。 ➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。 ➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。 個人サイトでの連載開始は2016年7月です。 これを加筆修正しながら更新していきます。 ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。

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