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学園編 3年目
夏季休暇 北部2-7
しおりを挟む「…フィルのお母上は、寿命が早まったのか」
夏の木漏れ日が、あの日の記憶を溶かしていく。
ロキの声に顔を向ける。手元に持ったゴーストアップルに光を当てて、眺める横顔にほんの少し寂寞の思いが見える。他の魔物相手ならばあんな顔しないのだろう。彼ほど自分の好き嫌いに忠実な人はいないから。
「…本当の所はよく分からない、でも俺もそう思ってる。先生もそう言うなら、きっと当たってんだろうな」
「…どう言うことだ?寿命で亡くなったのか?」
ジッと聞いていたイルラが一歩踏み出して来た。その表情は乏しいが、オレンジの瞳には深い慈愛が見える。優しい男だ。
「うん、骨が消えたと言っただろ?あれは寿命で亡くなった魔物の特徴でさ。魔物は魔力が肉体の構成に必要不可欠で、歳を取ったり弱ったりすると、魔力を自分で生成出来なくなる。魔力がゼロの状態で亡くなると、肉体が自然魔素に分解されてしまうんだよ」
寿命を迎える魔物を目の前で見る事は殆どない。従属している魔物達なら稀に見れるのだろうが、そもそも魔物の寿命は人間より遥かに長く、矢張りそうそう簡単にみれるものではなかった。双方の寿命が近付いた時にどう言う別れ方を選ぶかは、千差万別だ。
脱線しそうになる意識。するりとロキが会話へ入り、自然と話は戻った。
「フェンリルは魔力を子供に渡し切ると絶命する種族だ。だから一子相伝型と言われている。死期が近付くとメスは発情し、子供を作り、魔力を渡し切ると頃に母親は寿命を迎え、子は自立する。だがお前の話では、フィルと母が共に過ごした時間はあまりにも短い。どう考えても、魔力の受け渡しは終わっていない」
「…うん、恐らく予想より寿命が近かったんだと思う。密猟者達だけのせいかは分からないけど、身体が持たなかったんだろう。まともに狩りも出来ない小さなフィルを野生に置いて行けば、他の魔物の格好の餌食だ。だから俺にフィルを託す事にした。そして、何とか残りの魔力だけでも渡そうと、この地にありったけの魔力を注ぎ込んだ。そのせいで寿命を迎えるのが早まった…んじゃねぇかな、これが俺の推測」
足元を見ると、視線に気付いたフィルが見上げて来た。魔力感知の精度が低い時は気付けなかったが、今ではハッキリと分かる。林檎を食べる度にフィルの魔力が強くなっていると。母親と同じ、澄んだ月色の目が、笑ったように見える。
「…地に注ぎ込む事で、この『ゴーストアップル』を作り出したと?」
「いや、それは偶然の産物だと思う。この地は元々林檎園の跡地なんだ。それも新種改良の為のな。この辺りは作物が出来難い、だから魔力による改良や整地も多い。フィルの母ちゃんにとって居心地が良かったのも、結界石の効果で他の魔物が寄って来ない事と、魔力の流動を感じる事が出来たからじゃねぇかと思う」
「…魔力の流動」
周囲を一瞥したジンの目が、ポツリと呟いたイルラの顔へ留まる。
「フィルの母ちゃんはさ、俺と出会った時には、自力で魔力を外に放出する事が難しくなっていたんじゃないかって言う見解。刺さっていた武器の一部から、魔力路へ強い影響を及ぼす術式が発見されたから」
「魔力路への影響だと…」
憎らしげな声がロキの口から漏れた。近くに立っていたハンスが静かに慄いている。
「ひどいよな。そうでもしないと勝てないって言う気持ちも分かる。分かるけど、相手が密猟者だから、やっぱり許せない気持ちの方が強い」
密猟者は大勢で1体を狙う。自分達の利益だけを追求し、環境や生態への配慮もなく、無茶な捕獲や討伐が近隣の村や道への悪影響を及ぼす事も考えない。
「…ジン、話の腰を折ってすまない。つまり、フィルの母親は魔力を上手く使えなくなっていたと言うことか?それは、元々寿命が近く、魔力の生成が難しくなっていたと言う話とはまた別なのか?」
少々脱線し掛けた話を、イルラの控えめの声が引き戻してくれた。
「ああ、うん、別の話だ。前半は密猟者達のせい。後半は習性で…寿命が近いと言っても、交配してから実際に亡くなるまでは、俺達が想像するよりずっと長い。フェンリルは子供に魔力を全部渡すけど、それは妊娠期から親離れまでの間、長い時間を掛けて行われる」
「平均15年、報告されている中では最長で30年。実際に親子で生活している所を確認されている」
「あ、ホントに想像より長い…」
ロキの補足にハンスが小さく呟く。ジンも「へえ、30年」と感心してしまった。その話は知らなかったからだ。流石、フェンリルの研究をしていただけあり、ロキは良く知っている。ジンの声に気を良くしたロキは、眼鏡のブリッジを軽く上げ、得意げに続けた。可愛い人だなとジンは眦が垂れる思いだ。
「一気に渡しても受け取る側の器の問題もあるからな。親が強ければ強いほど、子供の器を広げる必要がある。フェンリルは早熟型で肉体の成長が早い。こう言うタイプは心の成長は遅かったりする、だから親子で過ごす時間が長い場合が多い。逆に、カカココのような晩成型の方が自立は早い」
「………自立」
イルラが胸元でうごうごする袋を見下ろす。その声にはほんの少しの寂しさを感じた。思わず頬が緩む。
「…心配しなくても、カカココはいくつになってもイルラが大好きだと思うよ」
自立が早いのは平均的な話で、カカココは甘えん坊な性格だ。例え自立したとしても、その性格が大きく変わる事はないだろう。特に深い意味はなく、ただ寂しさを払拭しようと言った言葉に、イルラは予想外な反応を見せた。
「………」
無言で目を見開き、数秒間停止したように見詰めて来る。ジンは少々戸惑った。
「……なに?変な事言ったか?」
「……いや…」
イルラは緩く首を振り、その延長線でハンスの顔を見た。ハンスもジンを食い入るように見ていたが、イルラと目を合わせた後、テオドールへと視線を送る。視線に気付いたテオドールも、ジンに向けていた目線をハンスへ向け、その後、ギルバートへ移す。ギルバートは眉間の皺を深めて、微動もせずにジンを見詰めていた。そして再び視線はジンに戻る。
「…え、なにこの空気。すげぇ居た堪れねぇんだけど」
「「「「…………」」」」
4人は(大好きって感情分かるのか…)と、まるで初めて人と触れ合う怪物の、新たな一面を見たような気分になっている。ジンは彼らの視線の意味など分からないので気まずさだけを感じていた。
「ふむ、詳しく調べてみらんと断定出来ないが、林檎の木へ何らかの魔術を施す為に敷いた魔力筋の名残を使い、魔力を流し込み、子供がいずれ受け取れる形に魔力を残した…とでも言えば、筋は通るのか」
ロキだけは常に通常運転だ。
「魔力路への影響で、妊娠期に上手く魔力を与えられなかったのだろうが、その時外部から与えられた魔力のおかげでフィルは無事に産まれた。乱れた魔力路を整えるのは、他者の魔力を流して貰うのが最も効果的だからな。フィルはジンの魔力を腹に居る時から知っていた。故に産まれてすぐに懐いたのか。従属している魔物の子が、産まれてすぐに従属主に懐くのと同じ理論だが、そうか、従属していなくとも可能なのか」
何やらぶつぶつと手に持ったゴーストアップル相手に呟いている。頭で考えている事が全て口に出てるのだろう。気を張っていない証拠なので、ジンは終わるのを見守った。しかし突然黙り込んだと思ったら、手の中のゴーストアップルの存在を思い出したのかのように、唐突にジンへと掲げて見せる。
「兎も角、これを食べてみても良いか」
「……またこの人は」
何を言うのかと思えば。
ロキは真剣な目をしており、ジンは呆れてしまう。魔術や魔力に関する好奇心だけは本当に子供のような人だ。
「人間が食ったらどんな影響あるか分かんないよ」
「では俺が率先して実験体になってやろうではないか」
「自己犠牲みたいな言い方してるけど、食べてみたいだけだろ。ドラゴですら我慢してんのに…」
「ではドラゴ、共に食うか」
「なんだ!りんごか!」
林檎を食べるフィルの背に乗っていたドラゴが喜び勇んで飛んで来た。ジンは「うーん…」と頭を抱える。何年と食べるのを我慢させて来たドラゴだ。ロキの言葉に期待が満ち溢れている。
「…フィルが良いよって言うなら、良いんじゃねぇかな」
無茶振りなのかもしれないが、そもそもジンが許可を出せる問題ではない。フィルは呼ばれたと思ったのか、再び食べるのをやめて顔を上げた。ドラゴが目線の高さへ移動し、林檎をひとつ掴んで突き出す。
「オレ様も食う!りんごだ!ケイケンは大事!」
「……」
ドラゴの言葉に「おー」とハンス達から感嘆の声が漏れ、ドラゴは胸を張っている。本当にどこで覚えて来ているんだか。
フィルはゆっくりと尻尾で雪を撫で、ドラゴから視線をジンへと向けた。気付いたジンが首を傾ぐ。生憎とフィルの言葉は分からないが、不愉快に思ってない事は確かだ。
「ジンが良いなら良いと言っている」
「ならば良いな」
「え、ホントか?」
ドラゴが通訳のように言葉を繋げた。ロキとジンはほぼ同時に声を出し、同時に目を合わせた。
「良いだろ?」
「オレ様はウソ言わない!ウソ言うのはニンゲンだ!ジン!良いと言え!フィルは良いと言っている!」
「嘘言ってるだろ、現在進行形で」
ふんと鼻を鳴らすドラゴ。大体の嘘が食った食わない程度のものなので可愛らしいものだが。ロキは眼鏡の奥で紫の瞳を密やかに爛々とさせていた。
「……フィル、本当に良いのか?」
じっと見上げてくるフィルの横に片膝をつき、顔を覗き込んだ。美しい月の目。見詰めていると胸の辺りがほわほわと温かくなる気がした。言葉ではなく、感覚が伝わって来るようだ。
「……うん、お前が良いなら俺は良い。ドラゴも先生も、お前の大事な友達だもんな」
「ちがう。オレ様はフィルのにいちゃん、えらい」
「そうだったな、お前はフィルの兄弟だ」
すぐに訂正を入れるドラゴ。兄としての自負があるのだろうと思うと可愛い。偉いかは分からないが。
フィルは尻尾を振って立ち上がり、ドラゴの持つ林檎を鼻先で突く。その頭をジンが撫でる。
「ありがとうフィル。では大事に頂こう」
ロキは見た事ない程に優しく微笑み、紫の瞳に柔らかな熱を灯した。聖母すら霞む麗しさだ。妖艶さが漂う所がまた彼の魅力だろう。ロキは透明な林檎へと口を開き、齧り付いた。他の4人も見守っている。
―――パリン
フィルが食べる時と違い、薄い飴が割れるような音がした。ロキは「ふむ」と言いながらパリパリと林檎の形だった物を食べていく。ちらりとドラゴを見ると既になくなっていた。どうやら丸呑みしたようだ。猫が喉を鳴らすような微かな唸りが聞こえてくるが、何を思っているのかは分からない。ただ瞳がじっと虚空を見詰めていた。
「ドラ… 「……これは」
ドラゴに声を掛けようとした所で、被さるロキの声。ロキは林檎の残りを眺め、ドラゴと似たような表情をしている。食べさせたらまずかったか。
「美味い」
「「「は?」」」
ジンとハンス、テオドールの声が被った。
「ほうじゅんだ!!」
そしてドラゴが歓声を上げるように叫んだ。いきなりの声にハンス達はビクッと肩を跳ねさせ、興奮するドラゴを見る。瞳孔を限界まで膨らませ、大きく広げられた翼を先端まで打ち震わせていた。これは初めて魔物肉を食わせた時と同じ反応だ。
「…うまいのですか?」
イルラが尋ねるとロキはさっと残りを口に放り込んだ。まるで取られまいとするような行動に、イルラの目も大きくなる。ロキの目も段々と光が強くなり、焦点が合ってるのか合ってないのか絶妙に分からなくなってきた。異変にテオドールがハンスの前に出て、ギルバートも腰の剣に手を置くほど、周囲の空気に不穏さが混ざり出す。
「………先生?大丈夫?」
近くに居たイルラを背に隠くすように引き寄せながら、ジンがロキの顔を覗き込む。
その目は『キマッてる』状態だった。
ロキは再び見た事ない笑顔を見せた。恍惚とした表情は妖艶で美しい筈なのに、全員の背筋を凍らせる不安を呼び起こす。そして滔々と語り出す。
「ドラゴの言う通りだ、芳醇で香り高い、蜜が蕩け出すような味だ。濃密で濃厚。身体の底から力が溢れ出すような感覚がある。素晴らしい、これがフェンリルの魔力か」
「オレ様うずうずするぞ!うずうずだ!!ジン!たたかえ!!」
ドラゴも黒い瞳をギラつかせ、いつも以上に爪を尖らせてジンの前へと飛んでくる。呆気に取られるジンを無視して、「うおおお!」と言いながら空に舞い上がった。「分かる、じっとしていられない」と、ぶつぶつと言いながら歩き出すロキ。その足が異様に早い。
「……何、なんすか、急に…ドーピング効果でもあるんすか?」
ハンスが慄く。
「寧ろ、やばい薬の中毒者みてぇ…」
テオドールが引く。
「縁起でもない事を口にするなテオドール。オイ!ウォーリア!説明しろ!!」
ギルバートが焦りをジンへと向ける。混乱してるのか、剣先まで向けて来た。
「取り合えず、剣をしまえ…分かんねぇ、何事だろう。とりあえず、ロキ先生を見ておくからお前らはここに居てくれ」
気持ちが急くのか、浮足立ってるのか、ロキの足は早かった。追いつく事は難しくないが刺激すると良くない気がして、ジンはとりあえず後ろを付いて行く事にする。残された4人は、周囲の異変などまるで気にせずに林檎を食べるフィルを見下ろし、立ち尽くす。
「あ、念の為、林檎は食うなよ!」
ジンの叫び声に(食う訳ねぇだろ…)と各々心の中で突っ込んだ。
.
.
.
フィルの為に4人は林檎を集めつつ、目に見える範囲で散策して小さな雪玉を作ったり、自然素材の採取をしたりと楽しんでいたのだが、ジンが戻って来た時再びぎょっとした。
肩にロキを担ぎ、小脇にドラゴを抱えている。
「…だ、大丈夫っすか?先生もドラゴもどうしたんすか?」
「何があった。2人ともぐったりしている」
「回復薬とかいる?俺ウマ爺んとこまで走ろうか?」
「ギルドに急ぎ戻った方が良いのでは?」
4人が駆け寄るが、ジンに慌てた様子が見えずそれぞれ首を傾ぐ。ジンはハハと笑った。
「心配しなくて大丈夫だよ、気力と体力を使い果たしただけ」
呆れたような物言いに「黙れ…」と小さくロキが反論したが、それ以上は言い返す力もないらしく黙り込んだ。ドラゴに至っては呑気に寝息を立てている。
「マジでドーピング効果があったみたいだ。ロキ先生もドラゴも魔力が過剰反応を起こしたんだと。イルラ、ごめん。ドラゴ受け取ってくれるか」
ぐうぐうと眠るドラゴをイルラへと渡す。寝食を共にする事が一番多いイルラが安心するだろうと思っての事だ。にゅっとイルラの懐からカカココが顔を覗かせ、腹の前に抱かれたドラゴを見下ろした。カカココの三角帽子がちょっとズレているが、それもまた可愛らしい。
呑気な事を考えながら、唸るロキを平たい大きな岩の上に一度座らせ、外套を脱いでその上に寝かせた。ギルドで着替えていたので外套は普通の物だ。『空間収納』からマントを取り出し、丸めて枕として敷く。指ひとつ動かせないロキは不満そうではあるがなすがままで、ジンは機嫌悪そうな紫の瞳を見ながら眼鏡を外した。
「……眩しい」
「はいはい」
岩にはちょうど陽が当たる。でなければ寒いのだが、そのせいで眩しいようだ。影を作る為にロキの顔の横に腰を下ろす。背中を向けた状態になり、心配そうにしている4人へと顔を向けた。生徒の前でとんだ失態を犯し、気恥ずかしさで不機嫌になっているロキの顔を隠す事にもなるだろう。
「…それで、魔力の過剰反応とは?」
ドラゴを抱いたイルラが尋ねてくる。肩越しにロキを振り返ったが、ロキは目を瞑っていた。ほんのりと目尻を赤らめて。ふっと笑いつつジンが代わりに答える事にした。
「ロキ先生が道中言ってたんだ。まあ、興奮していて要領を得なかったから推測も多いけど、フェンリルの強い魔力が突然混ざった事で魔力路が膨張したらしい。一時的に血管が太くなった感じかな?湧き上がるエネルギーに興奮して、溢れる魔力を身体が排出しようとして好戦的になったんだと思う」
「排出はしたんすか?何も感じなかったっすけど」
手袋についた雪をばふばふと叩いてハンスが首を傾ぐ。目線はロキ達が消えた方角を見ていた。
「あ、ホント?なら良かった」
「「「え?」」」
ジンが安堵したように呟いたので、ハンス、テオドール、ギルバートが声を揃える。
魔力をぶっ放そうとしたので、ジンはロキを担ぎ上げて全速力で遠くまで走った。ゴーストアップルが実る地帯を抜けて近場の狩場に出ると、魔力に引き寄せられるように魔物が集まり出した。
最近は魔物達の気が荒く、集まった魔物達はロキとジンを躊躇いなく襲って来た。その時、ロキを中心に地面に黒い円が広がった。光さえ吸収する闇の色。瞬く間に一帯を黒に染めると、魔物達は跡形もなく消え去った。恐らく『消失』と似た術だ。
その重苦しい威圧感は、滅多に感じない脅威をジンに感じさせた。ハンス達が感じなかったのは良い事だろう。
しかし後でギルドには報告を入れなければいけない。魔物を勝手に狩ったのだから。しかし何と説明すれば良いのか。
「…先生ほどの人が倒れるとか。暴走とはちげぇの?」
テオドールは心配そうにロキの足を見ていた。
「自分の意思で展開してるから暴走とは違うな。普段の何倍もの威力をつけた魔術を何度も展開したから肉体と精神が追い付かずにぶっ倒れたんだよ。多分、身体が無意識に制御したんだと思う。先生は。ドラゴは空から落ちて来たから…ちょっと良く分かんないだけど」
「…落ちて来た?」
「うん、遠くからふらふら飛んできたと思ったら落ちた」
魔物の残骸を手に持った状態で。どうやら褒めて貰いたくて倒した証拠として持ってきたようだったが、ジンと目が合った瞬間に気が緩んだのか、意識を手放したので残骸ごと落ちた。まだロキは謎の魔術を展開中でジンはひとまず場を離れ、木々を駆けてドラゴを受け止めた。頑丈だから地面にぶつかっても平気かもしれないが無視は出来ない。
その後、ドラゴが持ってきた残骸もロキの魔術の餌食となって消え去ったので、良い判断だったかもしれない。
「ひとりではしゃいでたんだろうな」
どこで何の魔物に何をしたのか分からない。ジンは少しだけ遠くを見て、ガリストの顔が歪む所を想像した。何なら報告しない方が良いかもしれない。
フィルもロキとドラゴの異変に気付いて駆け寄って来た。溌剌とした顔付きには満足感がある。尻尾を振りつつジンの横から岩に乗り上げ、ロキの顔を覗き込む。
「…成程。確かにフィルの為の林檎なんだな」
背後から聞こえたロキの声に目だけを向けた。顔は見えない。フィルの頬を撫でる手袋だけが見えた。フィルの魔力の増幅を直に感じているのだろう。その声は優しく、成長を喜んでいるように聞こえてジンの口端が吊り上がった。
ハンスはイルラの腕で眠るドラゴの頬を突いて笑い合い、テオドールとギルバートは大事にならなかった事を喜び合うように胸を撫でおろしている。その2人へフィルが走って行き、ぐるぐると回って遊びに誘っていた。テオドールが木の枝を拾い、ギルバートが投げるとフィルは追いかけていく。
(楽しそうだろ。お前が望んだ形かは分かんねぇけど、元気に育ってるよ)
狼の遠吠えのような風が吹き抜け、カラカラと音が鳴る。木々の合間に光を弾くゴーストアップルが優しく揺れていた。
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