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学園編 2年目

男爵家男孫と神学科の天使 罪と罰6×

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神学科の学生寮。
どの学科よりも人数が少なく、全員が1人1室を与えられている。夕食の時間だと同級生が呼びに来たが、疲れたと言って断った。

部屋へ戻るとソファにジン君が座っている。
ペタペタとスリッパを鳴らして近付く。ジン君は立ち上がった。彼はまだ装備品のままだ。

『最後までしなくて良い。触れるだけでも、添い寝だけでも』

彼が言っていた言葉が繰り返される。

目の前に立つと、そっと手が頬に伸びて来て、擽るように耳の後ろへ長い指が滑り込んだ。少しだけ強い力で顔を引かれ、唇を重ねる。音を立てて、角度を変えて、何度も優しく口付けてくれる。私は安心してばかりで、反応を返す事も忘れ、触れることを恐れる手が行き場を悩んで彷徨っていた。

唇が離れ、代わりに額が重なる。サリサリと私の前髪が擦られる。

「…怖い?」

優しい声に泣きそうになる。

「……こわい」

「…そか」

「自分が気持ち悪くて…貴方に、不快に思われるんじゃないかって…貴方を、私がよごし、よごしてしまう…って…」

言い終わる前に涙が出た。我慢しようとすると、喉が締まってしまい続きが話せない。彼に触れた瞬間、穢れた私のせいで何かが壊れてしまうんじゃないかと恐ろしい。

「…こんな時まで自分より他人優先なのか。心配しなくても、先輩は綺麗だよ。気持ち悪くも汚くもない」

「でも、私は……私の身体は…」

彼に甘えたいのに、いざとなると怖かった。肌には何の痕跡もない筈なのに、私の身体には不浄の穢れがこびり付き、それが他者へ移る気がしてならない。

今でもベッタリと見知らぬ男達の温度が這い回ってる。

「じゃあ、確かめよう」

ジン君はいつもの調子で軽く言うと、私の事も軽々と持ち上げた。咄嗟に手が彼の肩にしがみ付き、思わず「あ」と溢した。当たり前だが何の変化もない。
高くなる視界に瞬きを早めてる内に、彼は歩き出した。

「ジ、ジン君…?どこへ」

ベッドならば逆方向だと思った瞬間、怯えながらも期待していた自分を自覚して勝手に恥ずかしくなった。

(上書きすると…そう言う意味ではなかったんですか…!)

はしたない勘違い。この様な浅ましい心が彼らのような非道な者達を引き付けたのだ。心が萎む。目を閉じて項垂れた。ジン君は何も言わず、ドア開けた後、私を下ろした。

嫌になったのだろうか。思考は単純で、安直に落下の一途を辿る。

「抱っこしたままだと頭ぶつけるから」

下ろした理由のようだ。顔を上げると、開けたドアのへりの部分を掴んで見下ろしてくる彼が居た。後ろへ入るようにと目線が伝えてくるので振り返る。

ここは

「…シャワー室」

見慣れた自室のシャワー室。間取りを考えれば、彼の目的地はすぐに思い至る筈だった。私は本当に考える力が低下しているようだ。
突っ立ったままの私を胸で押すように、彼も脱衣所へと入って来る。

「あれ、なんか俺ん所と違うんだな。広い」

「そうなんですか?」

互いに他寮の浴室など知らないので首を傾げる。
開けっ放しの浴室の中を覗くジン君が、床を指差した。

「あれ何?バスタブの一種?」

「ばすたぶ…?は、ちょっと分かりませんが…あそこは沐浴する場所です。本来は神殿が認定している沐浴場があるのですが、学園内には用意されていないので、代わりに個々の部屋に簡易の沐浴場を作って下さってるのです」

水は神聖なものとして扱われている。身を清める際に水を浴びたり、水に浸かったりするので、常用のシャワーの他に四角い水盤が床に作られている。中で跪くと腰辺りに水が来る深さだ。
今は水はない。水盤を満たす水は支給される魔力結晶を使うからだ。あの日から日に何度も使ってしまったから、底をついてしまった。

「あの…ジン君、何故シャワー室に…?」

興味深そうに中を覗いていたジン君に声を掛ける。「ん?」と振り返った彼の顔は、何故そんな事を聞くのか分からないと言いたげだった。

「シャワー浴びようと思って」

「……え…えっと、ジン君が、ですか?」

だったら何故、私まで連れて来たのか。
どう言う流れで此処に来たのか、分からなくなって来た。

「俺もだけど、先輩もだよ」

「はい?」

「汚い汚い言うなら、まず洗ってやるよ」

「はい!?」

ジン君は目の前で服を脱ぎ去った。初めてまともに見る彼の上半身に、目が丸くなる。そして急激に顔が熱くなった。バッと両手で顔を覆い、下を向く。

「ど、ど、どう言う…!」

「いや言ったまんまだよ。俺も身体洗いたかったし、丁度良いじゃん」

「ちょ、ちょ、丁度良いとかそう言う問題では…!」

またバサッと布が落ちる音がした。指の隙間から見た彼の脚は、まさしく裸のようだった。
ドキドキしながら、ついそろりと目線を上げてしまう。しかし掌で遮られてしまった。

「脱ぐまでお預け。文句は中で聞くし、中でいくらでも見て良いから」

バレていた事に気付いて益々顔が、寧ろ身体ごと熱くなった。肩を優しく掴まれ、後ろを向かされる。チャリ…と耳元で軽い金属の音がした。

「先輩、顔上げて。これ取るよ」

十字架を首から取られ、棚へと置かれた。どうして良いのか分からず、もだもだしていると、そっと後頭部に口付けられる。

「ほら、脱いで」

優しく優しく頸まで辿る唇に小さく身を震わせた。悪寒とは真逆の感情で。

「ぬ、脱ぎます…脱ぎますから…」

そろりとカソックの前を解き、後ろへと脱ぐとジン君が持ってくれたので袖から腕を抜く。残りもモタモタと、照れと緊張で震える指で脱ぎ、全裸になった。

人前で全裸になった事などない。
今までも行為中ですら一部だけは必ず着ていた。改めて裸同士と言うのは羞恥心をひどく煽られる。

「先輩、首まで真っ赤。かわい」

切り揃えた襟足を指で撫でられ、ビクッと肩が跳ねた。そのまま首筋を撫で下ろし、肩を掴まれる。動作は緩慢で優しい。気を使ってくれている事がひしひしと伝わってくる。

再び、そっと頸に唇の感触がした。

「…ぁ…」

思わず、甘ったれた声が吐息のように漏れる。そしてフェロモンが香りを強めた。彼に出会うまで、強くなる事などなかったフェロモン。あの日以降、彼の前でも変化しなくなっていた匂いが反応を示す。
ジン君も気付いたらしく、肩を掴む手に先程より力が入った。そっと耳元へと顔を寄せ、「…良かった」と囁き耳に口付けた。

そのまま腰が抜けるかと思う低く甘い声に、熱い口付けに、私は羞恥が爆発して完全に固まってしまった。
咄嗟に片手でを隠して、ギギッと動きの悪いブリキのおもちゃのように浴室を指差した。

「……は、入るのでしょう…?いき、行きましょ…」

「……そうだね、行こうか」

彼の声が少し笑っていたので、全部見抜かれてると分かった。羞恥心から強がりを言いたくなるが、瞬時に心が萎んで何も言えない。罪悪感だ。

彼は自分の為に此処に居てくれてるのに、強がりなど言える筈もない。

肩を優しく押されるので先に入り、ジン君が後から入って来る。シャワーの下に縦に並んだ。

「ちゃんと石鹸あるじゃん」

「えっ?ええ…まあ…」

普段はあまり使わないのだが、あの日以来無駄に身体を物理的にも洗っていた。どれほど沐浴しても、何度洗っても、べったりと張り付いた不快感は落ちなかったが。

あれほどしつこかった不快感を、今はあまり感じていない。

後ろからジン君がシャワーを出す蛇口へと手を伸ばした。肌が触れ合う。私は退く気にならず、ジン君も気にしていないようだ。

欲がふつと湧く。もっと触りたい。触られたい。

その瞬きに入り込む、あの日の天井の記憶。ゾッとして、湧いた欲が瞬時に散った。咄嗟に目を瞑っても消える事のない情景。男達の下品な声に、優しさのカケラもない痛み、聞きたくもない音。

思わず両手で自分を抱く。
暖かなシャワーが降って来た。強い雨音のように、外界から切り離される錯覚。

「先輩」

音の中に彼の声が混ざる。

「抱き締めるよ」

返答出来ずにいると、そっと抱き締められた。振り解けるほど優しい包み方。ゆっくりと時間を掛けて強くなっていく抱擁。

あたたかい

シャワーの温かさと彼の体温で、身体が冷えていたと分かった。じわりと内外から熱が全身を巡る。肌と肌の触れ合いがこんなに気持ち良いとは知らなかった。

「怖かったよな。苦しかったよな。もう大丈夫だから」

シャワーのように彼は何度も言ってくれた。

「痛い所はもうない?辛い事は?あったら言ってくれ。俺に出来る事なら何でもするから。して欲しい事でも、して欲しくない事でも。何でも」

気付いたら私は泣いていた。子供のように泣いた。シャワーの音と、流れ落ちるお湯のお陰で、思い切り泣いた。後ろから守られてるような温度に安心して、口から情けない声を漏らして泣いた。

途中で振り返り、やっと彼を抱きしめられた。
腕の中でまた泣いて、濡れたぐちゃぐちゃの顔を肩へ擦り付ける。ジン君は相槌を打ち、慰め、ずっと抱き締め返してくれていた。

「私は、汚れてしまった。顔に、肌に、身体の中まで、奴等の匂いが染み付いている気がするんです。汚い、怖い、気持ち悪い」

「……辛いな。そんな記憶、苦しいよな」

ジン君は受け止めてくれる。否定の言葉も嬉しかった、でも今は受け止めてくれる彼に心が軽くなる気がした。

「う、うん、くるし、苦しいんです。ジン君、わた、私は私が気持ち悪いんです。ジン君も、ほんとは、私とするの、きも、気持ち悪かったんじゃないですか」

「全然。先輩は綺麗だったし、俺は気持ち良かったし。今も先輩と抱き合えて、俺は嬉しいよ」

「う、うう…でも、ジン君にまで、わた、私の汚さがうつ、移ったら…こわ、こわい、怖いよジン君」

穢れは他者へ感染する。私は穢れていたから、汚された。この穢れが、彼へ不幸を呼ぶかもしれない。それが何より怖かった。

ジン君は後頭部を撫で、額に頬に、瞼に至るまで口付けを繰り返す。慈しむようにあやされる。

「そんな心配はしなくて良い、先輩から穢れが移るなんてない。大丈夫だから。寧ろ俺は浄化されてる。見ろよ、悪魔なんて呼ばれてたのに今じゃ天使に骨抜きにされてる」

「……う、うう…!ごめ、ごめんなさ…あく、悪魔だなんて、私が愚かで、馬鹿でした…」

「あー、違う違う。先輩が可愛いから、どんなんでも平気って言ってんだよ。悪魔って言われんの気に入ってるし」

「でもジンくん馬鹿って言いました!!」

「俺の言うバカは先輩の言う馬鹿とは全然別モンです」

涙が落ち着いた頃には、少しだけ気持ちも戻って来ていた。ずっと張り付いていた私をジン君は片時も離さなかった。その優しさと忍耐強さに、心がほぐれていく。

「…その、…ごめんなさい…このままじゃ、風邪ひきますね」

シャワーは温かいが立ったまま浴びてるだけだ。彼に至っては背中はほぼ濡れてなかった。

「俺は『体温維持』の特性あるから平気だよ。先輩は…先輩って、自分の事は自分で治せんの?」

「え、まあ、一応『治癒』は自分にも掛けれますから。効くと思います…」

「した事はない感じか」

「ないですね…そう言えば、病気になった事がありません」

光属性だからではないだろう。同級生や神官には風邪になる人も、病気になる人も居るからだ。

「良い事じゃん、健康的で」

ジン君は話しながら、シャワーを止めて、私を抱き締める体勢のまま、後ろに回した両手で何やらごそごそしている。

「…あの、ジン君…離れないんですか?」

何かするなら離れた方がし易いだろうに。不思議に思いつつも、自分から離れる気持ちになれず口で言うだけだ。

「……んー」

「んーって……ンッ!」

唇を突然押し付けられ、そのまま何度も音を立てて口付けが続いた。掴む服がなく、素肌のジン君の背中に縋るしかない。目を閉じて口付けに浸る。しかし突然背中を撫で上げられ、ビクンッと身体が跳ねた。

「んむっ!?……ちょ、…っ、ジン君なにを…」

「何って」

ジン君はきょとんとした顔で首を傾ぐ。

「洗うって言ったろ」

片手を見せて来る。泡だらけだ。
比喩ではなかったのかと呆気に取られていると、その手は再び背中に回り見えなくなった。そして大きな掌で、背中を撫で回される。するりと腰へと下りた。

「……ッ…あの、下は…」

「全部洗う」

「い、いえ!下は自分で…!」

「俺の手で洗わせて」

再びのキス。唇を優しく食まれて、下唇を舐められる。ゾクゾクしてしまう身体を煽るように、臀部を撫で下ろし付け根へと指を回された。

「あっ…!」

すりすりと危うい所を擦る指に、はしたない私の身体はあっさりと勃起と言う現象を引き起こした。
あの時は男達がどれだけ握っても、扱いても、反応しなかった。『乱暴だったから』だけが理由じゃないと今更自覚しなくても分かっている。
恥ずかしくなり俯く。ジン君は気付いてるだろうに、素知らぬふりをしてくれていた。

「肌つるつるで綺麗。舐めたくなる」

「………ぅ…、そ、そんな事言って、舐めたこと、ないじゃないですか…」

(しまった)と思った。悲観を引き摺り、可愛げのない事をまた言ってしまう。彼を嘘吐きと言いたい訳じゃないのに。

「確かに。実際はあんま舐めねぇかも。噛む方が好きだからかな。舐めて良いなら舐めるよ」

彼は気にした様子もなく、言葉通りに首筋に舌を這わせた。肌が粟立つ。「んっ」と声が出た。

「あ、汗の味する」

その囁きに全身が熱くなる。ドラゴ君と走った時にかいた汗だろうか。何故か分からないが、とんでもなく恥ずかしくなった。

「なめ、舐めるの駄目です!禁止です!!」

舐められた首を手で覆って喚いた。浴室内は声が響く。久々に大声を出した気がして、ハッとする。顔を上げるとジン君は、自分の上唇を舐めて目を細めた。少し意地の悪そうな笑顔に、身体の奥が痺れる。

「…そ、残念。でも良い声聞けて安心した」

彼は実はあまり感情が表に出るタイプではない。だけど最近では分かるようになって来た。今のこの声は嬉しい時の声だ。私の子供染みた喚きにすら、この人は喜びを見出してくれる。

嬉しくてまた涙が滲む。

「ジン君、…私も洗いたいです」

「駄目、俺が洗う」

「わ、私の事は、ジン君が洗って下さい。私は、貴方を洗います」

「………」

ジン君の動きが止まってしまった。嫌だったのだろうか。緩やかに瞬く赤褐色の瞳は、相変わらず感情が読み難い。少しして、ジン君は笑った。

「じゃあ、お願いしようかな」

一歩離れて、手の中に石鹸を置かれた。私が泡立て始めると、彼の手が私の首を洗い出す。顎を上げてまで丹念に洗ってくれるのは嬉しいが、手元が見えなくなり困っていると、ジン君は嬉しそうに笑った。そこでハッとする。

「意地悪ですね!」

「いや、ただ邪魔してるだけ」

「それを意地悪と言うんですよ!」

彼は時々こんな子供のような事をする。私はそんな彼を可愛いと感じてしまう。初めはエレヴィラス様に似たかっこいい方に見えていた。今でも変わらず、かっこいいと思ってる。だけど、私が怒ると満足そうに笑う、無邪気な彼は年上なのに愛らしくて。

「…洗いますよ」

「どうぞ、天使様。お前の手で俺をピカピカにして」

「………はい、ピカピカにします」

石鹸を渡して、彼の肌へ手を置いた。直に触れる肌にドキドキしてしまう。肩から胸、この狭い範囲に目立つ傷痕がいくつもあった。

「…傷痕は、狩猟中に出来たんですか?」

「いや、ガキの頃のだよ。回復が遅れたから治り切らなかったんだ」

「………薬で治されたんですか?」

北部には神官が居ないから回復薬ポーションが治療の主力と聞く。

「うん」

返事に胸がズキリと痛んだ。幼い頃に全身に傷が残るほどの大怪我をして、回復薬が来るまでの間、どれほど痛く辛かったか。神官が居れば、例え強い『治癒』でなくても、弱めの『祝福』でも、痛みを抑えてあげる事は出来ただろうに。

気にした様子もなく、彼は手に作った泡で私の腕を洗う。傷の詳細を聞いて良いのか悪いのか分からない。悩んでる内に、ふと気付いた。

他者を気にする余裕が出来ている。

今の状況があまりに日常と切り離されてるからだろうか、それとも思い切り泣いたからだろうか、彼がいつも通りにしてくれるからだろうか。

「……」

私はそっと足を踏み出し、身体を触れ合わせた。ジン君は驚いたのか、微かに瞼を開いた。

「ジン君、…上書き、して下さい」

泡で滑る身体は思ったよりもぬる付いていて、触れ合う肌が擦られた。

今更と彼は思う?いや、きっと応えてくれる。確信さえあった。
答えはすぐに分かった。深い口付けと、腰を抱く強く逞しい腕で。

それに

「んっ…んぅ……♡」

口の中を掻き回す舌にうっとりとする。腕を彼の首に回して抱き締めた。優しく撫でる手が臀部へ下りてももう怖くない。少し身を動かすと、胸や腹も擦れて痺れるような快感にペニスがピクピクと動いてしまう。引きかけた腰に触れたのは、下から股間を持ち上げるような熱。

「……ん、ジン君…勃ち、ました?」

舌を舐め返し彼の唇を吸って、尋ねた。

「…何が?」

「…な、何って……だから、その…貴方の、です」

「だから俺の何?」

彼お得意の素知らぬふり。臀部を撫で回し、時折割れ目へ長い指を這わせて秘部を撫でて来る。そこに勃ったものがあるでしょうに。言わせたがりの彼を羞恥で赤くなった目で軽く睨め付け、睾丸を持ち上げるソレを股でギュッと挟んだ。
ピクとジン君が反応した。

「……これです…」

ゆっくりと腰を前後すると、更にピクとジン君が反応する。微かに眉を寄せた顔に悦びのような感情が湧いた。石鹸のおかげで滑り易い身をベッタリと密着させ、瞳を覗きながら腰を揺らす。

「気持ち、いいですか?」

「…はー……うん、気持ち良い…」

ギュッと背中を抱き締められ、耳元で囁く甘えたような低い声に全身に甘い痺れが走った。腹の奥が疼いて、腰の揺らしを早める。

「…ジンく……あっ…♡」

ジン君の指が尻椨を開き、窄まりへと入り込んで来た。腰が震えて止まる。その隙にも指はゆっくりとだが、確実に侵入してくる。
彼の脚に膝を擦りつけ、快感に身動いだ。

「ぁ、…ん……っ…はあ♡あっ…そこ…」

「…怖い?」

「う、ううん…気持ちい、…です…あ♡」

中をくぽくぽと弄られながら、つられて腰を揺らし、先程より強く挟み込み扱いた。

いつもの彼なら嫌がっても強行するのに、配慮を感じる指の動きが焦ったい。あの『いつも』も決して私の気持ちを無視したものではなかったと気付いた。
認めるのは恥ずかしいが、彼からの『無理矢理』は興奮材料のひとつであり、彼もそれを分かっていたのだろう。

優しく中を撫でられ、ゆっくりと襞を伸ばされる。ペニスから垂れ落ちる先走りが、彼のペニスも濡らす。口付けながら、泡だらけの互いの身体を弄り合った。

.
.
.

水盤で横になるなんて発想はなかった。
身を清めるとは言え、それは洗礼の儀であり入浴とは違うからだ。

ジン君が火と水の混合魔術で作り出したお湯で満たされた水盤も初めて見た。通常は常温の水だから。
湯煙を揺蕩わせる水盤に、更に尻をつけると言うから抵抗があったが、入ってみると悪くなかった。

今はそれどころではないのだが。

「ジンくん♡ジン君♡あッ♡お♡」

横たわるジン君の上に跨り、バチャバチャと水音を立て、腰を懸命に振った。ジン君しか届かない奥を何度も突き上げさせ、その度に先走りが噴いた。窄まりを強く締めると、目の前のジン君の顔も快感に歪んだ。嬉しくて、締めたまま更に動きを早めた。

彼に覆い被さるように水盤の縁を掴む。下手くそにキスをすると、ジン君が顎を撫でて誘導してくれる。
唇を食べるように吸い付きながら、呟いた。

「なかに、中にジン君のください…♡奥まで、子種飛ばして…♡」

「……変な言葉覚えさせられてんな…」

「うっ♡あ♡ジン君の欲しい、ジン君たねづけして…あいつらの忘れるくらい、いっぱい、して…ッ」

「はー…意味分かってんのそれ」

私は首を振った。なんとなく察してるだけだ。だが言葉の意味は知らなくとも、あいつらにどれだけ言えと言われても言わなかった。殴られても言わなかった。
ただ妙に耳に残っていて、掻き消して欲しかった。彼になら言われても良い、彼になら言ってもいい。

貴方で何もかも上書きして欲しい。

唇を吸われて、臀部を抱えるように掴まれた。

「良いよ、欲しいんだもんな」

「あッ♡ああッ♡」

少し浮いた隙間を埋めるように、腰を打ち付けられる。ジン君の熱くて太い肉杭が一定の律動を保って奥を叩き、快感に腰が抜けそうになる。
真下に見える彼の顔も、快感で少し歪む。私は嬉しくて邪魔するように、何度も口付けた。

「うんッ♡はあッ♡ジンくんッ♡たねづけ♡種づけしてくださッ…♡」

打ち付けに合わせて腰が揺らめく。徐々に昇ってくる快感に背筋が反り、顔は離れたが代わりに腹の深くを穿つ彼の熱を強く感じた。

「ああッ♡イク…ッ♡イクッ♡」

「俺もイキそ…、ほら、先輩、種付けするよ。全部受け止めて」

早まる動きに更に背を反った。彼の手が支えになっていて不安定さはなく、膝を締めて中も締め上げる。

「く…っ♡」

「うんッ♡うん♡あ、あ、きて…ッ♡ジンくん種づけして…ッ、あッ、あ゛ッーーー~~♡♡♡」

腰を押し付け、奥深い場所へ注がれる熱に顎が上がる。中に注がれていると言うだけで、全身が歓喜に震えて追いかけるように射精を繰り返す。
強い快感が抜けると、そのままヘナヘナと彼の上に横たわった。パシャリと温かいお湯を背中に掛けてくれる。

「…はー♡はあー…♡」

「…良かった?先輩」

温かいお湯と同じ、暖かい声に顔を上げる。眦を垂らすように微笑む目に私は蕩けそうになる。
そっと頬へ指を添えて、逆の頬へ口付ける。

「…はい、…とても」

「良かった」

鼻筋に返ってくる口付けに胸が高鳴る。

「あの…」

「うん?」

「……もう一度、お願いしたいです」

もじもじと目線を泳がせながら言うと、ジン君は目を丸くした。そしてすぐに笑った。

「喜んで。でもここだと先輩マジで風邪引きそうだから、暖まってから部屋でヤろうか」

「それは…はい、どこでも……それと、もうひとつ」

我儘に我儘を重ねてしまうのは心苦しいが、どうしても甘えたい。首を傾ぐ彼の頬を撫でながら、面映い唇を軽く噛んで意を決す。

「…名前で呼んで頂けませんか、今だけでも…良いので」

ジン君は固まって、ジッと私の顔を見て来るだけ。彼が名前を呼び捨てしたのは兄弟フラーテル解任を告げたあの日だけ。

それも上書きして欲しい。
私の名を呼ぶ貴方の声が、悲しい思いを引き出す鍵にならないように。

「シヴァ」

頬を撫で返してくる彼の手に、優しい微笑み。じわりと涙が出て来る。彼は身を起こして、そっと目尻へキスをした。

「シヴァ」

もう一度、噛み締めるように呼んでくれる。



優しい低音が思い出を塗り替えていく。





水盤の正面には対の十字架が彫られている。
だけど私は

一度も目を向けず、ひたすら背を向け続けた。
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