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学園編 1年目

男爵家男孫の入学式1

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可愛いのとぶつかった。

受付に向かって歩いていたら胸の中に飛び込んできた榛色ヘーゼル
ゆるふわの髪質を揺らして、髪と同じ色の大きな目で見上げてくる顔を思わず凝視してしまった。
ぴんと立った鼻先が幼さを助長しているが、それがまた可愛い。

黙ってると怖いと言われるので笑ってみようかと思ったが、急に笑っても怖いよなとか考える内に離れてしまい、その足元に自分の鞄が落ちていることに遅れて気付いた。

思いっきり踏まれても、魔術が掛かってるから外も中も壊れることはないし、気にすることはないのだけど。
言い訳もせずに潔く頭を下げた彼は、見た目よりもずっと大人なのだろう。
見上げて来る榛の瞳からは芯の強さも見受けられる。

「受付、結構遠いっすね」

先程の事を引き摺りもせず、人懐っこさを隠さずに隣を歩いてくれるハンスに目を向けると、大きな目を細めて笑ってくれる。
少年らしいその笑顔からは親愛さすら感じる。
微笑み返せば、少し照れたように瞬いた後、面映そうにまた笑ってくれた。

(本当に可愛いし、相性も良さそう。でも男慣れはしてなさそうだから、がっつくと逃げられっかな…)

ジンは気に入った相手に対してのみ妙な特技を発揮する。
相手からの自分への好感度や、相手の落とし方が分かると言うものだ。
とは言え詳細は分からないから勘である事は否めないが、ほぼ正確に見抜いてきた経験があるので自信もあった。
その結果、導き出されたのは

ーーハンスは友達になってから徐々に攻めればイケる

と言う不純極まりない下心。
人の機微に敏感なのか、ふとハンスが怪訝そうに見上げて来た。
ニヤけそうになる口をいっそ思いっきり笑顔を作ることで誤魔化して、首を傾ぐ。

「なに?」

「えっ…あ、いや、なんか一瞬、ジンからフェロモン?を感じた気がして…」

(しまった)

笑顔は有難い事によく褒められるので、ハンスにも効果は抜群だった。
たじろいで目線を逸らせたのは良かったが、まさかフェロモンが出てたとは。

フェロモンは誰もが持っている体臭のようなモノで、強いと無駄に他人の好意を引き寄せてしまう。
ジンはわざと無臭に近い所まで抑え込んで隠していた。
魔力と同様に。

心を落ち着かせて漏れ出たであろうフェロモンを押し込み直すのと同時に、ハンスが首を伸ばすようにして肩先に顔を寄せて来た。
何の意味もないのに思わず息を止める。

「…」

「うーん、今はしないからやっぱ気のせいかな…フェロモンが出し入れ出来るなんて聞いた事ねぇし…」

「らしいな」

「…これは石鹸の匂いすかね?良い匂いがする」

「…お前も良い匂いするよ」

あまりにもクンクンして来るので流石に照れ臭くなってきた。
お返しとばかりにハンスの髪へと鼻先を埋めるようにして嗅いでやる。

「ぎゃあっ!!やめて!」

「……お前からしたんじゃん」

頭を抑えて飛び退いたハンスの真っ赤な顔を見たら、正直あそこがイラつきそうになった。
真顔で見詰めているとぶるぶると戦慄いてから逃げ出したので、反射的に駆け出して後ろから抱くように捕まえた。
瞬殺だった。

「はあ!?早っ!」

「逃げられたら追いかけたくなるだろ…」

「なんつーか…動物みたいすね自分…。は、離して貰って良いっすか…」

「逃げない?」

「逃げない!」

片腕で首を抱いて引き寄せている状態だと、ハンスの頭は丁度顎の辺りにある。
俯いてるから余計に低くなっていて、赤いうなじが良く見える。
さっき「徐々に」と思っていたが少しペースを縮めても良さそうだと思っていたら、急にハンスが頭を上げた。

「「い゛…っ!!」」

顎を強打され、ハンスは後頭部を打ち、2人してよろける。
頭を押さえてしゃがみ込んだハンスを覗き込むと、彼はおかしそうに笑っていた。

「うくく…俺ら何やってんすかね」

「本当だよ。ほら、早く教室行こうぜ」

「ひひ、はーいッす」

手を差し出すと素直に捕まって立ち上がる。
くしゃくしゃに笑うまだ赤みを引き摺った顔に、繋がった温かな手の温度。
このまま物陰に引き摺り込みたい衝動に襲われるが、気を強く持ち、手を離した。

「ほら、早く行こうぜ。この学校無駄に広いから、探してる内に遅刻になったらどうすんだよ」

「時間はまだ全然余裕あるっすけどね。確かに広いからなあ」

門からだいぶ歩いたが、まだ校舎には辿り着けない。
道中にある立派な噴水なんかはいらなかったんじゃないかとさえ思うが、微かに魔力を感じるので何か必要な物なのだろう。
ハンスの肩を軽く押して、再度並んで受付を目指した。
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