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第2章

 結婚後の変貌

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 結婚して半年ほど経った頃に、それは始まった。
 まずは食事どきの会話の変容だった―――。

 「手料理はやっぱりいいな」「いいダシだなあ」「料理は何で勉強してきた?」 と、しきりに美弥の手料理をほめていたのが、次第に不機嫌そうにむっつりと黙り込むようになり、やがては「おまえの料理は貧乏くさい」という言葉に変わった。

 貧乏くさいといわれれば、そうだろう。否定はしない。

 10年以上の貧乏暮らしのなかで、美弥にとって料理といえば、いかにお金をかけず自分が納得できる味をつくれるかだけが大事だった。
 食材の質や見映えを気にしたことはない。

 それが心底まで染み付いてしまっている。
 
 スーパーに行っても、高そうな食材コーナーからは自然と足が遠のく。そんなところに足を運んだのは、シフトの都合で閉店間際のスーパーに駆け込み、値引きがされているのを確認できた時だけだった。

 きっと倉重は、具のない天津飯など食べたことがないだろう。カニカマすら入っていない塩コショウだけの卵をとろとろのまま厚めに焼き、ごはんにのせ、自分好みに味付けた熱々のとろりとした餡をたっぷりとかける。
 それが冬の寒い日に、どれだけ体をあっためてくれるか、美味しかったか、美弥は今でもよく覚えている。
 
 いっそ好きな食材を買ってきて、これで料理しろと言ってくれるなら喜んでそうするが、倉重は決してそんなことはしない。


 そして美弥の料理を貶めることに満足したなら、愚痴で食事時を埋め尽くす―――。

 会社の上層部、部下、取引先、果ては清掃員のトイレ掃除の仕方が悪いなど、尽きることなく愚痴が続く。

 会ったことも話したこともない人間の愚痴が延々と詳細に語られるが、美弥に意見を求めているわけではない。ただ吐き出し、ぶつけたいだけだ。埴輪か土偶でも置いてしゃべってくれればいいのに……と思うが、生身の人間でないと駄目なのだろう。それもおとなしく従順な――。

 日ごとに食事が喉に詰まるようになった。一人で食事をとっているほうが、よほど幸せだった。たとえ貧乏くさい料理でも――。


 途切れないお経のように愚痴を吐き出して気が済むと、倉重は風呂に向う。
 
 リビングには倉重の出した負の感情とそれをなすりつけられた美弥の負の感情だけが渦巻いて残る。ベランダの窓を開けて空気を入れ替えるのがささやかな対処法だ。

 
 結婚当初あれほど求めた美弥の体にも、1年も経つとほとんど見向きもしなくなった。たまに突発的に犯すように前戯もないままに短い挿入を終え、背を向けて寝た。

 セックスがないのは、かまわなかった。

 セックスには何も求めていない―――。
 何も感じない―――。

 14歳のあの日から―――。
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