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近江八幡の戦い
戦の起こる所 1
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勇ましい号令が上がり、大地を踏みしめる力強い足音が響く。
京の南から街道を東へ、近江へと京極家の兵が行列を作って出発した。
先頭に主力となる部隊が並び、揃った勇ましい行進を見せるのは、多賀高忠の三千人に、小笠原家長の弓兵が千人、それに続いて、多賀高家が三百の騎兵を率いる。
その後に、京極政経の集めた足軽二千余りの内、半分は塩治掃部ノ介が直営部隊として率い、残りを数十人づつ家臣の者たちに振り分けて、各家臣が集めた兵と合わせて作った武器もそろわぬ小さな部隊が続いた。
そして、隊列の最後に、武器も鎧も身に着けていない者たちを率いた尼子経久の部隊が並んでいた。
「本当に、こんな部隊で大丈夫なのか? 京極家の雇った足軽も分けてもらえなかったのだろ?」
平静を装ってはいたが、他の部隊と見比べて不安そうにしているのは、華模木に限った事ではない。
「ああ、うちの部隊を見た掃部ノ介に散々文句を言われた挙句にな。しかし、必要はないさ、少ない人数に分けて、部隊を分けるのは、まとまって動けないためだ。統率も取れない足軽を何人も押し付けられてもしかたないだろ」
「せめて、人数分の武器だけでも用意した方が良かったんじゃないか? 敵に出会ったらどうやって戦うんだ? 武器を持ってる者は、旦那を含めて数人だぞ?」
「戦場に居るのは、我らだけじゃない。敵からしても、我らと、揃いの鎧兜の部隊が並んでいれば、どちらと戦うかだ」
「村を焼かれて逃げだしてきたようにしか見えんが、……相手が攻撃しないだろうと考えるのは、いささか楽観的過ぎるだろう」
華模木は納得いかないように腕を組んだ。
「戦うだけが戦ではないさ……」
士気が下がるような話しを合戦の前にするものではない気はしたが、槍を振るわすために連れてきたのではない。
宗祇の計画通り一条冬良の救出に戦場を離れる予定ではあったが、上手く事が運ばず、戦火を交えた時のために、戦の目的を伝えておくべきだろう。
「……仮に、精鋭を率いて京極高清を追い詰めたとして、討ち取る事が出来るか?」
「相手の大将を討ち取るのが戦だろう?」
「近江の守護職は、六角家が代々受け継いでいたのだ。だが家督を争いが起こると、六角政高が六角高頼を討ち取り近江を制圧したが、その六角政高も次の戦で命を落とした。六角家が絶えると、近江の守護職に京極家が任命された」
「家督争いで、父子や兄弟を殺せば家が絶える。それが分かっていても、家督を争わずにはいられないのだろう?」
「死に絶えるまで争いを続けるなら、近江を分けたほうが良い」
「分けられるのか?」
「一つの井戸を使うが別々の部屋に分かれて住む長屋のように、同じ場所で共に暮らす事も可能なはずだ」
「それでは、守護職が守護代に変わっただけだろう……」
的確なまでに的を射ていた。
守護職が争い、守護代が争い、国人衆も争う……。
小さく区切ったところで、隣家との争いが無くなるわけではない。
「……空の高さも、海の広さも、知らなければ無限の広がりだが、知ってしまえば永遠ではない。天下は広いが、人の夢が収まるほど広くはないのだろう」
「夢がぶつかるところで争いが起こるのか?」
悲しい事だと思いつつ投げかけた問いに、答えがなかった。
視線を隣に向けると、華模木は空を見上げて聞いていないようであった。
京の南から街道を東へ、近江へと京極家の兵が行列を作って出発した。
先頭に主力となる部隊が並び、揃った勇ましい行進を見せるのは、多賀高忠の三千人に、小笠原家長の弓兵が千人、それに続いて、多賀高家が三百の騎兵を率いる。
その後に、京極政経の集めた足軽二千余りの内、半分は塩治掃部ノ介が直営部隊として率い、残りを数十人づつ家臣の者たちに振り分けて、各家臣が集めた兵と合わせて作った武器もそろわぬ小さな部隊が続いた。
そして、隊列の最後に、武器も鎧も身に着けていない者たちを率いた尼子経久の部隊が並んでいた。
「本当に、こんな部隊で大丈夫なのか? 京極家の雇った足軽も分けてもらえなかったのだろ?」
平静を装ってはいたが、他の部隊と見比べて不安そうにしているのは、華模木に限った事ではない。
「ああ、うちの部隊を見た掃部ノ介に散々文句を言われた挙句にな。しかし、必要はないさ、少ない人数に分けて、部隊を分けるのは、まとまって動けないためだ。統率も取れない足軽を何人も押し付けられてもしかたないだろ」
「せめて、人数分の武器だけでも用意した方が良かったんじゃないか? 敵に出会ったらどうやって戦うんだ? 武器を持ってる者は、旦那を含めて数人だぞ?」
「戦場に居るのは、我らだけじゃない。敵からしても、我らと、揃いの鎧兜の部隊が並んでいれば、どちらと戦うかだ」
「村を焼かれて逃げだしてきたようにしか見えんが、……相手が攻撃しないだろうと考えるのは、いささか楽観的過ぎるだろう」
華模木は納得いかないように腕を組んだ。
「戦うだけが戦ではないさ……」
士気が下がるような話しを合戦の前にするものではない気はしたが、槍を振るわすために連れてきたのではない。
宗祇の計画通り一条冬良の救出に戦場を離れる予定ではあったが、上手く事が運ばず、戦火を交えた時のために、戦の目的を伝えておくべきだろう。
「……仮に、精鋭を率いて京極高清を追い詰めたとして、討ち取る事が出来るか?」
「相手の大将を討ち取るのが戦だろう?」
「近江の守護職は、六角家が代々受け継いでいたのだ。だが家督を争いが起こると、六角政高が六角高頼を討ち取り近江を制圧したが、その六角政高も次の戦で命を落とした。六角家が絶えると、近江の守護職に京極家が任命された」
「家督争いで、父子や兄弟を殺せば家が絶える。それが分かっていても、家督を争わずにはいられないのだろう?」
「死に絶えるまで争いを続けるなら、近江を分けたほうが良い」
「分けられるのか?」
「一つの井戸を使うが別々の部屋に分かれて住む長屋のように、同じ場所で共に暮らす事も可能なはずだ」
「それでは、守護職が守護代に変わっただけだろう……」
的確なまでに的を射ていた。
守護職が争い、守護代が争い、国人衆も争う……。
小さく区切ったところで、隣家との争いが無くなるわけではない。
「……空の高さも、海の広さも、知らなければ無限の広がりだが、知ってしまえば永遠ではない。天下は広いが、人の夢が収まるほど広くはないのだろう」
「夢がぶつかるところで争いが起こるのか?」
悲しい事だと思いつつ投げかけた問いに、答えがなかった。
視線を隣に向けると、華模木は空を見上げて聞いていないようであった。
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