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天神山城の戦い 1
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直家の決断からわずか一日で、天神山城に兵を進めて開戦となった。
宇喜多家の行動を当然と考えていた浦上宗景も、布告前から戦の準備に抜かりはなく、攻めるにも守にも不安はない。開戦まで一日かけたのが遅いくらいだ。
天神山城は山々に連なる城壁を持ち、天然の堀となっている吉井川はもちろん、曲輪の並ぶ深く切れ込んだ谷を平地でさえ一息で走れぬ距離を上らなければならない。備前・美作一帯を見回してもこれ程の山城はない。日本中でも数えるほどしかない難攻不落の城である。
更に姫路城には、羽柴秀吉の軍勢がいた。
僅かな距離、街道に伏兵を置いて、足止めの用意はしていたが、何にしても時間との戦い。援軍が駆け付ける前に、城を落とさなければならない。
それは不可能に思えた。
万全の状態で守る難攻不落の城を落とすなど。
「直家様、谷の南側の曲輪を抑えました」
「防衛の指揮を執っていた延原家次が弓矢に当たり負傷したようで、兵に抱えられ運ばれておりました」
予想に反して次々と戦勝の報告が入る。難攻不落と言えども、直家は味方として、敵の包囲を破り、兵糧を運んだことも、城の修復に立ち会ったこともある。城の構造、仕掛けや罠の位置、山の中の獣道まで知れ渡っていれば、どれほど堅固に作られていても、落とせないはずがない。宇喜多軍は一日目にして、天神山城の半分を攻め落としていた。
「延原が負傷したのか……」
城をよく知っているのならば、無論、そこを守る人も知っている。浦上家の家臣として、何度も顔を合わせ、共に戦った者たちだ。名も知らず倒れる一兵卒でさえ、よく顔を見れば、村や田畑で見かけた者であるかもしれない。
だが、感傷に浸っている暇はない。
「三浦貞広配下、牧清冬が伊賀隊へ攻め込み、加茂十郎殿が、討ち死になされました!」
「伊賀久隆に救援を……忠家を向かわせろ!」
当然と言えば、当然の布陣。
直家は、播磨側から羽柴秀吉の援軍が来ることに備え、街道を塞ぎ複数の伏兵を用意していた。
それ故、北側への備えは薄い。
「後藤勝基の三星城と連携し、北側に防衛戦を築いております」
(三浦家に、後藤勝基もか……。)
主君である浦上宗景を敵に回したのだ。今まで味方だった者たちが敵に回るのは当然であったが、それでも、どこかで、三浦家や後藤家が宇喜多家と戦うはずがないと、考えていたのかもしれない。その甘さが、備えるべき場所を見誤らせた。
「三星城にも兵を向かわせろ」
「北に向かう街道は、既に封鎖されております!」
「何だと、どこから兵を集めたと言うんだ」
「敵の後詰は、山中幸盛です!」
浦上家は尼子家再興軍を支援していた。山中幸盛が救援に来ることも予想できたはず。ひとつの可能性に目をつぶれば、その先の可能性を見過ごす事になるのだ。
これ以上後手に回らないために、手を打たねばならない。
援軍を得て、浦上宗景が優勢になれば、今まで静観していた天神山城の支城の守備についていた者が動き出す。
「周囲の支城を抑える。日笠青山城に花房の隊を向かわせろ。城は攻めず、出てきた相手を討ち取るのだ。山中幸盛には、私が当たる」
「それでは城攻めの兵が……」
「どの道、周囲の敵を倒さねば城も落としきれん。それに、羽柴秀吉が動き出す前に、天神山城を落とすには座っている時間はない」
直家も軍配の代わりに槍を掴むと馬の背にまたがった。
宇喜多家の行動を当然と考えていた浦上宗景も、布告前から戦の準備に抜かりはなく、攻めるにも守にも不安はない。開戦まで一日かけたのが遅いくらいだ。
天神山城は山々に連なる城壁を持ち、天然の堀となっている吉井川はもちろん、曲輪の並ぶ深く切れ込んだ谷を平地でさえ一息で走れぬ距離を上らなければならない。備前・美作一帯を見回してもこれ程の山城はない。日本中でも数えるほどしかない難攻不落の城である。
更に姫路城には、羽柴秀吉の軍勢がいた。
僅かな距離、街道に伏兵を置いて、足止めの用意はしていたが、何にしても時間との戦い。援軍が駆け付ける前に、城を落とさなければならない。
それは不可能に思えた。
万全の状態で守る難攻不落の城を落とすなど。
「直家様、谷の南側の曲輪を抑えました」
「防衛の指揮を執っていた延原家次が弓矢に当たり負傷したようで、兵に抱えられ運ばれておりました」
予想に反して次々と戦勝の報告が入る。難攻不落と言えども、直家は味方として、敵の包囲を破り、兵糧を運んだことも、城の修復に立ち会ったこともある。城の構造、仕掛けや罠の位置、山の中の獣道まで知れ渡っていれば、どれほど堅固に作られていても、落とせないはずがない。宇喜多軍は一日目にして、天神山城の半分を攻め落としていた。
「延原が負傷したのか……」
城をよく知っているのならば、無論、そこを守る人も知っている。浦上家の家臣として、何度も顔を合わせ、共に戦った者たちだ。名も知らず倒れる一兵卒でさえ、よく顔を見れば、村や田畑で見かけた者であるかもしれない。
だが、感傷に浸っている暇はない。
「三浦貞広配下、牧清冬が伊賀隊へ攻め込み、加茂十郎殿が、討ち死になされました!」
「伊賀久隆に救援を……忠家を向かわせろ!」
当然と言えば、当然の布陣。
直家は、播磨側から羽柴秀吉の援軍が来ることに備え、街道を塞ぎ複数の伏兵を用意していた。
それ故、北側への備えは薄い。
「後藤勝基の三星城と連携し、北側に防衛戦を築いております」
(三浦家に、後藤勝基もか……。)
主君である浦上宗景を敵に回したのだ。今まで味方だった者たちが敵に回るのは当然であったが、それでも、どこかで、三浦家や後藤家が宇喜多家と戦うはずがないと、考えていたのかもしれない。その甘さが、備えるべき場所を見誤らせた。
「三星城にも兵を向かわせろ」
「北に向かう街道は、既に封鎖されております!」
「何だと、どこから兵を集めたと言うんだ」
「敵の後詰は、山中幸盛です!」
浦上家は尼子家再興軍を支援していた。山中幸盛が救援に来ることも予想できたはず。ひとつの可能性に目をつぶれば、その先の可能性を見過ごす事になるのだ。
これ以上後手に回らないために、手を打たねばならない。
援軍を得て、浦上宗景が優勢になれば、今まで静観していた天神山城の支城の守備についていた者が動き出す。
「周囲の支城を抑える。日笠青山城に花房の隊を向かわせろ。城は攻めず、出てきた相手を討ち取るのだ。山中幸盛には、私が当たる」
「それでは城攻めの兵が……」
「どの道、周囲の敵を倒さねば城も落としきれん。それに、羽柴秀吉が動き出す前に、天神山城を落とすには座っている時間はない」
直家も軍配の代わりに槍を掴むと馬の背にまたがった。
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