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明善寺城の戦い 3

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 石山城に着くと、馬を繋ぐ間もなく駆け寄って来た伝令の知らせに、軽いめまいを感じた。

「それは、本当か?」

「はい、金光宗高が自害いたしました」 

 金光宗高の処遇は十中八九、決めていたつもりだった。
 兵を率いての合戦を得意としていなくても、周囲の城主たちの間を取り持ち、互いの関係を調整していた手腕を直家は高く評価していた。最前線の城ではなく、後方から周辺諸国との交渉を任せられれば、どれほど役に立つか。

「それで、遺言はあるのか?」

「はい、『宗高の命にて、一族の者には、宇喜多様のお情けを賜りたい』と、書が残されておりました」

「よかろう。……確か、息子が二人いたな」

「会わずに決めても良いのか?」

 普段の慎重さを欠いた直家の返事に、忠家は小首をかしげた。

「金光の息子ならば、有能であろう……。それに、元々用いる心算であった」

 すぐに返事をしたのは、金光宗高の降伏を受け入れるか、返事を先に伝えなかった罪悪感からだろうか。
 城を守り切るには、周辺城主と良好な関係を築くだけでなく、城主同士を争わせ、余計な矛先が自分に向かぬように仕向けても居たのだ。その様な者を上手く扱えるかという不安が、決断を迷い、ためらわせ、石山城にたどり着くまでの間に伝令を走らせる事を忘れさせていたのだった。

「それじゃ、植木秀長はどうする? 斬るか? ん?……八兄い、あれは、馬場職家の兵だ」

「直家様! 追走していた馬場職家の部隊が、待ち伏せていた毛利に襲撃されました」

「毛利だと? 備中に回す兵が残っていたのか……」

「はい、三村元家の救援に来た、毛内元就の四男、毛利元清です」

「八兄い、俺が行くよ」

「待て、備中の南は小川が多く、日が落ちれば馬を走らすのは危険だ。それに馬を休めねば連戦は出来ん。すぐに動かせるのは、戸川通安の鉄砲隊か」

「しかし、馬場職家の部隊を早く見つけなくては、機動力のない鉄砲隊じゃ、間に合わんぞ」

 忠家よりもずっしりした声が答えた。

「間に合わせて見せます。宇喜多直家様。植木秀長でございます」

 鍛え抜かれた重くしっかりした足取りで直家の前にひざまずいた老人の顔には、傷とも皺とも見分けのつかぬ無数の年輪が刻まれていた。

「三村家親が毛利家を後ろ盾に我が物顔でふるまうまで、細川京兆家より賜ったこの地を、代々備中の地を治めてきた我らに、毛利元清を討つ先陣をお任せください」

「毛利元清の居場所が分かるか?」

「はっ、戦闘のあったと報告の場所から察するに、これ以上、野戦で備前側に誘い出されるのは良しとせず、佐井田城へ向かうはずです」

「分かった、先陣を任せる。後詰には戸川通安の部隊を回す。馬場職家の救出に向かえ!」

「はっ!」

 鋭く吐き出された空気の塊の風切り音のような言葉で答えると、踵を返して歩き出す。一部の迷いもないような機械的な武人の反応をそこに見た気がする。

「なるほど……、功を立てさせて、盾裏の裏切りを不問にする……と言う事?」

 いつもなら自分も出陣すると言い出す忠家が大人しいのは、その様な事を考えていたからだった。
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