無色の僕と虹色の彼女

こてつ

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#4. I am writer

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家に帰り着くと、リビングでは父さんと妹が一緒に「おかえり」と笑顔で出迎えてくれた。テーブルの上には何故かお寿司が用意されている。

「今日はお前の新しい一歩を祝って乾杯しようと思ってな」

「お兄ちゃん今日一日お疲れ様でした!」

父さんはビールを、妹はオレンジジュースを掲げて僕が揃うのを待っている。僕はそんな大袈裟なと笑いながら、でもそういうことをしてくれる二人に感謝しながら僕も席につく。

「それじゃあ瑛人の新しい一歩を祝して、乾杯!」

「「 乾杯! 」」

その日の夕食は僕が今日一日でどんなことをしたのか、どういう風に過ごせたのかを談笑して、父さんが酔っ払い始めたところでお開きとなった。

「お~い、純子~!瑛人は強くなったぞ~!」

父さんが酔っ払いながら母さんの遺影に話しかける。母さんは写真の中でにこやかに微笑んでいて、まるで本当に今日の僕を祝っていてくれているようだった。

「お父さん!もうほら早く寝て!」

時間は十一時を過ぎる頃、父さんは妹に介抱されながら寝室へと移動し、妹はリビングでテレビを見ながらスマホを弄っている。僕はというと、自室でノートパソコンを開きWeb小説を読んでいた。最近見つけたお気に入りの作家さんがいて、その人の小説が今日更新されるのだ。

サイトを開き、通知欄を見ると赤い点で新規通知が入ってるのを見つけ、クリックする。すると新しいエピソードが追加されていて、それをずっと読んでいた。そして後書きに『次の話でこの物語は終わりです。ここまで読んで下さって本当にありがとうございます。』とだけ追記されていた。

確かにストーリーは終盤に差し掛かっていて、もう終わる頃だろうとは感じていたが何か虚しい。こういう小説に限らず、好きなモノ、大切なモノを失ったり、終わりを迎えてしまうととてつもない虚無感に苛まれる。僕はそれも含め『本を読む』ことが好きで、それとは他に凄く面白い本を見つけた時のワクワク感やドキドキ感を楽しむのも好きだ。

その小説に感想コメントを書き込み、その日はもう眠ることにした。翌日学校に行き、あの気持ちを誰かに共有出来ないかと考えたところ、水無川さんなら分かるかもと話すことにした。

放課後、図書室に出向くと水無川さんはカウンターの仕事をしていた。僕は挨拶をして彼女の仕事(主に書架整理)を手伝っていた。

「水無川さんって本好きなんだよね?」

「え?そうだよ?」

「Web小説って知ってる?」

そう聞くと、水無川さんは一瞬何か不穏な単語を聞いたような、顔をしかめてすぐに笑顔で「一応知ってるよ~」と答えてくれた。僕は気付かなかったフリをして、話を続けた。

「それでさ、僕最近好きな小説があってさ」

そう言って僕はポケットからスマホを取り出してそのサイトを開き、作家さんのマイページを開いた。

「この人なんだけど、本当に面白い小説なんだよ。水無川さんもきっと気に入ると思う」

すると水無川さんは俯いて、そして顔を上げて僕を見つめた。

「あのね、その作家さん……」

「どうしたの?」

「その人は私」

「……え?」


一瞬何を言ったか理解出来なかった。そしてすぐに理解した。

「この人が、水無川さん?」

「そう」

どこか悲しく笑う彼女は、僕の手にあるスマホの画面をぼんやりと見つめている。

「私、その小説を書き上げたらもう書くのやめようと思ってるの」

「ど、どうして……?」

この作家さんが、水無川さんが書く文章はとても洗練されていて美しい。僕は今まで読んできてそんなこと思ったこと一度もなかった。だから僕はその作家さんが書く小説一つ一つに没頭して読み漁った。気付けば今連載中の小説にまで辿り着き、更新される度にすぐに読んでいた。

「私、親にそんなもの書く暇があるのなら勉強しろって言われちゃったんだ」

「でも水無川さんいつも成績良かったはずじゃ?」

「そんな自慢出来る順位とかではないけどそれなりには出来てたんだけどね~……」

「それなら親に文句言われる筋合いはないんじゃない?」

「それがそう上手くいかないんだよね~。両親は私を良い大学にいかせようとしてるみたいなんだ。私は別にそんなにいいところは目指してないんだよ?けど両親がね……」

あまり無理強いをしてはいけないのは分かっている。けれどここまで好きになった作家さん、そしてその小説達がもう読めなくなってしまうと思ったら気が気でならなかった。

「竹川君は書いてないの?」

「僕はそんな大層なこと出来ないよ。本当は書いてみたいってのが本音ではあるけど……」

「書いてみたら以外とハマるよ?自分が創る自分だけの世界。誰の干渉も受けないで自分が好きなように物事を進められるの。だから私は小説の中だけでも自由になりたいの。現実に縛られている自分から逃げるために、ね」

僕は彼女の言葉を聞いて素直に感心した。そして尊敬こそすれ畏怖した。彼女は僕と違う場所にいると、天と地の差ほどあるこの全てにおいて僕は感服した。

「じゃあ、僕が君の書きたい小説を書くよ」

その時僕は何を言っているんだと思った。けれどそれは取って付けたようなアイデアではなく、それが僕に出来る彼女への恩返しだと思ったのだ。

「竹川君が私の小説を書いてくれるの?」

「うん」

正直気は進まなかった。絶対に彼女ほど美しい文章を創り出すことは不可能だし、その技量もない。沢山読んできたことでどのような感じかは大体把握しているがそれを言葉に置き換えて表現するのは至難の業だと思った。

「じゃあ、約束ね?」

「うん、約束」

その日は一緒に帰り小説のことについて語り合った。僕は家に帰り、夜中まで小説を書くことに明け暮れた。

僕は無事に一話を書き上げた。そしてそれを見せるために翌日は早めに登校した。

「凄い……凄いよ竹川君!!」

書き上げた小説を、僕が創ったモノを水無川さんは心底気に入っているようだった。

「これなら大丈夫だよ!」

「……そうかな?」

「うん!これで一安心ってところ?」

その日の昼休み、小説をサイトに投稿し、読む側から書く側に変わる。結果、その小説の評価は瞬く間に上がることをその時の僕はまだ知る由もないだろう。

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