上 下
10 / 28

10 再配達

しおりを挟む
 
 、、、、チィ、、チィ、、キキキキキ、、

 窓の外の鳥の声で新米ネズミは目を覚ました。

 朝の柔らかい日の光が、昨日と同じ場所とは思えないぐらいに明るく部屋を包み込んでいる。
 ___________ (あのまま、寝てしまったのか、、。)

 ふと机に目をやると、まだそこには昨日のまんまの荷物の箱が置いてあるのだ。
 夢から現実に戻って来たんだと実感する。
 
 壁掛け時計の針は七時半を指していた。

 (ちょっと早いけど出発しよう。)
 よしっ、と新米ネズミは鞄の中から帽子を取り出して被る。
 力を入れて椅子から立ち上がり、箱を抱えて事務所を後にした。

 

 朝の空気は少し肌寒く、バイクを走らせている新米ネズミの首筋を冷たく吹き抜けていく。

 薄ピンク色に色付いた朝焼けが遠くの山々に見える。いつもなら美しい景色に心躍るのだが、今日の新米ネズミにはとても憂鬱な空の色に感じられた。

 トンボが賑やかに飛び交うコスモス野原の横を通り過ぎ、小道に入っていく。
 昨日は暗くて見えなかったまばらな家々も静かに並んで、今日は一軒一軒がよく見える。

 新米ネズミは、チュー太郎の家をすぐに見つけたが、時間もまだ早いので、通りを挟んだ空き地にバイクを停めて可愛らしいレンガの家をぼんやり外から眺めていた。
 ニ階の窓に、ちらりと奥さんらしき女性のネズミが見える。
 相手もこちらに気付いたが、すぐに困った顔で会釈をしてそそくさと窓から立ち去ってしまった。

 不意に起きた一瞬の出来事で、新米ネズミは暑くもないのに緊張で気が付けば汗をダラダラとかいていた。
 心臓もバクバクと音を立てている。

 (荷物を渡す時、なんて言えばいいんだろう。)
 (昨日は拒否されたけれど、一日経てば気が変わってるんじゃないのかな?)
 (それとも、とにかく謝り倒して受け取ってもらおうか?)

 色んな考えが頭の中をぐちゃぐちゃにする。

 しばらくあれこれ考えてウロウロしていると、玄関のドアが開いて中からチュー太郎が出てきた。
 仕事に行くようで、カッターシャツを着てベストとシンプルなズボンに鞄を持っている。
 彼の顔は昨日と変わらず嫌悪感で満ちていた。

 こちらにズンズン歩み寄ってきて、強めな口調でキッパリと言われる。 
 「迷惑なので、もう配達しないでもらえませんか?」

 「で、でもルールで、受け取ってもらえるまで配達を止められないのでっ!」
 「お願いしますっ!」
 「荷物っ!受け取って頂けませんかっ?!」

 新米ネズミは箱をぐいっとチュー太郎の方に押し寄せると、彼は「やめろっ!!」と、とっさに両腕でそれを押し返した。

 ガチャンッッ!!!

 勢いよく箱は地面に落ち、同時に激しく中の物が壊れる音がした。

 二人は(しまった!!)という顔でそれを見たが、
 「と、とにかくもう、来ないでくれっ!」
 とチュー太郎が先に言い放ちながら、急いで車に乗り込んで行ってしまった。

 残された新米ネズミはへなへなとその場にしゃがみ込み、ダンボールの箱を抱えると中からガシャリと嫌な音がした。
 「うっ、、、。」新米ネズミは思わず唸ってゆっくり立ち上がり、それをバイクの荷台に乗せた。
 
 今はとにかくこの場から去りたくてエンジンをかける。
 帽子のつばを引っ張って顔を隠し、ハンドルを握って新米ネズミは逃げるように走り去った。


 その一部始終をニ階の窓から奥さんネズミが、心配そうにずっと見守っていた。


  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

【完結】探さないでください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
私は、貴方と共にした一夜を後悔した事はない。 貴方は私に尊いこの子を与えてくれた。 あの一夜を境に、私の環境は正反対に変わってしまった。 冷たく厳しい人々の中から、温かく優しい人々の中へ私は飛び込んだ。 複雑で高級な物に囲まれる暮らしから、質素で簡素な物に囲まれる暮らしへ移ろいだ。 無関心で疎遠な沢山の親族を捨てて、誰よりも私を必要としてくれる尊いこの子だけを選んだ。 風の噂で貴方が私を探しているという話を聞く。 だけど、誰も私が貴方が探している人物とは思わないはず。 今、私は幸せを感じている。 貴方が側にいなくても、私はこの子と生きていける。 だから、、、 もう、、、 私を、、、 探さないでください。

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

義妹と一緒になり邪魔者扱いしてきた婚約者は…私の家出により、罰を受ける事になりました。

coco
恋愛
可愛い義妹と一緒になり、私を邪魔者扱いする婚約者。 耐えきれなくなった私は、ついに家出を決意するが…?

処理中です...