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10 再配達
しおりを挟む、、、、チィ、、チィ、、キキキキキ、、
窓の外の鳥の声で新米ネズミは目を覚ました。
朝の柔らかい日の光が、昨日と同じ場所とは思えないぐらいに明るく部屋を包み込んでいる。
___________ (あのまま、寝てしまったのか、、。)
ふと机に目をやると、まだそこには昨日のまんまの荷物の箱が置いてあるのだ。
夢から現実に戻って来たんだと実感する。
壁掛け時計の針は七時半を指していた。
(ちょっと早いけど出発しよう。)
よしっ、と新米ネズミは鞄の中から帽子を取り出して被る。
力を入れて椅子から立ち上がり、箱を抱えて事務所を後にした。
朝の空気は少し肌寒く、バイクを走らせている新米ネズミの首筋を冷たく吹き抜けていく。
薄ピンク色に色付いた朝焼けが遠くの山々に見える。いつもなら美しい景色に心躍るのだが、今日の新米ネズミにはとても憂鬱な空の色に感じられた。
トンボが賑やかに飛び交うコスモス野原の横を通り過ぎ、小道に入っていく。
昨日は暗くて見えなかったまばらな家々も静かに並んで、今日は一軒一軒がよく見える。
新米ネズミは、チュー太郎の家をすぐに見つけたが、時間もまだ早いので、通りを挟んだ空き地にバイクを停めて可愛らしいレンガの家をぼんやり外から眺めていた。
ニ階の窓に、ちらりと奥さんらしき女性のネズミが見える。
相手もこちらに気付いたが、すぐに困った顔で会釈をしてそそくさと窓から立ち去ってしまった。
不意に起きた一瞬の出来事で、新米ネズミは暑くもないのに緊張で気が付けば汗をダラダラとかいていた。
心臓もバクバクと音を立てている。
(荷物を渡す時、なんて言えばいいんだろう。)
(昨日は拒否されたけれど、一日経てば気が変わってるんじゃないのかな?)
(それとも、とにかく謝り倒して受け取ってもらおうか?)
色んな考えが頭の中をぐちゃぐちゃにする。
しばらくあれこれ考えてウロウロしていると、玄関のドアが開いて中からチュー太郎が出てきた。
仕事に行くようで、カッターシャツを着てベストとシンプルなズボンに鞄を持っている。
彼の顔は昨日と変わらず嫌悪感で満ちていた。
こちらにズンズン歩み寄ってきて、強めな口調でキッパリと言われる。
「迷惑なので、もう配達しないでもらえませんか?」
「で、でもルールで、受け取ってもらえるまで配達を止められないのでっ!」
「お願いしますっ!」
「荷物っ!受け取って頂けませんかっ?!」
新米ネズミは箱をぐいっとチュー太郎の方に押し寄せると、彼は「やめろっ!!」と、とっさに両腕でそれを押し返した。
ガチャンッッ!!!
勢いよく箱は地面に落ち、同時に激しく中の物が壊れる音がした。
二人は(しまった!!)という顔でそれを見たが、
「と、とにかくもう、来ないでくれっ!」
とチュー太郎が先に言い放ちながら、急いで車に乗り込んで行ってしまった。
残された新米ネズミはへなへなとその場にしゃがみ込み、ダンボールの箱を抱えると中からガシャリと嫌な音がした。
「うっ、、、。」新米ネズミは思わず唸ってゆっくり立ち上がり、それをバイクの荷台に乗せた。
今はとにかくこの場から去りたくてエンジンをかける。
帽子のつばを引っ張って顔を隠し、ハンドルを握って新米ネズミは逃げるように走り去った。
その一部始終をニ階の窓から奥さんネズミが、心配そうにずっと見守っていた。
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