516 / 531
Part 3
Е.г 思いはそれぞれ - 07
しおりを挟む
確か、カー・サルヴァソンは、セシルにお祝いの言葉を述べてから、あてがわれた部屋に籠りっきりで、部屋から一切顔を出さない――なんていう報告を受けていたセシルだ。
そんな中でも、カリーナはカー・サルヴァソンに会いに行って、邪魔扱いされなかったのだろうか。興味深い話である。
「そうですね。ドレスに合わせ、ヴェイル(ベール) もドレスの丈ほど長いものもあります。全体に刺繍を施したり、裾に刺繡をしたりと色々ですが、金糸や銀糸を加えて豪奢にしてみたり、レースだけのヴェイルにしてみたりと」
そのどれも、この時代では、ものすごい高価な代物になってしまう。超金持ちでない限り、そんな贅沢は滅多にできることではない。
「あぁ……、素晴らしいですわぁ……。後ろ姿が流れるように繊細で優美で、きっと惚れ惚れしてしまいますわぁ……」
夢見心地で、カリーナの顔が緩みに緩みまくってしまっている。
さすが、服作りを本職としているだけはある。ドレスの話でこんなにも盛り上がってしまえるのだから。
「もし、今からデザインを変えた場合、最終的にスタイルとデザインを決定するまで、どのくらいを予定しているのですか?」
「そ、それは……」
一気に現実に引き戻されて、カリーナも顔を引き締める。
「1週間……」
「できるのですか?」
「できます。絶対に、終わらせてみせますっ……」
「では、素材選びは? 私は、いつまでも長くコトレアに居座り続けていることはできませんもの。もう、そろそろ、アトレシア大王国に向かわなくては、問題になってしまいますから」
「わかって、おります……。――お選びになったドレスの生地や素材で、なにか……文句はございませんか……?」
「文句はありません。ああいうドレスのデザインなので、ああいう生地などが似合うんではないのかな、ということで決めたものです」
その口ぶりからすると、特別、セシルが気に入ったからとか、思い入れがあるから今のドレスの素材を選んだようではないらしい。
「一週間でデザインの完成。その頃には、私も、アトレシア大王国に旅立つ準備をしなくてはなりません。ただ、その間――私が素材選びをした場合?」
「……よろしいのですか?」
「それは私の質問です。私が素材選びや、ドレスのデザインに手を貸してしまうと、どうしても、私好みの選択になってしまいかねません。そうなると、アトレシア大王国の習慣とは全くかけ離れた選択になってしまうかもしれませんしね」
「それは……」
問題になってしまうかもしれないが……。
「あの……そうなってしまった場合は、私が、全責任を持ちますので」
「持つのですか?」
「はい……。ですから、どうか、デザインを変えさせてください……」
座ったまま、カリーナが、深く、深く、頭を下げて行った。
「お父さまは、なんて?」
「父には、承諾してもらいました……」
ここ連日、連夜、カリーナは父親であるフレイにまでも土下座する勢いで、ドレスのデザイン変更をお願いしたのだ。
初めは、父親もあまり良い顔をしなかったが、カリーナに意気込みに根負けして、やっと(渋々と)、カリーナの提案に承諾してくれたのだ。
「デザインが変われば、ドレスの縫い上げにも時間がかかってしまうでしょう?」
「その、ことなのですが……。もし、ドレスのデザインを変えて、裾を伸ばす形のマーメイド型か、“フィット・アンド・フレア”型にした場合……、当初のドレス型よりも、かなりドレスの生地を半減で着ると思うのです。ですから、実際の縫い上げ時間も、当初よりは短縮して、その分、ドレスの装飾や刺繍、ベールの方に力を入れることができるのではないかと……」
「なるほど。では、資金の方は?」
「……あの……、王妃陛下より、ウェディングドレスにかかる費用の際限はない、と申し遣っておりますが……」
それは、セシルの全く知らない話である。
王妃陛下であるアデラの好意を受け取って、今の所、アトレシア大王国での婚儀の準備は、全て、アデラに任せきりである。
そうやって、豊穣祭にやって来たギルバートに、アデラがセシル宛の文を預けたから。
セシルは、その行為に大感謝して、ギルバートにお礼の手紙を頼み、その後は、婚儀の準備は全てアデラに任せきりなのである。
それが、どうしたことか、まさか、ウェディングドレスの費用は際限なし、なんて、あまりに思い切った決断を聞かされてしまったものだから、セシルも驚かずにはいられない。
国庫の無駄遣いなんじゃ……。
だが、その質問をするにも、アトレシア大王国は遠く離れた土地にある。アトレシア大王国に到着するまで、気軽に手紙をしたためて尋ねることができるような質問ではない。
「もし、宝石の削り粉や欠片を使用する場合は、新たな費用がかかるかもしれませんが、今の所、こちらの領地に持ち込んだ素材であれば、予算を上乗せすることはないんではないかと……」
「そう、ですか……」
これは、もう、次に王妃であるアデラに会ったら、セシルからもしっかりとお礼を述べておかないといけないだろう。
「では、今日から一週間。がんばってくださいね。期待していますよ」
パッと、カリーナが顔を上げた。
信じられなくて、数秒、ポカンと口を開けたまま身動きもしなかったが、すぐに、カリーナの顔に満面の笑みが浮かび上がる。
「ありがとうございますっ。本当に、ありがとうございますっ! 絶対に、期日は守ってみせますので、ご安心ください」
「では、がんばってくださいね」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
どうやら、幸運なことに、セシルは、アトレシア大王国の習慣に乗っ取ったウェディングドレスに執着する必要がなくなり、ほぼ、セシルの趣味で出来上がるようなウェディングドレスを着られることになったらしい。
はっきり言って、セシルの方が、勇気を出してセシルの前にお願いにやって来たカリーナにお礼を言いたいくらいである。
コルセットなし。
ああ、なんて、最高の響きなんだろう。
来年に向けての婚儀の準備は多忙であるけれど、思いはそれぞれに。どの選択も、互いにとって有意義なものになったようである。
万々歳、ってね?
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Diolch yn fawr iawn am ddarllen y nofel hon
~・~・~・~・~・~・~・~・
そんな中でも、カリーナはカー・サルヴァソンに会いに行って、邪魔扱いされなかったのだろうか。興味深い話である。
「そうですね。ドレスに合わせ、ヴェイル(ベール) もドレスの丈ほど長いものもあります。全体に刺繍を施したり、裾に刺繡をしたりと色々ですが、金糸や銀糸を加えて豪奢にしてみたり、レースだけのヴェイルにしてみたりと」
そのどれも、この時代では、ものすごい高価な代物になってしまう。超金持ちでない限り、そんな贅沢は滅多にできることではない。
「あぁ……、素晴らしいですわぁ……。後ろ姿が流れるように繊細で優美で、きっと惚れ惚れしてしまいますわぁ……」
夢見心地で、カリーナの顔が緩みに緩みまくってしまっている。
さすが、服作りを本職としているだけはある。ドレスの話でこんなにも盛り上がってしまえるのだから。
「もし、今からデザインを変えた場合、最終的にスタイルとデザインを決定するまで、どのくらいを予定しているのですか?」
「そ、それは……」
一気に現実に引き戻されて、カリーナも顔を引き締める。
「1週間……」
「できるのですか?」
「できます。絶対に、終わらせてみせますっ……」
「では、素材選びは? 私は、いつまでも長くコトレアに居座り続けていることはできませんもの。もう、そろそろ、アトレシア大王国に向かわなくては、問題になってしまいますから」
「わかって、おります……。――お選びになったドレスの生地や素材で、なにか……文句はございませんか……?」
「文句はありません。ああいうドレスのデザインなので、ああいう生地などが似合うんではないのかな、ということで決めたものです」
その口ぶりからすると、特別、セシルが気に入ったからとか、思い入れがあるから今のドレスの素材を選んだようではないらしい。
「一週間でデザインの完成。その頃には、私も、アトレシア大王国に旅立つ準備をしなくてはなりません。ただ、その間――私が素材選びをした場合?」
「……よろしいのですか?」
「それは私の質問です。私が素材選びや、ドレスのデザインに手を貸してしまうと、どうしても、私好みの選択になってしまいかねません。そうなると、アトレシア大王国の習慣とは全くかけ離れた選択になってしまうかもしれませんしね」
「それは……」
問題になってしまうかもしれないが……。
「あの……そうなってしまった場合は、私が、全責任を持ちますので」
「持つのですか?」
「はい……。ですから、どうか、デザインを変えさせてください……」
座ったまま、カリーナが、深く、深く、頭を下げて行った。
「お父さまは、なんて?」
「父には、承諾してもらいました……」
ここ連日、連夜、カリーナは父親であるフレイにまでも土下座する勢いで、ドレスのデザイン変更をお願いしたのだ。
初めは、父親もあまり良い顔をしなかったが、カリーナに意気込みに根負けして、やっと(渋々と)、カリーナの提案に承諾してくれたのだ。
「デザインが変われば、ドレスの縫い上げにも時間がかかってしまうでしょう?」
「その、ことなのですが……。もし、ドレスのデザインを変えて、裾を伸ばす形のマーメイド型か、“フィット・アンド・フレア”型にした場合……、当初のドレス型よりも、かなりドレスの生地を半減で着ると思うのです。ですから、実際の縫い上げ時間も、当初よりは短縮して、その分、ドレスの装飾や刺繍、ベールの方に力を入れることができるのではないかと……」
「なるほど。では、資金の方は?」
「……あの……、王妃陛下より、ウェディングドレスにかかる費用の際限はない、と申し遣っておりますが……」
それは、セシルの全く知らない話である。
王妃陛下であるアデラの好意を受け取って、今の所、アトレシア大王国での婚儀の準備は、全て、アデラに任せきりである。
そうやって、豊穣祭にやって来たギルバートに、アデラがセシル宛の文を預けたから。
セシルは、その行為に大感謝して、ギルバートにお礼の手紙を頼み、その後は、婚儀の準備は全てアデラに任せきりなのである。
それが、どうしたことか、まさか、ウェディングドレスの費用は際限なし、なんて、あまりに思い切った決断を聞かされてしまったものだから、セシルも驚かずにはいられない。
国庫の無駄遣いなんじゃ……。
だが、その質問をするにも、アトレシア大王国は遠く離れた土地にある。アトレシア大王国に到着するまで、気軽に手紙をしたためて尋ねることができるような質問ではない。
「もし、宝石の削り粉や欠片を使用する場合は、新たな費用がかかるかもしれませんが、今の所、こちらの領地に持ち込んだ素材であれば、予算を上乗せすることはないんではないかと……」
「そう、ですか……」
これは、もう、次に王妃であるアデラに会ったら、セシルからもしっかりとお礼を述べておかないといけないだろう。
「では、今日から一週間。がんばってくださいね。期待していますよ」
パッと、カリーナが顔を上げた。
信じられなくて、数秒、ポカンと口を開けたまま身動きもしなかったが、すぐに、カリーナの顔に満面の笑みが浮かび上がる。
「ありがとうございますっ。本当に、ありがとうございますっ! 絶対に、期日は守ってみせますので、ご安心ください」
「では、がんばってくださいね」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
どうやら、幸運なことに、セシルは、アトレシア大王国の習慣に乗っ取ったウェディングドレスに執着する必要がなくなり、ほぼ、セシルの趣味で出来上がるようなウェディングドレスを着られることになったらしい。
はっきり言って、セシルの方が、勇気を出してセシルの前にお願いにやって来たカリーナにお礼を言いたいくらいである。
コルセットなし。
ああ、なんて、最高の響きなんだろう。
来年に向けての婚儀の準備は多忙であるけれど、思いはそれぞれに。どの選択も、互いにとって有意義なものになったようである。
万々歳、ってね?
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
Diolch yn fawr iawn am ddarllen y nofel hon
~・~・~・~・~・~・~・~・
2
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました
雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた
スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ
この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった...
その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!?
たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく
ここが...
乙女ゲームの世界だと
これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
虚偽の罪で婚約破棄をされそうになったので、真正面から潰す
千葉シュウ
恋愛
王立学院の卒業式にて、突如第一王子ローラス・フェルグラントから婚約破棄を受けたティアラ・ローゼンブルグ。彼女は国家の存亡に関わるレベルの悪事を働いたとして、弾劾されそうになる。
しかし彼女はなぜだか妙に強気な態度で……?
貴族の令嬢にも関わらず次々と王子の私兵を薙ぎ倒していく彼女の正体とは一体。
ショートショートなのですぐ完結します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる