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Part 3
Е.в 婚儀の準備と言うのは - 03
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* * *
今日は、午前中から、セシルの邸の一室で、セシルのドレスの採寸がされていた。
昨夜は、観光や買い物を終えて、夕食もそのまま宿場町で終わらせたそうな一行は、大満足で邸に戻って来たらしい。
それで、今日からは、早速、仕事初めなので、用意された一室に運ばれた荷物を解くのが、第一の仕事だった。
セシルの空き時間を待っている間、用意してきたたくさんの布地が木箱から取り出され、丁寧に、大きなカバーを敷いた絨毯の上に並べられ、違う部屋から運ばれた仕切りや、足乗せ台の小さな椅子を並べたりと忙しい。
当初の予定では、まず、仕立屋がドレスの採寸やデザインを済ませている間、ある程度の時間をおいて、一週間後に、宝石商や宝石彫刻師などがやって来る手筈になっている。
用意された部屋は、普段、ダンスレッスン用(セシルはほとんど使用しない) の部屋で、ほとんど家具が置いていない広い室内だ。
セシルの採寸が始まり、布選びが始まると、領地にいるお針子達も、その場に控えていた。
なにしろ、王宮御用達の仕立屋やお針子など、お目にかかったことがないだけに、領地のお針子達が見学をしていいか? ――と尋ねられ、もちろん、全く問題ないので、すぐにその要望は許可されていた。
それで、領地にいる若いお針子達も、目を輝かせて、たくさん積まれた布の山を眺めている。
「王妃陛下より、ご領主さまは、以前に見慣れないドレスを着ていらっしゃった、とお聞きしております。王都では見慣れないデザインでしたが、繊細で、優美で、とても素晴らしいドレスだと伺っております」
「ありがとう」
「もし、ご迷惑でなければ、ドレスを拝見させていただけないでしょうか? ウェディングドレスの参考になれば、と思いまして」
「それは、構いませんが――」
セシルのドレスのデザインは、むしろ、前世(現世)で思いだせるドレスの形だったり、デザインなのだ。
伝統を重んじる王宮の、まして、王族の婚儀で着るウェディングドレスの参考になるとは思えない。
「ご領主さまは、どのようなドレスを、お望みでいらっしゃいますか?」
「私は、基本、シンプルでエレガント、という型が多いですわ」
「そうでございますか。わかりました。そういったデザインも考慮してみます」
セシルは、別に、ドレスの型にこだわったりしない。
王宮の仕来りや風習があるのなら、それに従うことも文句はないし、アトレシア大王国の伝統的なドレスでも問題はない。
セシルは、一般的な少女達や女性達が憧れるようなウェディングドレスに、特別、執着があるわけではない。
そこまで、こだわりがあるのでもないのだ。
「マスター、ドレスをお持ち致しますね」
「ええ、お願いするわ」
静かに控えていたオルガは、そそと、部屋を後にする。
「何着か、デザイン画をお持ちしましたので、その確認もなさっていただけないでしょうか?」
「わかりました」
それで、採寸が終わったセシルはガウンを羽織り、衝立の後ろから出てくる。
部屋の片隅に置かれた作業用のテーブルを囲んで、長椅子に座っている仕立屋の主人が立ち上がり、セシルに一礼する。
「着替えた方がよろしいですか?」
「いえ――ご領主さまの望まれるままに」
さすがに、ガウンだけでドレス選びをしてくる貴族令嬢はいなかったが、それはそれ。
仕立屋の主人は、長く王宮にも出入りしているし、上流貴族の仕立ても任されているだけに、貴婦人のドレスの仕立てをする際には、マナーを決してかかさない。
口うるさく口を挟まない。
いつも、あれこれと指示が多く、細かなことまで注意されることが多いので、仕立屋の主人は、一切、波風を起こさないように注意している。
「採寸も終わりましたので、着替えてもいいのですけれど――きっと、ねえ?」
なんだか諦めたようなセシルの呟きに、仕立屋の主人フレイと、その娘カリーナは、胸内で首を傾げてみせるが、態度には出さない。
それからすぐに扉がノックされて、オルガが戻って来た。――後ろに3~4人の侍女をつれて。
その腕の中には、今までセシルが身に着けたドレスが収まっていて、丁寧に運んでくるオルガと侍女たちが、部屋の隅っこにいるセシル達の方に進んできた。
「こちらが、マイレディーが、今年の豊穣祭で身につけられたドレスでございます」
「まあっ……!――ああ……、なんて豪奢で、それでいて、繊細な刺繍なのかしら……!」
そっと、テーブルの上に置かれたドレスを見るなり、ほうぅ……と、カリーナが感嘆する。
もちろん、去年の豊穣祭が終わると同時に、一年もかかって仕上げた最高傑作である。
十周年を記念する特別で盛大なお祝いだけに、金銀をメインとした豪奢な花模様の刺繍、それを縁取る繊細なレースの数々。
「ああ……、本当に素晴らしいですね……」
フレイもドレスを見て、眩しそうに目を細めていく。
反対側の部屋の隅で控えていたお針子達は、素直な賞賛を受けて、密かに大喜び。王宮御用達の仕立屋の主人からも、褒めてもらったのだ。
「それから、こちらは、去年の豊穣祭でマイレディーが着られたものです――」
それから、過去五年分のセシルのドレスが紹介され、その度に、ああぁ……、まあっ……と、二人からだけではなく、待機しているお針子達からも、感嘆めいた賞賛が上がっていた。
~・~・~・~・~・~・~・~・
読んでいただき、ありがとうございます。ブックマーク・評価★・感想・レビューなどなど応援いただければ励みになります!
ነዛ መጽሓፍ እዚኣ ስለ ዘንበብኩምላ አመስግነኩም ።
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今日は、午前中から、セシルの邸の一室で、セシルのドレスの採寸がされていた。
昨夜は、観光や買い物を終えて、夕食もそのまま宿場町で終わらせたそうな一行は、大満足で邸に戻って来たらしい。
それで、今日からは、早速、仕事初めなので、用意された一室に運ばれた荷物を解くのが、第一の仕事だった。
セシルの空き時間を待っている間、用意してきたたくさんの布地が木箱から取り出され、丁寧に、大きなカバーを敷いた絨毯の上に並べられ、違う部屋から運ばれた仕切りや、足乗せ台の小さな椅子を並べたりと忙しい。
当初の予定では、まず、仕立屋がドレスの採寸やデザインを済ませている間、ある程度の時間をおいて、一週間後に、宝石商や宝石彫刻師などがやって来る手筈になっている。
用意された部屋は、普段、ダンスレッスン用(セシルはほとんど使用しない) の部屋で、ほとんど家具が置いていない広い室内だ。
セシルの採寸が始まり、布選びが始まると、領地にいるお針子達も、その場に控えていた。
なにしろ、王宮御用達の仕立屋やお針子など、お目にかかったことがないだけに、領地のお針子達が見学をしていいか? ――と尋ねられ、もちろん、全く問題ないので、すぐにその要望は許可されていた。
それで、領地にいる若いお針子達も、目を輝かせて、たくさん積まれた布の山を眺めている。
「王妃陛下より、ご領主さまは、以前に見慣れないドレスを着ていらっしゃった、とお聞きしております。王都では見慣れないデザインでしたが、繊細で、優美で、とても素晴らしいドレスだと伺っております」
「ありがとう」
「もし、ご迷惑でなければ、ドレスを拝見させていただけないでしょうか? ウェディングドレスの参考になれば、と思いまして」
「それは、構いませんが――」
セシルのドレスのデザインは、むしろ、前世(現世)で思いだせるドレスの形だったり、デザインなのだ。
伝統を重んじる王宮の、まして、王族の婚儀で着るウェディングドレスの参考になるとは思えない。
「ご領主さまは、どのようなドレスを、お望みでいらっしゃいますか?」
「私は、基本、シンプルでエレガント、という型が多いですわ」
「そうでございますか。わかりました。そういったデザインも考慮してみます」
セシルは、別に、ドレスの型にこだわったりしない。
王宮の仕来りや風習があるのなら、それに従うことも文句はないし、アトレシア大王国の伝統的なドレスでも問題はない。
セシルは、一般的な少女達や女性達が憧れるようなウェディングドレスに、特別、執着があるわけではない。
そこまで、こだわりがあるのでもないのだ。
「マスター、ドレスをお持ち致しますね」
「ええ、お願いするわ」
静かに控えていたオルガは、そそと、部屋を後にする。
「何着か、デザイン画をお持ちしましたので、その確認もなさっていただけないでしょうか?」
「わかりました」
それで、採寸が終わったセシルはガウンを羽織り、衝立の後ろから出てくる。
部屋の片隅に置かれた作業用のテーブルを囲んで、長椅子に座っている仕立屋の主人が立ち上がり、セシルに一礼する。
「着替えた方がよろしいですか?」
「いえ――ご領主さまの望まれるままに」
さすがに、ガウンだけでドレス選びをしてくる貴族令嬢はいなかったが、それはそれ。
仕立屋の主人は、長く王宮にも出入りしているし、上流貴族の仕立ても任されているだけに、貴婦人のドレスの仕立てをする際には、マナーを決してかかさない。
口うるさく口を挟まない。
いつも、あれこれと指示が多く、細かなことまで注意されることが多いので、仕立屋の主人は、一切、波風を起こさないように注意している。
「採寸も終わりましたので、着替えてもいいのですけれど――きっと、ねえ?」
なんだか諦めたようなセシルの呟きに、仕立屋の主人フレイと、その娘カリーナは、胸内で首を傾げてみせるが、態度には出さない。
それからすぐに扉がノックされて、オルガが戻って来た。――後ろに3~4人の侍女をつれて。
その腕の中には、今までセシルが身に着けたドレスが収まっていて、丁寧に運んでくるオルガと侍女たちが、部屋の隅っこにいるセシル達の方に進んできた。
「こちらが、マイレディーが、今年の豊穣祭で身につけられたドレスでございます」
「まあっ……!――ああ……、なんて豪奢で、それでいて、繊細な刺繍なのかしら……!」
そっと、テーブルの上に置かれたドレスを見るなり、ほうぅ……と、カリーナが感嘆する。
もちろん、去年の豊穣祭が終わると同時に、一年もかかって仕上げた最高傑作である。
十周年を記念する特別で盛大なお祝いだけに、金銀をメインとした豪奢な花模様の刺繍、それを縁取る繊細なレースの数々。
「ああ……、本当に素晴らしいですね……」
フレイもドレスを見て、眩しそうに目を細めていく。
反対側の部屋の隅で控えていたお針子達は、素直な賞賛を受けて、密かに大喜び。王宮御用達の仕立屋の主人からも、褒めてもらったのだ。
「それから、こちらは、去年の豊穣祭でマイレディーが着られたものです――」
それから、過去五年分のセシルのドレスが紹介され、その度に、ああぁ……、まあっ……と、二人からだけではなく、待機しているお針子達からも、感嘆めいた賞賛が上がっていた。
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