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Part 3

В.в 豊穣祭 - 12

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「それで、“反省室”に送られた観光客がいるのか?」
「それは、もちろん」

 やはり、お酒が入ると、酔っ払いは出てくるものなのである。毎年のことでも、その手の“習慣”は、なくならないものである。

「豊穣祭の為に、警備や護衛の半数以上を町に注ぎ込まなければならないので、本来なら、今の時期はとても大変なのですよ」

 やんわりと、暗黙にレイフを責めてくるギルバートに、レイフが瞳を細め口元を上げていく。

「無理を言って、やって来た甲斐があったというものだ。オスミンを見てみろ。大喜びしているではないか?」
「ええ、そうですね」

「それに、私も、とても満足している。私の我儘わがままを許してくださったご令嬢には、必ず、この恩は返すから、心配しないように」

 ふう……と、諦めたようなギルバートの溜息。

「本当に、私は、以前よりずっと、ご令嬢の領地には興味があったのだ。お前の話を聞いてよりずっと、興味が引かれたままだったのだぞ」
「ええ、知っています」

「今日、豊穣祭に参加して、町並み、町の運営、豊穣祭の運営を見ることができて、私は非常に満足している」
「ええ、そうでしょうねえ……」

「いいではないか。私の我儘わがままでも、この地の統治方法は――本当に、私の知り得もしないものばかりだ。あれだけ人混みが多く混雑した豊穣祭の本通りなのに、町の隅々には、ゴミを集められる容器が置かれていた」

 定期的にゴミを集めに来る者、片づける者、そして、またきれいに空になった容器。
 人込みでごった返していても、通りは整然としていて、ゴミが溢れ出た場所もない。

「そうかと思えば、食事をする場所は、一本裏の「公園」 で全員ができるように、たくさんのテーブルが設置されていた。買い物と食事が別で、休憩する場がきちんと設けられている配慮もされていた」

「昔は、買った場所でそのまま食べ歩きをしていたそうなのですが、さすがに、人数が多くなった今では危険ですし、人にぶつかってしまう為、休憩所が作られたそうです」

「そうだろうな。そうやって、問題が上がる度に、効率的で、それでいて便利な解決方法を見つけ、即座に実行する。何をするにも無駄がなく、無駄な時間を費やさない。そういった傾向が、町の至る所で見受けられるものだ」

「それは、驚くことではありませんがね」
「では、定期的に重装備をしてやってくる騎士が、露店からお金を集めているのは?」

「気づかれたんですか?」
「もちろん」

「あれは、露店で稼いだお金を、「銀行」 に預けに行く作業です」
「ぎんこう?」

「ええ、そうです。「銀行」 という概念は私にも初めてですから、その説明は、やはり、ご令嬢にお願いするべきでしょう。ただ、簡潔に言えば、「銀行」 というのは領地内の資金や、領民の個人資金、財産を管理し、預かる場所なんだそうです。ですから、観光客増加で、豊穣祭では大金が動くようにもなってきましたから、露店でその稼ぎ分を置いておくのは安全ではありません。定期的に、露店からその金銭を移動しているのが、重装備をした騎士達です。もちろん、「銀行」 には、豊穣祭の間、はなはだしい警備態勢がしかれますが」

「そんな話は、聞いたこともないが」
「そうですね。画期的、前衛的――または、近代的、とでも呼べるような運営方法なのでしょうが、私も全く知らない運営方法です」

 ほうぅ……と、感嘆とも聞こえる様子で、レイフが長い息を吐き出していく。

「露店の飲み物の容器や食事の受け皿は、一貫して同じものを使用しているのは?」
「もちろん、効率的に一か所に集めて、洗浄し、再利用できるようにです」

「なるほど。それなら、露店を開く者たちは、自分達の仕事に専念でき、そして、別々の容器を用意する必要もなければ、全部、同じ容器なので、誰がどこで使っても、問題はない。ゴミの生産量も減らすことができる」

「そうです。豊穣祭の前日ともなれば、倉庫から大量のコップや皿が運び出されて、きれいに洗浄され、日干しで清潔な状態にする作業でも、ものすごい労力が必要になるのですよ」

「あの数を見れば、それは簡単に想像できるものだなあ。全ての運営方法も、解決方法も、無駄がなく潤滑じゅんかつで、効率的だ。それも、全てご令嬢の方針に沿って施行されているのだから、さすが、としか言いようがない」

「領地が繁栄している理由が、お分かりになりましたか?」
「ああ、そうだな。本当に、無理をお願いした甲斐があったものだ」

 珍しく、レイフの顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。

 例えて言うのなら、おいしいものをたらふく食べて、心身ともに満足して、それ以上はいらない、考えられない、といった満たされた満足感が、その表情に出ている感じだったのだ。

 そんなレイフの表情を見て、ギルバートも目を輝かせた。

 頭脳明晰で、頭の回転が早く頭も切れるレイフは、子供の時からでも、あまり驚くことが少ない子供だった。兄だった。

 ギルバートとは違った意味で冷静で、いつも、冷めた瞳の奥で、自分が理解した知識、情報、状況を整理して、それをどう使うか、動かすかと、計算しているような子供だったのだ。

 それが、今のレイフは心底嬉しそうに、自分の知らないものを大発見した少年のように瞳を輝かせ、一人で満足しているのだ。

 そんな兄の表情を見たことがないギルバートも、感心してしまった。そこまで楽しみにしていたのか、と。

 オスミンだけでなく、この旅行を心から待ち望んでいたのは、兄のレイフも同じだったのだ。

「では、今夜でもっと驚くことになりますね」
「今夜? 後夜祭、というのが領地内で開かれるのだろう?」
「ええ、そうです」

 含みのあるギルバートの様子に、レイフも新たな興味が上がってくる。

「それは、待ち遠しい」

「お二人の会話に失礼させていただきますが――その後夜祭で、ギルバート様が、一瞬にして、恋に落ちてしまいましたので」
「おい」

 余計なクリストフに、ギルバートが叱る。

「そうか、そうか。それは、更に待ち遠しいものだなあ」

 嬉々として、兄のレイフもその瞳が爛々らんらんと輝いている。

「この領地は、ギルバート、お前が話した通り、右を見ても左を見ても、子供達や、若い少年少女達ばかりだ」
「そうですね」

「その全員が孤児で、それなのに、誰一人、憂いある表情をしているのではない。豊穣祭でも、「お小遣い」 なるもので、一人で買い物までできるようになった」
「そうですね」

「ああ……、さすが、としか言いようがない」
「ええ、そうですね」

「なんとも、有意義な旅行だろうか……」
「それは、ようございました」

 淡々としたギルバートの態度に、ははは、とレイフも笑っていた。

 余計な面倒を押し付けられたセシルには申し訳ないが――それでも、アトレシア大王国からやってきた一行は全員、この地に魅了され、大満足だったのだ。




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読んでいただき、ありがとうございます。
Hvala vam što ste pročitali ovaj roman
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