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Part 3
Б.д まずは、土台造り - 09
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レイフの口元が皮肉気に曲げられ、ふっと、薄い冷笑が上がる。
「領地を取るか、婚約を取るか。常識からしても、あなたの婚約は、正式に我が国で承認されたもので、今更、婚約解消は無理だと承知の上で、婚約は認めてやるが、ノーウッド王国の為には働け――なんてね?」
「ああ、確かに」
セシルもそういった状況は予想していたようで、全く驚いている様子がない。
「ですから、さっさと、その問題は片づけてしまいましょう。私にしてみたら、今まで何もしてこなった癖に何を今更、と王家の鼻っ柱を折ってしまいたくなりますがね」
「お前は……」
今まで、会話だけを静かに聞いて、一切、口を挟んでこなかったアルデーラが、そこで嫌そうに溜息をついてみせる。
それから、その視線を真っすぐにセシルに向けてきた。
「ヘルバート伯爵令嬢、この件に関して、心配する必要はない。この男は、見かけからして意地の悪い男でね」
「ひどいですね」
「いや、事実だ。おまけに、他人に言い負かされることが一番に嫌いなだけに、相手を追い詰める状況があるのなら、即座に、それを実行する悪癖もある」
「ひどいですね」
「いや、事実だ。なにしろ、並外れて頭が切れるだけに、その程度の交渉で負けをみせるなど、プライドが許さないだろうし、相手も許さないだろうし、徹底して、攻撃には手を抜かない男だ」
なんだか……ものすごい形容の仕方である。
「まあ……、とても頼もしいことですのね」
「その件は、我々に任せて欲しい」
「では、よろしくお願いいたします」
うむと、頷いたアルデーラは、次の問題を上げていく。
「ギルバートとの正式な婚約を済ませた今、ヘルバート伯爵令嬢の安全が考慮される。領地内では――侵入者の出入りが難しいと聞くが、それでも、我が国の護衛もつけるべきではないだろうか」
セシルが、きっと、その護衛を望んでいないことは、アルデーラも予想できた。
だが、今の状況では、セシルの身に危険が迫り、それがアトレシア大王国のいざこざから来るものであるのなら、余計に、この国からの護衛が必要になってくるかもしれない。
「領地内に、領地外の――それも騎士を置いておくことは、私も……あまり好みません。皆様が、私の身を心配してくださっていることは、重々、理解しているつもりではございますが、それでも……、申し訳ございません」
今回の提案は、本当にセシルの身の安全を考慮して出されたものだと、セシルも重々理解している。
それでも……、さすがに、領地外の人間を、セシルの身の回りに置くことには、少々、躊躇いがあるのだ。
「我儘を申しているのは承知しておりますが、できれば――騎士の護衛をつけていただくことよりも、もし、万が一があったとして、その場合、こちらから、アトレシア王家に、直接、伝達できる方法を許していただけたら、そちらの方が、私達も動きやすくなってくるのですが……」
アルデーラも、セシルの提案に、ふーむと、考えてみる。
その横で、またレイフが口を開く。
「万が一、だけではなく、通常でも、簡単に伝達の取り合いができるような方法は、必要でしょう。ご令嬢、あなたの領地の出入りなら、顔見知りが必要となってくるのでしょう?」
ギルバートが、そう説明したのだろうか。
セシルは、そんなことを、一言も話した記憶はない。
通行書がなければ、セシルが認めた領民達の顔見知りでなければ、外部の人間は宿場町に出入りする時も、厳しく監視されていることは、説明していないのに……。
だから、王国の騎士団の騎士など、長く領地に置くことは、セシルはあまり望んでいないのだ。
ギルバートだって、観光や、視察程度しか領地内を見せていないのに、きっと、本人が口に出さないだけで、かなり、セシルの領地の内部事情を把握し出しているのだろう。
それを、見逃さなかったのだろう。
「セシル嬢、あなたに付き添っている普段の騎士達は、あの者二人だけが、あなたの護衛ですか」
ギルバートも、何かを考えこみながら、セシルを見やる。
「大抵は。その時々の状況にもよりますけれど」
「それなら、領地内でも宿場町でも、その倍――いえ、せめて六人から八人の護衛をつけられるとおっしゃるのなら、我々の護衛を送ることはしません。ノーウッド王国の王都に戻られる予定は、おありですか?」
「もしかしたら、今年中でしたら、一度くらいは考えています」
「その時は、その倍、二十人は、最低でも護衛を付けてください」
それだけ警戒して、そして、セシルの身の安全を心配してくれているのは、重々、理解している。
それでも、そんな大層な数の護衛を引き連れるのは、領地内の警備や、護衛の配置にも、影響がでてきてしまうのだ。
「無理を言っているのは分かっています。ですが、万が一の時、あなたを連れ出し護衛する騎士と、敵と戦う騎士を振り分ければ、その数は妥当なところなのです」
「――そう、ですか……。解かりました。私が領地を離れる時は、最低でも、二十人の護衛を付けることをお約束します。領地内では、せめて――四人、では?」
「その倍では?」
セシルも、少々、微苦笑を浮かべ、
「その中間で、六人で」
「わかりました」
元々、ギルバートだって、六人は必要だと言っていたのに、それはギルバートにとっては、最低の必要人数というだけである。
だから、セシル自ら、その最低必要人数に同意させるように仕向けてくるなんて、本当に抜け目がない。
話がまとまったようなので、ギルバートがレイフに向いた。
「では、互いが簡単に伝達できる方法を、お願いします」
「ああ、考えておくよ」
「今の段階でしたら、私の領地なら、アトレシア大王国の使者と名乗っていただければ、領地内にいれることは問題ありません。その場合、使者の一人だけ、ということになりますが」
「それでも、構いませんよ。顔見知りではなくとも?」
「ええ、問題ありませんわ」
「そうですか。それなら、こちらからの伝達は、やりやすくなるでしょう。あなたの領地からの伝達は、そうですねえ――少し考えさせてください」
「わかりました」
それで、セシルが領地に戻る前に最後の日、全員での話し合いは終えていた。
「領地を取るか、婚約を取るか。常識からしても、あなたの婚約は、正式に我が国で承認されたもので、今更、婚約解消は無理だと承知の上で、婚約は認めてやるが、ノーウッド王国の為には働け――なんてね?」
「ああ、確かに」
セシルもそういった状況は予想していたようで、全く驚いている様子がない。
「ですから、さっさと、その問題は片づけてしまいましょう。私にしてみたら、今まで何もしてこなった癖に何を今更、と王家の鼻っ柱を折ってしまいたくなりますがね」
「お前は……」
今まで、会話だけを静かに聞いて、一切、口を挟んでこなかったアルデーラが、そこで嫌そうに溜息をついてみせる。
それから、その視線を真っすぐにセシルに向けてきた。
「ヘルバート伯爵令嬢、この件に関して、心配する必要はない。この男は、見かけからして意地の悪い男でね」
「ひどいですね」
「いや、事実だ。おまけに、他人に言い負かされることが一番に嫌いなだけに、相手を追い詰める状況があるのなら、即座に、それを実行する悪癖もある」
「ひどいですね」
「いや、事実だ。なにしろ、並外れて頭が切れるだけに、その程度の交渉で負けをみせるなど、プライドが許さないだろうし、相手も許さないだろうし、徹底して、攻撃には手を抜かない男だ」
なんだか……ものすごい形容の仕方である。
「まあ……、とても頼もしいことですのね」
「その件は、我々に任せて欲しい」
「では、よろしくお願いいたします」
うむと、頷いたアルデーラは、次の問題を上げていく。
「ギルバートとの正式な婚約を済ませた今、ヘルバート伯爵令嬢の安全が考慮される。領地内では――侵入者の出入りが難しいと聞くが、それでも、我が国の護衛もつけるべきではないだろうか」
セシルが、きっと、その護衛を望んでいないことは、アルデーラも予想できた。
だが、今の状況では、セシルの身に危険が迫り、それがアトレシア大王国のいざこざから来るものであるのなら、余計に、この国からの護衛が必要になってくるかもしれない。
「領地内に、領地外の――それも騎士を置いておくことは、私も……あまり好みません。皆様が、私の身を心配してくださっていることは、重々、理解しているつもりではございますが、それでも……、申し訳ございません」
今回の提案は、本当にセシルの身の安全を考慮して出されたものだと、セシルも重々理解している。
それでも……、さすがに、領地外の人間を、セシルの身の回りに置くことには、少々、躊躇いがあるのだ。
「我儘を申しているのは承知しておりますが、できれば――騎士の護衛をつけていただくことよりも、もし、万が一があったとして、その場合、こちらから、アトレシア王家に、直接、伝達できる方法を許していただけたら、そちらの方が、私達も動きやすくなってくるのですが……」
アルデーラも、セシルの提案に、ふーむと、考えてみる。
その横で、またレイフが口を開く。
「万が一、だけではなく、通常でも、簡単に伝達の取り合いができるような方法は、必要でしょう。ご令嬢、あなたの領地の出入りなら、顔見知りが必要となってくるのでしょう?」
ギルバートが、そう説明したのだろうか。
セシルは、そんなことを、一言も話した記憶はない。
通行書がなければ、セシルが認めた領民達の顔見知りでなければ、外部の人間は宿場町に出入りする時も、厳しく監視されていることは、説明していないのに……。
だから、王国の騎士団の騎士など、長く領地に置くことは、セシルはあまり望んでいないのだ。
ギルバートだって、観光や、視察程度しか領地内を見せていないのに、きっと、本人が口に出さないだけで、かなり、セシルの領地の内部事情を把握し出しているのだろう。
それを、見逃さなかったのだろう。
「セシル嬢、あなたに付き添っている普段の騎士達は、あの者二人だけが、あなたの護衛ですか」
ギルバートも、何かを考えこみながら、セシルを見やる。
「大抵は。その時々の状況にもよりますけれど」
「それなら、領地内でも宿場町でも、その倍――いえ、せめて六人から八人の護衛をつけられるとおっしゃるのなら、我々の護衛を送ることはしません。ノーウッド王国の王都に戻られる予定は、おありですか?」
「もしかしたら、今年中でしたら、一度くらいは考えています」
「その時は、その倍、二十人は、最低でも護衛を付けてください」
それだけ警戒して、そして、セシルの身の安全を心配してくれているのは、重々、理解している。
それでも、そんな大層な数の護衛を引き連れるのは、領地内の警備や、護衛の配置にも、影響がでてきてしまうのだ。
「無理を言っているのは分かっています。ですが、万が一の時、あなたを連れ出し護衛する騎士と、敵と戦う騎士を振り分ければ、その数は妥当なところなのです」
「――そう、ですか……。解かりました。私が領地を離れる時は、最低でも、二十人の護衛を付けることをお約束します。領地内では、せめて――四人、では?」
「その倍では?」
セシルも、少々、微苦笑を浮かべ、
「その中間で、六人で」
「わかりました」
元々、ギルバートだって、六人は必要だと言っていたのに、それはギルバートにとっては、最低の必要人数というだけである。
だから、セシル自ら、その最低必要人数に同意させるように仕向けてくるなんて、本当に抜け目がない。
話がまとまったようなので、ギルバートがレイフに向いた。
「では、互いが簡単に伝達できる方法を、お願いします」
「ああ、考えておくよ」
「今の段階でしたら、私の領地なら、アトレシア大王国の使者と名乗っていただければ、領地内にいれることは問題ありません。その場合、使者の一人だけ、ということになりますが」
「それでも、構いませんよ。顔見知りではなくとも?」
「ええ、問題ありませんわ」
「そうですか。それなら、こちらからの伝達は、やりやすくなるでしょう。あなたの領地からの伝達は、そうですねえ――少し考えさせてください」
「わかりました」
それで、セシルが領地に戻る前に最後の日、全員での話し合いは終えていた。
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