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Part 3
Б.д まずは、土台造り - 04
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「このように不躾に質問をしてしまいまして、申し訳ありません。私は、リドウィナ様を責めるつもりはありませんし、腹を立てているのでもございませんの」
「……あの……。きっと……不快な思いを、された、ことでしょう……」
「リドウィナ様は、優しいお方ですのね。私の立場なら、どこぞと知れぬ他国の女が、第三王子殿下をかっさらっていった、と文句を言われてもおかしくはないと思うのですが」
「いえ……、そのような、つもりは……」
「リドウィナ様は、私がここにいて、不快ではないのですか?」
「……っ……」
さっきから、際どい質問で直撃されているせいか、リドウィナは、半分口を開けたまま、その場で固まってしまっているようだった。
(本当に、素直なお嬢様なのねぇ。素直過ぎて、同情してしまいたくなるわ)
「どうぞ、気兼ねなく、お話しなさってくださいね?」
「……ですが……」
「私は、リドウィナ様が話されることを、個人的に受け取ったり、感情的に受け答えすることもありません。初めてお会いした場で、随分、不躾な質問をしてくる女だと思われていらっしゃるかもしれませんが、私は、素直に、リドウィナ様のお話をお聞きしたいと思っております」
「……そ、そう、でしたか…………」
セシルの態度はどこまでも落ち着いていて、その口調もリドウィナに対して真摯であって、嘘を言っているようには聞こえなかった。
それで、リドウィナも、困ったように、少しだけ息を吐き出した。
「侯爵様は、お怒りではありませんか?」
「………お父さま、いえ、父は……その……わたくしが、婚約者に選ばれなかったことを、残念に思っていらっしゃると、思います……」
「では、リドウィナ様は、どうですか?」
「わたくしは………………」
モゴモゴと、ほとんど聞き取れないほどの小声になって、リドウィナは黙り込んでしまった。
「………………わたくしは……、その……、ヘルバート伯爵令嬢の前で、失礼なことだと、思われるかもしれませんが…………」
「いえ、お気になさらずに。少々、偉そうに聞こえるかもしれませんが、婚約の儀は終えていますので、今更、それが取り消しになることはないと思っております」
「……はい」
国王陛下が推奨する婚儀だ。婚約解消などあり得るはずもない。
だから、リドウィナも素直に頷いていた。
「リドウィナ様のお気持ちを、聞かせていただけませんか?」
「……わたくしは……、第三王子殿下と挨拶を交わすことはございましたが、それほど……親しい、仲だったというわけでは、ございません……」
子供の時から、両親に連れられて、王家主催の催しやら、お茶会やら、リドウィナだって参加したものだ。
その際に、必ず、第三王子殿下の挨拶を済ませていた。
第三王子殿下であるギルバートは、王子らしく、挨拶にやって来る貴族令嬢達の前で、丁寧な挨拶を交わす。
それだけだ。
リドウィナの父親に押しつけられて、ギルバートは、リドウィナのダンスの相手をさせられていたが、実は――リドウィナの方も、ギルバートは嫌々ながらリドウィナと踊っていたのではないだろうか……と、密かに、そんな懸念を抱いていたのだ。
父親は、もっと、ギルバート殿下に近づいて、好意をみせろ、と何度も言いつけてきたが、リドウィナは、相手が嫌がっているのに――無理矢理、近づいていって、仲良くすることはできなかったのだ……。
相手を気遣っていると思われるかもしれないが、リドウィナにとっては、
「邪魔だ。さっさと失せろ!」
などと嫌がられて、冷たく命令された場面を想像してしまい、恐ろしくて、足が震えてしまっていただけなのだ。
「妃候補に選ばれず、問題にはなりませんの?」
「そ、それは…………。父は……残念だと、思っていらっしゃるでしょう……」
あの父が、殿下一人も篭絡できずに、役に立たない娘だ――とは、苛立たし気に、(何度も何度も) こぼしていたのは事実である。
だが、第三王子殿下の結婚は、国王陛下が承認したものだ。誰であろうと、反対することなどできない。
どうやら、リドウィナの態度を見る限り、恋愛感情が育っていたのでもなく、本人も、それほどの執着心をみせていたわけでもなかったようである。
それなら、話は簡単である。
「リドウィナ様、もう少し、質問をさせていただいてもよろしいですか?」
「は、はい……」
「リドウィナ様は、侯爵家の令嬢であられますから、今の王国の危うい政治体制をご存知だと思われますが」
「そ、それは……」
「“長老派”のことも?」
「そ、それは……」
パッと、咄嗟に、リドウィナが周囲を見渡して、確認した。
「大丈夫です。この周囲には誰もいませんので」
「そ、そうですか……」
「リドウィナ様は、このまま、お父上の言いつけ通り、次の殿方に嫁がれ、その家の習慣を押し付けられ、そういった生活を送られることを、望んでいらっしゃるのですか?」
「えっ……? そ、それは……、その……」
それは、貴族の令嬢であるのなら、至極当然のことではないのだろうか。
リドウィナだって、それ以外の状況を考えたことさえない。
「アトレシア大王国では、貴族の子息や子女は、王国学園に通うことを許されている、というようなお話を伺いました」
「そうです」
「リドウィナ様も、学園に通われましたの?」
「はい。学園に通えるのは、12歳になってからなのです。それから、17歳または、18歳まで学園にいることができますの」
「そうでしたか。では、リドウィナ様は、そのような知識を生かし、活用してみたいとは思われませんか?」
「活用、でしょうか? それ……は、どのように、でしょうか……?」
「王国の歴史だったり、貴族の歴史だったり、その他の教科もあるかもしれません。また、リドウィナ様は、社交界でも貴族社会の立場や名前などを、簡単に覚えていらっしゃると思いますの。私は、他国から嫁いでくる令嬢ですから、アトレシア大王国のことを何一つ知りません。ですから、リドウィナ様の持っている知識を授けていただいたり、手助けしていただけたら、とても心強く思いますわ」
その提案は全く予想していなかったらしく、リドウィナの顔が、ポカンと呆気に取られている。
「ですが、私と仲良くなるということは、敵を作る、ということにもなるでしょう」
「えっ……?! て、敵……とは……?」
「……あの……。きっと……不快な思いを、された、ことでしょう……」
「リドウィナ様は、優しいお方ですのね。私の立場なら、どこぞと知れぬ他国の女が、第三王子殿下をかっさらっていった、と文句を言われてもおかしくはないと思うのですが」
「いえ……、そのような、つもりは……」
「リドウィナ様は、私がここにいて、不快ではないのですか?」
「……っ……」
さっきから、際どい質問で直撃されているせいか、リドウィナは、半分口を開けたまま、その場で固まってしまっているようだった。
(本当に、素直なお嬢様なのねぇ。素直過ぎて、同情してしまいたくなるわ)
「どうぞ、気兼ねなく、お話しなさってくださいね?」
「……ですが……」
「私は、リドウィナ様が話されることを、個人的に受け取ったり、感情的に受け答えすることもありません。初めてお会いした場で、随分、不躾な質問をしてくる女だと思われていらっしゃるかもしれませんが、私は、素直に、リドウィナ様のお話をお聞きしたいと思っております」
「……そ、そう、でしたか…………」
セシルの態度はどこまでも落ち着いていて、その口調もリドウィナに対して真摯であって、嘘を言っているようには聞こえなかった。
それで、リドウィナも、困ったように、少しだけ息を吐き出した。
「侯爵様は、お怒りではありませんか?」
「………お父さま、いえ、父は……その……わたくしが、婚約者に選ばれなかったことを、残念に思っていらっしゃると、思います……」
「では、リドウィナ様は、どうですか?」
「わたくしは………………」
モゴモゴと、ほとんど聞き取れないほどの小声になって、リドウィナは黙り込んでしまった。
「………………わたくしは……、その……、ヘルバート伯爵令嬢の前で、失礼なことだと、思われるかもしれませんが…………」
「いえ、お気になさらずに。少々、偉そうに聞こえるかもしれませんが、婚約の儀は終えていますので、今更、それが取り消しになることはないと思っております」
「……はい」
国王陛下が推奨する婚儀だ。婚約解消などあり得るはずもない。
だから、リドウィナも素直に頷いていた。
「リドウィナ様のお気持ちを、聞かせていただけませんか?」
「……わたくしは……、第三王子殿下と挨拶を交わすことはございましたが、それほど……親しい、仲だったというわけでは、ございません……」
子供の時から、両親に連れられて、王家主催の催しやら、お茶会やら、リドウィナだって参加したものだ。
その際に、必ず、第三王子殿下の挨拶を済ませていた。
第三王子殿下であるギルバートは、王子らしく、挨拶にやって来る貴族令嬢達の前で、丁寧な挨拶を交わす。
それだけだ。
リドウィナの父親に押しつけられて、ギルバートは、リドウィナのダンスの相手をさせられていたが、実は――リドウィナの方も、ギルバートは嫌々ながらリドウィナと踊っていたのではないだろうか……と、密かに、そんな懸念を抱いていたのだ。
父親は、もっと、ギルバート殿下に近づいて、好意をみせろ、と何度も言いつけてきたが、リドウィナは、相手が嫌がっているのに――無理矢理、近づいていって、仲良くすることはできなかったのだ……。
相手を気遣っていると思われるかもしれないが、リドウィナにとっては、
「邪魔だ。さっさと失せろ!」
などと嫌がられて、冷たく命令された場面を想像してしまい、恐ろしくて、足が震えてしまっていただけなのだ。
「妃候補に選ばれず、問題にはなりませんの?」
「そ、それは…………。父は……残念だと、思っていらっしゃるでしょう……」
あの父が、殿下一人も篭絡できずに、役に立たない娘だ――とは、苛立たし気に、(何度も何度も) こぼしていたのは事実である。
だが、第三王子殿下の結婚は、国王陛下が承認したものだ。誰であろうと、反対することなどできない。
どうやら、リドウィナの態度を見る限り、恋愛感情が育っていたのでもなく、本人も、それほどの執着心をみせていたわけでもなかったようである。
それなら、話は簡単である。
「リドウィナ様、もう少し、質問をさせていただいてもよろしいですか?」
「は、はい……」
「リドウィナ様は、侯爵家の令嬢であられますから、今の王国の危うい政治体制をご存知だと思われますが」
「そ、それは……」
「“長老派”のことも?」
「そ、それは……」
パッと、咄嗟に、リドウィナが周囲を見渡して、確認した。
「大丈夫です。この周囲には誰もいませんので」
「そ、そうですか……」
「リドウィナ様は、このまま、お父上の言いつけ通り、次の殿方に嫁がれ、その家の習慣を押し付けられ、そういった生活を送られることを、望んでいらっしゃるのですか?」
「えっ……? そ、それは……、その……」
それは、貴族の令嬢であるのなら、至極当然のことではないのだろうか。
リドウィナだって、それ以外の状況を考えたことさえない。
「アトレシア大王国では、貴族の子息や子女は、王国学園に通うことを許されている、というようなお話を伺いました」
「そうです」
「リドウィナ様も、学園に通われましたの?」
「はい。学園に通えるのは、12歳になってからなのです。それから、17歳または、18歳まで学園にいることができますの」
「そうでしたか。では、リドウィナ様は、そのような知識を生かし、活用してみたいとは思われませんか?」
「活用、でしょうか? それ……は、どのように、でしょうか……?」
「王国の歴史だったり、貴族の歴史だったり、その他の教科もあるかもしれません。また、リドウィナ様は、社交界でも貴族社会の立場や名前などを、簡単に覚えていらっしゃると思いますの。私は、他国から嫁いでくる令嬢ですから、アトレシア大王国のことを何一つ知りません。ですから、リドウィナ様の持っている知識を授けていただいたり、手助けしていただけたら、とても心強く思いますわ」
その提案は全く予想していなかったらしく、リドウィナの顔が、ポカンと呆気に取られている。
「ですが、私と仲良くなるということは、敵を作る、ということにもなるでしょう」
「えっ……?! て、敵……とは……?」
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