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Part 3

Б.б アトレシア大王国 - 02

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「そうですね。姉上は、いつもコトレア領には、騎馬で移動されていますから」
「ええ、そうですわね。このように一緒に移動するなど――あら?」

 レイナもそこで首を傾げてしまった。

 あらあら?

「もしかして――一緒に移動などしたことは、なかったのではありませんこと?」

 レイナがリチャードソンと再婚した年に、すでに、セシルはコトレア領に向かってしまっていたから、その年は、娘となったセシルと、ほとんど顔を合わせることもなかった。

 手紙だけである。

 それから、コトレア領の領主の仕事が多忙で、セシルの移動は、ほとんど騎馬ばかりで、レイナ達は――それから、様子を見に行く時や、豊穣祭に参加する時にコトレア領を訪れたが、同行していたのは、いつもシリルだけだ。

 セシルが一緒にいたことはない。

「まあっ! わたくしとしたことが、セシルさんと、まだ一度も、一緒に移動をしたことがありませんでしたわ」

「ふふ。そうかもしれませんわね。お父様もお母様も、今回は、移動ばかりになってしまいましたけれど、お二人とも、お疲れではありませんこと?」

「わたくしは大丈夫ですわ。旦那様は……」

 ちらっと、その視線が隣の夫に向けられる。

「ああ、私も大丈夫だよ」

 父のリチャードソンの表情から、まだそれほどの疲れは見えていない。
 無理している様子でもないようで、セシルも、ホッと、一安心だ。

「シリルはどうですか?」
「はい、私も問題ありません」

「そうですか。それは良かったですわ」
「姉上は、緊張なさっておいでですか?」

「私は――そこまで緊張はしていませんけれど、さすがに、正式な場になりますから、間違いはできませんわね……」
「私も、粗相のないよう心掛けますので」

 さすがに、隣国の王宮に招待されてしまったから、ノーウッド王国の貴族の名前を落とさないように、恥をかかせないように、それから、婚約者となるギルバートにも恥をかかせないように、ヘルバート伯爵家は、マナーもエチケットも、細心の注意を払い、気遣いをみせなければならないだろう。

 そこら辺の気疲れが出てきそうだ……。

「姉上は、婚約の儀で着られるドレスは、決まりましたか?」

「ええ、そうですね。ドレスの形はそれほど問題ではないそうですから、色だけ合わせるのと、重ならないようにすれば良いと、説明されましたの」

 ギルバートは、王子殿下として婚約の儀に出席する。だから、王族の正礼装で出てくることになる。
 その時の上着のコートが赤地なので、赤いドレスは避けるように言われている。それ以外に、金地の刺繍がされているから、セシルも銀ではなく金を混ぜるようにとも。

 セシルは――ギルバートに求婚され、その後、二月ふたつきほど、ギルバートを待たせてしまった形になる。

 繁忙期はんぼうきで多忙になるセシルに時間の猶予をくれたギルバートには、感謝しきれないほど感謝しているし、その時間のおかげで――かなり、自分の頭と心の整理もつけることができたから。

 だが、きっと、心の底では、たぶん、結婚の申し出を承諾するだろうな……という思いはどこかであったのだ。

 だから、迷っていたのだ。

 一応、念の為に、ノーウッド王国の王太子殿下の婚約披露、婚約の儀で、相手のご令嬢はどのようなドレスを着ていたのか、セシルは父のリチャードソンから、ちょっと話を聞いていたのだ。

 それで、仕方なく、あの時点でも、万が一に備え、何着かのドレスを作れるような生地を買いに行き、お針子達に、大急ぎで、ドレスを仕立ててもらったのだ。

 結婚話を断ったとしても、残ったドレスは他の機会で着ればいいし、そうならなかった場合、ドレスがなければ――一大事となってしまう。

 その甲斐あってか、アトレシア大王国の王宮から使者がやって来た時に、大体のドレスの構造と色を説明することができた。

 三着とも多分問題ないと言われ、オルガが(強く) 勧めてくるので、一応、その三着全部を持参したセシルだ。


(こういう場合、婚約者になるギルバート様に、ご相談してみるべきなのかしら?)


 でも、普通、貴族のご令嬢は、実家で自分のドレスを用意し、婚約披露や婚約の儀にやって来るのではないのかしら?

 それとも、王家からドレスが送られてくるのが、定番なのかしら?

 まあ、そのどちらの光景も有り得るのだろうが、今回は、手紙以外で、ギルバートとの連絡は取れていない。

 そのギルバートも――手紙では、セシルに謝罪していた。
 話だけが進んでしまい、個人的に挨拶にも行けず申し訳ありません……と。

 そういうところが、誠実で真摯な方だな、とセシルもほんわかしてしまう。

 そういう性格の持ち主だから、セシルも、ギルバートとの結婚話に、自分の将来を懸けてみることにしたのだ。

 巡って来る機会チャンスなど、早々、あるものでもない。
 巡って来た機会チャンスがまた訪れることも、ほとんどない。

 同じような展開や状況だろうと、その全ての機会が、毎回、違うのだから。時だったり、場所だったり、状況だったり。

 同じチャンスは二度とはやって来ない――うん、セシルの信条だ。

 だから、機会チャンスが目の前にやって来たら、それを見逃さず、まずは、その機会チャンスを取りに行くことにしているのだ。

 セシルは、前世(または現世) では独身だった。だから、自分自身の結婚、というものが、まだ少し想像がつかない。

 これも、新たな人生のチャレンジかしら?
 なんてね? 




 そうこうしているうちに、のんびりとした旅路も終わりを見せ、セシル達一行は、アトレシア大王国の王都に入り、荘厳な王城の前にやって来ていた。

 出迎えに来てくれたのは、以前にも会った、第三王子殿下であるギルバートの執事をしている男性だ。

 もしかしなくても――きっと、また、ギルバートに指示されて、セシル達が王宮内でも問題ないように、問題なく過ごせるようにと、王子殿下付きの執事を寄越してくれたのだろう。

 その好意にはとても感謝しているが、そこまで、気を遣ってもらわなくても、セシルは大丈夫なのに。

 なんだか、王子殿下付きの執事に、他の使用人と一緒の扱いはできないでしょう、さすがにね……?

 セシルにあてがわれた客室は、(またも) 前回と同じで、最高位の貴賓きひん来賓らいひんをもてなす絢爛けんらん豪華ごうかな特等室である。

 現段階では、セシルは王国の第三王子殿下の正式な婚約者となるから、特別扱いも――王宮の仕来りなのかしらぁ、とはセシルも考えるが、そんなことはないはずなのだ。

 ここでもまた、ギルバートの(最高の) 気遣いが盛り沢山である。

 この下にも置かない対応は、セシルを持ち上げ過ぎだとは思うのだけれど、王宮内では、そんなことも気軽に相談などできない。

 だから、有り難く感謝して、今回も、この部屋を使用させていただきます。


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