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Part 3

Б.а お受けします - 03

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「一か所なら、あの領地になるでしょう?」
「そこまで領地にこだわりたいのか……?」

「それだけの理由じゃありません。むしろ、ノーウッド王国の王都に、アトレシア大王国側の使者など送り込んだら、すぐにバレてしまう」
「ああ、確かに」

「使者にも護衛をつけなければならないので、やはり、極秘にしておくのは無理でしょう。それなら、さっさと、婚約の儀を済ませるのが得策」
「どのくらいでだ?」

「せめて、一カ月以内。もしくは、それから数週間以内で」
「かなりきついスケジュールだな」

「他国に向けて、特に、あの領地に向けて動きがあると知られたとしても、その後、すぐに婚約の儀を済ませれば、まだ、対処方法はあります。だが、ギルバートは王宮で大人しくしていなさい」
「はい……」

 セシルに直接会って話し合いをしたくとも、ギルバートが動くとなると、更に目立った行動になってしまう。

 そうなると、婚約の儀が成立する時まで、セシルには、直接、会って話せないことになる。

 貴族同士の婚約や結婚など、お目見えまで、親同士が勝手に話を決めることだってよくあることだ。
 だから、本人同士のお目見えや挨拶など、最後に回される。

 そう考えれば、王族の王子であるギルバートの婚約の話し合いが、執務官と祭事官で進められるのも不思議はない――が、セシルに直接会って婚約の話を聞けないのは、ギルバートも落ち着かないものだった。

「婚約の儀を済ませたとしても、ご令嬢は王国側に留まることはないでしょうから、その間は、貴族からの摩擦を、最小限に食い留めておくのも手でしょうね」

「例えば?」

「婚約の儀は、全員、爵位を継いだ者だけにしましょう。まだ、爵位も継いでいないただの貴族達や、その子息・子女などを儀式に呼ぶ必要もないですね。大した力もない口うるさい輩に、今から顔を売って、こびを売っておくこともない。それは、結婚してからでもできますからね」

「なるほど」

「あの領地で話し合いをさせるのなら、全部、一度で解決させてくださいね。婚約の儀の日程、手順、移動方法、王宮での慣習・仕来り、宿泊、式典の礼儀作法、衣装、その他、全部、一度で解決させてください。そうでなければ、一カ月、一カ月半で婚約の儀に取り付けるのは無理ですよ」

「わかった。そのように指示しておこう。ハラルドを呼んでくれ。ノーウッド王国との外交で必要なことを、確認しておきたい」
「わかりました」

「宰相――領地の件では?」
「それは、まず、正式に婚約の儀を済ませてからだ。まだ話も決まっていない状態では、交渉どころではないだろう」

「そうですか」
「ああ、心配する必要はない。婚儀までには、話を付けておくから」

 一体、どこからそんな自信が出てくるのか不思議なものだが、このレイフは、王国内でも、交渉術でレイフの右に出る者がいない、というほどの凄腕すごうでだ。

 頭脳明晰なだけに、策士家で、切れ者で、口でレイフに議論に勝てる相手など、見たことがない。

 だから、そのレイフが全く心配していないのなら、ギルバートも心配はしていないが、それでも、今回は、初めから、レイフもギルバートの要請に、随分、素直に聞き入れてくれたものである。

 そこまでして――セシルの領地に興味があったのだろうか。手に入れたいほどに?

「せめて、明日までには、全て決定しておきましょう」
「わかった」

「では、その件は、よろしくお願いいたします」
「ああ、ギルバート」

「はい」
「良かったじゃないか。運命の女性など、早々、いるものじゃあない」

 さっきも、一応、儀礼的や社交辞令でも、祝辞の言葉はもらった。

 でも、今は、レイフの本心だったようだ。
 口元におかしそうな微笑を浮かべ、ギルバートの婚約を喜んでいる――兄の顔をして、その言葉をくれた。

 それで、ギルバートが嬉しそうに笑みをみせた。

「はい、ありがとうございます」

 二人の前で――こんな素直な笑みを見せたギルバートを見るなど、本当にいつぶりだろうか。

 まだ、ほんの小さなよちよち歩きの頃は、いつも、二人の兄の後をついてきて、それで、にこにこと、幼い子供らしい笑みを見せていたものなのに。

 いつからか“氷の王子様”とのあだ名がついて、それが当たり前になって、騎士団では、更に、“鉄仮面”ごとき“鬼の副団長”である。

 笑ったことはあっても、それは、ただのその場しのぎで、表情が変わった程度のものだっただけだ。

 こんな、素直に嬉しさを噛みしめているような、その嬉しさが押さえきれないような、そんな――あまりに人らしい感情をみせたギルバートなど、成長してから、本当に初めてではないだろうか。

 ここまで、このギルバートを変貌させることができたなんて、やはり、あの令嬢は――王家には必要なのである。

 王家の者を――「人」に戻すことなど、到底、誰一人できないのだから――――

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