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Part2
Е.а 今年もお邪魔します - 02
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「なんだ? 完全無視はされなかったのだな。良かったではないか」
国王陛下である兄の前で、セシルから今年の豊穣祭に招待され、その参加を希望します、と告げたギルバートに、横からもう一人の兄であるレイフが口を出す。
「ええ、まあ……」
今年は、合同練習でセシルと一月近くも一緒にいられたので、さすがに、ギルバートがアトレシア大王国の王家の者、アトレシア大王国の人間、という理由で嫌われているわけではない。
「友人」 というほど親しくなれたわけではないだろうが、それでも、「赤の他人」 という、全く無関係の人間だとは思われていないはずなのだ。
だから、セシルは、ギルバートを今年の豊穣祭にも招待してくれたのだから。
「豊穣祭とは、もう、そんな時期になっていたのだな」
「そうですね。豊穣祭までは、もう、一月とちょっとですから、今はその準備で、きっと多忙でいらっしゃることでしょう」
セシルに会えることに嬉しさを隠せないギルバートだったが、あの領地の賑やかな豊穣祭にまた参加できるかもしれない状況を思い浮かべて、その興奮も隠せない。
豊穣祭では、見たことも、食べたこともない食事がたくさん出て来て、そのどれも全てがおいしいものだった。クリストフなど、文句も言わず、全部挑戦したではないか。
他のお店だって、雑貨やらなんやらと興味深い品物が並べられて、見ているだけでも楽しいお祭りである。
夜は夜で、粛々とした後夜祭が開かれ、きっと、今年も、美しく目が離せないほどの輝きで、麗しいセシルが登場してくるのだろう。
その光景を思い浮かべるだけで、ドキドキと、ギルバートの心拍数が上がってしまう。
ああ、今からでも、本当に待ち切れない……。
今年の豊穣祭はどんなのだろうか、と。
「領地の視察のついでに、私も豊穣祭に参加しよう」
ただ静かに会話に耳を傾けていたアルデーラは、速攻で顔をしかめる。
ギロリ、と弟のレイフを睨み付けても、大した効果はない。
「ふざけたことを言うな。誰が、視察だ、と?」
誰も、そんな行事に同意した覚えはないし、承諾した覚えもない。特に、国王陛下であるアルデーラ自身が、だ。
「ですが、興味深い統治方法をしていると、話に聞いているではありませんか。どれだけ画期的で、近代的なのか、確かめる必要はあります」
「それは、ギルバートの婚約でも決まったのなら考えることで、わざわざ、他国の領地に、宰相自らが顔を出すことではない」
「それなら、ギルバート、さっさと婚約しなさい」
それができるのなら、ギルバートだってしているものだ……。
セシルとギルバートは、そんな会話さえも出せる状況でもなく、間柄でもないのだ。
だから、今までの繋がりをなくさない為に、ギルバートはあの領地の豊穣祭に参加したいのだ。セシルに会いに行きたいのだ。
「それに、報告書を読めばいいだけだ」
「ギルバートの報告書など、会話上での話題にしかなりませんよ。ギルバートなど、騎士団ですからね。王国の運営をしているのではない」
それは、ギルバートが王子の仕事をさぼっている、と文句を言われているのだろうか。
だが、ギルバートは初めから騎士団に入団しているので、王国の政には、直接的には関与していないだけだ。さぼっているのではない。
この手のレイフの討論が始まると、誰も口を挟むことはできない。勝つことも、できない。
身を以ってしてそのことを学んでいるギルバートは、賢く口を挟まず、沈黙を保っている。国王陛下であるアルデーラの指示を待つだけ。
「今年から新国王即位で、これから王国の政策もどんどん変わって行くでしょう。ですから、それを学ぶには、丁度いい機会ですね」
「今年から新国王即位で、王国の政策もすでに変わっている。内務と外務のトップの入れ替わりだけでも、運営に多大な影響を与えている。足並みが落ち着いていない今、外に目を向けていないで、大人しく仕事に専念していなさい」
さっさと、バタついている官僚達や部下達を統制し直せ、と暗黙に言いつけられているのは明確だった。
「徐々にしていますよ。昨日・今日で治まるものでもありませんね」
ツラっと言い返してくるレイフに、アルデーラも(いつものように)長い溜息を吐き出した。
レイフを無視することにして、アルデーラがギルバートに向き直る。
「いいだろう。外出許可を承認する」
「ありがとうございます」
「護衛はどうする?」
なにしろ、ギルバートは第二位王位継承者という立場でもあるから。
「ヘインズ団長と話し合ってみます」
「いいだろう。下がって良い」
「失礼します」
ギルバートは礼儀正しく一礼を済まし、(さっさと)国王の執務室を後にしていた。
後ろでは、文句を言いたげなレイフの愚痴がこぼされているが、触らぬ神に祟りなし。ここは、さっさと退散するのが最善。
今日も(また)レイフの愚痴の相手をさせられる国王陛下に同情しながら、ギルバートは騎士団に向けて足を早めていた。
騎士団へ向かうギルバートの足並みが、知らず、軽やかになっていたことは、気配なく後ろから護衛して来るクリストフ以外、誰も知らないことだろう。
「豊穣祭……」
心内で浮かれているギルバートとは反して、上司である第三騎士団団長の表情は、あからさまに嫌そうな顔をしている。
ギルバートがあの伯爵令嬢に会いに行きたい気持ちは理解できても、副団長がいない間、その仕事のカバーをさせられる団長自身の状況には、とてもではないが、万々歳で喜べるものではない。
「国王陛下には、外出許可をいただきました」
今の所、国王陛下は実弟であるギルバートの(切ない)恋心に反対していない。一応の理解を見せているものだ。
だから、今回だって、仕方なくギルバートの外出希望を許可したのだろう。
「いつ、発つ予定だ?」
「一応、豊穣祭の二日前に到着できるように考えていますので、来月の最後の週には、王国を発とうかと」
「豊穣祭前日に向けてではないのか?」
「豊穣祭前日になると、すでに、豊穣祭に参加する観光客の移動も始まり、領境の検問所や、領地内でも、かなりの混雑が見られるのです」
どこもかしこも多忙を極めていて、領境の検問所だって行列ができるほどだ。そんな中、ギルバート達が混ざると、護衛が更に難しくなってしまう。
「まあ……、ギルバートの希望も分からないではないが、それでも、ただ単に、王都に出かける、という状況でもないだろう?」
「わかっています。最小限の護衛は、(仕方なく)付けるつもりですので」
嫌そうに、ヘインズが自分の指で眉間を摘みだす。
国王陛下が許可したことを、ここでヘインズが反対してしまっては、国王陛下の決定に文句を言っているような状況になってしまう。
でも、ギルバートが抜けた穴を埋めて、その仕事量をカバーするなど……憂鬱だけが予想できる。
「来年度の予算案計画書」
その一言を聞いて、ギルバートだって、言葉に出さず、うーんと唸ってしまう。
要は、ヘインズの仕事である予算案計画書を、ギルバートが終わらせろ、という交渉なのだ。
ギルバートの外出許可は、国王陛下が出してくれた。でも、日常の仕事の運営と決定権は、上司のヘインズにある。
「――わかりました」
背に腹は代えられない……。
またも書類仕事が増えてしまった。ヘインズのせいで。
でも、セシルに会いに行きたい希望と、面倒な仕事を押し付けられた現状を比重してみると、疑いようもなく、セシルに会うことが最優先される。
嫌な書類仕事だろうと、さっさと片付けてしまえばいいだけだ。
国王陛下である兄の前で、セシルから今年の豊穣祭に招待され、その参加を希望します、と告げたギルバートに、横からもう一人の兄であるレイフが口を出す。
「ええ、まあ……」
今年は、合同練習でセシルと一月近くも一緒にいられたので、さすがに、ギルバートがアトレシア大王国の王家の者、アトレシア大王国の人間、という理由で嫌われているわけではない。
「友人」 というほど親しくなれたわけではないだろうが、それでも、「赤の他人」 という、全く無関係の人間だとは思われていないはずなのだ。
だから、セシルは、ギルバートを今年の豊穣祭にも招待してくれたのだから。
「豊穣祭とは、もう、そんな時期になっていたのだな」
「そうですね。豊穣祭までは、もう、一月とちょっとですから、今はその準備で、きっと多忙でいらっしゃることでしょう」
セシルに会えることに嬉しさを隠せないギルバートだったが、あの領地の賑やかな豊穣祭にまた参加できるかもしれない状況を思い浮かべて、その興奮も隠せない。
豊穣祭では、見たことも、食べたこともない食事がたくさん出て来て、そのどれも全てがおいしいものだった。クリストフなど、文句も言わず、全部挑戦したではないか。
他のお店だって、雑貨やらなんやらと興味深い品物が並べられて、見ているだけでも楽しいお祭りである。
夜は夜で、粛々とした後夜祭が開かれ、きっと、今年も、美しく目が離せないほどの輝きで、麗しいセシルが登場してくるのだろう。
その光景を思い浮かべるだけで、ドキドキと、ギルバートの心拍数が上がってしまう。
ああ、今からでも、本当に待ち切れない……。
今年の豊穣祭はどんなのだろうか、と。
「領地の視察のついでに、私も豊穣祭に参加しよう」
ただ静かに会話に耳を傾けていたアルデーラは、速攻で顔をしかめる。
ギロリ、と弟のレイフを睨み付けても、大した効果はない。
「ふざけたことを言うな。誰が、視察だ、と?」
誰も、そんな行事に同意した覚えはないし、承諾した覚えもない。特に、国王陛下であるアルデーラ自身が、だ。
「ですが、興味深い統治方法をしていると、話に聞いているではありませんか。どれだけ画期的で、近代的なのか、確かめる必要はあります」
「それは、ギルバートの婚約でも決まったのなら考えることで、わざわざ、他国の領地に、宰相自らが顔を出すことではない」
「それなら、ギルバート、さっさと婚約しなさい」
それができるのなら、ギルバートだってしているものだ……。
セシルとギルバートは、そんな会話さえも出せる状況でもなく、間柄でもないのだ。
だから、今までの繋がりをなくさない為に、ギルバートはあの領地の豊穣祭に参加したいのだ。セシルに会いに行きたいのだ。
「それに、報告書を読めばいいだけだ」
「ギルバートの報告書など、会話上での話題にしかなりませんよ。ギルバートなど、騎士団ですからね。王国の運営をしているのではない」
それは、ギルバートが王子の仕事をさぼっている、と文句を言われているのだろうか。
だが、ギルバートは初めから騎士団に入団しているので、王国の政には、直接的には関与していないだけだ。さぼっているのではない。
この手のレイフの討論が始まると、誰も口を挟むことはできない。勝つことも、できない。
身を以ってしてそのことを学んでいるギルバートは、賢く口を挟まず、沈黙を保っている。国王陛下であるアルデーラの指示を待つだけ。
「今年から新国王即位で、これから王国の政策もどんどん変わって行くでしょう。ですから、それを学ぶには、丁度いい機会ですね」
「今年から新国王即位で、王国の政策もすでに変わっている。内務と外務のトップの入れ替わりだけでも、運営に多大な影響を与えている。足並みが落ち着いていない今、外に目を向けていないで、大人しく仕事に専念していなさい」
さっさと、バタついている官僚達や部下達を統制し直せ、と暗黙に言いつけられているのは明確だった。
「徐々にしていますよ。昨日・今日で治まるものでもありませんね」
ツラっと言い返してくるレイフに、アルデーラも(いつものように)長い溜息を吐き出した。
レイフを無視することにして、アルデーラがギルバートに向き直る。
「いいだろう。外出許可を承認する」
「ありがとうございます」
「護衛はどうする?」
なにしろ、ギルバートは第二位王位継承者という立場でもあるから。
「ヘインズ団長と話し合ってみます」
「いいだろう。下がって良い」
「失礼します」
ギルバートは礼儀正しく一礼を済まし、(さっさと)国王の執務室を後にしていた。
後ろでは、文句を言いたげなレイフの愚痴がこぼされているが、触らぬ神に祟りなし。ここは、さっさと退散するのが最善。
今日も(また)レイフの愚痴の相手をさせられる国王陛下に同情しながら、ギルバートは騎士団に向けて足を早めていた。
騎士団へ向かうギルバートの足並みが、知らず、軽やかになっていたことは、気配なく後ろから護衛して来るクリストフ以外、誰も知らないことだろう。
「豊穣祭……」
心内で浮かれているギルバートとは反して、上司である第三騎士団団長の表情は、あからさまに嫌そうな顔をしている。
ギルバートがあの伯爵令嬢に会いに行きたい気持ちは理解できても、副団長がいない間、その仕事のカバーをさせられる団長自身の状況には、とてもではないが、万々歳で喜べるものではない。
「国王陛下には、外出許可をいただきました」
今の所、国王陛下は実弟であるギルバートの(切ない)恋心に反対していない。一応の理解を見せているものだ。
だから、今回だって、仕方なくギルバートの外出希望を許可したのだろう。
「いつ、発つ予定だ?」
「一応、豊穣祭の二日前に到着できるように考えていますので、来月の最後の週には、王国を発とうかと」
「豊穣祭前日に向けてではないのか?」
「豊穣祭前日になると、すでに、豊穣祭に参加する観光客の移動も始まり、領境の検問所や、領地内でも、かなりの混雑が見られるのです」
どこもかしこも多忙を極めていて、領境の検問所だって行列ができるほどだ。そんな中、ギルバート達が混ざると、護衛が更に難しくなってしまう。
「まあ……、ギルバートの希望も分からないではないが、それでも、ただ単に、王都に出かける、という状況でもないだろう?」
「わかっています。最小限の護衛は、(仕方なく)付けるつもりですので」
嫌そうに、ヘインズが自分の指で眉間を摘みだす。
国王陛下が許可したことを、ここでヘインズが反対してしまっては、国王陛下の決定に文句を言っているような状況になってしまう。
でも、ギルバートが抜けた穴を埋めて、その仕事量をカバーするなど……憂鬱だけが予想できる。
「来年度の予算案計画書」
その一言を聞いて、ギルバートだって、言葉に出さず、うーんと唸ってしまう。
要は、ヘインズの仕事である予算案計画書を、ギルバートが終わらせろ、という交渉なのだ。
ギルバートの外出許可は、国王陛下が出してくれた。でも、日常の仕事の運営と決定権は、上司のヘインズにある。
「――わかりました」
背に腹は代えられない……。
またも書類仕事が増えてしまった。ヘインズのせいで。
でも、セシルに会いに行きたい希望と、面倒な仕事を押し付けられた現状を比重してみると、疑いようもなく、セシルに会うことが最優先される。
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